『第七因子の少年――世界最強の破壊者だけど、守りたいものがある』

霧島

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第4章 4-4

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第4章 4-4

黒影の男──因子戦争の幕開け

 砂漠に亀裂が走るように空間が裂け、
 黒い影がにじみ出るように立っていた。

 その姿は“人型”だった。

 しかし、
 明らかに“人間”ではなかった。

 黒い外殻に覆われ、
 仮面のような顔からは目も口も読み取れない。

 ただ、
 ユウとユリアを観測するように
 ゆっくりと首を傾けた。

「……第七因子、確保対象確認。
 第七因子保有者──識別番号“ユウ”。
 プロトコルE-07、実行開始」

「な、なんだよ……
 何言ってんだ……!!」

 ユウは痛む体を押さえながら立ち上がった。

 巨獣との激戦で全身が悲鳴を上げている。

 それでも──
 ユリアを背にして前へ出た。

 黒影は歩いてくるわけでもなく、
 ただその場に立っているのに、
 距離が縮まって見えた。

 存在そのものが異質だった。

「ユウ……下がって……!
 あれは……あなたが想像するより……
 “ずっと上位の存在”よ……!」

「上位……?」

「ええ……
 あれは“欠片(フラグメント)”……
 この星に散らばった、因子の核そのもの!」

「因子……の核……?」

 ユウが眉をひそめる。

 巨獣は“因子”を取り込むために造られた生物兵器だった。

 なら──
 目の前の黒影は何だ?

 黒影が静かに言う。

「第七因子保有者。
 その力を所持したまま生存することは……
 この世界の“許容外”である」

「許容外……?」

「従って、
 第七因子は回収されなければならない。
 抵抗する場合──処理対象」

 その瞬間、
 黒影の腕が“槍”の形に変形した。

 ユウを貫くために。

「ユウ!!
 戦っちゃダメ!
 あれは……因子そのものの集合体……!
 今のあなたでは……絶対に勝てない!!」

「でも……逃げたら……!」

「あなたが死ぬだけ!」

 ユリアの声が震えていた。

 普段冷静な彼女が、
 ここまで取り乱すのは珍しい。

(そんなに……ヤバい相手なのか……)

 だがユウは、
 ユリアの手を掴み、小さく笑った。

「ユリア。
 逃げる時は……手を離すなよ」

「ユウ……!」

 ユリアの瞳が揺れる。



 黒影がゆらりと腕を振った。

 その動きは
 “空を撫でただけ”のように見えた。

 だが次の瞬間。

 砂漠が縦に真っ二つに割れた。

 ユウは目を見開く。

「な、なにこれ……!?」

「空間斬撃……!!
 物理でも魔力でもない……
 純粋な“因子”だけで空間を切り裂いた……!」

 黒影は淡々と続ける。

「あなたの生存は、
 世界の遺伝子構造に亀裂を生じさせる。
 第七因子は“世界を破壊する因子”……
 保有者の存在自体が世界の危機である」

「破壊……だって……?」

「従って、あなたは──
 ここで廃棄されなければならない」

 黒影が槍を構える。

 殺気はない。

 ただ機械的な“処理命令”。

「やめて!!」

 ユリアが叫んだ。

「ユウは……ユウは!!
 そんな破壊者なんかじゃない!!
 人を守るために戦ってるの!!
 あなたたちの言う“脅威”なんかじゃ──」

「証拠無し。
 第七因子の本質は“破壊”。
 第七因子保有者は例外なく淘汰されるべき対象」

「例外なくって……
 じゃあ……ユウも……?」

「そう。
 これまでの歴史で、
 第七因子保有者は必ず“世界を破壊”してきた」

「うそ……!」

 ユリアの顔色が真っ青になる。

 ユウも息を呑んだ。

(俺が……世界を……破壊?)

 そんな馬鹿な、と思う反面、
 どこか胸の奥に“ざわり”とした感覚があった。

 巨獣との戦いの最中、
 自分の力が暴れ出しそうになった瞬間。

(あれが……“破壊因子”の片鱗なのか……?)

 黒影が槍を構え直す。

「処理開始」

「ユリア、逃げろ!!」

「嫌!!
 一緒に逃げるの!!」

 ユウはユリアの手を抱え、
 思い切り地面を蹴った。

 巨獣との戦いで砕けかけた身体が悲鳴を上げる。
 それでも全力で走る。

 黒影は追ってこない。

 ただ仮面のような顔が、
 ユウの背中をじっと見ていた。

「逃亡……確認。
 第七因子保有者の潜在能力を解析……
 “自我強化”“創造式使用”を確認」

 黒影は静かに呟いた。

「保有者ユウは……
 過去の第七因子とは異なる進化を遂げている。
 危険度──最大値
 格付け変更:最優先殲滅対象」

 黒影は消えるように空間に溶けた。



 数百メートル離れた岩陰まで逃げ、
 ようやくユウは膝をついた。

「はぁ……はぁ……!
 ……ユリア、大丈夫か……?」

「ユウこそ……!!
 ひどい傷……これ……さっきの巨獣の……!」

 ユリアは震える手でユウに触れた。

「ユウ……あなた……本当に……
 第七因子なんて持って……
 破壊者なんて言われて……
 それでも前に進むの……?」

「ユリア。
 俺は……破壊者なんかじゃないよ」

「……!」

「確かに……怖いよ。
 言われてみれば、
 力が暴れそうになる瞬間があったし……
 あれが暴走すれば……どうなるかなんて……わからない」

 ユウは拳を見つめる。

 巨獣を貫いた光の拳。

 それは美しかった。
 だが──恐ろしくもあった。

「でもさ。
 俺は“守るために戦う”って決めたんだ」

「……ユウ……」

「誰かを傷つけるためじゃなくて。
 ユリアを守るために。
 街を守るために。
 俺の力が……誰かの役に立つなら……
 破壊者だなんて言われても関係ない」

 ユウは笑った。

「だって俺は……
 もう“戦う理由”を見つけたから」

 ユリアはその場で泣き崩れ、
 ユウに抱きついた。

「ユウ……!
 あなたは……絶対に破壊者なんかじゃない!!
 私が……私があなたを守るから……!!
 あなたが暴走しても……
 あなたごと守る!!
 だから……一緒に生きよう……!」

「ユリア……ありがとう」

 ユウはユリアを抱きしめ返した。

 その温もりを感じながら、
 自分の胸の奥で何かが静かに灯るのを感じた。



 だが──その頃。

 黒影と同じような存在が
 世界中のあちこちで空間から滲み出ていた。

 それぞれが同じ言葉を呟く。

「第七因子保有者、覚醒。
 因子戦争──フェーズ2へ移行」

 世界はまだ知らない。

 ひとりの少年の覚醒が、
 大陸すべてを巻き込む“因子戦争”の幕開けになることを。

 そしてその中心にいるのが──
 破壊者と呼ばれたはずの、
 優しい心を持つ少年だということも。


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