『第七因子の少年――世界最強の破壊者だけど、守りたいものがある』

霧島

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第3章 3-2

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第3章 3-2

因子安定テスト開始──“第七因子”の片鱗

 翌朝。
 ユウは、胸にほんの少し残る不安を抱えながら目を覚ました。

 昨日の疲れがまだ残っているはずなのに、
 身体の奥に宿る熱だけは消えていない。

(なんだろ……これ。
 昨日よりも……力が近くにあるって感じがする……)

 目を開けると、部屋の中は柔らかい光に包まれていた。

「……朝か……」

 ふと横を見ると、机の上に小さなメモ紙が置かれていた。

『ユウ、おはよう。
 今日は私が先に準備しておくから、ゆっくり起きてきてね。
 ──ユリア』

 読み終えた瞬間、ユウの胸がじんわり温かくなる。

(なんでこんなに優しいんだよ……
 ユリア、本当に……)

 照れくさい気持ちを抑えつつ、ユウは寝室を出た。



 リビングに入ると、白い蒸気とふわっと漂う香り。

「ユウ、おはよう」

 ユリアがキッチンでエプロンをつけ、
 スープとパンをテーブルに並べていた。

「うわ……ユリアが料理してるの、なんか新鮮だな……」

「な、なによその感想……?
 私だって料理くらいできるわよ?」

「いや、できないとか思ってたんじゃなくて!
 ユリアって何でもできるから、料理も強いのかなって……」

「強い……料理が強いってどういう意味よ……?」

「あっ、いや、その……いただきます!」

「もう……変な子」

 ユリアは小さく笑った。

(この笑顔……反則すぎる……)



 食事を終えると、ユリアが端末を操作した。

「今日のスケジュールを確認するわね。
 まず午前中は……“因子安定化テスト”。」

「因子安定化……って、なんか怖い響きだな……」

「大丈夫よ。
 あなたの反応と因子の流れを測定するだけの簡単な検査だから」

「名前の割に、すげぇ物騒な感じだぞ……」

「本格的に危険なのは午後だから……」

「午後ってなにすんの!?」

「実戦形式の模擬戦よ?」

「はああああぁ!?」

「冗談よ。午後は休憩。
 今日はテストだけ」

「脅かさないでくれ……!」

 ユリアはふふっと笑いながら荷物をまとめる。

「じゃあ、行きましょう。
 ……ユウの“新しい力”を見せてもらうわよ」

「新しい力……」

 ユウは緊張しつつも、胸のどこかがざわついていた。

(昨日……声が言ってた。
 “選ぶ者になる”って……
 あれってなんなんだ……?)



 施設の奥深くにあるテストルーム。
 そこは体育館ほどの広さで、壁一面がホログラムパネルになっている。

 中央には透明な立体魔方陣が浮かび、淡く光っていた。

「入りなさい、ユウ」

 案内役の女性研究員が優しく言う。

「この魔方陣に入れば、因子の流れを可視化できます」

「お、おう……」

「心配しないで、大丈夫よ。
 あなたを傷つけるようなことはしない」

 ユリアがそっと背中を押す。
 その手の温もりが、ユウの不安を半分溶かした。

 ユウは魔方陣の中心へ歩み入る。

 次の瞬間――

 空気が“パシン”と弾けた。

「うわっ……!」

「反応が早い……!
 因子の発現速度が通常値の6倍……!」

 研究員たちのざわめきが広がる。

「ユウ、落ち着いて。
 呼吸を整えて……私を見るのよ」

 ユリアが魔方陣の外から声をかける。

 ユウは息を吸い、ユリアを見つめた。

 すると――

 魔方陣の光が落ち着いていく。

「因子の安定……早すぎる……!」

「昨日まで零因子だったのに、どうして……?」

 研究員たちの驚きがさらに強くなる。



 そのとき。

《安定化、完了。
 第七因子、制御ルートの一部解放》

(また……声が……)

《解放されたのはほんの一部。
 しかし実験には十分》

(十分って……なにが……?)

《──“感知能力”。》

 次の瞬間、視界が変わった。

 色が増える。
 光が揺れる。
 音の奥に、膨大な“気配”が重なる。

 人の気配。
 魔力の気配。
 機械のコード反応。

 全部が、ユウの頭の中に流れ込んできた。

「う、うわ……!」

「ユウ!? どうしたの!?」

 ユリアが駆け寄ろうとする――が。

「ユリア、そこ!」

「えっ──」

 ユウは無意識に手を伸ばし、ユリアを引き寄せた。

 同時に。

 ユウの背後の空間に、細いレーザー光が走り、
 ユリアが立っていた位置の床を焼いた。

「っ……!?
 なんでレーザーが……!」

 研究員が慌てる。

「誤作動です! 制御ルートに干渉が……!」

 別の研究員が叫ぶ。

「違う!
 ユウくんの因子が、魔力系の回路を逆流させてる!」

「逆流……?
 第七因子の“感知”が強すぎて……!」



 ユリアはユウの胸元に手を当てた。

「ユウ、落ち着いて!
 呼吸! 深呼吸よ!」

 ユウは頷く。
 だが、頭の中の情報量は止まらない。

(気配……気配が多すぎる……
 でも……)

 その中で。

ひときわ鮮やかな光がある。
温かくて、優しくて、まるで手を差し伸べてくるような。

(これ……ユリアの……?)

 ユリアの気配だけが、他と違っていた。
 まるで暗闇に灯る灯台のように、ユウを導く。

《感知能力が“補助因子”を優先して安定化させています》

(ってことは……俺の感知はユリアを基準にしてる……?)

《彼女はあなたにとって“基点”です》

 ユウはゆっくりと呼吸を整えた。

 すると、暴走しそうだった感知能力がすっと収まった。

「ユウ……!」

「大丈夫。
 ユリアが……見えたから」

 その言葉に、ユリアの頬が赤く染まる。

「見えた……?」

「いや、その……気配が……すごく、落ち着くっていうか……」

 ユリアは少し戸惑いながらも微笑んだ。

「……よかった……
 私、ユウの役に立ててるんだ……」



 研究員が恐る恐る言う。

「ユウくん。
 その……君の因子に“感知領域の形成”が始まっています」

「感知領域……?」

「簡単に言えば──
 “目に見えない広範囲索敵能力”。
 それも高精度の、ね」

「高精度って……」

「たとえば……」

 研究員は指を鳴らす。

 ホログラムが広がり、研究員の後ろに隠れた小さな球体が映し出された。

「この球体の位置が、今わかる?」

「……そこ」

 ユウはホログラムではなく、直接“壁の裏”を指差した。

 研究員たちが息を飲む。

「……ホログラムじゃなくて、本物の位置を……!」

「第七因子、感知能力の覚醒……!」



 ユリアは、ユウを抱きしめた。

「ユウ……すごいわ……!」

「お、おいユリア!?
 い、いきなり……!」

「ごめん……でも……すごく嬉しくて……
 あなたがちゃんと“自分の力”を扱えてるのが……」

 胸に押し当てられた温もりが、ユウの呼吸を乱す。

(ちょっとまって近い近い近い……!)

 ユリアは少し離れ、目を合わせた。

「ユウ……
 あなたはもう“暴走因子”なんかじゃない。
 あなたは──」

「……俺は?」

 ユリアは優しく微笑む。

「“誰かを守る因子”よ。
 それが……ユウの力」

 ユウの胸に、強い熱が宿った。

(守る……
 そうだ……俺は守るためにこの力を使いたい……
 ユリアを……そしてこの街を……!)



 研究員が手元の端末を操作する。

「本日のテストはここまでにします。
 君の感知能力が完全に安定するまで、追加の検査が必要ですが──」

「必要なら、いくらでも受けます」

「ユウ……」

 ユウはユリアの方を見て静かに言った。

「俺、もう逃げないよ。
 ユリアが基点なら……
 俺は制御できるから」

 ユリアの胸がきゅっと熱くなった。

「ユウ……ありがとう……」



 テスト終了後。
 帰り道を歩きながら、ユウとユリアは珍しく沈黙していた。

 気まずいとか、嫌な沈黙ではなく──
 心の温もりがじんわり広がるような静けさ。

「今日のユウ……すごかったわよ」

「いや、俺なんてまだまだだよ」

「謙遜しないの。
 本当に……誇らしかったんだから」

 ユリアが横目でじっと見つめる。
 その視線に耐えきれず、ユウは顔をそらした。

「ほ、褒めすぎだよ……
 調子乗るって……」

「いいじゃない。
 調子に乗ったって。
 あなたは今日、命を守る力を発揮したんだから」

「命……?」

「……私の命よ」

「……っ!」

 ユウの心臓が大きく跳ねた。

 ユリアは歩みを止め、ユウの両頬に手を添える。

「ありがとう、ユウ。
 本当に……ありがとう」

 ゆっくりと距離が縮まる。

 息が触れ合うほど近い。

(ちょ……近い……!
 やば……ユリアが……ユリアが……)

 ユリアはそっと耳元で囁いた。

「今日、守ってくれて……嬉しかった」

 ユウの理性が完全に溶け落ちかけた、その瞬間――

 廊下の先から、レイブンが現れた。

「二人とも。
 午後は自由時間だが、外出は控えるように」

「レ、レイブン! いつからそこに……!?」

「ずっといた」

「嘘だろ!?」

「嘘だ」

「どっちだよ!!」

 ユリアはくすっと笑った。

(ああ……
 この街でなら……
 俺、きっと……生きていける)

 ユウはそっと拳を握りしめた。

第七因子は、ただの破壊者ではない。
 “守る者”としての片鱗が、確かに芽生えていた。


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