『勇者パーティーを追放されたが、俺のスキルは“通常の3倍”強かった』

霧島

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第2章2節 アルテミスの初任務 ― ダークウルフ討伐

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第2章2節 アルテミスの初任務 ― ダークウルフ討伐

灰色の雲が流れる早朝。
街を抜けた先の丘陵地帯は、霧に包まれていた。草の葉が濡れ、足元を踏むたびに、しっとりとした音が響く。

「この辺りにダークウルフの群れが出るって話よ」
アリーナが地図を広げながら言った。
「ギルドからの依頼ね。報酬は少ないけど、初任務の肩慣らしにはちょうどいいわ」

ユウマは荷袋を背負い、後ろから頷く。
「了解です。補給品と回復薬は三日分、全部確認済みです」
「頼もしいわね。……ねぇミリア、聞いた? こういう細かい仕事、前のメンバーは誰もやらなかったのよ」
「ほんとだよ~! あたしなんていつも『荷物どこ?』って探してたもん」
エルフィが小声で笑う。
「私はむしろ、道中でユウマさんが黙々と働く姿に安心します。……静かなのに、心強い」
「そ、そんなこと……」ユウマは照れたように頭をかいた。

風が草原を渡り、狼の遠吠えが響く。
その瞬間、アリーナが一歩前へ。
「来るわ。全員、構えて」


---

霧の向こうから、黒い影がいくつも滑り出た。
鋭い牙、赤い瞳。通常の狼よりひとまわり大きい――“ダークウルフ”だ。
十数体、群れをなしてこちらに突進してくる。

「陣形B! ミリアは中央、エルフィは詠唱開始!」
「了解!」
「支援魔法、展開!」

ユウマは両手を胸の前にかざした。
意識の奥で、何かが流れ出すような感覚――
心臓の鼓動が早くなり、仲間たちの存在が明確に感じられた。

(これが……“リンク”……)

身体の奥から、淡い光が脈打ち、仲間たちへと伸びていく。
アリーナの細剣が微かに輝き、ミリアの聖印が淡い金色を帯び、エルフィの魔法陣が瞬時に強化される。

「なっ……動きが軽い……!」アリーナが驚く。
「すごい、魔力の流れが三倍くらい速くなってる!」エルフィの声が弾む。
「ユウマくん、これがパワーブースター!? やばい、腕が勝手に動くくらい調子いい!」ミリアが笑う。

アリーナが飛び込んだ。
霧を切り裂くような一閃。
一体のダークウルフの首が空を舞う。
その動きは、まるで刃が空気を滑るように滑らかだった。

「次ッ!」
彼女が踏み込み、残像を残して二体目を斬り裂く。
ミリアがすかさず詠唱を開始。
「聖なる光よ、仲間を護り給え――《ディバイン・シェル》!」
黄金の光が弾け、全員を包む。

そこへエルフィの声が重なる。
「凍てつけ――《アイス・ランス》!」
三本の氷槍が飛び、残りの敵を貫いた。

まさに、三人の呼吸が一体となっていた。
ユウマの胸の奥で、彼らの魔力が渦を巻くように共鳴しているのが感じられる。

(これが……俺の力なんだ)


---

戦闘はわずか数分で終わった。
霧の中には、倒れたダークウルフの群れ。
アリーナは剣を払って鞘に納め、息をついた。
「完勝ね。……すごい、信じられないくらい体が軽かった」
「うん! いつもの三倍は動けた感じ!」ミリアが笑顔で親指を立てる。
「魔法の精度も上がっていました。詠唱中のブレが全くなかった。ユウマさん……あなた、本当に恐ろしいスキルを持ってますね」

ユウマは戸惑いながらも微笑んだ。
「俺は、何もしてないですよ。みんなが強いからです」
「謙遜しないで。あなたがいたから、強くなれたのよ」アリーナがきっぱりと言った。
「“支える”って、こういうことなのね。あの勇者レオンがいたとしても、きっとあなたの代わりにはなれない」

その名を聞き、ユウマの胸が一瞬だけ締め付けられた。
だが、すぐに深く息を吸って笑った。
「……もう過去のことです。俺には、今の仲間がいますから」

ミリアが目を輝かせた。
「きゃー! 今の言葉、ちょっとカッコよくない!?」
「ミリア、からかわないの」エルフィが苦笑する。

アリーナは柔らかく微笑んで言った。
「さて、素材を回収して帰りましょう。ユウマ、例の“討伐証明”の準備、お願いできる?」
「はい、任せてください」

ユウマは革手袋をはめ、魔法袋を開いた。
倒したダークウルフの牙を一つ一つ丁寧に集め、血を拭き、識別札に紐を通す。
「牙を十本、討伐証明魔石に封入完了。これでギルド報告も問題なしです」
「……完璧ね」
アリーナが思わず感嘆の息を漏らす。
「こういう細かい仕事、誰かがやってくれていたなんて、今まで気づかなかったわ」

ミリアがうなずいた。
「やっぱり、チームって“誰か一人がすごい”より、全員がちゃんと動けるのが一番なんだね」
エルフィも静かに笑う。
「ええ。そして、その全員をつなぐのが、ユウマさん」

その言葉に、ユウマは一瞬だけ言葉を失った。
あの日、「荷物持ち」と呼ばれた自分が、いまは「仲間をつなぐ者」として認められている。
胸の奥が熱くなった。


---

街へ戻る道すがら、三人は笑いが絶えなかった。
「ねぇねぇ、次の依頼どうする?」
「どうせなら、もっと強い魔物がいいわ」
「いきなり飛ばしすぎよ。ユウマの補給が大変になる」
「だいじょうぶです。どんな任務でも、支えますから」

アリーナが少し驚いた顔をした後、微笑んだ。
「そう。……なら、私たちはもう、どこまでも行けるわね」

霧が晴れ、青空が顔を出す。
陽光が四人を照らし、まるで新しい物語の幕開けを祝福するようだった。

その背中を、風が優しく押した。
――最強のチーム「アルテミス」の伝説は、この日から始まった。


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