全ては空を散りばめぬ

マナ

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2.父を探して三千里

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「カランカラン」
事務所の椅子でうたた寝をしていると、来訪を告げる鐘の音と共に小柄な少女がそろりと入ってきた。
「あの..ここが有栖川探偵事務所ですか?」
恐る恐ると言った感情の含まれた顔でその子が聞いてくるのでつい可愛らしくて
「そうだよ。なにかご相談?」
といつもの数割増しで優しげに答えると小柄な少女はホッとしたかのように
「はい!」
と大きく返事をした。
「じゃあ、氏名と依頼内容を教えてくれないかな?」
と、(こちらはいつも通りに)聞いてみると
「あ、はい!えっと..名前は時雨沢心和と言います!依頼内容は2人で一緒に暮らしているお父さんが突然いなくなっちゃったので一緒に探し出してほしいんです..」
2人でってことは、お母さんは他界してるのかな...一応触れないであげておこう。まぁ、人探しくらいなら簡単だし。
「えーと、今日はもう時間も無いし明日の昼からでもいいかな?」
とりあえず今日はもう働きたくないんだよなと考えていると少女が小さな口を開いた。
「その事なんですけど…私はどれだけ遅くなっても構いませんのでいち早く探しに行きたいんです!お父さんに早く会いたいです!」
(さっきまでとは感情が一気に変わったな…それだけ本気って言うことか…)
「わかったよ。君の勝ちだ。ところで時雨沢ちゃんの能力はなんなのだい?」
俺が働くと聞いて少し嬉しげな少女は
「心和でいいですよ!私の能力は離れた人と会話することです!離れたと言っても視界に入ってないといけませんけど…
ひらけた土地でならどれだけ離れてても大丈夫です!」
と、前半は少し悲しそうに後半は誇らしげに己の能力を教えてくれた。
今の世界で能力を教えるのは結構やめておいた方がいい事なんだけど親は教えあげなかったのか…まぁ、使えそうだとは思うけどもしこの子のお父さんがごちゃごちゃしたところにいたらどうしようもないな…
「おっけー!心和ちゃんよろしくな!お父さんのいそうな場所とか知ってる?」
目処は付けておかないといくら簡単といえども大変だからな。
「あの…それが全く分からないんです…」
(この子嘘ついてるな)
俺の能力がピンときたらしくこの子が大体目星は付いていることを言い当てた。
「俺に嘘ついたらダメだぞ~?おじさん分かっちゃうからな~?」
と言うとあからさまに驚き
「なんで分かったんですか!?あの…目星は付いてるんですけど…言っちゃったら一人で行けばいいって思われるかなって…」
あぁ、そういう事か…要するに一人で行きたくなかったんだな
(まぁ、金がもらえんならラッキー!)
「そっか!教えてくれるかな?」
「あ、はい!えーと、お父さんの通っている会社です!何をやってる所かは知らないんですけど場所は分かるので一緒に行ってくれますか?」
会社か…そりゃあ小さな女の子1人で行くのはか細いよな。
「わかったよ。準備とかしなくて大丈夫?」
と、聞きつつ机の中に閉まってある電子マネーのカードと通信機器をとり、ドアの近くに立てかけてあるロングコートを羽織った。
「大丈夫です!ではいきましょう!」
(随分と元気になったな)
2人でドアを潜りドアに付けてある「open」の看板を「close」へと裏返した。

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裏路地に構えている事務所から、少し遠い大きな道路に出て、暫く歩いて右に曲がったところに大きな会社が建っていた。
いままでなぜこんなに大きな会社があることに気づかなかったのか不思議なくらい大きな会社だ。
「おにいちゃん!ここです!」
(やっぱり1人でいくのが心細かったんだ)
「おう!ついたか。んでどうやってはいるつもりだ?」
まさか考えてないのか?
「え?玄関から入ったらダメなんですか?」
この子本気で言っているのか??
「流石にいきなり入ってこられたら怪しまれるだろ」
(お前に言われたので今更気づいたらしいぞこの子)
「そっか~。でもお父さんの名前出したら入れそうですよね?」
まぁ、俺は部外者だし行けそうならこの子にお願いするしかないしおとうさんだのみ作戦でいこう
「そうだな。じゃあ受付のお姉さんの所に行ってらっしゃい」
「はい!いってきます!」
(嬉しそうだよ。あの子)
暫く一人で暮らしてたから行ってらっしゃいも久しぶりなんだろうな。
それにしても改めて見ると華奢だな。
と考え、遠くから女の子を観察した。
オーバーオールに身を包みパタパタと歩きながらセミロングの髪をなびかせる姿は童話に出てくるお姫様のようで自分がもう少し若かったらと思ってしまうほど美しかった。
暫く話すとこちらを振り返り笑顔になって頭の上で両手を使って○のポーズを描いた。
どうやら交渉は成功したらしい。
受付にいるより少しゲートに近かった俺はゲートの側まで行き、心和を待った。
「パパはどうやらここの26階にいるそうです!」
「そうか。じゃあエレベーターを使うか」
思ったより高い階では無いがだからと言って階段で行こうとなど考える俺ではない。
抜かりなくサボるつもりである。
「えーと、さっき貰ったきた社内地図によるとここをまっすぐ行って右に曲がったところにエレベーターはあるそうです!」
今までこんなものかと思っていたがこの子は少し利口すぎはしないだろうか。普通社内地図など大人でも貰うのを忘れてしまいそうなものだが。一人暮らしをしているとこんなにもしっかりしてくるのだな。
「おっけー。行くか」
言った通りにまっすぐ進み突き当たりを右に曲ると少し開けた空間があってそこに対に3つずつ、合わせて6つのエレベーターがあった。そのうち一番早く来そうだったエレベーターのボタンを押した。
すぐに到着したエレベーターには人は乗っておらず、そこに二人で乗った。
「会社だとこんなにエレベーターがあるのですね。私が住んでいる方は田舎ですのでエレベーター自体見慣れないというか…」
「そうなんだ。遠路はるばるお疲れ様」
労いの言葉を心和にかけるとすぐさま少女の周りはパッと明るくなり花まで咲きそうな雰囲気である。
「はい!故郷の方で感情が聞こえる何でも屋がいると聞いたので!」
「いつから俺は何でも屋になったんだ」
俺ずっと探偵のつもりだったんだけど…
「え、探偵兼何でも屋と聞きましたけど」
ここでようやくわざわざ俺のところに尋ねてきた意味がわかった。
探偵と言うとそこら辺にいるものでもないし簡単なことでは動いてくれない。しかし簡単に動いてくれる何でも屋では言葉の響きが怖い上にどれだけお金が取られるかわからない。だからその間の俺に頼みに来たってところか。
(あながちお前の推理は間違っていないよさすが探偵さん)
悪魔にも褒められたことだしあってるのだろう。
(俺様は悪魔じゃねぇよ!ただあまりにも俺様の能力が強いのとお前との適合率が高いから人格がお前の中でできただけだ!)
まぁどっちにしろそのしゃべり方は悪魔だろ。めんどくさい能力はほっておくとしよう。
「お兄ちゃん、どうかしました?」
暫くぼーっとして見えたようで心配になったのか声をかけてきた。
「いやいや、大丈夫だよ。ほらもう26階だ、降りるとしよう。」
「はい!」 
かなり広い26階のフロアをコツコツと靴の音を鳴らしながら歩いていくと窓口のようなところが見えた。
そこに立っているお姉さんを見て心和の表情が変わった。
「心和ちゃん?あのお姉さんのこと知ってるの?」
ときくと俺の声など耳に届かぬかのように
「緋鞠ちゃんお姉ちゃん!」
と言いながらお姉さんの方に近寄っていった。
え、お姉ちゃん?お姉ちゃんいたの??
(いや。多分違うだろう。あの少女からは家族に対する愛情ではない愛情を感じる。恐らくは近所の人とかではないかね)
こういう時便利なんだよな~、この能力
「え、心和?なんでここきたの?お父さんかな?」 
「当たりだよ!緋鞠お姉ちゃんはなんでいるの?」
いい加減俺を置いて話を進めるのをやめて欲しいところだがこの中に入ることが出来るはずもなく少し離れて壁にもたれながら2人の会話を聞くことにした。
「私はね、ここに働くことにしたの。えーと、そこのお兄さんは誰なのかな?」
あ、俺に触れてくれた。今しかないな近づくとしよう。
「お兄ちゃんはね!探偵さんだよ!」
おっす。探偵と認めてくれて嬉しいっすよ。
「こんにちは。有栖川颯汰です。怪しいものではないですよ。たぶん。」
「こんにちは?随分おかしな自己紹介ですね。私は東雲緋鞠(しののめひまり)と申します。東に雲と書いてしののめです。」
おかしいって笑われながらいわれてしまったことに少なからずショックを受けたのだが相手もまた凄い名前だ。苗字においては聞いたことさえないほど珍しい。
黒のロングでストレートな髪にこれまた黒の瞳、しかし陰鬱とした感じを相手に抱かせないのは朗らかな笑顔故か。
一目で社内は愚か、学生だった時もモテていたのだろうことがわかる。
「それで、この子のお父さんを捜してるんですけどどこにいるか知ってますかね?」
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