『勇者パーティーを追放されたが、俺のスキルは“通常の3倍”強かった』

霧島

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第3章3節 勇者パーティーの末路 ― 崩壊への序曲

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第3章3節 勇者パーティーの末路 ― 崩壊への序曲

夜明け前の酒場。
勇者レオンは、ほとんど空になったジョッキを握りしめていた。
酒臭い空気の中、カウンターの上には未払いの伝票が山積みになっている。
彼の隣にはカインがうつむき、ルナは目を伏せて沈黙していた。

「……で、また赤字か」
カインの低い声が響く。
「討伐は失敗、装備は壊れ、報酬は保留。もう、どっから立て直せばいいんだ?」
「弱音吐くな」レオンが吐き捨てるように言う。
「俺たちは勇者パーティーだ。簡単に終わるわけがねぇ」

「でも、事実としてもう限界よ」ルナの声は乾いていた。
「ポーションの仕入れも止まってるし、宿の支払いだって私の貯金から出してる」
「だからってここでやめるのか?」
「やめろとは言ってない! でも現実を見ろって言ってるの!」

言葉がぶつかり合い、重苦しい空気が満ちる。
レオンの拳が震えていた。
それは怒りか、それとも恐怖か、自分でもわからない。


---

あの日以来、何かがずっと噛み合っていなかった。
戦っても勝てない。補給もうまくいかない。
仲間の動きが重く、反応が鈍い。
それなのに、誰も「なぜか」を語ろうとしない。

レオンは何度も考えた。
――ユウマを追放したせいか?
だがその思考にたどり着くたび、彼は激しく頭を振る。

(違う。アイツは役立たずだった。俺たちが強かったのは、俺の実力だ)

そう信じ込まなければ、心が崩れてしまいそうだった。


---

「なぁ、レオン」
カインが沈黙を破る。
「正直に言うけど……もう、お前の指示にはついていけねぇ」
「……は?」
「俺、もう限界だよ。前みたいに戦えない。勝てないチームで命張りたくない」

ルナも小さく頷いた。
「カインの言う通り。今の私たち、パーティーって呼べる状態じゃない」
「ふざけんな! お前ら俺を裏切る気か!?」
レオンが立ち上がる。
カウンターのグラスが倒れ、酒がこぼれる。

「裏切り? 違う。現実を言ってるのよ」
ルナの声は静かだった。
「私たち、もう誰かのせいにするのはやめるべきだと思う」

「誰かのせい? お前……まさかユウマのことを言ってるのか!」
レオンの怒鳴り声が響く。
「アイツの話はもうするな! アイツは足手まといだったんだ! 俺たちの強さを削ぐだけのゴミだった!」

ルナが目を閉じた。
「……そう。じゃあ、私たちが弱くなったのは、全部自分のせいってことね」

その言葉は、刃のように鋭く胸に突き刺さった。
レオンは何も言い返せなかった。


---

数日後。
新しい依頼を受けたレオンたちは、久しぶりに戦場へ出た。
目的は“瘴気の森”に出現する魔獣討伐。
だが、現場に到着する前から、雰囲気は最悪だった。

「地図は?」
「……無くした」
「えぇ!? どうすんのよ!」
「黙れ! 俺が覚えてる!」
「覚えてるって、昨日も道間違えたじゃない!」

言い争いの最中、森の奥から低い唸り声。
黒い霧の中から、異形の獣が姿を現した。
全身が瘴気をまとい、二本の尾がうねる。

「来たぞ! 構えろ!」
レオンが叫び、剣を構える。

だが動きが遅い。
カインの矢は風を切り損ね、ルナの詠唱も途中で詰まる。
統率が取れず、隊列が乱れる。

「くそっ、足並みがバラバラだ!」
「だったらちゃんと指示しろよ!」
「言われなくても分かれ!」
「そんな曖昧な指示で分かるわけないでしょ!!」

言い合いの最中に、魔獣の尾が唸りを上げた。
ドォン! 爆風が巻き起こり、三人の体が吹き飛ぶ。

「ぐっ……がはっ……!」
地面に叩きつけられ、レオンの視界が霞む。
血の味、耳鳴り、そして焼けるような痛み。

「ルナ、回復を……!」
「無理よ、魔力が……枯れてる!」
「はぁ!? なんでだよ!」
「昨日のポーションが偽物だったのよ! ギルドで買ったやつ、また粗悪品だったの!」

「ふざけやがって……全部俺たちをバカにしやがって!」
レオンは歯を食いしばりながら立ち上がる。
だが体が思うように動かない。

目の前で、カインが矢を放つ。
だが、狙いは外れ、矢は木に突き刺さった。
その一瞬の隙を突かれ、魔獣の爪がカインの胸を裂いた。

「か、カインっ!!」
「くそ……っ、やめろ、近づくな……!」
「ルナ、回復を!」
「もう……もう魔力が無いのよ!」

絶望的な状況。
レオンは歯を食いしばり、残った力で剣を握りしめた。
(俺が……やるしかねぇ)

剣を構え、突撃する。
だがその刃は、以前のようには光らない。
力が足りない。
仲間の支援も、連携も、もう何もない。

魔獣の顎が開き、レオンの腕に噛みついた。
「ぐあああああ!!!」
絶叫が森に響いた。

ルナが泣きながら詠唱を始めるが、途中で声が途切れる。
「……だめ、これ以上は……」
レオンの意識が暗転する直前、ルナの泣き声が遠くで聞こえた。


---

翌朝。
森の入口に、傷だらけのレオンとルナだけが帰還した。
カインの姿はなかった。

「……死体は?」受付の男が尋ねる。
「瘴気に……呑まれた」ルナが答える。
「……そうか」

ギルド中が静まり返る。
かつての勇者パーティーが、またひとり失った――その噂は瞬く間に広がった。

「なぁ、聞いたか? 勇者パーティー、もう実質二人しか残ってないらしいぞ」
「昔はあれだけ威張ってたのにな」
「自業自得だな。荷物持ちを追い出してからツキが落ちたんだろ」

笑い声とささやきが背後で渦巻く。
レオンは拳を握り、俯いた。

ルナは静かに呟いた。
「……ユウマがいれば、助けられたのかもしれない」
「黙れ」
「でも、そう思うの。あの人は、いつも私たちを支えてくれてた」
「黙れって言ってるだろ!!!」

レオンの怒声が響く。
だがその声には、もはや力はなかった。
彼自身が、もう誰よりもそれを理解していた。

――“お荷物”だったのは、追放された男ではなく、自分たちの方だったのだ。


---

その夜、レオンは一人、壊れた剣を見つめていた。
刃は鈍く、光を失い、まるで彼自身の象徴のようだった。

(次の戦いで……俺が勝てば、全部証明できる)
(俺が……本物の勇者だってことを)

だが、その“次”が来ることは、もうなかった。

夜風が吹き抜け、窓の外に満月が昇る。
彼の影はゆらめきながら、静かに崩れていった。

それが、かつて“勇者”と呼ばれた男の、転落の始まりだった。


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