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第1章2節 無職転落と途方に暮れる日々
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第1章2節 無職転落と途方に暮れる日々
陽が落ちきるころ、街の門をくぐると同時に、ユウマの腹が鳴った。
空っぽの財布、空っぽの荷袋。勇者パーティーから追放された時、装備も食料も置いてきた。今の手持ちは、たまたまポケットに入っていた銀貨二枚だけ。
街は活気づいていた。露店の香ばしい焼き串、鍛冶屋の鉄槌の音、子どもたちの笑い声。
そのすべてが、自分の居場所ではないように思えた。
――俺は、もう“仲間”じゃない。
肩の荷がなくなった分、体が軽いはずなのに、歩くたびに胸の奥が沈む。
宿屋の看板が目に入った。
「一泊銀貨三枚」
無理だった。立ち止まり、ため息を吐く。
(野宿か……また、あの森に戻るか)
だが、今夜は冷え込みが強い。防寒具も寝袋も置いてきた。
身を縮めて通りを歩くと、酒場の灯りが漏れていた。
外の掲示板に、依頼書が貼られている。
“魔物の牙10本納品”“配達手伝い”“汚水処理所の清掃員”――
どれも、かつて自分が勇者パーティーで管理していた雑務に似ていた。
胸の奥で、なにかが刺さるように痛む。
「……俺、結局、雑用しかできないんだな」
ぽつりと呟いた声を、風が飲み込んだ。
---
夜が更ける。
結局、ユウマは街外れの古い水車小屋の陰で体を丸めていた。
石の地面は冷たく、草の匂いが鼻をつく。
背を壁につけ、膝を抱える。
かつての焚き火の温もりを思い出そうとしても、思い出は煙のように掴めない。
(みんな、もう寝てる頃か。……アリシアが文句言って、グラントが笑って、レオンが――)
思い浮かべた顔を振り払う。
「……やめよう。もう、俺には関係ない」
声に出しても、胸の奥の痛みは消えなかった。
ふと、ポケットの中の羊皮紙を取り出した。
自分で作った、勇者パーティーの活動記録表。
討伐数、物資の消費量、ルート計画。
丁寧に書かれた数字の端が、指の跡で擦れていた。
(あの記録が、なくてもやっていけると思ってるんだろうな……)
風が吹き、紙がふわりと舞い上がった。
慌てて掴もうとしたが、指先から滑り、夜空に吸い込まれていく。
月明かりの下、紙片は銀の羽のようにひらめき、闇に消えた。
ユウマは膝を抱えたまま、笑った。
苦く、乾いた笑いだった。
---
翌朝。
街の喧騒が彼を起こした。
屋台が開き、商人の呼び声が飛び交う。
腹が減って、立ち上がろうとした時、背後から声がした。
「おい、兄ちゃん。そんなとこで寝てると、兵に通報されるぞ」
見れば、背の低い中年男が立っていた。腰に皮袋を提げ、労働者風の格好。
「……あ、すみません。すぐどきます」
「いや、そういうわけじゃねえ。見たとこ、職なしみてぇだな。働き口、探してんのか?」
ユウマはうなずいた。
男は顎をしゃくる。
「なら、ギルドの掲示板より先に、下層の“求人所”に行きな。清掃、荷運び、厨房、何でもある」
感謝を告げて歩き出す。
だが、求人所に着いても、現実は厳しかった。
「冒険者? 元パーティー? ああ、勇者の荷物持ち? はは、そりゃすげぇ経歴だ。……で、スキルは?」
「……スキル?」
「何もないのか?」
「いえ……鑑定はできませんが、“支援系”のスキルがあると聞いたことが……」
「聞いたことが、じゃダメだ。証明できなきゃ価値なしだ」
担当官は鼻で笑い、他の応募者を呼んだ。
ユウマは何も言えず、その場を後にした。
---
昼過ぎ、ギルド前の広場に立つと、勇者パーティーの話題が耳に入った。
「昨日もレオン様のパーティーが魔獣討伐に成功したらしいぜ!」
「さすが勇者様だ。あんな雑用係を追い出して正解だったな」
「荷物持ちなんて誰でもできるんだよ」
言葉の一つ一つが胸に刺さる。
逃げるように路地へ入ると、手の中の銀貨が冷たく光った。
(……俺、何してるんだろうな)
路地裏の小さな食堂で、銀貨一枚のスープを頼んだ。
味は薄いが、体に染みた。
店の老婆が皿を片付けながら、ふと尋ねた。
「若いの、旅人かい?」
「……そんなところです」
「なら、北の街道はやめときな。あそこ、最近魔物が増えてるんだと」
「ありがとうございます」
老婆はふと、ユウマの背の傷だらけの手を見て、眉をひそめた。
「働き者の手だね。けど、無理しなさんなよ」
その言葉が、胸に温かく残った。
---
夕暮れ。
ユウマは丘の上に立ち、沈む太陽を見つめていた。
空が赤く燃え、雲が金に縁取られていく。
一日の終わりを告げる鐘の音が、遠くで響いた。
「……今日も、何もできなかったな」
だが、不思議と昨日よりも心は軽かった。
誰にも命令されず、誰も傷つけず、誰にも見下されない。
孤独の中に、ほんの少しの自由があった。
風が吹き、遠くの鐘がまた鳴る。
ユウマは小さく笑った。
「……明日は、働き口を見つけよう」
空は夜の色に変わりつつあったが、その瞳の奥には、かすかな光が戻り始めていた。
それが、彼の“第二の人生”の最初の一歩になるとは、まだ誰も知らない。
陽が落ちきるころ、街の門をくぐると同時に、ユウマの腹が鳴った。
空っぽの財布、空っぽの荷袋。勇者パーティーから追放された時、装備も食料も置いてきた。今の手持ちは、たまたまポケットに入っていた銀貨二枚だけ。
街は活気づいていた。露店の香ばしい焼き串、鍛冶屋の鉄槌の音、子どもたちの笑い声。
そのすべてが、自分の居場所ではないように思えた。
――俺は、もう“仲間”じゃない。
肩の荷がなくなった分、体が軽いはずなのに、歩くたびに胸の奥が沈む。
宿屋の看板が目に入った。
「一泊銀貨三枚」
無理だった。立ち止まり、ため息を吐く。
(野宿か……また、あの森に戻るか)
だが、今夜は冷え込みが強い。防寒具も寝袋も置いてきた。
身を縮めて通りを歩くと、酒場の灯りが漏れていた。
外の掲示板に、依頼書が貼られている。
“魔物の牙10本納品”“配達手伝い”“汚水処理所の清掃員”――
どれも、かつて自分が勇者パーティーで管理していた雑務に似ていた。
胸の奥で、なにかが刺さるように痛む。
「……俺、結局、雑用しかできないんだな」
ぽつりと呟いた声を、風が飲み込んだ。
---
夜が更ける。
結局、ユウマは街外れの古い水車小屋の陰で体を丸めていた。
石の地面は冷たく、草の匂いが鼻をつく。
背を壁につけ、膝を抱える。
かつての焚き火の温もりを思い出そうとしても、思い出は煙のように掴めない。
(みんな、もう寝てる頃か。……アリシアが文句言って、グラントが笑って、レオンが――)
思い浮かべた顔を振り払う。
「……やめよう。もう、俺には関係ない」
声に出しても、胸の奥の痛みは消えなかった。
ふと、ポケットの中の羊皮紙を取り出した。
自分で作った、勇者パーティーの活動記録表。
討伐数、物資の消費量、ルート計画。
丁寧に書かれた数字の端が、指の跡で擦れていた。
(あの記録が、なくてもやっていけると思ってるんだろうな……)
風が吹き、紙がふわりと舞い上がった。
慌てて掴もうとしたが、指先から滑り、夜空に吸い込まれていく。
月明かりの下、紙片は銀の羽のようにひらめき、闇に消えた。
ユウマは膝を抱えたまま、笑った。
苦く、乾いた笑いだった。
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翌朝。
街の喧騒が彼を起こした。
屋台が開き、商人の呼び声が飛び交う。
腹が減って、立ち上がろうとした時、背後から声がした。
「おい、兄ちゃん。そんなとこで寝てると、兵に通報されるぞ」
見れば、背の低い中年男が立っていた。腰に皮袋を提げ、労働者風の格好。
「……あ、すみません。すぐどきます」
「いや、そういうわけじゃねえ。見たとこ、職なしみてぇだな。働き口、探してんのか?」
ユウマはうなずいた。
男は顎をしゃくる。
「なら、ギルドの掲示板より先に、下層の“求人所”に行きな。清掃、荷運び、厨房、何でもある」
感謝を告げて歩き出す。
だが、求人所に着いても、現実は厳しかった。
「冒険者? 元パーティー? ああ、勇者の荷物持ち? はは、そりゃすげぇ経歴だ。……で、スキルは?」
「……スキル?」
「何もないのか?」
「いえ……鑑定はできませんが、“支援系”のスキルがあると聞いたことが……」
「聞いたことが、じゃダメだ。証明できなきゃ価値なしだ」
担当官は鼻で笑い、他の応募者を呼んだ。
ユウマは何も言えず、その場を後にした。
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昼過ぎ、ギルド前の広場に立つと、勇者パーティーの話題が耳に入った。
「昨日もレオン様のパーティーが魔獣討伐に成功したらしいぜ!」
「さすが勇者様だ。あんな雑用係を追い出して正解だったな」
「荷物持ちなんて誰でもできるんだよ」
言葉の一つ一つが胸に刺さる。
逃げるように路地へ入ると、手の中の銀貨が冷たく光った。
(……俺、何してるんだろうな)
路地裏の小さな食堂で、銀貨一枚のスープを頼んだ。
味は薄いが、体に染みた。
店の老婆が皿を片付けながら、ふと尋ねた。
「若いの、旅人かい?」
「……そんなところです」
「なら、北の街道はやめときな。あそこ、最近魔物が増えてるんだと」
「ありがとうございます」
老婆はふと、ユウマの背の傷だらけの手を見て、眉をひそめた。
「働き者の手だね。けど、無理しなさんなよ」
その言葉が、胸に温かく残った。
---
夕暮れ。
ユウマは丘の上に立ち、沈む太陽を見つめていた。
空が赤く燃え、雲が金に縁取られていく。
一日の終わりを告げる鐘の音が、遠くで響いた。
「……今日も、何もできなかったな」
だが、不思議と昨日よりも心は軽かった。
誰にも命令されず、誰も傷つけず、誰にも見下されない。
孤独の中に、ほんの少しの自由があった。
風が吹き、遠くの鐘がまた鳴る。
ユウマは小さく笑った。
「……明日は、働き口を見つけよう」
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