『第七因子の少年――世界最強の破壊者だけど、守りたいものがある』

霧島

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第2章 2-2

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第2章 2-2

荒野の機械群との交戦──“第七因子”が示す未来

 荒野の上に、砂を巻き上げながら迫る黒い影。
 それは人型でも、獣でもなかった。

 地中から這い出るようにして現れたのは――
 鋼鉄の昆虫にも似た多脚兵器。
 赤い複眼をいくつも光らせ、甲高い電子音を鳴らしている。

 六脚の機械蜘蛛〈スティングスレイ〉。
 軍の偵察兼殲滅機であり、本来は都市部への投入が禁止されているはずの危険兵器だ。

「なんで……こんなものがここに……!?
 これ、軍の極秘兵器じゃん!!」

 ユウの声が裏返る。

「ユウ、落ち着いて!
 たぶん……あなたを追跡するために自律起動したのよ!」

「自律起動!?
 そんな勝手に出てくるのありかよ!!?」

「非常時はありなのよ!
 あなたは“国家緊急レベルの脅威”に分類された。
 だから、軍は追跡用AI兵器を動かしてる!」

「それをもっと早く言ってくれえええ!!」

 ユウの叫び声が荒野に響くが、機械たちは容赦しない。

 複眼が一斉にユウに向き、赤く収束する。

「っ……来るわよ!!」

 ユリアの声と同時に、無数のレーザーが荒野を横切った。



 ユリアが叫ぶ。

「ユウ、下がって!!」

 瞬時に魔法障壁が展開され、光線が氷の膜に当たって弾ける。
 だが〈スティングスレイ〉は数が多い。十体以上が周囲を囲んでいた。

「これ……多すぎるだろ!!
 どう考えても俺ら二人で戦う相手じゃないって!!」

「それでも、やるしかないわ!!」

 ユリアは魔力を集中し、足元に氷の紋章を形成する。

「《氷結・連鎖封縛》!!」

 地面から青い鎖が伸び、スティングスレイ数体を絡め取る。
 だが、即座にレーザーで氷が溶かされる。

(強すぎる!!
 これ、一撃で倒せる相手じゃないぞ……!?)

 ユウは拳を握るが、自分の力がまだ制御できていないことを思い出す。

(俺の力……また勝手に暴走するんじゃ……?
 でも……ユリアを守るためなら……俺は……!!)

 胸の奥が熱くなる。
 だが、先に動いたのは敵だった。



「ユウ、右!!」

 ユリアの叫びと同時に、右側から高速で迫る影。
 スティングスレイが跳躍し、鋭い刃のような脚を振りかぶる。

「うわああ!!」

 ユウは反射的に腕を上げる。
 すると――

 空間が“弾けた”。

 スティングスレイの脚が触れる直前、
 ユウを中心に白い壁のようなものが展開され、兵器の脚が折れ曲がった。

「っ……な、なに今の……!?」

「ユウの防御反応よ!
 あなたの第七因子が自動で守ったの!」

「また勝手に守ってくれたの……!?
 すごいけど……怖くもある!!」

 だがその恐怖に浸る暇はない。

 複数のスティングスレイが射撃体勢に入った。

「ランダム散弾照射、開始」

「やばっ!!」

「ユウ、伏せて!!」

 二人は地面に飛び込む。
 背後で爆光が走り、砂が高く舞い上がった。



「ユリア、大丈夫か!?」

「問題ないわ! けど……これ以上は、私の魔力が持たない……」

 ユリアの額には汗がにじむ。
 負傷した腕も痛むはずだ。

 ユウは歯を食いしばった。

(俺が……俺がやるしかない……!)

 しかし、どう使えばいいのか分からない。
 自分の力は強すぎる。暴走すればユリアすら巻き込む。

「ユア!」

 ユリアがユウの両手を掴む。

「大丈夫よ。
 私があなたを制御する!」

「え……?」

「あなたは“守ろうとした時”にだけ、力を発動してる。
 つまり、あなたが恐怖じゃなく“願い”に従えば……
 その力は暴走しない!!」

「願い……」

「ユウ……あなたはどうしたいの!?
 私を守りたい……?
 一緒に生きたい……?
 逃げたい……?
 それとも、戦いたい……?」

(俺は……俺は……)

 ユリアの瞳がまっすぐにユウを射抜く。

(守りたい……
 俺は……ユリアと……一緒に生きたい……!!)

 胸の奥から熱が溢れた。

「ユリア……俺は……守りたい!!
 お前と……一緒に生きたいんだ!!」

 ユリアの目が揺れた。

「その気持ちよ……ユウ!
 そのまま、力に乗せて!!」



 スティングスレイ全機が一斉に突撃してくる。
 赤い光が収束し、レーザーの照準がユウの胸元を捉える。

「来る……!」

 ユウは一歩前へ踏み出し、両手を広げた。

「守る……!!
 俺は……ユリアを……!!」

 瞬間、

《第七因子──発動》

 白光が爆ぜた。

 轟音ではない。
 衝撃波でもない。

 “空間そのものが波を打った”。

 スティングスレイたちの動きが止まる。
 世界が静止したかのように、音が消える。

「な……!?」

 ユリアが息を呑む。

 次の瞬間、
 スティングスレイの複眼がひとつずつ消えていった。

 機械の脚が折れ、装甲が沈み、
 まるで巨大な重圧を受けたかのように地面に沈んでいく。

 “押し潰されている”のではない。
 “存在が元々なかったように消されている”。

 スティングスレイ十数機は、ほんの十秒で殲滅された。

 ユウは膝から崩れた。

「……はぁっ……はぁっ……!!」

 息が荒い。
 心臓が早鐘のように鳴り響く。

「ユウ!!」

 ユリアが駆け寄り、ユウの肩を支える。

「大丈夫!?
 無茶しすぎたんじゃ……!」

「だ、大丈夫……
 だけど……これ、やばいな……
 使ったら身体が……全部持っていかれる感じ……」

「ユウ……」

 ユリアは優しくユウの背中に手を添える。

「ありがとう。
 あなたがいなかったら、私……死んでた」

「当たり前だろ……
 俺は……お前を守るって決めたんだから……」

 ユリアの頬が赤く染まる。

「……そんなの……好きになるに決まってるじゃない……」

「え? いまなんて?」

「なんでもない!!」

 その照れ隠しの仕草に、ユウの顔も真っ赤になる。



 だが、安心したのも束の間。

 荒野の向こうから、地響き。

「……また来るのかよ……」

「違うわ……今度の反応……軍じゃない」

「じゃあ何?」

「……学園都市の自治警備隊。
 つまり、“私たちを保護しようとしている勢力”ね」

「え、味方ってこと……?」

「わからない。
 でも少なくとも、あなたを殺すために来るわけじゃない」

 警備隊の装甲車が近づき、ひとりの人物が降りてきた。

 影のように黒いコート。
 顔の半分を覆うマスク。

 その人物が静かに口を開いた。

「──九条ユウ。
 君を守るために来た」

 風が吹いた。

 ユウの逃亡劇は、次の段階へ進む。

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