『第七因子の少年――世界最強の破壊者だけど、守りたいものがある』

霧島

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第3章 3-4

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第3章 3-4

 因子の覚醒兆候──“選ぶ者”としての道

 侵入者が粒子となって消えた後、
 廊下には緊張と静寂だけが残っていた。

 重苦しい空気を破ったのは、
 かすかに震えるユリアの声だった。

「ユウ……本当に……大丈夫?」

 ユウはゆっくり深く息を吐いた。

「……うん。
 でも……なんでだろ……
 身体は普通なのに、胸の奥だけが……熱いんだ」

 胸に手を置くと、鼓動が妙に規則的だ。
 静かで、強くて、雑味がない。

(これ……昨日までと違う……
 俺の心臓……いや、“因子”が変わってる……?)

 その不安を読み取ったように、
 ユリアが手を重ねた。

「……怖かったんだね」

「い、いや……怖くないっていうか……」

「強がらないの。
 私、ずっと見ていたのよ。
 あなたの手が震えてたのも……気づいてる」

 ユウは目をそらした。

「……そりゃあ……
 ユリアを守れなかったら……って、思ったらさ」

 ユリアの目が大きく見開かれた。

「ユウ……」

 そしてふふっと笑った。

「……ありがとう。
 本当に……嬉しいわ」

 胸の奥がキュッと熱くなった。

 ◆

 そこへレイブンが戻ってきた。

「ふたりとも、ここから先は個別に事情聴取だ。
 侵入者がなぜ“補助因子”であるユリアを狙ったのか……
 理由を調査する必要がある」

「え……私を……?」

「侵入者はユウ君ではなく、ユリア君を優先ターゲットとした。
 つまり、君の存在が敵にとって厄介だということだ」

「私が……厄介……?」

 ユリアは唇を噛む。

(ユリアが狙われた……
 俺のせいで……?)

 胸に黒い影が広がりかけたそのとき。

 ユリアがきっぱりと言った。

「ユウのせいじゃないわ。
 私は“補助因子”としてユウを支える立場。
 狙われるのは当然よ」

「当然じゃない!」

 ユウは声を張り上げた。

「ユリアが……そんな風に言う必要はない!
 俺を守るのは……俺自身だ!」

 ユリアは驚き、目を見開く。

 そして少しだけ、頬を赤く染めた。

(ユウ……
 そんな顔、できるようになったんだ……)

 ◆

 レイブンは二人を見て静かにうなずいた。

「……では、事情聴取の前にもう一つ。
 ユウ君。
 君の因子に異常な反応が出ている」

「えっ……?」

「侵入者との戦闘の直後から、
 君の因子密度が急上昇している」

「密度……?」

「因子の“凝縮度”と言えばわかりやすいか。
 放出する力が強くなる代わりに、
 制御が難しくなる可能性がある」

 ユウは無意識に胸を押さえた。

(やっぱり……
 俺の体、何かおかしくなってる……)

「でも、ユウは落ち着いていたわ」
 ユリアが言う。

「暴走の兆候は……なかった」

「それが不思議なんだ」

 レイブンは淡々と言う。

「君は本来……“暴走因子”として造られた存在のはずだ。
 なのに──補助因子の存在で制御が進みすぎている」

「それって……悪いことなの?」

「悪くはない。
 むしろ……国家にとっては“脅威”だろうな」

「脅威……?」

 レイブンは低い声で続けた。

「国家は第七因子を“兵器”として制御しようとしていた。
 だが今のユウ君は──
 “自主制御型”。
 誰にも従わず、誰の命令も受けず、
 自分の意思だけで力を振るう可能性がある」

「……!」

 ユウは息をのんだ。

(自主制御……
 確かに……昨日から、声より自分の意思の方が強い気がする……)

「だからこそ、敵も狙っている」

 レイブンはユリアを見る。

「補助因子ユリア。
 君の存在はユウ君の“鍵”だ。
 奪われれば、ユウ君は制御不能になる」

 ユリアの顔が一気に青ざめた。

「奪われる……?
 私が……ユウを危険に……?」

「違う、ユリア!」

 ユウが叫ぶ。

「ユリアがいないと俺は制御できない!
 だから……俺は絶対にユリアを守る!」

 その言葉に、ユリアの瞳が揺れた。

「ユウ……なんで……そんなに強く……」

「言わなくてもわかるだろ!」

 ユウは胸に手を当てた。

「俺は……ユリアがいるから、強くなれてる。
 ユリアがいてくれるから……制御できるんだ!」

 ユリアの頬が赤く染まり、
 目に涙まで浮かんでいた。

「ユウ……
 本当に……あなたって子は……」

 ◆

 レイブンは控えめに咳払いをした。

「……話を戻す。
 この件は自治圏最高評議会へ報告された。
 評議会は今日の午後、
 ユウ君の“処遇”を決める緊急会議を開く」

「処遇……?」

「自治圏に保護されるのか、研究対象となるのか、
 あるいは……外部から切り離して隔離するか」

 ユウは息が止まりそうになった。

(隔離……?
 閉じ込められるのか……?)

 胸の奥が冷たくなる。

 ユリアは即座に叫んだ。

「そんなのダメ!!
 ユウを隔離なんて……絶対にさせない!」

「ユリア……」

「ユウは……
 ユウは……っ」

 ユリアは泣きそうな顔で振り返り、ユウにしがみついた。

「ユウは……私の大切な人なのよ!!
 隔離なんて……させるわけがない……!」

「ユリア……っ」

 ユウはユリアの肩にそっと手を置いた。

「大丈夫。
 ユリアがいる限り……俺は大丈夫だよ」

 その瞬間。

 ユウの胸の奥が、温かい光で満たされていくのを感じた。

 《因子密度安定。
 補助因子とのシンクロ率が上昇》

(あ……
 ユリアと……気持ちがつながってる……?)

 ユリアも同時に胸を押さえた。

「ユウ……?
 今、なんか……胸が……」

「わかるの……?」

「ええ……
 ユウの感情が……ほんの少しだけ……流れてきた気がする……」

 レイブンが目を見開く。

「……これは……
 第七因子と補助因子の“共鳴”だ」

「共鳴……?」

「この状態なら、
 第七因子は完全自立制御に近い。
 つまり──“暴走因子ではない”。
 自治圏がずっと探していた理想の形だ」

 ユウは自分の手を見る。

(俺は……
 もう暴走するだけの存在じゃない……!?)

 ◆

 だがその喜びは、次の瞬間かき消された。

 ユウの感知領域に“巨大な異変”が触れた。

(……なに、これ……)

 冷たく、鋭く、凶暴な気配が
 遠くの空の向こうから迫ってくる。

 まるで──大きな刃が街を斬ろうとしているような。

(でかい……
 こんな気配……今まで感じたことない……!)

 ユリアが震える声で訊いた。

「ユウ……どうしたの……?」

「……来る……
 何かが……この街に向かって来る……!」

 レイブンが息を呑む。

「感知領域でそこまで……!?
 一体なんだ……!」

 ユウは震える声で答えた。

「わからない……でも……
 “殺気”が……どんどん近づいてる……!」

 ◆

 廊下の外から、警報が鳴り響く。

 赤いライトが点滅し、施設全体が揺れる。

 広報アナウンスが絶叫する。

『──警告!
 未確認巨大生命反応、自治圏外縁に接近中!!』

 ユウは拳を握りしめた。

(また……
 戦いが来るんだ……
 でも……逃げない!)

 ユリアがユウの手を握る。

「ユウ……行こう」

「うん。
 ユリアとなら……俺は戦える!」

 二人は走り出した。

 第七因子に呼び寄せられた“何か”が、
 ついに自治圏へ迫ろうとしていた。


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