「どうせゲームだよね?」思い込み少年の転生事情【旧題:異世界転生をVRゲームだと思い込んで】

紫野田 舞

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第一章/転生編

第二話

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 ━━メルネイア王国・王都。

 人口十万人を越える人民の暮らす円形のこの都市の中心には、百年前、魔王と勇者が休戦の契りを交わした名残から二つの煌びやかな銅像が建てられている。

 片方は十三人の勇者の統率者を務めた方向量の勇者エリカ=クラミヤが剣を構える姿を。

 対するもう一方は、歴代最強と謳われる第百六十二代魔王アイリスが杖を振り翳した姿を忠実に再現している。

 平和を象徴する二人の銅像は人間にも魔族にも長く愛されてきた。

 ━━王国メルネイアは世界有数の商業大国であると同時に世界で唯一、人間と魔族が共存する珍しい国でもあった。







 ━━王都北西部・リビレイト公爵家。
 普段、静寂である時間の多い最上級貴族家の今日は、朝から靴音と伝令の音に溢れていた。

 戦争が近いという訳でもなければ国王が退位する訳でもないのだ。

 しかし当主アレクサンドロス=リビレイトは如何なる事態よりも今、寝室と洗濯室を忙しそうに行き来する使用人らの横を過ぎることに緊張を覚えていた。

 歴戦の勇士である彼が初めて体感する『手に汗握る』という状態。彼がこれを今日味わえたことは紛れもない幸運である。
 
 「⋯⋯妻の様子は?」

 擦れ違う使用人のひとりに恐る恐る訊ねる。

 「少し普通より痛みが大きいようですが問題はないと思います」
 「そうか」

 ━━痛みが大きい。

 彼女のその言葉が何とも胸を締め付けて息苦しくなる。

 心配に耐え切れなくなったアレクは使用人に付いて妻のいる寝室に向かうことにした。

  「⋯⋯痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ!!!!」

 寝室に入ると同時に鼓膜を揺する妻の叫び声。

 「無理無理無理無理⋯⋯本当に無理!! 無理!! 絶対やめッ⋯⋯来ない無理無理無理無理無理ッ!!!」

 結局、直ぐに彼は耐え難い痛みに絶叫する妻の姿をそれ以上見ていられなくなり部屋を出た。

 廊下の空気を吸い込むと「オレは何をしているのだ」とアレクは零した。





 ━━リビレイト公爵家・夕刻。
 妻が出産を終えたと聞いたアレクサンドロスは寝室へと急いだ。

 戦車が枯れ木や土砂を吹き飛ばすような勢いで使用人や執事などを押し退け、声を挙げる。

 「オレの妻と子どもは!?」
 「━━あなた」
 
 応えたのは穏やかな聞き慣れた女性の声音だった。

 人垣を開いて行けば白銀の長髪の麗しい彼の妻ルウシェの無事と、彼女に抱かれ撫でられている赤ん坊が視界に入る。

 「お、おぉー⋯⋯この子がオレの子ども⋯⋯」
 「どう、私に似て可愛いでしょう?」

 先程まで絶叫していたとは思えないほど無邪気な笑顔でルウシェが言う。

 「強く否定はしないがオレに似ても美男だったと思うぞ?」

 対するアレクも自慢の髪の毛を払いながら自信を覗かせる。漸く、普段通りの会話である。

 周囲の使用人たちの緊張も薄れて和やかな祝いのムードに転じた。集まった誰もが笑顔を湛えて幼い少年の誕生を喜んだ。

 少年の祖父に当たる、アレクの父親まで呼んで最早軽い宴である。

 (え、何でいきなりこんな場面で目覚めるの⋯⋯?)
 
 ただ独り、歓迎の輪に加われないはぐれ者がいる。

 アレクの父ローファス=リビレイトは厳格な雰囲気も消え失せるほど喜びを表現していると言うのに。

 (言葉が解らないし⋯⋯な、何か喜んでる? 何を? あれ、僕は⋯⋯)

 と、困惑するはぐれ者の正体は誕生した当事者であり、流れからして当然、漸くゲームを始めたはずの━━雨宮ルルである。彼は母親に抱かれたまま自身の手を見下ろしてみて、それがあまりに幼いものであることに気がついた。

 (ん? 外見は変えずにって言ったはずなんだけど⋯⋯。これって報告した方が良いバクだよね)

 「あ、あぅぅ、あうあう~!」

 (⋯⋯ん?)

 想像していたより随分と高くて可愛らしい声が出たことに違和感を覚える。

 (何か、赤ちゃんみたいな声が出たんだけど。嘘だよね、いや、ないない流石に⋯⋯流石に、ね?)

 改めて、自身の身体を見下ろし、そして、頭上を見上げれば銀髪の麗しい女性がいた。

 (いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや)

 雨宮ルルは決して飲み込みが遅い方ではない。が、現状がゲームであると勘違いをしているため、無理やり情報を繋げて理解するしかなく━━

 (あ、ああ、これって、あ、赤ちゃんプレイをする⋯⋯じゅ、18禁ゲームじゃんか確実に!)

 ━━再び、勘違いが起きた瞬間である。

 (ど、どどどどうしよう、ヤバいよ。凄い変なゲームの被験者に応募しちゃったよ。老人どもの変態的な願望を叶えるゲームだったよ最悪だよ。ゆ、友人たちが高校生活を謳歌している中、自分だけこんな変なアルバイトを⋯⋯あぁ鬱になりそう!)



 しかし、この時の彼はまだ知らなかった。今後、更なる鬱が自身を待ち受けていることを。

 そして、それは、その時期は、意外にも直ぐに訪れることも。





 ■





 ━━二ヶ月後。
 転生し、名前を『雨宮ルル』から『レゼ=リビレイト』に改名された少年は、今日も今日とて優雅に━━天井を見詰めていた。

 (あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛~、暇だあ゛~)
 
 ちなみに、改名に関するレゼの認識は『キャラクターメイキングされたなぁ』程度である。

 それより直近で最も彼を悩ませているのは言わずもがな、『退屈』だった。これこそ近々訪れるだろう「鬱」の正体であり、元々普通に生活していた人間には耐え難い究極の試練である。

 (暇すぎる、死ぬ、鬱になる~)

 現在は両親とも外出しているためレゼの傍にはお付の侍女が数人のみ。その上、彼女らはプロ意識が高いのか仕事━━オムツ替えやお乳をあげる━━の他は一言も喋らない。お乳、と言っても勿論それは彼女らのものではなく、簡素な哺乳瓶に詰められたものである。

 (18禁ゲームなら生のお乳をあげるのかと思ってたのに⋯⋯そういうゲームじゃないの?)

 生々しい映像もなければ視界にスキップボタンのひとつも存在しない。

 (これが巷で言うところのクソゲー? ずっと何もせず過ごすだけのゲーム。うん、間違いなく糞みたいなゲームだ)

 最初は豪華に思えた「1000万円」という報酬額でさえ、事前にこの実験の内容を知っていれば受けていないと断言できた。

 ━━そして、もうひとつ断言できることがある。


 (ああ、僕もしこのゲームが発売されたとしても⋯⋯⋯⋯絶対買わない)


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