『勇者パーティーを追放されたが、俺のスキルは“通常の3倍”強かった』

霧島

文字の大きさ
10 / 17

第3章2節 勇者たちの再会と、耳に届く“最悪の噂”

しおりを挟む
第3章2節 勇者たちの再会と、耳に届く“最悪の噂”

灰色の雲が垂れ込める午後。
ギルド本部の喧騒の中、勇者レオンの姿はどこか沈んでいた。

「……報酬、まだ保留か?」
カウンター前で、受付嬢が苦笑しながら答える。
「討伐証明の不備が解消されるまで、お支払いはできません」
「だから何度も言ってるだろ! 俺が倒したって言ってるんだ!」
「規則です」
「くそっ……!」

後ろでルナとカインが顔を見合わせる。
「もう何度目だっけ、こういうの」
「七度目。……最近はギルドの人たちも慣れてきたみたいだな」
ルナはため息をつき、椅子に沈み込む。
「私たち、いつからこんな扱いになったのかしらね」

かつて“王国最強”と讃えられた勇者パーティー。
ギルドの看板依頼を請け負い、名声と富を集めていた日々は、今や遠い昔。
装備は傷だらけ、支給も遅れ、次第に依頼主からの信頼も薄れていった。

「まあ、気にすんな。俺たちはまだ強い」
レオンは虚勢を張るように拳を握る。
「運が悪い日が続いてるだけだ」

その時だった。
ギルドの奥でざわめきが起こった。
冒険者たちが口々に名前を囁く。

「アルテミスが帰ってきたぞ!」
「Sランク昇格試験、合格だって!」
「しかも“支援士ユウマ”がすげぇって話だ!」

レオンたちの動きが止まる。
聞き慣れた名前が、耳の奥を刺した。

「……ユウマ?」
ルナが呟く。
カインも苦々しく顔をしかめた。
「まさか、あのユウマか?」
「同じ名前なんて珍しくないだろ」
レオンは鼻で笑ったが、その声はかすかに震えていた。

「でも“支援士ユウマ”って言ってたぜ。
 噂じゃ、支援した仲間のステータスを三倍に上げるスキル持ちらしい」
近くの冒険者が無邪気に言葉を続ける。
「AランクパーティーをS++まで押し上げたとか! 今じゃギルドの期待の星さ!」

「三倍……?」
ルナが小さく呟いた。
「……聞いたことがある気がする。昔、ユウマが何かそんなことを——」
「やめろ」
レオンの声が低く響いた。
「そんな話、あいつの自慢だろ。どうせ誇張してたんだ」

「でも……」
「黙れ!」

周囲の冒険者たちがレオンの怒鳴り声に一斉に振り向く。
レオンは舌打ちし、拳を握りしめた。
「……くだらねぇ。荷物持ちが何様のつもりだ」

カインが視線を逸らしながら呟く。
「……でも、俺たちが追い出した後、どうしてあいつだけ……」
「運だ。たまたま拾われただけだ!」
「でも、俺たちはたまたま落ちぶれたのか?」
「うるさいって言ってんだろ!!」

怒声が響き、椅子が倒れる音が鳴った。
ギルドの空気が一瞬で冷え込む。
レオンは深呼吸をし、額を押さえた。
「……チッ、悪い。ちょっと外に出る」

扉を乱暴に押し開け、外気に触れる。
冷たい風が頬を打ち、彼の怒りをさらに煽った。

(ふざけやがって……。あの腰抜けが、今さら英雄気取りか)
(どうせ、女どもにチヤホヤされて勘違いしてるだけだ)
(俺が本気を出せば、すぐに——)

しかし、拳を握る手が震えていた。
力の抜けた指先。
それが、“自分が本当に弱くなっている”という事実を雄弁に語っていた。


---

一方その頃。
ギルドの2階ラウンジでは、アルテミスのメンバーたちが昇格祝いの席を囲んでいた。
大きな丸テーブルの上には、香ばしい焼き肉と果実酒。
ミリアとエルフィが早速盛り上がっている。

「わぁー! これSランク祝いの料理!? 豪華~!」
「見てこのお肉、分厚い! あぁ、頑張って良かった!」
アリーナは穏やかに笑いながらグラスを掲げた。
「ユウマ、あなたにも乾杯させて」
「え、俺も?」
「当然でしょ。あなたがいなきゃ、私たちはここまで来られなかった」

ユウマは少し照れくさそうにグラスを持ち上げた。
「……ありがとう。みんなのおかげです」
「真面目すぎ~」ミリアが笑う。
「いいのよ、その真面目さがアルテミスの強みなんだから」
エルフィも頷いた。
「ええ。それに――」
「それに?」
「ユウマくんの“支援フィールド”の心地よさって、本当に癖になるのよ」
「ちょっと、それ褒め方おかしくない?」ミリアが吹き出した。

笑い声が広がり、アリーナも柔らかく笑った。
「ねぇユウマ。あなた、これからどうしたい?」
「……え?」
「Sランクになった今、目標を聞かせてほしいの」

ユウマは少し考えてから答えた。
「みんなを支えるのが俺の役目です。
 このチームが“最強”って呼ばれるまで、全力でサポートします」

その真っ直ぐな言葉に、三人の女性は一瞬、息を呑んだ。
そしてミリアがニヤリと笑う。
「うわ、そういうの言われると惚れそう」
「ミリア、飲みすぎ」エルフィが軽くツッコミを入れる。

笑い合う彼らを、周囲の冒険者たちが憧れの目で見つめていた。
「すげぇ……本物のSランクって、オーラが違うな」
「特にあの男、支援士のくせにまるでリーダーみたいだ」

その言葉を耳にしながら、ユウマは小さく息を吐いた。
(俺なんかが、リーダーみたいなんて……)
だがその瞳は、どこか誇らしげでもあった。


---

夜。
宴が終わり、街を歩くユウマの耳に、ふと遠くの怒鳴り声が届いた。
「てめぇら、何見てんだ!」
「ひっ……!」
その声に聞き覚えがある。
街灯の陰から覗くと、そこには――レオンたち勇者パーティーの姿があった。
彼らは酔いつぶれ、通行人に絡んでいた。

「チッ……くだらない」
ユウマは一瞬足を止めたが、すぐに背を向けた。
“彼ら”はもう、自分の知っている仲間ではなかった。

月明かりの下を歩きながら、ユウマは心の奥で呟いた。
(ありがとう、レオン。
 君たちが追い出してくれなかったら、俺はここにいなかった)

静かな夜風が吹き抜けた。
それはまるで、過去との決別を告げる祝福の風のようだった。


---

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

パワハラで会社を辞めた俺、スキル【万能造船】で自由な船旅に出る~現代知識とチート船で水上交易してたら、いつの間にか国家予算レベルの大金を稼い

☆ほしい
ファンタジー
過労とパワハラで心身ともに限界だった俺、佐伯湊(さえきみなと)は、ある日異世界に転移してしまった。神様から与えられたのは【万能造船】というユニークスキル。それは、設計図さえあれば、どんな船でも素材を消費して作り出せるという能力だった。 「もう誰にも縛られない、自由な生活を送るんだ」 そう決意した俺は、手始めに小さな川舟を作り、水上での生活をスタートさせる。前世の知識を活かして、この世界にはない調味料や保存食、便利な日用品を自作して港町で売ってみると、これがまさかの大当たり。 スキルで船をどんどん豪華客船並みに拡張し、快適な船上生活を送りながら、行く先々の港町で特産品を仕入れては別の町で売る。そんな気ままな水上交易を続けているうちに、俺の資産はいつの間にか小国の国家予算を軽く超えていた。 これは、社畜だった俺が、チートな船でのんびりスローライフを送りながら、世界一の商人になるまでの物語。

処理中です...