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あざぶ、ちよ
しおりを挟む視線を感じる。
最初は、自分の思い違いだと思っていた。けれどこの、まるで獲物を射抜くような視線。
誰だろう。
さりげなく校庭を見る風にして、チラッと反対側の校舎に目をやった。
蜻蛉がゆらゆらと揺れているように、ぼやけて見えない。
また眼鏡を忘れてしまった。
私は昔から、人の視線を感じやすい方だと思う。
昨日、隣のクラスの松田煌(まつだ こう)という人から告白をされた。
呼び出されたわけでもなんでもない。
いつものように朝早く学校に来て、教室で寝ていただけだった。そしたらいきなり制服の袖を引っ張られ、起こされ、立たされ、何故かベランダに連れていかれ、たどたどしい告白をされた。
面識はあるが、喋ったことは一度もない。
何故私なんだろう、とその時は思っていた。
しかしその後、大体の把握ができた。その時感じたのは松田という人の視線ではなかったのだ。
寧ろ松田という人は私と一切目を合わさず、視線の置きどころが分からないといった感じで目を泳がせていた。
それは一人ではなく数人の視線だった。
多分、嫌がらせか何かの類いだろう。この状況を見て、どこかで馬鹿にして笑っているのだ。
いったい誰が松田という人にこんな事をさせているのか。
なんて事は私には関係ない。
私が今するべき事は、この告白にしっかりと向き合うことだ。
嘘だとはいえ、せっかく相手が勇気を出して告白してくれている。きちんと答えよう。
なんて気もさらさらない。
私はニッコリと微笑んだ。
休み時間。
私は校舎から少し離れた食堂から帰って来ていた。
この高校はお弁当か給食どちらかを選べる選択制だ。しかしお弁当の方が断然多いため、給食の人数は少ない。
「ねえ千夜ちゃん、数学の予習プリントやった?」
私の隣で歩いているのは、小柄で学級委員長の下谷可南子(しもたに かなこ)だ。
特に仲が良いという訳でもないが、数少ない給食女子同士なので一緒に帰って来ている。
「うん」
ニッコリ笑って言った。
「しかくの4番解けなかったんだよねー。教室戻ったら教えて!」
「わかった」
ニッコリ笑って言った。
昇降口で上履きに履き替え、広い廊下に出た。
と、そこに見慣れない人影があった。
「空きましたけど」
綺麗な、けれど鋭く尖った声が響いた。
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