『第七因子の少年――世界最強の破壊者だけど、守りたいものがある』

霧島

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第3章 3-3

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第3章 3-3

影の侵入者──“感知領域”が捉えた異常

 因子テストの翌日。
 ユウはまだ眠気の残る頭を抱えながらリビングに向かった。

「ん……朝か……」

 キッチンではユリアが朝食を作っていた。
 いつものようにエプロン姿で、髪を後ろに束ね、
 柔らかい横顔を見せている。

「ユウ、おはよう。昨日よく眠れた?」

「う、うん……まあ……」

「まあ……?」

 ユリアは振り返って首を傾げる。

「寝室の結界、不安だった?
 それとも……私の部屋が近すぎた?」

「ち、違うよ! むしろ……安心したっていうか……」

 ユリアは微笑み、テーブルに朝食を並べる。

「じゃあ大丈夫ね。
 今日も訓練があるから、しっかり食べておいて」

(……この生活、なんか……夢みたいだな)

 ユウは胸の奥をくすぐられるような感覚に包まれながら、
 温かいスープを口に運ぶ。



 朝食を終えて施設の廊下を歩いていると、
 ユウの頭の奥で突然“ノイズ”が走った。

(……う?)

 視界の端がざらつくように揺れる。
 胸の奥が熱く、強く、脈打つ。

《異常接近。
 侵入者を感知──》

(侵入者!?)

 ユウが思わず立ち止まる。

「どうしたの、ユウ?」

「……なんか……視界が変なんだ」

 ユウは額を押さえながら、廊下の先を睨む。

(感じる……誰かが……
 確実に“ここ”を狙ってる)

 足音はない。
 気配は薄い。

 だが――確かに存在していた。

「ユリア……後ろに下がって」

「え……?」

「誰か来る。
 ここに来ちゃいけないやつだ」

 ユリアの表情が一瞬で引き締まった。

「位置は……?」

「……すぐ近く。
 この廊下の……曲がり角の陰……!」

「隠密……いや、迷彩系の特殊装備……?
 自治圏にそんな奴が入れるわけ──」

 その瞬間。

 バチッ!

 空気が揺らぎ、廊下の陰から“人影”が現れた。

 黒い光学迷彩のスーツをまとい、
 顔を覆面で隠した男。

 ユリアが叫んだ。

「待ちなさい!!」

 侵入者は答えず、
 ユウに向けて腕を突き出した。

 腕の装置が開き、刃のような光が伸びる。

(来る──!)



 だが、侵入者の刃が届く前に。

 ユウの体が勝手に動いた。

「ユウ!!?」

 ユリアを抱き寄せて横へ飛ぶ。

 直後、侵入者の光刃がユウの首元をかすめ、
 後ろの壁を深々と抉った。

「ッ……!」

「ユウ!! 今の当たってたら……!」

「大丈夫……まだ動ける!」

 ユウはユリアを後ろに庇う。

(なんだ……今の反応速度……
 体が勝手に……いや、俺の意思より先に動いてる……)

《自動防御反応。
 “補助因子の安全”を最優先に制御中》

(ユリアを守るために……俺の身体が……?)

 震える指先が、少しだけ誇らしくなった。



 侵入者は音もなく再び姿勢を低くし、殺意を向けてくる。

「ユウ、下がって!
 その人……私が相手を──」

「ダメだ、ユリア!」

「なに?」

「……攻撃の“気配”が読める。
 こいつ……ユリアを狙ってる!」

「私を……?」

「うん。
 俺がいなかったら、確実にユリアが狙われてた」

 ユリアは息を飲んだ。

(ユリアを……守らなきゃ……
 そのために俺は……ここにいるんだ!)



 侵入者の身体が揺らぎ、
 一瞬で間合いを詰める。

 超高速。

 普通の人間なら目で追えない。

(くる──!)

 だが。

 ユウの視界には、
 侵入者の動きが“スローモーション”のように見えていた。

《感知領域の精度が上昇。
 敵の動きを0.2秒先読み》

(未来予知……じゃなくて、感知で“先が見えてる”んだ……!)

 ユウは侵入者の腕を避け、
 そのまま体を反転させ、腹へ拳を叩き込んだ。

「ぐッ──!」

 侵入者は壁まで吹き飛び、床に倒れ込む。

 ユリアが息をのむ。

「ユウ……今の……本当に……?」

「わからないけど……
 体が、勝手に……でも、ちゃんと制御できて……!」

 そのとき。

 レイブンが警備隊を連れて走り込んできた。

「何が──状況は!?」

 ユリアが叫ぶ。

「侵入者よ!
 ユウの感知領域がいなかったら……
 本当に危なかった……!」

 レイブンは侵入者に近づこうとして──
 ふと表情を固めた。

「……これは……」

 覆面の下から覗いたのは、
 国家の軍人ではなく、
 自治圏の警備隊の徽章だった。

「自治圏の……兵士……?」

「レイブン……これはどういうこと……?」

「内部の人間が……侵入……?
 あり得ない……!」

 だが──あり得ないことが起きたのは事実だった。



 レイブンは深く息を吐く。

「ユウ君……君の感知能力は、予想を遥かに超えている。
 この街の“内部スパイ”まで捉えるとは……」

「スパイ……?」

「自治圏内部にも、国家に通じる者は少なからずいる。
 だが、この男は……反国家ではない。
 むしろ……“別の組織”に属している」

「別の組織……?」

 レイブンは言いかけて、口を閉じた。

「……詳細はまだ言えない。
 しかし一つだけ確かなのは──」

 その瞳が、緊張と驚愕を混ぜてユウを見る。

「“第七因子”は、組織にとって脅威でもあり、
 同時に“欲望の対象”でもあるということだ」

「欲望……?」

「奪われれば……その時点で世界の均衡が崩れる」

 ユウは拳を震わせた。

(俺が……奪われれば……?
 俺というか……第七因子の力が……?)



 ユリアがユウの肩に手を置く。

「ユウ……怖くなった?」

「……正直、少し……」

「でもね、怖くていいのよ。
 恐れを知っている人は“暴走しない”。
 あなたは大丈夫。
 私がそばにいる」

 その声は微かに震えていた。

(ユリア……)

「ユウを奪われるなんて……絶対に嫌よ」

 その言葉に、ユウの胸が強く熱くなる。

(守られてる……
 ユリアが俺を守ってくれてる……
 だったら俺も──!)

「ユリア……俺も、絶対に守る。
 お前を……奪わせたりしない!」

 ユリアの瞳が潤む。

「ユウ……ありがとう……!」



 そのとき。

 倒れていた侵入者の胸元で、
 なにか小さな装置が振動した。

「レイブン、離れて!!」

 ユリアが叫ぶ。

 瞬間。

 装置が“光”に包まれ、侵入者の身体は粒子となって消えた。

「消失……!?
 情報痕跡だけ残して……!」

 レイブンが唇を噛む。

「……これは“後追い不可能”な転移技術だ。
 この街には存在しない……」

「つまり……外部に“自治圏より上の技術力”を持つ組織が……?」

「その可能性が高い」

 レイブンはユウを見る。

「ユウ君。
 君はもう……ただの保護対象ではない」

 息を呑むユウ。

「君の力は……
 世界の“均衡の中心”になりつつある」

 静かに言葉を落とすレイブン。

「だからこそ──
 この街は君を守り、
 同時に、君もこの街を守る必要がある」

 ユウは拳を握りしめた。

(逃げない……
 もう絶対に……逃げたりしない!)

「レイブン……
 俺は、この街を守ります。
 ユリアと……一緒に!」

 ユリアの目がキラリと光る。

「ユウ……大好き!」

「えっ」

「ごめん、今のは勢い!」

「今のは勢いってレベルじゃないだろ!」

 レイブンは少し笑った。

「ふたりとも……
 今は部屋に戻れ。
 これから“本当の問題”が始まる」

 ユウとユリアは見つめ合う。

(本当の問題……
 でも俺はもう逃げない)

 ユウは静かに決意した。

第七因子と自治圏を狙う“影の組織”。
 その存在が、ついに動き出した。

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