この能力で女を攻略してやる

第1章 能力

初恋の女性との再会

就職も一流企業に入社して、仕事で実力が買われて、40歳で部長職にまで昇格していた。

金も名誉も手に入れたが、女性だけは手に入れる事は出来なかった。

20代から30代前半までは、身なりも気をつけ様と、嫌いな運動も行い、少しは見れる体型になっていたが春は訪れず、30代の中頃から僕は女性を諦めたのである。

結局、今の僕は豆タンクに戻っていた。

僕は夜も遅いため、30代から一人暮らしをしている。夜は外で外食をして、朝は夜買ったコンビニの菓子パンを食べる。

そんな生活を送っている。

今日は金曜日で明日は休みだ。

珍しく早く帰れたので、
「たまには実家でも行くか」

一回マンションに帰って車で行くより、このまま実家に行く方が断然早い。
実家に電話して、これから泊まりに行く事を伝える。

帰りの電車も早い時間なので、やたら混んでいる。

この太っている体は、周りに迷惑をかけているのが、みんなの表情を見れば分かる。

今日は2月なのでまだいいが、これが夏だと周りの客はあからさまに嫌な顔をする。

前は少し気にしていたが、今では何とも思わない様になっていた。

電車に揺られて30分

「ふう、やっと着いた。」

そういえば電車で帰るなんて何年振りだろう。

歩いて帰る事も出来るが、駅近くのタクシー乗り場に向かう。

あれ？やけにタクシーが並んでいるな。

まあ、別に急ぐ訳でも無いので、タクシー待ちの行列に並ぶ事にした。

5人ぐらい並んでいる列の最後尾に並ぶ。

なかなか来ないな。

何か凄くいい香りが匂ってきた。

前に並んでいる女性の香水の匂いだと分かった。後ろ髪が揺れるたびに、香水の匂いが僕を包む。

いい香りだな。

後ろ姿だけだが、紺色のスーツで、スカートはピシッと体に密着していて、形のいいお尻が男心を誘う。
スーツの着こなしといい、そんなに若そうな感じでは無いが、何ともいやらしい曲線美だ。

前の女性が横のビルの時計を見た。

「えっ？松田さん？」

つい言葉を発してしまう。

「えっ？」
松田さんは僕を見る。

すると笑顔で「前田君？」

「えっ？僕の事を覚えてくれてたの？」

「だって、中学の時と変わらないんだもん」

それって褒めているつもりなのだろうか？

僕は愛想笑いを浮かべる事しか出来なかった。

彼女の順番が来て、タクシーに乗り込む。
「あれ？実家に行くの？前田君家の前を通るから一緒に乗っていけば？」

「えっ、いいんですか？」

「どうぞ」

僕は松田さんの親切に、遠慮なく便乗した。

乗ったのはいいが、僅か10分程の距離が、えらく長く感じる。
話すことはありきたりな事ばかりである。
「松田さんは医者になったの？」

「うん、これでも脳外科医なのよ」
「手術は大変でしょ？」
「あら良く知っているわね。前田君も医療関係の仕事しているの？」
「僕は医療機器メーカーの仕事だから、一応医療関係だけど、病院とかはそこまで知らないよ」
「へえ～そうなんだ。」

しばらく会わない間に、随分フランクな感じになった気がする。

「脳外科医だと、いつも遅いのでは？」
「そうなのよ、いつもはもっと遅い時間になってしまうんだけど、今日は父が用事があるって言うもんだから、しょうがなく早く上がらせてもらったのよ。」

「そういえば、結婚は？」
「もう、前田君までそんな事を言うの？まるで父親みたい。今日は多分その話で呼ばれたのよ」
「お見合い？」
「うん。多分ね」

そんな話をしていると僕の家の前に着いた。
タクシーを降りて、松田さんにお礼を言う。

すると「前田君も同窓会来るんでしょ？3月の第2週目の土曜日みたいよ。緊急手術が無ければ、私も行くわ。」

タクシーのドアが閉まって、発車した。

それにしても綺麗だったな。とても40歳には見えない。むしろ大人の色気を感じた。

僕は今まで彼女を憎んでいたが、今日久しぶりに会って話をしたが、あの時のあの修学旅行での彼女の行動は間違いだったのでは無いがと疑った。

よし！僕も同窓会に行ってみよう。

叶うはずも無い、松田さんとの恋愛を夢見る自分がいた。