「冷徹将軍との政略結婚は溺愛の幕開けでした~捨てられ令嬢は帝国で幸せになります

霧島

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第4章 華麗なる復讐と、はじまりの新婚生活

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 わたし――エリシア・フォン・ルクセンベルクは、グラナート帝国の将軍クラウス・フォン・グラナート公爵の婚約者になってから、およそ数ヶ月の時を過ごしていた。
 セレスティア王国にいた頃のわたしは、父(アドルフ・フォン・ルクセンベルク公爵)や妹(ビアンカ)から冷遇され、何の価値もない娘として扱われていた。
 しかし今、この帝国での日々はどうだろう。
 ――クラウスの溺愛を一身に受け、帝国社交界でも少しずつ名を知られる存在となり、過去の痛みから解放されながら日々を送っている。こんなにも幸せな未来が待っているなんて、かつてのわたしは想像すらできなかった。

 もっとも、政略結婚で嫁いだ当初は不安が大きかった。クラウスが“冷徹将軍”として怖れられていたからでもあるし、帝国という未知の国へ移ることに対する恐怖もあった。
 けれど、彼の優しさと揺るぎない守護が、すべての不安を取り去ってくれた。
 わたしが社交の場で緊張するなら、そっと手を添えてリードしてくれる。わたしが昔の実家のことを思い出して落ち込むなら、遠慮なく「忘れろ」と言って抱き寄せてくれる。
 それほどまでに愛され、支えられたわたしは――過去を振り返る必要などないと確信するようになった。
 そして、とうとうわたしたちの結婚式――つまり正式な婚礼の儀が、帝国の宮殿で行われることが決定したのだ。


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1.結婚式の準備と、あふれる溺愛

「エリシア、衣装合わせは順調か? ガートルードからは“あれもこれもやりたい”と要望が多いと聞いたが」
「ええ、少し……ドレスのデザインや装飾品がたくさんあって、正直わたしも驚いているんです。帝国の結婚式は、わたしが王国で聞いていたよりずっと壮麗なんですね」

 グラナート公爵家の屋敷。わたしの部屋は、婚礼の準備でバタバタしていた。
 ドレスの仕立てを依頼されている職人は何人もいて、それぞれが最新の技術を駆使し、まるで芸術品のような衣装を提案してくる。さらに、宮廷関係者からは「軍の将軍閣下の挙式は帝国の名誉。ぜひ豪華に」と要請があり、侍女頭のガートルードは対応に追われていた。

「実のところ、もう少しこぢんまりとした式でもいいんですけれど……」
 わたしが苦笑まじりに言うと、クラウスは微かに目を細める。

「派手すぎるのは好みじゃないが、今回は皇帝陛下のお許しもある。……帝国でこれほど大々的に将軍の婚礼を執り行うのは、そう多くない機会だそうだ。お前に負担でなければ、豪華にやればいい」
「負担だなんて……。わたしなんかで、こんなに盛大にしてもらうのが申し訳なくて……」

 本音を言えば、王国で冷遇されていたわたしには、こうした“特別扱い”はまだ慣れない。幼い頃から「地味にしてろ」「ビアンカの引き立て役がちょうどいい」と言われてきたからだ。
 しかし、クラウスはそんなわたしの臆病さを容赦なく払拭してくる。

「お前はそんなに卑下するな。……俺が選んだ女だぞ。それだけで十分に“豪華”に値する。帝国の誰が何と言おうと、俺の妻になる存在なのだから当然だ」
「……ありがとうございます、クラウス様」

 彼のまっすぐな愛情は、相変わらずわたしの胸を熱くする。使用人や侍女たちも「閣下は相変わらず甘いですわねぇ」と言いつつ、わたしの着付けをサポートしてくれるのだ。
 ちなみに、その甘さは準備の最中でも遠慮なく発揮される。ドレスの試着をしているとき、クラウスがわざわざ部屋に立ち寄り、仕立て中の衣装をちらりと見ては「いいじゃないか。もっと胸元が開いていてもいいな」などと無遠慮に呟いていく。
 そんな言葉にわたしや職人たちが赤面すると、彼は面白そうに笑うのだ。まるで「愛しいものを見守る」かのように。

「うふふ、エリシア様がお幸せそうで、わたくしたちも嬉しいですわ」
「ほら、もう閣下ったら。花嫁衣裳のサプライズが台無しになってしまいますよ!」

 侍女たちに追い出されるようにして、クラウスは苦笑しながら部屋を出ていくこともしばしば。あの無骨な将軍閣下がここまで浮き足立つ姿など、帝都の誰も想像できなかっただろう。
 実際、わたしも「冷徹将軍」という噂を耳にしたときは恐ろしかった。だけどいまの彼は、わたしを溺愛するただの“愛妻家”になりつつある。
 その事実に、わたしは驚きと幸せを噛み締めずにはいられない。


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2.挙式前夜の不穏――セレスティア王国からの珍客

 順調に進む挙式の準備。華麗な衣装、皇帝陛下や貴族たちへの招待状も配られ、あとは婚礼当日を待つばかり……という段階になったある日、わたしは驚くべき知らせを受けることになった。

「エリシア様、ごめんなさい。こんなお忙しいときに大変申し上げにくいのですが……セレスティア王国からの客人が、今この屋敷の門前に……」
「……セレスティア王国? 誰が……?」

 胸騒ぎがした。思わず問い返すと、侍女は居心地悪そうに視線を彷徨わせる。

「それが……ビアンカ様、と名乗っておられます。あなたの妹だと。……“どうしてもエリシアに会いたい”と仰っていて……」
「ビアンカが? なんで、こんなところに……」

 妹の名を聞いた瞬間、わたしの心がざわつく。
 ビアンカは父と同じく、わたしを見下し、侮蔑し、挙句の果てに第二王子レナード殿下との婚約まで横取りした。そんな彼女が帝国までわざわざやってくるなんて、一体何の用だろう。
 この数ヶ月、セレスティア王国のルクセンベルク公爵家は破談と失脚が相次ぎ、没落の道を辿っていると聞いていた。ビアンカ自身も、殿下との縁組が破談になったあと、行き場を失っていると噂されていたが……。

「追い返してください。今さら会うことなんてないわ」
 即座にそう思ったものの、侍女は「それが……」と申し訳なさそうに身を縮める。

「ビアンカ様も、どうも身なりが随分やつれておられ、門番が“放り出すのはさすがに酷だ”と判断しまして……。できればガートルード様かエリシア様のご指示を仰ぎたいと……」
「やつれている……?」

 わたしは一瞬言葉を失う。あの自信家の妹が、わざわざ帝国まで来るだけでも驚きなのに、やつれているという。
 ――どうしよう。どう対応するのが正解なのだろう。

 答えを出せずにいると、そこへクラウスが通りかかった。わたしの動揺した様子を見て、すぐに状況を察したのだろう。
「……ビアンカ、というのはお前の妹だな。門の前にいるのか?」
「はい……どうやら、そうらしいです。わたしは会いたくありませんし、追い返してもらって構わないと思っているんですが……」

 クラウスは一瞬思案げに目を伏せ、それから静かに頷く。
「そうか。……お前が会いたくないのなら、それでいい。だが、一度くらい会って本音をぶつけてやるのも手だと思うが……どうする?」

 彼の言葉に、わたしは胸が詰まる思いだった。正直、ビアンカが何を言ってきたところで「いまさら何だ」としか思えない。
 けれど、もうすぐ挙式だ。こんな曖昧な気持ちを抱えたまま迎えるのも、後味が悪いかもしれない。わたしはほんの少し迷った末、意を決して深く息を吐いた。

「……わかりました。どうせなら会ってしまおうと思います。もう未練なんてないけれど……“最後にきっぱりと縁を断つ”くらいはするべきかもしれません」
「いいだろう。もし気が変われば、すぐに追い返しても構わん」

 わたしの背を支えるように手を添え、クラウスは侍女に命じる。「ビアンカを玄関の応接間まで通せ」と。
 そのあとわたしは、胸の奥に広がる重苦しい予感を抱えながら、玄関近くの応接室へ足を運んだ。


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3.妹ビアンカの悲痛な懇願――実家の行き詰まり

 応接室に入ると、そこには見慣れたはずの妹の姿があった。
 かつては豊かな金色の髪をきらびやかに結い上げ、高価なドレスを纏い、誰よりも優雅に微笑んでいた少女。
 ――だが今のビアンカは、髪がぼさぼさに乱れ、顔色も悪く、痩せ細った姿で椅子に座っている。皺の寄った平凡な布地の服を着ているその姿は、もはや「かつての妹」だと言われなければわからないほどだ。

「……ビアンカ、本当に……あなたなの?」
「エリシア……。久しぶりね」

 視線が合った瞬間、ビアンカはすがるように手を伸ばしかけたが、わたしが一歩引くのを見て、その手を途中で止める。彼女の瞳はうっすら涙が浮かんでいるように見えた。

「一体、どうしたの。どうしてここまで……」
「……“どうして”なんて、言わないでよ。わたしだって……こんなはずじゃなかったのよ……」

 自嘲気味な笑みを浮かべ、ビアンカは力なく首を振る。
 その様子に、かつての傲慢な妹の面影は微塵も感じられない。むしろ、追い詰められた小動物のような痛々しさを覚える。

「……父様も、あれから何をしても上手くいかなくて……公爵家は領地を削られ、王宮から見放され、屋敷の使用人もほとんどいなくなった。母様が生きていた頃の面影なんか、もう微塵もないわ……」

 ビアンカの口から絞り出される言葉は、わたしがすでに噂で聞いていたこととほぼ同じ。破談を境に、ルクセンベルク公爵家は急速に衰退した。
 わたしを道具扱いしていたあの父が、今や誰からも助けを得られず、沈んでいく――自業自得だ。だけど、ビアンカもまた、その余波をまともに被っているようだ。

「だから、わたし……帝国へ来るしかなかった。セレスティアにいたら、わたしはもう生きていけないわ。第二王子殿下はわたしを完全に嫌っているし、王宮での居場所もない。結婚しようにも名門貴族は相手にしてくれない。残っているのは借金と……」
「そう……」

 言葉に詰まる。実際、父やビアンカがわたしにしてきた仕打ちを思えば、同情する余地はない。なのに、実際にやつれきった妹を見てしまうと、わたしの心は複雑な感情に揺れる。
 沈黙が落ちる中、ビアンカが弱々しい声音で続けた。

「エリシア……あなたは“帝国で幸せに暮らしている”って聞いたわ。クラウス・フォン・グラナート将軍と婚約して、今度結婚式を挙げるって……本当なのね」
「……そうよ。もうすぐ式を挙げるわ」

 それだけ告げると、ビアンカは視線を落とし、わずかに肩を震わせた。
 その震えが怒りなのか、悔しさなのか、あるいは悲しみなのか――わたしには判断がつかない。でも、次の瞬間に飛び出した言葉を聞いて、わたしは嫌な予感を覚えた。

「なら……お願い、エリシア。わたしたちを助けて。せめてわたしだけでも……この帝国に置いてくれないかしら……」
「……は?」

 一瞬、彼女の言葉の意味を理解できなかった。わたしが困惑していると、ビアンカは焦るように語り続ける。

「もうあの屋敷には帰りたくないの……父様はわたしを無理やりどこかの下衆な貴族に嫁がせようとしている。……わたしは、そんなの絶対に嫌よ。だからあなたの力で、わたしを帝国の貴族にでも嫁がせて……! あなたはクラウス将軍と親しいんでしょう? どんな相手でもいいから、セレスティアよりはましなはずなの……」

 いまのビアンカは、かつての高慢さを微塵も感じさせない。必死の形相で“自分を救ってほしい”とすがりついてくるだけ。
 しかし、それを聞いたわたしの胸には、怒りにも似た冷えた感情がこみ上げてくる。どんなに困窮していようと、妹がここまで無神経な頼みをするとは……。

「……冗談でしょう? わたしに頼むなんて。あなたがどれだけわたしを踏みにじってきたのか、忘れたの?」
「あれは……わたしも悪かったと思ってる。でも今はそんなこと言ってる場合じゃないの。あなたが帝国でいい思いをしてるなら、ほんの少しだけでいいからわたしに施してよ……!」

 ビアンカが泣きそうな顔で訴えてくる。昔なら、それでも妹だからと何とか手を貸したかもしれない。だが、いまのわたしはもう、あの頃のわたしではない。

「勝手なことを……。わたしが帝国で“いい思い”をしてるんじゃない。クラウス様がわたしを大切にしてくれるから、こうして暮らせているの。あなたが入り込む隙なんてないわ」
「でも……お金だってあるでしょ? 高位貴族の将軍閣下なら、妹のひとりくらい庇護してくれないかしら。あなたもいずれは帝国の公爵夫人になるんだもの。部屋と衣食くらいどうにか――」

 ここまで言われて、わたしは完全に呆れ果てる。
 この期に及んで、まだわたしを利用しようとしているのだ。セレスティアでの立場を失い、今度は帝国に寄生しようという魂胆か。よくもまあ、のこのこと顔を出したものだ……。

「……悪いけど、無理よ。わたしができるのは、あなたをすぐにでも追い出すことだけ。ましてや、クラウス様に頼んで“どこかの貴族に嫁がせる”? 冗談じゃない」
「そんな……!」

 ビアンカの瞳から、涙がぽろりとこぼれ落ちる。まるで被害者のような顔をしているが、わたしにとっては今さら情に訴えられても通じるはずがない。
 ここでビアンカが取り乱したのか、すがるようにわたしのドレスの裾を掴んできた。

「エリシア、お願いよ……そんな冷たいこと言わないで。わたしだって……あなたに酷いことしたのは認める。ビアンカが一番、父様に愛されてたからって嫉妬してるんでしょう? でも、こんな落ちぶれたわたしを見て、少しは溜飲が下がったんじゃない?」

 言われなくても、正直“ざまあ”とは思った。だが、それとこれとは別の話だ。わたしはビアンカを冷ややかに見下ろし、はっきりと口を開く。

「……あなたも父も、わたしを王国から追い出したのよ。セレスティアで何が起きても、もうわたしには関係ない。あなたはあなたで、勝手に生きればいい。ただ――わたしを巻き込まないで」
「そんな……酷い……!」

 妹の手を振りほどき、わたしは音を立てて椅子から立ち上がる。ぎりぎりと歯を食いしばるビアンカが哀れに見えるが、もう迷うことはない。
 そこへ、ドアの外から足音が近づいてきた。クラウスが入ってきたのだ。

「エリシア、話は終わったか? もう時間がないが……。――そちらがビアンカか。なるほど、お前がかつての妹か」

 彼の金色の瞳がビアンカをひと睨みすると、妹はびくりと震える。見慣れない帝国の軍服、威圧的な存在感。噂でしか知らない“冷徹将軍”が目の前に立っているのだから、恐ろしくて当然だろう。

「お前がどれほどエリシアを苦しめたか、話は聞いている。エリシアが嫌がるなら、このまま衛兵に放り出させるが、文句はないな?」
「く、クラウス様……そんな、いきなり……」

 ビアンカの顔が青ざめていく。わたしはクラウスの側へ近づき、小さく頭を振った。

「もういいわ、クラウス様。あとは門番に任せて帰ってもらえばいい。……ビアンカ。わたしに頼みごとがあるなら、もう二度と来ないでほしい。今度現れたら、本当に追放しますからね」
「エリシア……」

 妹が最後に何か言おうとする前に、クラウスが衛兵を呼び、ビアンカを外へ連行させるよう指示を与える。
 こうして、わたしの妹との再会は最悪の形で終わった。彼女が二度と現れないとも限らないが、少なくとも帝国の中でわたしを害する力はない。

「……これでいいのか?」
 クラウスが厳しい眼差しをこちらに向けてくるが、わたしは迷わずに頷く。
「はい。……わたしは、何もしたくない。助けたいなんて思わない。もう……終わりにしたいんです」

 父に続いて、妹も没落の道にいる。ビアンカはもしかすると、どこかでやり直すチャンスがあるかもしれないが、それはもうわたしの知ったことではない。
 わたしを道具扱いしてきた家族がこうして苦境に陥ったとしても、わたしは心を痛める必要などない。――そう、きっぱりとわかったのだ。


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4.婚礼の儀――二人を祝福する帝国の夜

 ビアンカが屋敷を後にしてから数日後。
 わたしたちの結婚式が、ついに帝国の宮殿で執り行われることになった。
 帝国の式典は、伝統的な神官の儀式と貴族社会の祝宴が組み合わさった壮麗なもの。クラウスは軍人でありながら皇帝陛下に深く信頼されているため、今回の婚礼も宮殿内で行われる特別な許可が下りたのだ。
 セレスティア王国とは比べものにならないほど華やかな婚礼。それが自分の人生に訪れるなんて、今でも信じられない気持ちでいる。

神殿での誓い

 まずは宮殿の奥にある“神殿”と呼ばれる大理石造りの聖堂で、神官による結婚の誓約が行われる。
 わたしは純白のドレスに身を包み、クラウスは帝国軍の第一礼装を身にまとい、神官の前に並んだ。薄暗い聖堂には厳かな空気が漂い、ステンドグラスから差し込む朝日が神秘的に床を彩っている。

「クラウス・フォン・グラナート公爵。そなたは、このエリシア・フォン・ルクセンベルクを終生の伴侶として迎え、愛と忠誠を誓うか」
「誓う」

 低く、よく通る声。迷いなく放たれるその言葉に、わたしの胸が熱くなる。
 続いて神官がこちらに向き直る。

「エリシア・フォン・ルクセンベルク。そなたは、クラウス・フォン・グラナート公爵を終生の伴侶として敬い、共に歩むことを誓うか」
「……はい、誓います」

 わたしが答えた瞬間、神官は聖なる杖を掲げ、神に祈る古代の言葉を唱え始める。ステンドグラスを通る光がゆっくりとわたしたちを照らし、厳粛な音楽が小さく響く。
 その一連の儀式が終わると、クラウスはわたしの手を取り、ゆっくりと指輪をはめてくれた。とても繊細な銀細工の指輪。わたしは何度もサイズを合わせたはずなのに、今ここに嵌められると不思議な感覚で涙が出そうになる。

「……ありがとう、クラウス様」
「いや、こちらこそ。――お前を、ずっと大切にする」

 その穏やかな声に、わたしは唇を噛みしめて感情を抑える。あの冷徹将軍と噂された人が、こんなにもわたしを慈しんでくれる――胸がいっぱいになる。

披露の宴へ

 神殿での儀式を終えたあとは、皇帝陛下をはじめとする貴族たちが参列する大広間へ移動し、“披露の宴”が始まる。
 王国でいう結婚披露宴にあたるものだが、帝国のスタイルはさらに盛大で、軍の功績を讃える演出や、皇帝陛下からの祝辞、貴族同士の贈り物交換など多岐にわたる。
 豪奢なシャンデリアが天井から照らし出す中、大勢の人がテーブルを囲んで歓談している。わたしは少し緊張しながらも、クラウスの隣に立つ。彼がいるだけで、気持ちが落ち着いた。

「本日は、おめでとうございます、将軍閣下。――エリシア様、どうかお幸せに」
「ありがとうございます。これからも、クラウス様と共に帝国に尽くしていきますので、よろしくお願いいたします」

 いろいろな貴族と挨拶を交わすうち、わたしは徐々にリラックスできるようになってきた。みな、祝福の言葉をかけてくれる。中には「あの冷徹将軍がこんなに穏やかな表情を……」と驚きの声を漏らす者もいたが、それもまた微笑ましい。
 祝宴の途中、皇帝陛下が高い壇の上から祝辞を述べてくださる。

「……若き将軍、クラウス。そなたの功績は帝国にとって揺るぎない宝である。だからこそ、そなたの婚礼は我が国の慶事でもある。――エリシア・フォン・ルクセンベルク殿。遠方より嫁ぎ来たそなたが、今こうして帝国の一員として馴染んでいることを、余はとても喜ばしく思う」

 皇帝陛下はそう言って、わたしの名を正式に呼び、拍手を送ってくれる。わたしも深くお辞儀をして応えた。
 わたしの胸は、もう感動と幸せでいっぱいだ。かつてのわたしは、王宮で立場をなくし、妹に婚約を奪われ、誰にも祝福されずに生きていた。
 ――それが今、帝国の皇帝陛下をはじめ、こんなに多くの人から祝福されている。ああ、本当に夢みたい……。


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5.最後の“ざまあ”――父と妹の来訪、そして完全なる決別

 その祝宴の最中、事件が起こったのは皮肉と言うべきかもしれない。
 なんと、セレスティア王国のルクセンベルク公爵――つまりわたしの父と、その取り巻きらしき数名が、帝国の使節を騙る形で宮殿に入り込もうとしたのだ。
 すでに王国からの正式な祝いの使者は別途届いていたが、父は「自分こそが本当の使者だ」と主張し、何としても婚礼に出席しようと画策していたらしい。

 もちろん、宮殿の警備兵は厳重で、身分確認も徹底している。父たちの姿は「不審者」として取り押さえられかけたが、「実の父なら門前で追い返すのはどうなのか?」と兵たちが判断に迷い、クラウスの元へ報告が入ったのだ。

「……どういうことだ。エリシアのお父上は、招待していないはずだが」
「はい、将軍閣下。門番によれば、ご本人が“新婦の父として式に参列する権利がある”と主張しているとか……」

 わたしはクラウスの横でその話を聞き、呆れて開いた口が塞がらない。
 今さら何を言い出すのか。わたしを道具扱いして追い出したくせに、婚礼の日にちゃっかり参列して、何を得ようというのだろう。

「行こう、エリシア。あまり式を中断させるわけにもいかん。俺が門番に出向いて追い払ってくる」
「わたしもついていきます。……直接、父の顔を見て“お別れ”を言います」

 わたしたちは急ぎ、宮殿の入り口へ。そこでは父と数名の取り巻きらしき男が、警備兵と口論を続けていた。さらに、まさかのことにビアンカの姿も見える。どうやら、最近わたしが門前で追い返した妹を連れてきたのか。

「お前たちいい加減にしろ! わたしはルクセンベルク公爵だぞ。娘の結婚式に出席するのは当然の権利ではないか!」
「恐れ入りますが、公爵閣下。すでに招待状にあなたの名はありません。皇帝陛下の許可も下りておりませんし、これ以上のご無礼は看過できません」

 警備兵の冷徹な説明にも、父は怯まず怒鳴り声をあげる。わたしが現れたことに気づき、さらに声を張り上げるのだ。

「エリシア! お前の結婚式なら、実の父が参列して何が悪い! この兵どもを黙らせろ! すぐに、わたしを会場へ通せ!」
「……本当に、何しに来たんですか、父様。結婚式には関係ないはずでしょう」

 わたしが低い声で問いかけると、父は顔を真っ赤にして腕を振り回す。

「何を言うか! わたしはお前を育ててきたんだぞ。お前が帝国に嫁いだおかげで、わたしがどれだけ苦労したと思っている! だいたい、わたしに何の挨拶もなく勝手に結婚式を挙げるなど、親を侮辱するにも程がある!」

 まるで子供じみた言い分だが、父の取り巻きも「そうだそうだ」と合いの手を入れているらしい。おそらく父としては「実の父が来たのだから、参列は当然」とでも考えているのだろう。
 クラウスはその場の空気を一瞬で凍らせるような厳しい視線を向ける。

「お前が“父親”を自称するなら、どうしてエリシアを冷遇し、追い払った? この婚礼に出席したいなら、最初から和解を申し入れていればまだ可能性はあったかもしれん。だが、招待状もないのに強行突破する行為が赦されると思うな」

 その声には、戦場を統べてきた恐るべき威圧感がこもっている。取り巻きの男たちがみるみる後ずさりし、父ですら顔面を引きつらせる。
 ビアンカはクラウスを怖がっているのか、後ろに隠れるように俯いて何も言えずにいる。わたしが彼女に近づくと、肩を震わせて目を伏せた。

「……ビアンカ、あなたも一緒に来たの? 前にわたしのところへ来たとき、『無理だ』ってはっきり言ったはずよ」
「……でも、父様がどうしても行くと言うから……。わたしだって、こんなことしたくない……」

 うんざりとため息がこぼれる。
 わたしはもう一度、父のほうへ向き直った。無様に騒ぎ立てる姿が滑稽だ。昔のわたしなら、せめて父に認めてほしい、好かれたい、そんな思いを抱いていたかもしれない。
 けれど今は、まったくそういう感情が湧かない。

「父様、あなたはわたしの結婚式に出席する資格なんてない。わたしを散々『無能な娘』だと罵って、今でもわたしを“利用する”ことしか考えていないのが見え透いているわ」
「な、何を……」

 父が言い返そうとするが、わたしはそれを制するように手を挙げる。

「あなたには恩なんてないの。むしろ、虐げられていた。もう、あなたはわたしにとって家族じゃないわ。――だから、ここから立ち去ってください。今度無理をして入り込もうとすれば、クラウス様が遠慮なく処罰するでしょう」

 最後はまるで他人事のように言い放つ。わたしの中に、悔しさや悲しみはもう感じられない。あるのは冷たい憐憫だけ。
 父は顔を真っ赤にして言葉を詰まらせるが、周囲の兵たちが「これ以上は威嚇行為とみなします」と警告を出すと、さすがにそれ以上逆らうことはできない。

「わ、わかった……! そんなに言うなら、もういい……! こんな結婚、どうせすぐ破綻するに決まっている……わたしを軽んじた報いを思い知れ……!」

 捨て台詞を吐いて、父と取り巻きは宮殿から追い立てられるようにして去っていく。ビアンカも項垂れながら、父に従うように消えていった。
 その光景を見届けたわたしは、溜息と共に視線を下ろす。――なんと空しい騒ぎだったのか。

「エリシア、大丈夫か?」
 クラウスが心配そうに肩に手を置く。わたしは微笑んで首を横に振った。

「ええ、大丈夫。むしろ、すっきりしました。……本当に、あの人たちと縁が切れたんだって、はっきり思えるから」

 父の言葉に、少し悲しさがなかったと言えば嘘になる。だが、悲しみをはるかに上回る解放感がある。わたしはもう、あの家の冷たい檻に縛られることはない。
 クラウスは安心したようにうなずき、わたしの手をそっと握る。

「そうか。ならいい。……さあ、戻ろう。お前の祝宴の最中だ。お前を待っている人々が大勢いる」
「はい……。わたし、ちゃんと笑顔でみんなのところに行きます」

 わたしたちは再び手を取り合い、宴の会場へ戻る。父やビアンカがどんな未来を辿ろうとも、わたしには関係がない。わたしは――ここで新しい人生を歩むのだから。


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6.新婚初夜――夫の溺愛は止まらない

 父の乱入騒ぎはあったものの、祝宴は滞りなく続き、皇帝陛下や出席者たちの手厚い祝福を受けてわたしとクラウスの結婚式は大成功のうちに幕を閉じた。
 そして、その夜。わたしは正式にクラウスの妻として、公爵家の新婚生活をスタートさせることになる。
 帝国の習慣では、結婚式当日、夫婦は豪華な寝室で初夜を迎えることになっている。もともとクラウスの私室があったが、今回の婚姻を機に改装され、より広く快適な部屋が用意されたそうだ。

「エリシア、よく頑張ったな。……疲れていないか?」
「少しだけ。でも、不思議と元気です。なんだか、まだ興奮が冷めていないみたいで……」

 わたしはゆったりとした寝間着に着替え、暖炉の火が揺れる部屋の中央で、気恥ずかしく立ち尽くしている。クラウスも軍服を脱ぎ、シンプルなシャツとズボン姿だが、やはり体格が良いせいか圧倒的な存在感を放っている。
 お互い、顔を合わせればそれだけで頬が火照ってしまう。今までも何度か同じ部屋で過ごすことはあったが、やはり“夫婦”になって初めて迎える夜となると雰囲気が違う。

「……なにか、飲み物でも持ってこさせようか?」
「いえ、大丈夫です。……クラウス様と、少し話したいだけなんです」

 わたしの言葉に、彼は静かに微笑み、わたしをソファへ誘導する。
 暖炉の前に腰を下ろし、炎の揺らめきを眺めながら、わたしたちは静かな時間を共有した。外は夜の闇が深く、周囲からの喧騒が消えているせいか、わずかな物音さえ鮮明に聞こえる。
 ――こんなにも落ち着ける空間を、わたしは生まれて初めて体験しているのかもしれない。

「エリシア。……お前は、もう後悔しないだろうか。父や妹を見捨てるような形になったが」
「……後悔なんて、ないです。わたし、ずっとあの人たちに酷い仕打ちを受けてきた。いま幸せになることを、誰に咎められる筋合いもありません」
「そうだな。それでいい」

 クラウスがわたしの手をそっと握る。彼の体温は温かく、心を安らげてくれる。
 昔は、ビアンカがうらやましかった。美しく、才能があり、父に愛され、王宮からも注目を集めていた。だけどそんな羨望の気持ちは、帝国で彼と出会ったことで跡形もなく消え去った。
 今、わたしはこの人に愛され、こんなにも深い幸福を得ている。誰に何を言われたって、もう失うことはないだろう。

「……思えば、わたしがここまで来られたのは、あなたのおかげです。わたしを見捨てず、ずっと守ってくれて、ほんとうにありがとうございました」
「感謝されるほどのことはしていない。……お前と出会ってから、俺は初めて“誰かを本気で愛する”という気持ちを知ったんだ。むしろ、感謝しているのは俺のほうだ」

 彼の低い声が、わたしの胸の奥をくすぐる。ドキドキと鼓動が速まって、まともに目を合わせられない。
 やがて、クラウスがわたしの頬に手を添え、そっと顔を近づけてきた。――そのまま、わたしの唇に軽く触れる。

「……ん……」

 わたしは驚きながらも、拒む理由などまったくない。彼に守られ、愛されてきた喜びが、心の底から溢れ出す。
 短い口づけのあと、クラウスが微笑んでわたしの髪を撫でる。

「お前がこれから何を望もうと、俺は叶えてやる。……欲張りになっていいんだぞ。お前は道具でも飾りでもない。俺の――妻なんだから」
「はい……。わたし、もっともっとあなたに甘えて、あなたを支えられるようになります」

 わたしがそう答えると、クラウスは再び唇を重ねてくる。さらに深い、甘やかなキス。初めて会った頃には想像もしなかった、甘くとろけるような感覚がわたしの身体を包んでいく。
 この夜は、わたしたちふたりが夫婦として結ばれた記念すべき夜だ。もう、過去の後悔や恨みは必要ない。あるのはただ、未来への希望と、この人への愛しさだけ――。


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7.その後――二人の幸せな未来へ

 こうして、わたしたちの婚礼は帝国中の祝福を受けて成功裡に終わった。
 セレスティア王国の実家でわたしを冷遇していた父と妹は、挙式に乱入してきたものの追い返され、今頃は王国でさらなる苦境に陥っていることだろう。
 “ざまあ”とまでは口にしないが、心の底では「仕方ないよね」と思っている。自業自得だ。いまさら償えないほどの痛みをわたしに与え、そのツケを彼ら自身が払う番なのだから。
 わたしはもう、絶対に手を差し伸べることはない。クラウスも「必要がない」と言ってくれている。故郷での暮らしはすべて過去のもの――わたしがいま生きているのは、グラナート帝国での新しい生活なのだ。

新生活の始まり

 公爵家の当主となったクラウスは、軍人としてだけでなく、領地経営や政治的判断にも忙しい日々を送っている。わたしはそのそばで、学べることを学び、必要があれば助言や手伝いをする。
 これまで「何の役にも立たない」と思い込まされていたわたしだけれど、いまや彼の仕事を補佐し、場合によっては屋敷の経営や社交行事の調整を任されることもある。
 最初は戸惑いも多かったが、ガートルードや信頼できる侍女たち、そして何よりクラウス自身がわたしを支えてくれているため、思ったよりスムーズに進んでいる。

「エリシア様、領地から届いた報告書を整理しておきました。閣下がお戻りになったら目を通されるでしょう」
「ありがとう。わたしも後ほど確認して、軍備の予算との兼ね合いを考えてみるわ」

 そうやって日常の業務をこなしつつ、わたしは時折ふと、遠いセレスティア王国を思い出す。もしかすると、あの国もいつか王族の代替わりや新たな政策で状況が変わるかもしれない。
 そのときルクセンベルク公爵家がどうなっているかは、もうわからない。けれど、少なくともあの家がわたしにとっての未来になることは絶対にない。

甘やかな夫婦生活

 夫婦として暮らし始めてから、クラウスの甘やかしはますますエスカレートした節がある。
 朝はわたしと一緒に起きたがるし、夜は執務がどれだけ遅くなってもわたしを寝かしつけようとする。
 ちょっとしたことでわたしが失敗すると「怪我はないか?」と過剰に気遣い、まるで幼子に接するかのようにわたしを抱きしめてくる。

「くすぐったいです、クラウス様……」
「いいだろう。お前は俺の妻なんだから、好きに甘やかす権利がある」
「そんな権利、聞いたことありません……!」

 わたしが照れながら拒否しようとすると、彼は意地悪そうに笑うだけ。結局、わたしも嫌じゃないから押し切られてしまう。
 ビアンカが見たら「信じられない」と嘆くだろう。かつては“王子の寵愛”を得ていた彼女。だけど今は、わたしのほうがはるかに深い愛情を得ている。
 別に彼女を見返そうとは思わないけれど、それでもやっぱり「これがわたしの復讐かもしれない」と思う瞬間もある。こうして“幸せになる”ことが、最大のざまあなのだと。


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8.終わりに――わたしが歩む道

 わたしはあの冷え切ったセレスティア王国の屋敷を出て、帝国で新たな生活を得た。
 父と妹は思うように権力を振るえなくなり、没落の一途を辿っている。そう遠くない将来、公爵の地位も取り上げられるかもしれない。
 もはやわたしには何の関係もない。それどころか、クラウスとの愛情に溺れるように生きている毎日で、過去のことを思い出す暇すらないほどだ。

「エリシア、次の遠征には俺が行くことになるかもしれない。そのときは、しばらくお前と離れるが……問題ないか?」
「大丈夫です。待っています。わたし、あなたの帰りを信じて、ここでしっかり留守を守ります」
「……そうか。なら、安心して戦場に立てる。ありがとう」

 彼の瞳には、王国で言われていた“冷徹”な雰囲気は微塵も感じられない。ただただわたしを想う、あたたかな光がある。
 わたしは嬉しそうに微笑み返し、この人こそがわたしの居場所だと実感する。もう、あの寂れた実家には戻れないし、戻りたくもない。
 誰かの道具でも、飾りでも、犠牲でもない。わたしはエリシア・フォン・グラナート――クラウスの正妻として、帝国で誇りをもって生きていくのだから。

> 「わたしが幸せになることこそが、一番のざまあ……かもしれないわね」



 そう、小さく呟いて、わたしは静かに笑った。
 すべての過去から解放され、愛する夫と共に歩む未来が始まった。これがわたしの“復讐”であり、“本当の幸せ”でもある。

 ――政略結婚から始まったはずの縁は、今や甘く満ち足りた絆へと変わり、わたしたちは誰にも邪魔されない人生を歩むだろう。
 たとえ王国がどう変わろうと、実家がどう崩れ去ろうと、もはやわたしは振り返らない。わたしの幸せな物語は、これからも帝国の空の下で続いていく――。

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