『第七因子の少年――世界最強の破壊者だけど、守りたいものがある』

霧島

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第2章 2-4

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第2章 2-4

殲撃三課、来襲──夜空を裂く“選択の刃”

 夜の荒野を、凶悪なエンジン音が切り裂いた。
 装甲車の後方から迫る赤いライト。
 砂煙を巻き上げながら、軍用バイクとホバー機が編隊を組む。

 “殲撃三課”。
 国家側の中でも、最も殺害成功率の高い殲滅部隊。
 その目的はただひとつ――

「第七因子の抹消」。

「クソッ……本気で俺を殺しにきてんじゃねえか……!」

 ユウは歯を食いしばりながら窓の外を見た。

 ユリアがユウの腕を掴む。

「ユウ、伏せて! 窓から頭を出さないで!」

 次の瞬間――
 装甲車の外壁が“バンッ!”と弾けた。

「なっ……!」

「スナイパーだ。
 殲撃三課……やはり容赦がないな」

 レイブンが低く言う。



 装甲車はジグザグに進路を変えながら逃走を続ける。
 だが、敵はすぐ背後に迫っていた。

「レイブン、このままだと……!」

「わかっている」

 レイブンは運転しながら、車内の壁のロックを解除した。
 強化された黒いケースが開く。

「ユリア、君はこれを」

「……っ!」

 そこには小型の“結界投射器”。
 ユリア専用の、魔力増幅器だ。

「ありがとう……でも、これだけじゃ……」

「十分だ。君は“彼を守ること”に集中しろ」

 ユリアは唇を噛み、こくりと頷いた。



 一方、ユウは自分の胸に手を当てていた。

(体が……勝手に熱くなる。
 さっきから……心臓が痛い……)

 脈の奥で、何かが蠢く感覚。
 第七因子が暴れようとしているのか、あるいは――

《願いを確認。
 対象を守る意志を再計測中……》

(まただ……! この声……!)

《再確認。
 “ユリアを守る”という意志は変動なし》

(……あたりまえだろ!
 俺は、ユリアを……絶対守る!)

《意志、受理。
 出力ルートを切り替える》

(え……?)

《暴走ではなく、制御優先へ。
 あなたは“選んだ”》

 胸の奥で“ドクンッ”と脈が跳ねた。



 その瞬間――
 装甲車が急停止した。

「レイブン!? 何してんだ、止まったら──!」

「……来るぞ」

 レイブンは冷静だった。
 まるで、この瞬間を“待っていた”かのように。

 夜の砂漠の闇の中から……
 ひときわ大きなホバー装甲車が姿を現した。

 殲撃三課の“重装ユニット”。

 その周囲を、六台のバイクが円を描くように包囲してくる。

「……囲まれた……!」

 ユリアが息を飲む。

 バイク隊の一人がヘルメットのバイザーを上げ、冷酷に告げた。

「自治圏の介入者レイブン、および第七因子対象ユウ。
 そして補助因子ユリア。
 三名を確認」

 引き金に指をかけながら、男は無感情に告げた。

「国家命令に基づき、抹消する」

「ふざけんな……!」

 ユウが立ち上がると同時に、頭の奥が強く疼く。

《危険接近。
 防御反応を推奨》

(今、暴走したら……また全部壊してしまう。
 でも……!)

 ユウは拳を握りしめる。

(今の俺なら……制御できる!
 守りたいって願った力なら……!)



 レイブンがユウの肩に手を置いた。

「ユウ。
 君はまだ戦ってはいけない」

「な、なんでだよ……!」

「君の因子は、まだ“安定段階”に入っていない。
 今使えば、どんな副作用が出るかわからない」

「でも……このままじゃ……!」

「安心しろ。
 “影部隊”が来る」

「影部隊……?」

 その言葉を合図にしたかのように――
 夜空を切り裂く閃光。

「……ッ!?」

 ユウもユリアも目を見開いた。

 殲撃三課を囲むように、黒い影が次々と地面に着地する。

 全員がマントで顔を覆い、光学迷彩が揺らめく。

「お待たせしました、レイブン隊員」

「よく来た、“影部隊”。」

 殲撃三課の男たちが一斉に警戒態勢を取る。

「自治圏の……影部隊だと……!?」

「なんでこんな戦力が……!」

 影部隊の隊長格がレイブンに声をかける。

「第七因子の移送、継続可能です。
 殲撃三課は我々が引き受けましょう」

 レイブンは頷き、ユウに振り向く。

「さあ、行くぞ。三人とも車に戻れ」

「えっ……でも……!」

「ここで戦えば、敵はユウ君を優先して狙う。
 それでは影部隊の負担が不必要に増す。
 君たちは生き残ることを優先しろ」

 ユリアがユウの手を掴み、強く引いた。

「ユウ、行こう!
 今は……生きることが最優先よ!」

 ユウの手は震えていた。

(逃げる……
 また逃げるんだ……
 俺は……弱い……)

 だが――

 ユリアの手の温もりが、ユウの心を支えてくれる。

「強さってね……
 “戦うことだけ”じゃないのよ」

「……ユリア……?」

「私は、あなたが“誰かを守りたい”って言った時……
 一番強いと思ったの」

 ユウは息を飲む。

(俺は……
 守りたいって気持ちで戦った。
 その気持ちは……弱くなんかない……)

 ユリアの言葉が、胸の奥に染みていく。

「だから行こう。
 今は二人で……守り合うの」

「……わかった」

 ユウは頷き、車に乗り込む。



 レイブンが最後に影部隊へ目配せし、装甲車に乗り込む。

「各員、後退開始!」

 エンジンが唸り、車体が急発進する。

 その背後――

 影部隊と殲撃三課が激突した。

 閃光。
 爆音。
 砂塵が舞い、兵器が火花を散らす。

 荒野に、戦場が広がっていく。



 車内。

 ユリアはまだユウの手を握ったままだった。

「ユウ……大丈夫?」

「……ユリアがいるから、大丈夫」

 レイブンが運転席越しに言う。

「この先は自治圏の安全地帯だ。
 君たちはしばらく保護される」

「……保護、か」

「だが覚えておけ。
 国家は諦めない。
 君を“脅威”だと判断した以上、必ず追ってくる」

 ユウは拳を握った。

「……俺は逃げない。
 ユリアと一緒に、生きてみせる」

 ユリアの頬が赤く染まる。

「ユウ……!」

 その時、レイブンが初めて“柔らかい声”を出した。

「……それでいい」



 車の天井が微かに震え、遠くから爆発音が響く。

 殲撃三課と影部隊の戦闘はまだ続いている。
 だが、ユウ達はその戦場から離れていく。

 荒野の地平線が遠ざかり――
 ユウの胸の奥で、別の何かが静かに目を覚まそうとしていた。

《第七因子。
 あなたの“意志”を確認……再構築完了》

(再構築……?)

《第七因子の新システムが確立されました。
 あなたはもう“暴走の器”ではありません》

(じゃあ俺は……どうなる?)

《――あなたは、“選ぶ者”になる》

(選ぶ……?)

《そう。
 破壊するか、救うか。
 憎むか、愛するか。
 戦うか、守るか。
 あなたは全てを“自分の意志で選ぶ者”》

 ユウは震えた指で、ユリアの手をそっと握り返す。

(俺は……守る。
 絶対に……守る。
 それが俺の――)

《意志、確定。
 第七因子、安定モードへ移行》

 ユウは目を閉じた。

 荒野の風が止んでいく。

 やがて装甲車は暗闇を抜け、
 自治圏の灯りへと向かって走り続けた。


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