『第七因子の少年――世界最強の破壊者だけど、守りたいものがある』

霧島

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第3章 3-1

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第3章 3-1

自治圏への到達──“隠された街”で始まる新生活

 ガタガタ……ゴウン……。

 装甲車が砂利道から舗装路へ乗り換えた音で、ユウは目を覚ました。

「……ん……ここ……どこ……?」

 薄く目を開けると、外の景色が変わっていた。

 乱暴にむき出しの荒野ではなく、
 整備された街路灯が並び、
 巨大な壁に囲まれた“街”の入口が近づいている。

「ユウ、起きた?」

 隣でユリアが微笑んでいた。

 その笑顔だけで、ユウの胸の緊張がふっと軽くなる。

「あ、うん……。ここが、自治圏……?」

「ええ。外からは絶対に見えないように、結界が張られてるの。
 普通は軍関係者と許可済みの住民以外は入れないわ」

「結界ってことは……魔術技術の街なのか?」

「魔術と科学の混合ね。
 “外”の世界よりも、はるかに技術水準が高いわ」

 レイブンが前方から補足する。

「自治圏は、国家にも公開されていない独立自治区域だ。
 反国家勢力ではないが、国家の支配からは自由な“第三の都市”。
 そこが君たちの新しい居場所だ」

「居場所……」

(本当に……そんな場所があったんだ……)

 胸がわずかに熱くなる。



 巨大な壁が迫る。
 高さ30メートルはあるだろうか。
 軍用の素材に近い金属で構成され、表面には複雑な魔術刻印が光っている。

 ユウの口から感嘆が漏れた。

「これ……マジで街を守るための武装だよな……」

「ええ。
 国家にもし攻められたら、ここは戦場になるから」

 ユリアは言葉を濁すことなく続けた。

「……でも、そのときは大丈夫。
 この街には国家を相手にできる戦力がある。
 あなたの“居場所”を守れるだけの力が」

 ユウを真っ直ぐ見つめるユリアの瞳は、
 優しさと強さ、どちらも宿しているように見えた。

(守られてる……
 こんなに……誰かに守られてるって感じたの、初めてだ……)



 装甲車は巨大な門の前で停車する。

 門上の監視塔から、鋭い声が響いた。

『コードを確認する。識別データを送れ』

 レイブンが端末を操作し、認証データを送信する。
 数秒の静寂。

『確認した。“優先ルート”を開放する』

 ゴゴゴゴ……!

 壁の中央部が左右に割れ、
 まるで海が割れるように巨大な通路が開いた。

 ユウは言葉を失う。

「……うそだろ……」

「これが自治圏。
 “隠された街”へようこそ」

 ユリアは微笑み、そっとユウの手を握る。

 ユウは驚いたが、握り返す勇気はなく……
 ただほんのり温もりを感じていた。



 通路を抜けると、そこはまったく別世界だった。

 宙に浮くトラム。
 建物の壁を光が走り、ホログラム広告が立体的に浮かび上がる。
 歩道の人々は皆、最新式の装衣や魔力補助の装備を身につけている。

「……なんだよ、ここ……未来都市じゃん……!」

「もちろんよ。
 国家より100年以上進んだ技術もあるわ」

「そんな場所に……俺が住むのか……?」

「住めるのよ。
 あなたは“保護対象”であり、同時に……“価値ある存在”だから」

 ユウは赤面する。

(なんだよ、価値ある存在って……
 今まで、俺なんていない方がいいって扱いだったのに……)



 車は中心街を抜け、静かな住宅区に入る。

 高級マンションのように整えられた建物が並ぶが、
 監視カメラがほとんど見当たらない。

 代わりに魔法陣のような紋様が歩道に刻まれている。

「あれ……魔術の警戒システムよ。
 結界の一種で、住民のプライバシーは守るけど、
 危険だけは感知できるようになってるの」

「すげぇ……なんか、安心する……」

「でしょ?
 あなたを守るために、ここまでの技術があるのよ」

「……ユリア、ありがとう」

「どういたしまして」

(なんだよその笑顔……反則だろ……)



 やがて、車は白い大きな建物の前で停車した。

「ここが……?」

「君たちの居住施設だ」

 レイブンが降車し、振り返る。

「第七因子の安定まで、君たちはここで暮らす。
 危険区域でも、彼女ユリアが常に側にいる」

「え……ユリアも?」

「当然よ。
 私はあなたの補助因子なんだから」

 ユリアは少し照れたように微笑む。

「補助因子って……そんな、危ない役割じゃ……」

「危ないとかじゃないの。
 私は……あなたのそばにいたいのよ」

 ユウの胸が跳ねた。

「そ、そうなんだ……」

(ちょっと待ってくれ……
 ユリアと一緒に暮らすとか……
 そんな状況、俺の心臓がもたない……!)



 建物に入ると、中はホテルのように豪華で、
 無機質さよりも温かさを感じた。

 案内された部屋は二人用で、
 大きなリビング、システムキッチン、
 そして寝室は……二つ。

「安心して。
 ちゃんと別々の部屋があるから」

「そ、そっか……よかった……いやよくはないけど……」

「ん? 何か言った?」

「な、なんでもない!」

(何言ってんだ俺!?)



 レイブンは扉の前に立ち、最後の説明をする。

「明日から本格的な“能力測定”が始まる。
 君の因子は世界の均衡に関わる。
 だからこそ、安全に使いこなせるように訓練する必要がある」

「訓練……」

「安心しろ。
 ユリアがついている限り、君は暴走しない」

 ユウは深く息を吸い、力強く頷いた。

「……やります。
 逃げない。
 ユリアと……この街を守りたい」

「ユウ……」

 ユリアが小さくこちらを見る。
 その瞳は嬉しさと不安、両方が混ざったようだった。

「では、私は行く。
 ゆっくり休め」

 レイブンは静かに去っていった。



 ユリアは二つの寝室の扉を見比べて、いたずらっぽく笑った。

「どっちがいい?」

「え、あ……えっと……」

「ユウはこっちね」

 ユリアは右側の部屋を指差し、ユウの手を取った。

「……?」

「すぐ隣が私の部屋だから。
 夜中に不安になっても……すぐ声が届くでしょ?」

「……っ」

(不安になったら声をかけていい……?
 そんな優しさ、ずるい……)

「ありがとう、ユリア」

 ユリアはそっと微笑む。

「ユウ。
 初めての場所って怖いでしょ?
 だからね……」

 彼女はユウの頭にそっと手を置いた。

「“一緒にいるから大丈夫”って、言ってあげる」

 ユウは胸が苦しくなった。

(なんだよ……
 俺なんかに……なんで……)

 ユリアは手を離すと、小さく頭を下げた。

「それじゃあ、今日は休みましょう。
 おやすみ、ユウ」

「……おやすみ、ユリア」

 扉が閉まる音がしても、
 ユウの胸はしばらく熱さを失わなかった。

(守りたい……
 こんなに優しい人を……
 絶対に守りたい……)

 ユウは拳を握り、静かに目を閉じた。


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