7 / 44
第二章『青春』
第7話 やればできる
しおりを挟む
校門をくぐると、学校のチャイムが聞こえてきた。
まだ校内に入っていないのに、予鈴の甲高い音が周りに響き渡るほど大きい。
そろそろホームルームが始まる。
あたしは華恋を置き去りにして、校内まで走り出した。
昇降口で靴を履き替えてから、一刻も早く教室に向かった。
廊下を走っている間、靴が大きな音を立てる。
足が疼くほど早く走っていて、あたしは教室の前で息を切らした。
喘ぎながら、後ろから足音が聞こえてきた。振り返ると、華恋が追いついたことに気づいた。
そして、本鈴が鳴り出した。
「ギリ……ギリ……セーフだね」
「うん……よかった……」
深呼吸しながら、あたしたちは教室に入った。
あたしは恋文をポケットに入れておいて、覚悟を決めた。
突然、華恋が言ってくれた言葉が脳裏をよぎった。
『きっと上手くいくよね!』
ーーそうね。今度こそ、あたしは負けない。ま、負けても終わりじゃないけど……。
教室に入ってから室内を見回した。
幸い、今学期の席替えのおかげで、あたしの席が彼の隣にある。
距離が短いほうが恋文を手渡しやすい。それに、皆が話し合ったりふざけたりしているからあたしの存在にまだ気づいていない。
できるだけこっそりと席にたどり着くと、学級担任が教室に入ってきた。
「皆、おはようございます!」
号令をしてから、皆が同時に席につき、黙り込んだ。
学級担任の話を聞き流しながら、あたしは恋文を手渡すチャンスをうかがった。
教室を見回すと、皆の視線が学級担任のほうに注がれている。
ーーよし。
あたしはポケットから恋文を取り出して、机の下に腕を伸ばした。
念のため、多久馬をちらっと見た。彼は学級担任の言葉をちゃんと聞いているみたい。
こんなチャンスは二度と来ない。だから……。
多久馬の開けかけたリュックに恋文を銃のように構えた。そして一、二、三で放り込んだ。
あたしは紙飛行機のように空を飛んでいる恋文を目で追う。少し揺れたけど、計画通りに行きそう。数秒後、恋文が彼のリュックの真ん中に落ちて無事に着陸した。
それを見ると、あたしは頭の中でガッツポーズをする。
ーーやった! 本当にできた!! あたし、天才じゃないか?
離着陸が大成功。あたしは安堵の溜息を吐いた。
顔を上げると、学級担任が話し終わったことに気がついた。なんの話だったのかな……?
まあ、後で誰かに訊けばわかるだろう。多久馬や華恋なら知っているだろう。
計画の大成功で気持ちが高ぶって、あたしはいても立ってもいられなかった。
机の下で脚をバタバタさせ始めて、ドヤ顔をする。
脚に力を込めすぎたのか、右足の靴が床に落ちて意外と大きな音を立てた。
その音に、みんなが一斉にあたしに注目する。
「ふふっ、戸ノ崎さんは何かを楽しみにしてるみたい」
あたしは首を傾げた。
「え? どういうこと?」
多分さっきの話のことだろう。ぼーっとするのは仇となりそう……。
「あれ、ちゃんと聞いてなかった? ダメだよー」
そう言ったのはクスクスと笑いながら隅っこの席に座っている男子高生。
彼の名前は覚えていなくて、話したこともない。
そしてみんなが爆笑して、学級担任がジト目であたしをにらみつけた。
「そうですか、戸ノ崎さん?」
その声には怒りの響きを感じて、あたしは思わず居住まいを正した。
こうなるとどんなに言い訳しても無駄だろう。心から謝ることしかできない。
あたしは席から立ち上がって、頭を下げた。
「す、すみません。ちゃんと聞いてませんでした」
あたしが言うと、学級担任は眉をひそめる。
でも叱かれるかと思いきや、チャイムがもう一度鳴り出した。ここぞというタイミングであたしを救ってくれたんだ。
あたしは安堵の溜息を吐いた。今日は運が良すぎる。
「それでは、今日のホームルームは終わりです。でも戸ノ崎さん!」
「はい?」
「明日はちゃんと聞きなさいよ」
「すみません。ちゃんと聞きます」
この事件はきっとあたしの評判を下げる。
学級担任に話しかけられる間、誰一人もあたしを庇おうとしなかったし。
あたしは人気者とはいえ味方がいないようだ。
そもそも人気者になったのは美貌のおかげなのかな?
それなら、あたしは人気者じゃなくてもいい。あたしを庇おうともせず、ゾンビのようにさまようくらいなら、取り巻きはいないほうがマシだろう。
ーーやっぱり、このクラスは厳しすぎるんじゃないか?
一限の準備をしながら、あたしは多久馬にウインクした。予想通り、彼からの反応はなかった。
あたしは観念したように吐息を漏らして、教科書を取り出した。
少なくとも、ホームルームがやっと終わった。無事にとは言えないけど……。
まだ校内に入っていないのに、予鈴の甲高い音が周りに響き渡るほど大きい。
そろそろホームルームが始まる。
あたしは華恋を置き去りにして、校内まで走り出した。
昇降口で靴を履き替えてから、一刻も早く教室に向かった。
廊下を走っている間、靴が大きな音を立てる。
足が疼くほど早く走っていて、あたしは教室の前で息を切らした。
喘ぎながら、後ろから足音が聞こえてきた。振り返ると、華恋が追いついたことに気づいた。
そして、本鈴が鳴り出した。
「ギリ……ギリ……セーフだね」
「うん……よかった……」
深呼吸しながら、あたしたちは教室に入った。
あたしは恋文をポケットに入れておいて、覚悟を決めた。
突然、華恋が言ってくれた言葉が脳裏をよぎった。
『きっと上手くいくよね!』
ーーそうね。今度こそ、あたしは負けない。ま、負けても終わりじゃないけど……。
教室に入ってから室内を見回した。
幸い、今学期の席替えのおかげで、あたしの席が彼の隣にある。
距離が短いほうが恋文を手渡しやすい。それに、皆が話し合ったりふざけたりしているからあたしの存在にまだ気づいていない。
できるだけこっそりと席にたどり着くと、学級担任が教室に入ってきた。
「皆、おはようございます!」
号令をしてから、皆が同時に席につき、黙り込んだ。
学級担任の話を聞き流しながら、あたしは恋文を手渡すチャンスをうかがった。
教室を見回すと、皆の視線が学級担任のほうに注がれている。
ーーよし。
あたしはポケットから恋文を取り出して、机の下に腕を伸ばした。
念のため、多久馬をちらっと見た。彼は学級担任の言葉をちゃんと聞いているみたい。
こんなチャンスは二度と来ない。だから……。
多久馬の開けかけたリュックに恋文を銃のように構えた。そして一、二、三で放り込んだ。
あたしは紙飛行機のように空を飛んでいる恋文を目で追う。少し揺れたけど、計画通りに行きそう。数秒後、恋文が彼のリュックの真ん中に落ちて無事に着陸した。
それを見ると、あたしは頭の中でガッツポーズをする。
ーーやった! 本当にできた!! あたし、天才じゃないか?
離着陸が大成功。あたしは安堵の溜息を吐いた。
顔を上げると、学級担任が話し終わったことに気がついた。なんの話だったのかな……?
まあ、後で誰かに訊けばわかるだろう。多久馬や華恋なら知っているだろう。
計画の大成功で気持ちが高ぶって、あたしはいても立ってもいられなかった。
机の下で脚をバタバタさせ始めて、ドヤ顔をする。
脚に力を込めすぎたのか、右足の靴が床に落ちて意外と大きな音を立てた。
その音に、みんなが一斉にあたしに注目する。
「ふふっ、戸ノ崎さんは何かを楽しみにしてるみたい」
あたしは首を傾げた。
「え? どういうこと?」
多分さっきの話のことだろう。ぼーっとするのは仇となりそう……。
「あれ、ちゃんと聞いてなかった? ダメだよー」
そう言ったのはクスクスと笑いながら隅っこの席に座っている男子高生。
彼の名前は覚えていなくて、話したこともない。
そしてみんなが爆笑して、学級担任がジト目であたしをにらみつけた。
「そうですか、戸ノ崎さん?」
その声には怒りの響きを感じて、あたしは思わず居住まいを正した。
こうなるとどんなに言い訳しても無駄だろう。心から謝ることしかできない。
あたしは席から立ち上がって、頭を下げた。
「す、すみません。ちゃんと聞いてませんでした」
あたしが言うと、学級担任は眉をひそめる。
でも叱かれるかと思いきや、チャイムがもう一度鳴り出した。ここぞというタイミングであたしを救ってくれたんだ。
あたしは安堵の溜息を吐いた。今日は運が良すぎる。
「それでは、今日のホームルームは終わりです。でも戸ノ崎さん!」
「はい?」
「明日はちゃんと聞きなさいよ」
「すみません。ちゃんと聞きます」
この事件はきっとあたしの評判を下げる。
学級担任に話しかけられる間、誰一人もあたしを庇おうとしなかったし。
あたしは人気者とはいえ味方がいないようだ。
そもそも人気者になったのは美貌のおかげなのかな?
それなら、あたしは人気者じゃなくてもいい。あたしを庇おうともせず、ゾンビのようにさまようくらいなら、取り巻きはいないほうがマシだろう。
ーーやっぱり、このクラスは厳しすぎるんじゃないか?
一限の準備をしながら、あたしは多久馬にウインクした。予想通り、彼からの反応はなかった。
あたしは観念したように吐息を漏らして、教科書を取り出した。
少なくとも、ホームルームがやっと終わった。無事にとは言えないけど……。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる