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第二章『青春』

第12話 初恋のハッピーエンド

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 メッセージを読み終えると、さきさんの頬が赤くなった。

「何かありましたか?」

 と、私は困った表情を浮かべて言った。
 正直、メッセージの内容を知りたかっただけ。

「こ、これを見て」

 言って、さきさんは画面を見せてくれた。

『今日は本当にすまんな。せっかく恋文を手渡してくれたのに来なかった。実は、僕は姫奈ひめなさんのことがずっと好きだったけど、勉強に集中していたから告らなかった。姫奈ひめなさんの言う通りだ。僕はただの馬鹿野郎だ。でも、君の馬鹿野郎だから許してくれないか』

 私がメッセージに目を通している間、さきさんの頬がさらに赤くなった。

 ーーああ、これは青春だね。

 私は懐かしくなった。
 高校生のころ、零士れいじはそんなことを全然言ってくれなかった。
 まあ、あのころの私も素直ではなかったけど。

「よかったですね! 明日は学校で告白するはずです」
「ホントに叶った……あたしの夢が」
「正直、私も少し驚きました。店長さんの力はすごいですね」

 そして、さきさんはかなえに頭を下げた。

「本当にありがとうございました」
「あら、頭を下げなくてもいいですよ。これはわたくしの仕事だけですから」
「それでも、本当に感謝していますよ。だって、このお店のおかげであたしの願い事がやっと叶ったんですし」

 お礼を言ってから、さきさんは振り返って室内を見回した。

「あの、出口はどこですか?」
「そうですね。今ドアを開けてあげます」

 と、かなえはドアのほうに指差して言った。
 その瞬間、不可思議なことが起こった。
 かなえはまだ机の後ろに立っているのに、手をあげるとドアが自動で開く。
 私とさきさんは目を見開いて、ぽかんと口を開けた。

「それでは!」

 かなえは『何かあったかしら?』と言わんばかりに淡々と私たちをドアまで送ってくれた。
 疑問を投げかける間もなく、私たちは見慣れた食堂に戻された。

「一体何が……」

 そう言ったのは、身体からだを震わせながら携帯を鷲掴みにしているさきさん。

「私も、よくわかりませんけど」

 と、私は彼女を慰めるように言った。
 今朝時間が少なかったとはいえ、かなえはそんなことを説明しておいたほうがよかったんじゃない……?

「結構遅くなっていますし、まだ女子高生ですね。そろそろ帰ったほうがいいと思いますよ」
「そ、そうですね。じゃ、あたしはこれで……」

 言って、さきさんは再びお礼を言って、一人で店を出ていった。
 
 ーー彼女は一人で大丈夫かな……。

「じゃ、閉店しようか?」

 数分後、かなえは個人事務所だと私が仮定している部屋から出てきて、そう言った。
 世界で一番可愛いメイドの私がここで働き始めたものの、客足はまだ増えていない。しかし、その一方で閉店準備は短かった。
 数個の皿を厨房に運んでいって、食器洗い機に入れた。
 私は背伸びをして、溜息を吐いた。
 振り向くと、かなえが厨房に忍び込んだことに気がついた。

「もう帰っていいのよ、後はわたくしに任せて」
「わかりました」

 頷いて、私はそう言った。
 後は着替えるだけだ。
 厨房を出て、台詞を練習した更衣室に向かった。
 メイド服を脱いで吊るしてから、OL服に着替え始めた。
 脚を黒いタイツに通して、白いシャツを着た。長い髪を首に押し付けたまま、ブレザーに腕を通した。
 静かな店内にきぬれの音が響く。
かなえの足音が聞こえてきて、私はシャツにしまわれた後ろ髪を両手で引っ張り出した。
 そして、ドアの向こうからかなえの声がした。

「入ってもいい?」
「はい、後は靴だけです」

 かなえがドアを開けて、私は靴を手に取った。

「メイド服よりそっちの方が似合うと思うの」

 褒められているかどうかわからなかったけど、とにかく褒め事として受け取った。

「ありがとうございます。でも、メイド服を可愛く着こなすように頑張ります」

 私は靴を履いてから更衣室を出た。
 たった一日しか経っていないのに、このOL服にはもう慣れていない。タイツ以外は窮屈すぎて動きにくい。
 かなえは立ち止まって、真剣そうな表情で私に話しかけた。

「これから、いろんな人がこの店を訪れる。今日はめでたしめでたしで終わったけど、下心を持ってここに来る悪人もいるはずだね。皆の願い事をちゃんと聞いて、自分で判断しなければならない。頼むよ」
「わかりました。私に任せてください」
「ありがとう。今日はお疲れ様でした」

 と、かなえはドアを開けてくれて、言った。

「お疲れ様でした」
 
 私は別れを告げて、薄暗い街を歩き始めた。歩きながら、黒髪が涼しい夜風にそっとなびいていた。
 後ろからドアの音がかすかに聞こえた。振り向くと、かなえの手を振っている姿が視界に入ってくる。
 こうして、新しい仕事の初日は無事に終わったーー
 そう思ったけど、一つ問題がまだ残っている。この服は、歩くことさえも一苦労するほど窮屈なんだ。

 ーーもう、給料をもらったら新しい服を買いにいくわよ……。
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