【完結】のぞみと申します。願い事、聞かせてください

私雨

文字の大きさ
8 / 44
第二章『青春』

第8話 初恋の悲劇

しおりを挟む
 昼休みが始まると、あたしは早速屋上へ向かった。
 ほとんどの生徒が学食で昼食を摂っているので、廊下は自然と静かだった。足を踏み出すたび、甲高い靴音が廊下に響き渡る。
 あたしは一人きりだと思った途端、廊下を曲がるともう一人の生徒が目に入った。 
 あたしの存在に気づくと、彼女はびっくりした表情を浮かべた。
 そちらに目をやると、あたしもびっくりする。なぜなら、その顔の持ち主は今朝置き去りにしてしまった青井あおい華恋かれんだから。

「お、さきさん!」

 ーーあたしは謝るべきだろう。

 そう思ったけど、彼女は全然怒っていないようだ。むしろ、あたしを見かけて喜んでいる。

「よ、華恋かれんさん。昼ご飯はもう食べたの?」
「いや、実は学食に行く途中なんだけど。一緒に来ない?」
「ごめん、ちょっと用事があって……」
「用事? もしかして、告白のこと?」

 言って、華恋かれんは口に手を当てる。

「そ、その……あの……」
 
 返事をしようとしたけど、言葉に詰まった。
 華恋かれんが図星だったんだ。
 あたしは赤くなった頬を隠そうと顔を背けた。

「そ、そうだけど……。誰にも言わないでくださいね」
「言わないよ」

 ーー青井あおい様、心の底から感謝していますわ。

 あたしは溜息を吐いて、会話を終わらせようとした。
 こうやって雑談しているのはいいんだけど、そろそろ屋上に行かないと。

「じゃ……。昼休みが終わる前に、そろそろ行こうと思っているんだけど」
「うん、またね! さきさん、ファイト!」 

 頷いて、あたしは別れを告げた。
 念のために振り返って、別々の方向に歩いていることを確認した。
 そして、あたしは最寄りの階段に向かっていく。
 階段を数段上って、屋上へのドアの前に立ったまま息をついた。
 
 ーーあたしってそんなに強くないんだもんね。

 覚悟を決めようとしたけど、こんな状況では落ちつけるわけがない。 ドアを見るだけで心の鼓動が高鳴る。
 それでも、やってみないと。最悪の場合、フラれることになる。しかも、あたしだって言った。

『告白はやればできるもの』

 取っ手を回して、徐々に開ける。
 静かな廊下にドアの軋み音が響き渡る。すずかぜが吹いてきて、暖かい陽射しが差し込む。
 陽光に目が眩んだまま、あたしは数歩踏み出したーー
 
 ーー青い。

 雲のない青空が視線を埋め尽くしている。静かな屋上に立っていると、風音が聞こえてきた。
 今日の天気は屋上に行く日和。
 地面が陽光に照らされて暖かい。
 町が目の前に広がっている。
 本当に絵になる風景だった。
 
 ーーしかし、屋上には多久馬たくまの姿はなかった。

 昼休みが始まったばかりだから、あたしはしばらく彼を待つことにした。まだ昼食を摂ってるかもしれないし、友達に話しかけられたかもしれない。
 身体からだを屋上の手すりに預けて、涼しい風を楽しんだ。風がストレスで火照った顔に吹き込むと、あたしはすぐに落ち着いた。
 待ちながら告白の背後はずだったこの町を眺めた。高い所から見ると絶景としか言いようがない。
 長い間じっと眺めたあと、あたしは我に返ったように告白のことを思い出した。
 屋上のドアに振り返ったけど、そこには誰もいなかった。
 そして、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り出した。

 ーー結局、昼休みは彼が来ることなく終わってしまった。

 あたしはあまりの呆気なさに俯いた。
    どうすればいいのかわからなくて、あたしは屋上の真ん中で膝をついた。
 涙が雨粒のようにぽっつりと落ちて、スカートに染み渡る。
 地面の暑さがあたしを慰めるように身体からだに伝ってくる。
 怒りと悲しみに耐えられなくて、あたしは全校が聞こえるほど大きな声で叫んだ。

「あの鹿!!」と。

 ーーでもよく考えたら、あたしも馬鹿だったわね。
 
 本当に信じてたんだから。彼が屋上に来ることに。リュックに落ちた恋文さえも気づかなかっただろうに。
 絶望的に青空を見上げると、何かが膝に落ちるのを感じた。
 風に舞うスカートに視線を落とすと、メイド喫茶のチラシらしいものが視界に入った。
 涙を手で拭って、風に流される前にチラシを鷲掴みにした。

『うちのキチャを飲めば、あなたの願いを一つだけ叶えてあげる』

 と、可愛い文字で書いてあった。

 ーーキチャって何?美味しいの? そんなお茶は聞いたことないけど面白そう……。

 飲んだら願いは叶う、か。出来すぎた話だろうけど、最後の手段だった。
 今日はまだ時間がある。だから、放課後は秋葉原に行くことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

清掃員と僕の密やかな情状

MisakiNonagase
恋愛
都心のオフィスビルで働く会社員の26歳・高城蓮(たかぎれん)。彼の無機質な日常に唯一の彩りを与えていたのは、夕方から現れる70歳の清掃員・山科和子だった。 青い作業服に身を包み、黙々と床を磨く彼女を、蓮は「気さくなおばあちゃん」だと思っていた。あの日、立ち飲み屋で私服姿の彼女と再会するまでは――。 肉じゃがの甘い湯気、溶けゆく氷の音、そして重ねた肌の温もり。 44歳の年齢差を超え、孤独を分かち合った二人が辿り着いた「愛の形」とは。これは、一人の青年が境界線の向こう側で教わった、残酷なまでに美しい人生の記録。

処理中です...