『第七因子の少年――世界最強の破壊者だけど、守りたいものがある』

霧島

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第1章 1-4

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第1章 1-4

地下転移通路への決死行──“逃亡者”となった少年

 訓練棟の奥へ続く通路は、夜の闇に溶け込んだように静まり返っていた。
 しかし、その静けさとは裏腹に、ユウとユリアの胸には焦燥の火が燃えていた。

 特級殲滅部隊が背後から迫り、ヘリの影が校舎を覆い、空気さえ震えるほどの緊張感。
 そんな極限状況の中で二人は、ただ前へ、前へと走り続けていた。

「ユリア……どこまで走ればいいの!?」

「訓練棟の地下2階に秘密の扉があるの。
 そこから転移通路に入れる!」

「秘密って……すごい学校だよな!!
 どんだけ危険なんだよこの学園!!」

「文句は後で言って! 今は息を切らさないで!」

「切らさないでって言われても!!
 もう死にそうなんだけど!!?」

 息を切らせながら階段を駆け降りる。
 その直後、上の階から爆発音が響いた。

『接近──逃走者を確認』
『第七因子保持者、殲滅作戦を継続』

「来たっ!」

「嘘だろ……どんだけ追ってくるんだよあいつら!!」

 黒装束の部隊が階段を駆け下りてくる。
 武装は実戦仕様、速度も異常。彼らは訓練された“超精鋭”だ。

(こんなの……逃げ切れるわけない……!)

 胸の奥がぎゅっと縮む。

(怖い……怖いよ……
 俺、本当に死ぬのか……?)

 そんな弱気な声が胸を締め付ける。

「大丈夫。私が──守る!」

 ユリアが振り返り、右手を振る。

「《魔弾連鎖・散弾》!」

 光の弾丸が三十発以上生成され、一斉に敵へ向かって飛び出す。
 爆風と煙が廊下に広がり、敵の動きが一瞬止まる。

 その隙にユリアはユウの腕を引き、さらに下の階へ走り出した。

「はぁ……はぁ……! すげぇ……ユリアって、こんなに強かったんだ……!」

「褒めるのは、あと百回後に聞くわ!
 今は逃げるのが先!!」



 階段を駆け降り、ようやく地下二階の薄暗い廊下へと足を踏み入れた。
 蛍光灯が時折、チカチカと点滅している。

「この先に……あるのか?」

「ええ。奥の壁が偽装されてる。
 私の魔力を感知すると通路が開くはずよ!」

 二人は走りながら廊下を進む。
 しかし──敵もまた、ゆっくりと追い詰めてきていた。

 遠くから響く金属音。
 暗闇に反響する足音。
 それらは確実に“迫ってきている”。

「間に合ってくれ……!」

「間に合うわ。絶対に!」

 ユリアはそう断言するが、顔色は明らかに悪い。
 さっき外骨格兵から受けた攻撃のダメージが、確実に体を蝕んでいた。

 だが彼女は止まらない。
 ユウを守るために。



 ついに行き止まりに到達した。
 一見ただの壁。
 しかし、ユリアは壁に手をかざす。

「《識因子・双重解析》……!」

 ユリアの掌から淡い魔力が広がり、壁がぼんやりと光り始める。

「よし……反応した……!」

 壁の中央に円形の紋章が浮かび上がり、ゆっくりと左右に開いた。

 暗い縦穴のような通路が現れる。

「これが……転移通路……?」

「そう。学院の外へ繋がってる。
 これに入れば、一旦は安全!」

「やった……!! 本当に逃げられ──」

 その瞬間。

 銃声。

 ユウとユリアの間を、火花が貫いた。

「ユリア!!」

 ユウが叫ぶ。

 振り返ると――
 特級殲滅部隊が廊下の奥に出現していた。

「逃がすな」
「目標を視認」
「第七因子保持者と補助者、両方排除せよ」

「“補助者”って言われてるけど!?
 つまり俺と一緒に殺されるやつじゃん!!」

「当然よ! 私もあなたと一緒に逃げるんだから!!」

「いやそれは嬉しいけど!
 死ぬのは嫌だからね!!」

 ユリアはユウの背中を押す。

「ユウ、先に通路に入って!!」

「ユリアはどうするんだよ!!」

「私は後から入る!!
 あなたが先に行かなきゃ意味がないの!!」

「嫌だよ! ユリアがいないなら行かない!!」

「バカ言わないの!!
 あなたが死んだら、この追跡は止まらない!
 世界が崩壊するほどの争いになるのよ!!
 あなたはこの世界にとってあまりにも──」

 ユリアの言葉は、後ろからの衝撃で途切れた。

 爆風が二人の間を引き裂く。

「うわああああっ!!」

「っ、ユウ!!」

 廊下が揺れ、天井から火花が降り注ぐ。

 黒装束の部隊が押し寄せてくる。

(やばい!!
 本当に……俺のせいでユリアが……!
 また……誰かを……!!)

 ユウの胸がぎゅっと締め付けられた。

(もう嫌だ……
 このままじゃ……誰も守れない……!!)

 その瞬間、胸の奥から、白い光が再び立ち昇った。

《第七因子──起動閾値到達》

 ユウの視界が真っ白に染まる。

(まただ……
 これ以上……勝手に、暴走するな……!
 俺は……俺の意思で……守りたいんだ!)

 ユウは震える手を前に突き出した。

「来るなぁぁぁぁぁあ!!!」

 瞬間、

 空間が“崩れた”。

 視界の端で、兵士たちの姿がゆっくりと揺らぎ、
 彼らを囲む空間そのものが折りたたまれ、
 床も壁も一時的に存在を失ったかのように消失する。

 そして、次の瞬間には元に戻った。

 兵士たちは床に倒れ込み、意識を失っていた。

「はっ……はぁっ……はぁ……!!」

 ユウは肩で息をしながら呟いた。

「俺……やった……のか……?」

《空間局所反転。非致死性排除に成功》

(……よかった……殺してない……)

 その安堵が、体を震わせる。



「ユ、ユウ……?」

 ユリアがゆっくりと立ち上がる。
 彼女は先ほどの爆風で膝をついていたが、なんとか立ち直った。

「ユリア! 怪我は!?
 本当に大丈夫なの!?」

「これくらい……どうってことないわよ……っ!」

(どうってことあるだろ……!
 腕も足も震えてるじゃん!!)

 だが、今は言い争っている時間はない。

 奥の階段から新たな足音。
 武装の連動音。

 ……第二波。

「ユウ、早く……通路に……!」

「わかった、行く!!
 ユリアも絶対来てよ!!」

 ユウは転移通路の奥へ一歩踏み出す。

 その瞬間、背後からユリアの声。

「ユウ!!」

「え?」

 振り返ると――

 ユリアがユウの胸元に飛び込んできて、
 両腕を広げ、ユウを抱きしめたまま叫んだ。

「あなたを、絶対に守る!!
 何が起きても……この命に代えても!!」

 ユウの胸が大きく脈打つ。

(守られてばっかりだ……
 こんなの……嫌だよ……
 ユリアだって……守られなきゃいけないのに……!)

 ユウはユリアの肩を掴み、逆に彼女を通路へ押し込んだ。

「ユリア……!
 今度は俺が、守る番だ!!」

「え──」

 ユリアの瞳が揺れる。しかし、次の瞬間、

 後ろから敵の足音が間近に迫った。

「行くぞ、ユウ!!」

「行くんだユリア!!
 俺は絶対に諦めない!!
 だから──一緒に生きる!!」

 その言葉と同時に、二人は転移通路へ身を投げ出した。



 背後で轟音。
 通路が自動的に閉ざされる。

 ユウとユリアは闇の中を落ち続けた。

 ただ一つ確かなのは――

九条ユウは、“逃亡者”になった。
 そして同時に、“世界最強の力”を持つ存在として覚醒した。

 二人がどこへ転移するのか。
 そこで何が待つのか。

 その答えはまだ誰も知らない。

 ただ一つだけ確かなことがあった。

ユウは、もう“零因子”ではない。


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