『第七因子の少年――世界最強の破壊者だけど、守りたいものがある』

霧島

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第4章 4-1

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第4章 4-1

自治圏防衛戦開始──“選ばれた力”の第一歩

 警報は鳴り止まなかった。

『──緊急警報!
 自治圏外縁にて、未確認巨大生命反応を確認。
 レベルS──即時対処が必要!』

 施設全体が赤く染まり、
 避難誘導灯が走るように点滅する。

 ユウは胸の奥が熱く疼くのを感じながら、
 廊下をユリアと駆け抜けた。

(この殺気……近づいてる……!
 昨日の侵入者なんか比じゃない……!)

 足が震えそうなのに、
 体は前へ前へと動いていく。

「ユウ、大丈夫?」

 ユリアが後ろを振り向く。

「うん……俺は大丈夫。
 でも……この街が危ない。
 絶対に……守らなきゃ……!」

 ユリアはその言葉に息をのみながらも、
 どこか嬉しそうに微笑んだ。

「ユウのそういうところ……やっぱり好きだわ」

「えっ!? い、今それ言う!?
 タイミングおかしくない!?」

「勇気を出す人には、言葉が必要なのよ!」

「えええぇぇ……!」

 そんなやり取りをしつつも、二人の足は止まらなかった。



 自治圏中央司令室に到着すると、
 巨大なホログラムが街全域を映し出していた。

 街の外側、砂漠の地平線。

 そこに──

「……なんだよ、あれ……」

 ユウの声が震えた。

 ホログラムに映ったのは、
 黒い影をまとった巨大な“生物”。

 四足歩行の形をしているが、獣ではない。
 背中からは無数の刃のような骨が伸び、
 体表はどす黒い脈動で覆われている。

 目に相当する部分は、赤い光が揺れていた。

「これは……魔生構造体……?」
ユリアが呟く。

「違う。国家のバイオ兵器ではない」

 レイブンが険しい表情で言った。

「これは……“召喚型”だ」

「召喚……!?
 でも誰がこんな……!」

「国家にも扱えない古代型の技術だ。
 唯一、この世界に存在する理由は一つ」

 レイブンは、ゆっくりと言った。

「──“第七因子の気配”に惹かれて来た」

 ユウの背筋に冷たいものが走った。

「俺を……探して……?」

「そうだ。
 おそらく敵組織が仕掛けたものだろう。
 君を危険視する国家ではなく、
 異端技術を扱う外部勢力……」

 ユリアが歯を噛む。

「昨日の侵入者の組織……!」

「その可能性が高い」

 レイブンは画面を指し示す。

「だが問題は、敵の“サイズ”だ」

 巨大生命体の足が動くたび、砂漠がえぐれた。

「約60メートル級……街の防衛を越えている。
 通常兵器はほぼ通じない。
 対抗できるのは──」

 レイブンは視線をユウに向けた。

「第七因子。君だけだ」

「……俺……?」

 ユウは唾を飲み込んだ。

(俺が……あれと……?
 絶対勝てないだろ……!)

 膝が軽く震えた。

 だが。

 そのときユリアがユウの手を握り、
 胸に押し当てるように言った。

「ユウなら……できるわ」

 ユウの目が大きく開かれる。

「ユリア……」

「あなたは昨日、侵入者の攻撃を読み……
 私を守った。
 暴走するどころか、むしろ力は“制御”されていた」

 ユリアは真っ直ぐユウの瞳を見つめる。

「あなたは……選べる。
 “誰を守るか”を、自分で選べる力を持ったの。
 それは……誰も持っていない力よ」

 胸が強く脈打つ。

《因子共鳴上昇。
 補助因子とのシンクロ状態、安定》

(ユリアが……俺を信じてる……
 なら……)

 ユウは拳を強く握りしめた。

「行こう。
 俺……戦うよ」

 ユリアの目が潤む。

「ユウ……!」



「待て」

 レイブンが手を上げる。

「ユウ君が戦うのは構わない。
 だが、いまのままでは能力出力が不十分だ」

「不十分……?」

「第七因子は“補助因子との共鳴”が最大出力条件だ。
 だがまだ二人のシンクロ率は60%ほどしかない」

「60……?
 なんだかゲームみたいだな……」

「70%を超えれば防御能力が開花し、
 80%を超えれば攻撃因子が解放される」

「じゃあ……80にしなきゃいけないんだな?」

「そういうことだ」

 レイブンはユリアを見る。

「ユリア。
 君にしかできない。
 ユウ君の“心の中心”に触れろ」

 ユリアはゆっくり頷いた。

「わかったわ……」

 ユウの正面に立つと、
 ユリアはユウの両頬に手を添えた。

「ユウ……私と目を合わせて」

 ユウは息を呑む。

「今から言うこと、驚かないでね」

「……?」

 ユリアは深呼吸してから──
 真剣な表情で言った。

「ユウ。
 私ね……あなたが大切なの。
 補助因子とか使命じゃなくて……
 あなたという人が……好きなのよ」

 ユウの心臓が跳ねた。

「……ユリア……」

「あなたが生きると決めたなら……
 私は全力であなたを支える。
 あなたが守りたいと言ったなら……
 私は命を懸けて一緒に戦う」

 ユリアの目には、涙が浮かんでいた。

「弱くても、迷ってもいい。
 でも……私の前でだけは強がらないで。
 私は……あなたの全部を受け止めたいの」

 ユウの喉が熱くなり、
 胸が痛いほどいっぱいになる。

(俺……
 本当に……ユリアが……)

 ユウは震えながらユリアの手を握り返した。

「俺も……
 ユリアが……誰より大切だよ」

 瞬間。

《シンクロ率──79%……80%……85%……上昇。
 第七因子“攻撃因子”の一部を解放》

 ユウの体を光が包んだ。

「うわ……!」

 胸から、腕から、
 熱があふれ出すように広がっていく。

 感覚が研ぎ澄まされ、
 視界の色が鮮明になり、
 世界の気配が細部まで読み取れる。

「ユウ……!」

「大丈夫。
 これ……怖くない……!」

 ユウは拳を握りしめる。

(力が……暴走するんじゃない。
 俺の意思に……応えてくれてる……!)



 司令室のホログラムには、
 巨大生命体が街の外壁へ迫る影が映っていた。

「レイブン、行けるよ!」

「……ユウ君。
 勝算は正直、薄い」

「でもやるんだ!
 ここは……俺の居場所だろ!?」

 レイブンは一瞬だけ目を細め──
 静かに頷いた。

「……行け。
 自治圏の未来は……君に託す」

「ありがとう!」

 ユリアはユウの手を強く握る。

「ユウ、一緒に行くわ」

「当然だよ。
 俺はユリアとじゃなきゃ戦えない」

 ユリアの頬が真っ赤になった。

「そ、そんなはっきり言わないでよ……!
 ……でも嬉しい……!」

 二人は走り出した。



 外縁区画に到達したとき、
 砂漠の地平線に巨大な影が立っていた。

 60メートルの巨獣。
 赤い瞳がユウを見て、吠える。

 その声は大気を震わせ、
 砂を吹き飛ばし、
 街を揺さぶる。

「くっ……!」

「ユウ、無理しないで!」

 ユウは拳を握りしめた。

「無理なんかしない!
 俺は……選ぶんだ!」

 胸の奥で因子が輝く。

「守るために……俺は戦う!!」

 巨獣が前方へ動き出した。

 その瞬間──

 ユウは地面を蹴り、
 砂煙を上げて飛び出した。

第七因子の戦いが、いま始まる。


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