『第七因子の少年――世界最強の破壊者だけど、守りたいものがある』

霧島

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第1章 1-3

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第1章 1-3

追撃、学園崩壊──“第七因子”の暴走と選択

 ユウとユリアは学園の廊下を全力で駆け抜けていた。

 夜の校舎は本来静まり返っているはずだったが、今は非常灯が点滅し、警報音が鳴り響き、窓ガラスが震えるほどの振動が断続的に響いていた。

「ユリアっ、どこに逃げるんだよ!!
 このままじゃ校舎ごと包囲され──」

「だからこそ、急がなきゃいけないのよ!」

 ユリアの銀髪が揺れ、鋭い光を帯びる瞳が前方だけを捉えていた。

「あなたを連れて学院から脱出する。
 地下の転移通路まで走るわよ!」

「て、転移通路!?
 そんなのあるの!?」

「機密だけど……もう隠していられないわ!」

(とんでもねぇ学校だなアークス!!?)

 背後で爆音。
 階段の踊り場が赤い火花に包まれる。

『発見──逃走経路D1を封鎖』
『対象は一名の女と同行中』
『第七因子保持者と接触しているため、排除優先度を上方修正』

「排除……!?
 ちょ、待てやめろおおおお!!!」

 ユウは叫び声を上げた。

「ユウ、落ち着いて!」

「落ち着けるわけないだろ!!
 俺の人生、一時間前までは“才能ゼロ”って笑われるだけだったのに……
 なんで国家に殺されかけてんだよ!!?」

「説明は後! 今は生き延びることだけ考えて!」

(無理だろ!! 俺、一般人寄りだぞ!?)

 だが、ユリアは強引にユウの腕を引いて進む。
 彼女の細い体からは想像できないほどの力。剛因子の恩恵だ。



 廊下の先で、黒い影が動いた。

「──第七因子、確保対象」

 無機質な声。
 黒装束の特別部隊、〈特級殲滅班ゼロ〉。

「うわぁぁぁぁ!! もう来た!!」

「ユウ、伏せて!」

 ユリアがユウを抱き寄せ、床へ押し倒す。

 次の瞬間、光の弾丸が飛び交い、壁が融解するほどの熱を放った。
 空気が焼け焦げ、視界が白く染まる。

「ひっ……!!」

「大丈夫、私がいる!」

 ユリアの周囲に魔力の盾が展開される。
 透明な壁が弾丸を次々に弾き、廊下に激しい火花が散った。

(すげえ……!
 ユリアってこんな強かったのか……!)

 だが、敵は引かない。

「シールド突破を確認」
「魔力障壁、強度C級。破壊可能と判断」
「圧力を上げろ」

 数名が前に出る。

「ユウ、走れる!?
 次で障壁が壊れるわ!」

「お、俺が走らなかったら死ぬよね!?」

「そういうことっ!」

「じゃあ走るしかないだろおおおお!!」

 二人は再び全力で駆け出した。

 廊下を抜け、階段を駆け下り、そして学園南棟の裏へたどり着く。

 風が冷たい。
 夜空には黒いヘリが複数待機している。

「外にもいるじゃん!!
 もうどうにもならないだろ!!」

「まだよ。
 地下通路はこの先の訓練棟の下!」

 ユリアは焦燥を隠せぬ表情で続ける。

「でも……敵が上空にも配置されてるのは誤算。
 完全包囲体勢……これ、私たちが追い詰められてるってことよ」

「言いながら走るスピード落ちてる!!」

「落ちてない!!」

 実際にはユリアは限界ぎりぎりだった。
 主にユウを引っ張って走る消耗が大きい。

 そして、最悪の報せが降る。

『学園長より通達──
 第七因子保持者、九条ユウの“処分”を許可する』

「……処分?」

「殺すってことよ、ユウ」

「なんでそんな簡単に決めるんだよおおお!!」



 訓練棟の入り口に到達した瞬間だった。

 上空のヘリから、巨大な影が落ちてくる。

 人型の戦闘外骨格兵――〈重装アームドギア〉。

「ま、まさか……軍用のアレ!?
 学園で使っちゃダメって法律に……!!」

「非常事態なら許可されるのよっ!!」

 外骨格兵は無機質な赤い目を光らせ、二人に向けて腕を突き出した。

「第七因子保持者、ユウを発見」
「排除プロトコルに移行する」

「待て! そっちは違う!!
 排除されるの俺だけでいいだろぉぉぉ!!」

「ユウ、バカ言わないで!
 私だって──」

 外骨格兵の腕から光柱が発射された。

 ユリアはユウを抱えて横に飛ぶ。

 地面が消し飛び、砂煙が舞い上がる。

「っ……く……!」

「ユリア!! ケガしてるじゃん!!」

「大丈夫よ!!」

(大丈夫じゃねえ!!
 絶対どっか折れてるやつだ!!)

 しかし撃たれたのはユリアの腕。
 ユリアは痛みを隠しながら詠唱を始める。

「《氷結牢》……!」

 地面を凍らせ、外骨格兵の足を固定する。

「足止めはした!!
 今のうちに──」

 言葉が途切れた。

 なぜなら、

 外骨格兵の周囲の空気が“歪んだ”からだ。

 それは、ユウにも見えていた。

(これ……俺が……
 俺のせいで、空間が……?)

 次の瞬間だった。

 外骨格兵の体が、音もなく折り紙のように潰れた。

 金属がねじれるでもなく、爆発するでもなく。

 “ありえない方向に圧縮されて消えた”。

「……っ……」

 ユウの体から白い光がゆらりと立ち昇っている。

 彼は何もしていない。
 意図して使った力ではない。

「ユウ……今、あなた……」

「わ、わかんない……!
 本当に、何もしてないんだ……!!」

 だが、それが恐怖になっていた。
 自分の力が、自分の意思と関係なく発動したことが。

(やっぱり、俺……化け物なんじゃ……)

 胸が苦しくなる。
 息がうまく吸えない。

「ユウ!」

 ユリアがユウを抱き寄せる。

「大丈夫。あなたは悪くない。
 これはあなたの意思じゃなくて、力が暴走しているだけ……!」

「でも……俺のせいでアイツ、消えた……
 あれって、死んだってことだよな……?」

「違うわ。外骨格兵の内部には無人モードがある。
 今のは多分、AI搭載の無人兵器。
 あなたが殺したわけじゃない」

 ユウの肩の震えが少し止まる。

 ユリアはさらに言葉を続ける。

「それに、あなたの力は破壊のためだけにあるんじゃない。
 今日のあなたは、ずっと“守るため”に発動してる」

「……守る……?」

「そう。
 あなたの心が、私を守ろうとしてる。
 だから、力が暴走しても攻撃じゃなく、排除に留まってるの」

「……俺が……ユリアを……?」

「ええ」

 ユリアの瞳が揺れる。

「だからユウ。
 自分を怖がらないで。
 あなたは……人を守れる力を持ってる」

(守る……?
 俺が……そんな……)

 だが、ほんの少しだけ胸の痛みが和らいだ。



 その瞬間、無線が響く。

『対象ユウ、戦闘外骨格を消去』
『能力は既存の因子分類を逸脱』
『国防評議会より指示──
 第七因子保持者を“捕獲ではなく殲滅”へ方針変更』

「殲滅!?!?!?」

 ユウとユリアは同時に叫んだ。

「まずいっ……!」

「ユリア、どうするんだよ!」

「……地下通路に行く。
 でももう時間がない。
 これ以上、敵が増えたら逃げられない!」

 上空では新たなヘリが到着しつつあった。

 ユリアはユウの手を取り、強く握る。

「ユウ。
 行くよ……!
 生きるために!!」

 ユウは震える声で応えた。

「……うん……!
 生きたいよ……ユリアと……!」

 二人は訓練棟の奥へと走り出した。

 背後では複数の足音、武装、そして咆哮。

 学園は完全に戦場と化した。

 零因子と呼ばれた少年を巡って、世界が動き出す。


--」
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