『第七因子の少年――世界最強の破壊者だけど、守りたいものがある』

霧島

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第2章 2-3

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第2章 2-3

仮面の保護者──“黒衣の男”の正体と、新たな選択

 荒野に吹く冷たい風の中、装甲車から降り立った“黒衣の人物”は、ゆっくりと足を進めてきた。
 月明かりを背に、コートの端が揺れ、影のように輪郭がぼやける。

 彼の顔は黒いマスクで覆われ、片目だけが見えていた。
 その片目は、鋭い光でも優しい光でもなく、ただ“真っ直ぐ”にユウを見据えている。

「九条ユウ。
 君を保護するために来た」

 その声は落ち着いており、不思議な説得力があった。

「保護……?
 俺を、殺しに来たんじゃ……ないのか……?」

 ユウはまだ息を整えきれておらず、声が不安定だ。
 戦闘直後の疲労もあり、膝が少し震えていた。

「安心しろ。
 私は“君の敵ではない”」

 黒衣の男はそう告げ、ゆっくりと仮面に触れた。

「私は、学園都市自治圏最高評議会の派遣者。
 コードネーム──《レイブン》」

(レイブン……?)

 ユリアが眉をひそめる。

「最高評議会の……?
 学園とは別の政治組織じゃない!」

「そのとおりだ。
 学園都市は国家直轄に見えて、裏では多くの自治組織が絡んでいる。
 そして――」

 黒衣の男《レイブン》は、ユウに視線を向けた。

「君がその均衡を崩した。
 正確には……“国家側が均衡を壊した”」

 レイブンは歩み寄りながら説明を続ける。

「国家は、君が覚醒した瞬間、君をただ脅威と見なした。
 殲滅作戦を発動したのも、学園長が許可したのも……
 “国家に従っているから”だ」

(……そうだ。
 俺は、国に殺されかけたんだ……)

 胸に、重いものが落ちる。

「だが我々自治圏は違う。
 第七因子は“危険”ではあるが、同時に“資源”でもある。
 人格と意思を尊重し、保護し、協調を目指すべき存在だ」

「協調……?」

「そう。
 君を“兵器”ではなく“人間”として扱う、ということだ」

 ユウは思わず息を呑む。

(今まで……そんな風に言われたことなかった……)

 背後でユリアが小さく吐息を漏らした。

「少なくとも……敵じゃないようね」

「そうだ。
 私は君達を保護し、安全圏に移す任務を受けている」



 だが、そこへ追い打ちのように地震のような振動。

「なに……!?
 また敵かよ!?!」

 レイブンが即座にユウの前に立つ。

「違う。
 これは……国家側の無人戦闘機だ。
 いよいよ本格的に“君の抹消”に乗り出したようだな」

 ユリアの表情が固まる。

「まずいわ……!
 ユウ、これ以上は戦えない! 体力も魔力も限界よ!」

「ユリア……」

 本当はもう立つのも辛い。
 だが彼女はユウの背中をそっと押してくれた。

「ユウは今、休まないと……死んじゃう……」

(……そっか。
 俺より先に、ユリアが限界のはずなのに……
 ずっと俺を守ろうとしてる……)

 胸が痛むほど感情が溢れた。



 レイブンは静かに手を上げ、装甲車の扉を開く。

「二人とも乗れ。
 このままでは持たない。
 ここから先は“味方”が対応する」

「味方?」

 ユウが尋ねると、レイブンは短く答えた。

「自治圏の“影部隊”だ。
 君たちを守るために動いている」

 影部隊――
 学園都市の裏側で噂だけが囁かれていた、“もう一つの守護者”。

(そんなのが本当に……?)

 半信半疑だったが、今は迷う時間もない。

「ユウ、行こう。
 今は休んで……次の戦いに備えるべきよ」

 ユリアはユウの手を取る。

 その手は冷たく震えていた。
 彼女も限界に近いのだ。

(俺がなんとかしなきゃ……
 このままじゃ……ユリアまで……)

 決意が胸を満たす。

「わかった……乗ろう」

 二人は装甲車の後部に乗り込んだ。



 車内は意外にも広く、簡易医療キットや座席が備え付けられていた。

 ユリアはすぐにユウの隣に座り、深いため息をつく。

「ふぅ……ようやく少し休めるわね……」

「ユリアこそ……大丈夫なのか?
 さっき腕とか……」

「平気よ。
 ユウが……守ってくれたもの」

「う……」

 ユウは顔を赤くするしかなかった。



 エンジンが低く唸り、車体が揺れ始める。

 レイブンが運転席の後ろから声をかけた。

「落ち着け。
 ここから先は安全圏に向かうだけだ」

 ユウは息を整え、ようやく状況を整理し始める。

「レイブン……さん。
 結局……俺は何なんですか?
 第七因子って……国家が殺したいほど危険なのか?」

 レイブンは短く間を置いてから、静かに口を開いた。

「答えは……“イエス”だ」

 ユウの胸がきゅうっと締まる。

「第七因子は、歴史上ただ一度だけ確認された。
 その人物は――
 国家間戦争を三日で終わらせ、
 合わせて八つの都市を無力化した」

「……八つ……」

「その力は“神格領域”。
 いかなる因子にも分類されず、世界の理すら書き換える」

 ユリアが息を呑んだ。

「そんな……モンスターじゃない……!」

「そうだ。
 そして九条ユウ。
 君が今、同じ因子を持つ存在だ」

 ユウは言葉を失う。

(俺……そんなものを……?
 だから国は……俺を殺しに来たのか……?)

「だが一つだけ違うことがある」

 レイブンが振り返る。

「その歴史上の第七因子は、“暴走”して世界を傷つけた。
 だが君は――
 守るために力を使った」

「……!」

 ユウの心臓が大きく跳ねた。

「それは、偶然じゃない。
 人格が違うからだ。
 だから我々自治圏は“君を信じる”」

「……信じ……る……?」

「そうだ。
 君の意思こそが、第七因子を制御する鍵だ」

 ユウは涙ぐみそうになった。

(俺を……化け物じゃなく……
 “人として”見てくれる人が……いたんだ……)



 ユリアが隣で微笑む。

「ユウは……誰より優しいからね。
 私はずっと、それを知ってた」

「ユリア……」

 その微笑みは、ユウにとって何より強い支えだった。



 しかし、穏やかな時間は長く続かなかった。

 車体が突然揺れる。

「なに……!?」

「レイブン、何が──」

「……敵だ」

 レイブンの声は低く沈んでいた。

「国家側の特殊任務部隊……
 “殲撃三課”が追いついてきた」

「殲撃三課……!?
 あの、軍でも最強クラスの──!?」

 ユリアが青ざめる。

 車体の外では、鋭いエンジン音。
 追跡バイクとホバードローンの影。

「ユウ、ユリア。
 覚悟しろ」

 レイブンが言う。

「ここからが……君たちの“選択”だ」

「選択……?」

「戦うか──
 逃げるか──
 それとも、力に飲まれるか」

 風が吹く。
 荒野を渡る追跡者の影。

 ユウは強く息を飲んだ。

(逃げるだけじゃダメだ……
 でも戦うには……俺はまだ……)

 胸の奥で、囁き声がした。

《第七因子。
 君がどう願うかで、未来は変わる》

(願い……?)

 ユウはそっと隣を見る。

 そこには、自分を信じ続けてくれる少女――ユリア。

(だったら……俺の願いは一つだ)

――守りたい。
――この子を、絶対に。

「レイブン……ユリア……
 俺、決めたよ」

 ユウは前を向く。

「俺は――生き残る。
 ユリアと一緒に、生き続ける。そのために……戦う!!」

 装甲車が揺れ、追跡影が迫る。

 荒野での逃亡劇は、いよいよ次の局面を迎えようとしていた。


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