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《第1章》
- ForebodinG -
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カルダーノの元に向かうべく、クロード、ジョーイ、カッシアは荷物を纏めていた。
「カルダーノ、無事……だといいんだけど」
いつも明るく前向きなクロードが後ろめいたことを口にした。
カルダーノの安否は分からず、実際本当にヘルツォーク社にいるのかも確定はしていなかった。
重苦しい沈黙をジョーイが破った。
「クロード、あいつの強さなら絶対生き残ってるに決まってるだろ。今まで誰のお陰で俺たちが死地を乗り越えてこれたと思ってるんだ?他の誰でもないカルダーノだろ?」
その言葉でクロードは顔を上げた。その目元にはうっすらではあるが涙が浮かんでいた。
「わかってます……でも、もし……もし、カルダーノに……その、なにかあったら僕は……」
クロードはそこで口を閉じ、カッシア達に背を向けた。その姿をただ無言で見ていたカッシアが音もなく立ち上がると、クロードの目の前に移動し、手に持っていたスマホでクロードの写真を何食わぬ顔で撮影した。
「カ、カッシア?!空気読めよ!」
ジョーイはその行動に驚いているが、カッシアは涼しい顔をしていた。
「……ふむ……いいものが撮れた。後でカルダーノにメールでもするか」
クロードは一瞬何があったのか理解していないようだったが、直ぐに我に返るとカッシアに掴みかかった。
「お前……!こんな状況で何やってんだよ!」
クロードの手を軽く払うと、カッシアは口元にうっすらと笑みを浮かべた。
「そうだ。その勢いだ。……手間をかけさせるな。こんな時だからこそ、副司令官の下に配属されたお前の力が必要なんだ。そんなことで落ち込むな。俺たちの副司令官は絶対に生きている。幼なじみのお前が信じなくて誰が信じてやるんだ?」
クロードはカッシアの言葉に涙を拭き、軽く深呼吸をした。
「そうだな……僕は自分の立場忘れてたよ。ありがとう、カッシア。目が覚めた。あいつは絶対に生きている。だから、行こう。カルダーノを探しに」
クロードはそう言うと荷物を背負い、立ち上がる。その表情は先程のように暗くは沈んでおらず強い意志を感じられた。
「やり方というものがあるだろ……カッシア」
ジョーイはカッシアにそう言葉をかけた。
「人には……やる気が出る言い方、というものがある。……クロードは、自分の情けないところがカルダーノに見られることを嫌う……だから、あの方法が1番有効的だ」
ジョーイはため息をついたが、何も言い返せなかった。
「しかし、カッシア。お前、あの間合いを詰める時、いや。立ち上がる時音がしなかった……」
カッシアはジョーイの方を見て口を開いた。
「仕方がない。家系……代々の職業柄の問題だ。俺はその仕事で手を汚してはいないから……安心しろ」
その言葉にジョーイではなく、クロードが反応した。
「そういえば、カッシアの家って元々どんな仕事してたんだっけ?」
カッシアはしばらく考えていたが、慎重な面持ちで口を開いた。
「俺……か。俺は……いや、俺の家族は代々『暗殺業』で生計を立てていたんだ。俺は今は軍人だが……父の代で暗殺業は畳むと言っていた。安全に稼げない、表立って生活できないからだ、とも聞いている。今は家族全員足を洗っている。しっかり一般人として生活しているさ」
その言葉にクロードとジョーイは絶句した。
「どおりで、気配消すのも偵察も上手いわけだ……」
やっとのことでジョーイが口を開いた。軽く頭を横に振って気持ちを切り替え再び歩き出した。
「さぁ、行こうか。カルダーノの所……ヘルツォーク社へ!」
クロードの威勢のいいその言葉にカッシアとジョーイは頷いた。
これから進む先がとてつもなく険しく、危険だということも知らず。ただ『仲間を助けたい』その気持ちだけで進むのは相応しくない……と気づくのはそう遅くはならないだろう。
クロード達が軍部を出てから約1時間車に揺られていた。道を知っているのはジョーイの為、彼が車を出した。
「軍の車使えないのだるいよなぁ……だって弾薬とか常備なんだし……積み替える必要なかったのに……」
クロードが窓の外を見ながらため息をついた。
「クロード。我儘を言うな……仕方ないだろ、カルダーノが消えたなんて言えないからな……他のメンツには」
ジョーイはそう言うとゆっくりと車の速度を緩めていく。
「よし、もうそろそろヘルツォーク社の裏道に着く。そこからは歩きで行く。車だとバレちまうからな……この辺に車を停めていく」
ジョーイは車を近くの獣道の中に停め、車を降りた。それに続くようにカッシアとクロードも降りた。
「にしても……ここ行くのか……」
クロードは深々とため息をついた。
これから進もうとしているところは道があった影すらもない整備のされていない道。
その道を見据えながらカッシアが口を開いた。
「これくらい、問題は無いさ。ただ、地下からの侵入とだけあってどのようなセキュリティシステムがあるのかすら分からない。……これだけデカい会社だ。何かしら罠はあると思った方がいいだろうな」
カッシアの言葉にクロードたちは頷いた。
「じゃあ、行こうか」
クロードのその言葉と共に未開の道を進み始めた。
慎重に進むこと約2時間。
クロードは額の汗を拭いながらジョーイに声をかけた。
「先輩。どの辺まで進めばいいんですか?」
ジョーイはかつて自分の父親がつけた目印を探しながら答えた。
「親父が言ってた印があとひとつあるはずだ。それを見つけたらすぐに扉がわかると言っていた。あと少し……のはずだ……」
ジョーイの言葉にクロードも周辺を確認しながら歩みを進めるようになった。
「おい……カッシアは?」
ジョーイが足を止め、辺りを見渡す……が、カッシアの姿は見当たらず、クロードも足を止めた。
「あれ……本当だ。どこに……」
カルダーノと同様、攫われたのではないか……そんな考えがクロードの頭の中に浮かんだ。クロードは咄嗟に来た道を引き返そうと動き出したが、ジョーイに引き留められた。
「落ち着け、クロード。お前ひとりで引き返したとしても、迷うだけだ。そうなれば敵の思うつぼだ。ここで一旦待とう」
クロードはジョーイの方を向き、少し考えてから頷いた。
「そう……ですね。先輩の言う通りです。2時間程ここでカッシアを待ちましょう。それで来なければ先に進みます」
ジョーイは掴んでいたクロードの腕を離し、頷いた。
「寒いとは思うが、火は起こさない。もし、引火でもしたら大変だ……それに、俺達をつけている敵が居たとしたら場所がバレてしまうからな」
そう言うとジョーイは上着を着直し、近くの倒木に腰かけた。その手にはしっかりとベネリM3というジョーイ愛用のポンプ式ショットガンが握られていた。
クロードは近くの木にもたれかかり、愛用武器のSCAR-Lを足元に立て掛けておいた。そのままクロードは考え事に耽っていた。
待つこと約1時間半。カッシアが戻ってくる気配は一向にない。
「おい、クロード。2時間経っても戻ってこなかったら少し時間伸ばして待つか?」
ジョーイの問いかけにクロードは首を横に振った。
「いや、待ちません。来なければ僕と先輩だけでこの先進みます。引き伸ばして、遅くなって……助けられなかったら、それこそ後悔すると思うので」
そう答えたクロードの目には強い意志が宿っていた。「絶対に助ける。誰も死なせはしない」そう目が語っていた。
出発目前になると、クロードが準備をしようと動こうとした。すると、その喉元に何か冷たいものが触れクロードは動きを止めた。その感覚には覚えがあった。
「これは……ナイフ……」
相手にきこえないようにボソッとそう口にした。クロードは下手な抵抗をせず、敵側の要求を待った。……が、しかし。切られることもなく、それがクロードの首から離れた。
「……え……?」
クロードは恐る恐る振り向いた。
そこにはカッシアの姿があった。
「……何、呆けた顔している。ふっ……俺の腕も落ちたもんじゃないな……」
カッシアの姿を見たクロードは安堵からか、深くため息をついた。
「お前……本当に、心配したんだぞ。攫われたかもしれないなんて考えまでしたんだぞ?」
カッシアはバツが悪そうに目を逸らした。
「いや、その……すまん。俺、偵察を先にしてどんな危険があるか教えようと思ってな……」
ジョーイはカッシアの肩に手を置いた。
「まあ、それでも。一応仲間に伝えておいた方がいいと思うぞ」
その言葉にカッシアは頷いた。
「あぁ。次から、そうする。……そうだ、この先に地面に固定された鉄板を見つけた。……多分そこが入口だと思う。最近取り替えたあとがあった」
3人は顔を見合わせ、頷き歩みを進めた。
約1時間後。
カッシアが見つけたという鉄板を見つけた。
「確かに、ここにあるにしては錆がない。引き摺ったような跡もある……恐らくここが親父から聞いた地下への入口なんだろうな」
ジョーイはその場にしゃがみこみ、外せないか試し始めた。鉄板はしっかり固定されており、外せないようになっていた。
「……しっかり固定されているようだな。ジョーイ、少し変わってくれ。この程度のものなら……少量の、爆薬で何とかなる」
カッシアはそう言うとサイドバックから小さな包み紙とプラスチックの筒等を取り出し簡単に組み立てる。直ぐに簡易なプラスチック爆弾が完成しそれを、鉄板と地面の間にねじ込み少し離れカッシアがサイレンサーの着いたSMGで撃ち抜く。すると、極めて小規模な爆発を起こし、鉄板が外れた。
「こんなもんか。……守るならもっと厳重にしないと……意味無いぞ……」
カッシアは眉をひそめ、外れた鉄板をずらした。そこには階段があった。
「ここから……ヘルツォーク社の内部に行けるのか……にしても、なんだ?この匂い」
クロードは思わず口と鼻を手で覆った。
「確かに……なんと言えばいいのか、生臭い?違う気がするが……とにかく不快だな」
ジョーイも普段戦場でする布で口元を覆っていた。
ただひとり、カッシアだけは涼しい顔をしていた。
「なんだ、この程度で……とにかくこんなところで足を止めている暇は無いはずだ。行くんだろ?カルダーノ助けに」
カッシアの言葉にクロードは顔を上げ、銃を握り直し頷いた。
「あぁ、行こう。俺達の仲間を助けに」
クロードの言葉を合図に、階段を降り暗闇の中へ進み始めた。
クロードは懐中電灯のスイッチを入れ、ゆっくり歩き進む。それにカッシアとジョーイが続く。
「地下水道……?いや、そんなことは無いか……よく分からないが」
どこからか水の滴る音が聞こえてきたり、恐らく鼠と思われる生き物が這う音がきこえていた。どこから襲われてもおかしくないくらい音が木霊している。
そのまま辺りを照らしながら進むと、地下牢のような格子戸が沢山ある空間に出た。各々が懐中電灯で照らしながら歩いていると、カッシアは1つの格子戸に鍵が刺さったままになっていることに気づいた。
「杜撰な……いや、これも罠……?」
カッシアは呟き、その鍵を見つめながら、ゆっくりと近づいた。よく見ると錆びており、途中で折れていることがわかった。カッシアはそれに手を伸ばそうとして格子部屋の中に1枚の紙が落ちている事に気づき、鍵を手に取るのをやめ格子戸を開いた。
中に入ったカッシアはその紙を拾い、懐中電灯で照らした。その紙には赤黒い拙い文字が沢山書いてあった。
「これは……インクじゃなくて……まさか、血か?」
カッシアが部屋の中で座り込んでいるのを見たクロードが近づいていった。
「カッシア?どうした?」
クロードの言葉にカッシアは拾った紙を見せた。
「ん?手紙……か?」
その様子に気づいたジョーイも合流した。
「お、どうした?なんか手がかりか?」
ジョーイは横からその紙を覗き込んだ。
「手がかりかは分からないですけど……ちょっと読んでみます。えーっと?……『俺は、いつまでこんな事を続ける?もう、誰も殺したくない。手が赤く汚れるのは、嫌だ。もう、やめたい、誰も殺したくない、俺は死神じゃない』……か。死神……?どこかで聞いたきがする。それに、これ日付が1か月前になってる」
クロードは頭を抱えて死神と呼ばれるこの人物について考え込んだ。すると、カッシアが静かに口を開いた。
「死神……生まれてすぐ裏社会に攫われた奴なら心当たりがある。……通称『死神』。本名は『バルト・ルディアス』という奴がいるのは知っているが……そいつとも限らない。噂によれば少し前に死んでいるとか……」
バルト、という名前を聞いた途端ジョーイが信じられないというようにカッシアを見つめた。
「バルト……ルディアス?!あいつはお前らが軍に入ったあと3ヶ月後に政府からの命令で排除……俺が当時率いていた小隊で捕え、公開処刑されているはず……だから、その日付はありえないはずだ」
言い切るジョーイにカッシアは冷静に反論をした。
「もし、その時に捕まえたのがバルトの偽物だったかもしれない……そうは考えなかったのか?裏社会に囚われた人間なら幾らでも影武者、ダミーはいる。俺も元々そっち側の人間だからわかるんだ」
カッシアの言うことは説得力があり、ジョーイは幾度となく頷いていた。
「もし、生きていたとしたらどうなるんですか?」
クロードはふと思ったことを口にした。
「もし、生きているのであれば……カルダーノを攫ったのはそいつの可能性がある。そして、カルダーノが生きているという可能性も格段に落ちる……」
その言葉を聞いたクロードには怒り、よりも絶望の表情が顕になった。それに気づいたカッシアはクロードの背中を軽く叩いた。
「大丈夫だ。もし、俺たちに復讐しようとしているのならばカルダーノは生かしておくはずだ。まだ希望はある」
カッシアに引っ張られるようにしてクロード達はその場を後にした。カッシアの手にはその死神と呼ばれる者のメモが握られていた。
右も左も分からない状況で奥へと進んでいくカッシア達。クロードはまだ気持ちの切り替えが出来ないままでいた。水の流れる音が徐々に近づいており、明かりのついた場所へとたどり着いた。そこは下水道だった。反対側の通路には扉があり、そこから僅かに階段があるのが確認できた。
「おい、カッシア。あの先行けばこの地下から抜け出せそうじゃないか?」
ジョーイが下水道を挟んだ反対側に見える扉を指さした。その表情は心做しか安堵しているように捉えられた。
「無くはないが……ここ、渡る気か?」
カッシアはそう言うと下水道を見た。水路の幅は広く、流れが速い。水量も多かった。その為、流されるかもしれないとカッシアは考えていた。
「それしか最短ルートはないだろ?」
カッシアはその言葉にため息をついた。
「ヘルツォーク社は昔から裏社会との繋がりの噂が絶えないんだ。水路になにか仕掛けてある可能性も否めない」
カッシアの言葉にようやくクロードが口を開いた。
「じゃあ。どうすればいいんだ?早く行かないとカルダーノが危ない」
カッシアはクロードとジョーイを交互に見て、諦めたかのようにサイドバックを漁った。少ししてカッシアはグラップルガンを手に持っていた。
「万が一のために持っていたが……まさか使う羽目になるとはな……」
そう言うとカッシアは反対側の通路上にあるパイプにそれを撃ち込み、ワイヤーを張った。
「あとはどう行くかは各自に任せる。俺は専用金具持ってるから問題がないが」
クロードはカッシアが言い終わる前にワイヤーを掴み、そのまま腕の力のみで渡って行った。軍の中で1番小柄で身軽なクロードだからこそできる荒業だった。それを見たカッシアはジョーイに無言で金具を手渡した。
「本当はクロードにも渡すつもりだったが……それより、本来グラップルの使用はこういうのは想定していない。何かあっても自己責任だ。いいな?」
カッシアはそうジョーイに釘を刺し、自分が先にワイヤーに金具を引っ掛け、先に進み使い方をジョーイに見せた。ジョーイも同じようにワイヤーに金具を引っ掛け、進んだ。全員が合流すると金属製の扉を開け、先に進む。扉の先にある階段を昇る。
階段の先には少し開けた部屋があり、地下から出られた訳では無いということに気づくのに時間はかからなかった。
クロードは壁にかかっている破れた地図を見つけ、舌打ちをした。
「まだ地下か……くそっ……」
カッシアは顔色ひとつ変えずに、クロードの隣から地図を見つめている。
「……なるほど。まだ割と時間はかかりそうだ。とりあえず……一旦休憩しよう。万が一の時に備えて、だ」
カッシアはクロードの状態を考慮し、そう提案した。精神的疲労がある、そう判断したのだ。
「いや、このまま先に……」
クロードは尚も先に進もうとするが、それをカッシアは許さなかった。
「ダメだ。休憩は絶対必要だ……特にお前は」
クロードは引き留められた事に苛立ちを隠せなかった。
「は?カルダーノの危機だってのに休めって?お前……正気?」
当たり前だ、と言わんばかりの冷たい目でカッシアはクロードを見ている。
暫く2人は睨み合っていたが、クロードが折れた。
「わかったよ……」
クロードが部屋に置いてある木箱に腰を下ろした。それを見届けたカッシアは腕時計を見た。
「15分後に……出る」
カッシアの言葉とともに、ジョーイも近くの木箱に腰を下ろした。カッシアはナイフの手入れを始めた。
「クロード、この任務……いや、この仕事は今までとは訳が違う……本部からの援軍も無ければ、俺達が死んだところで責任を取らなきゃいけないのは生死問わずカルダーノになる。そうなった場合、迷惑はカルダーノの姉に……だから、少しは頭を冷やしてくれ」
クロードはそう指摘され静かに頷いた。カッシアは再度腕時計を確認し、部屋を見渡す。ほとんど廃材ばかりで使えそうなものは無く、最近人が来た形跡もない。冷静に分析をしながらカッシアはふと違和感を感じた。
「カッシア、どうした?」
カッシアの表情が少し強ばった事に気づいたジョーイが声をかけた。
「いや……何か、こう……この部屋に違和感があるというか……」
ジョーイはカッシアと同じように部屋を見渡した。そして、ジョーイは破られた地図の前に立った。
「この地図真新しいよな。どう見ても。でもなんでこんなに破られてるのかわからない。」
破れ、床に散らばった地図の破片をカッシアは手に取り観察している。
「これは、意図的に切り刻まれた訳では無い……と思う。切り口が綺麗じゃない。何かあって破られた……そして、何か、惨劇があったらしい。上手くその部分を隠しているみたいだが少し残っている」
カッシアはジョーイに地図の破片を見せた。よく見るとこそには赤黒いシミがついていた。他の破片を上手く繋ぎ合わせ、大体の形を取り戻した。カッシアはこんな時「カルダーノならどうするか」と、一瞬考えそうになったが頭を横に振って考えないように気持ちを切り替えた。
「これは俺自身で考えないとダメなんだ。ずっとあいつだったら……なんて甘えてたら前に進めない」
再び地図を見つめ、短く息を吐き出した。どのルートから行っても必ず組み立てができなかった地図で示されている地下の中心部を通過しなければならなかった。この中心部には何があるのか、どんな部屋なのかが全く分からない状態だった。
「この中心部は……」
カッシアは指で壁を叩いている。
「ここだけないのか」
カッシアは顎に手を当てて考え込んだ。建物の構造自体は全く分からないが大手製薬会社ということもあり地下にはダストシュートや薬品の廃棄所を作ってあると考えついた。
「ここにあるのは恐らく、ダストシュートか薬品廃棄所……のはずだ。薬品会社なら……」
カッシアのその言葉にクロードが口を開いた。
「なぁ、カッシア。ヘルツォーク社は地下で何やら実験をしているって噂があったんだ。もし、それが事実なら実験場があるのかもしれない」
実験、そう口に出したカッシアは再び考え込んだ。
暫く沈黙がその場を支配していた。そしてジョーイか沈黙を破った。
「バルトと言い、ヘルツォーク社の噂……もしこれらが全て事実だとしたら俺らは確実にカルダーノよりも危機的状況にあると考えて間違いはないと思うが……どうだ?」
カッシアは頷いた。そして腕時計を確認すると、地図から離れ荷物を持った。
「あぁ、間違いない。事実確認は別として……今ここで何かあったら袋の鼠だ。……時間だ。行こう」
クロードたちはカッシアとともにその部屋を後にした。
小部屋から進むこと約30分。入り組んだ通路を3人は歩いていた。
「どこ通ったのかすらもうわかんないや……」
似たような道ばかりを目にし、クロードは嘆いていた。そんなクロードを尻目にカッシアは淡々と歩みを進めており、ジョーイもそれについていった。さらに進むと、脇道の床に紙が落ちているのをクロードは見つけた。
「カッシア!あそこ、なんかあるぞ」
クロードは脇道を指さし、それを拾った。
「また、あの赤黒い字で書いてある……なになに?『俺は数ヶ月前殺される予定だったらしいが、りんどーって人の手引きで助かったらしい。その代わり俺に似た1人の子供が死んだとか……結局俺に関わったやつはロクな事がない……子供を選ぶなんて惨いことを。俺の言えた立場では無いが。それでもやっぱり死ぬべきだったのは俺なんじゃないだろうか?皆から忌み嫌われている死神なんだ。死神なんて必要ないだろ?』か。……また、死神か」
クロードはその紙をカッシアの持っていた手紙と照らし合わせて見た。文字の癖、字体、文字の色……全てが一致している。
「やっぱり……バルトは生きている。あの時処刑されたのは別の……」
ジョーイの顔は少し血の気がないように感じられた。カッシアはポケットからメモ帳を取り出し、なにやら書き込んでいた。クロードは手紙にバルトが書いたのか確認できないか名前を探している。
「この手紙の内容からして、俺達の軍への恨みは感じられない。むしろ自分に対しての嫌悪しかない……と、言うことはバルトは白だ」
カッシアの言葉にジョーイとクロードは顔を見合せた。
「な、なんで言いきれるんだ?教えてくれ、カッシア」
カッシアはジョーイをに自分がメモした部分を見せた。
「まず、俺達のことを恨んでいるならまずジョーイ、お前の特徴を書くはずだ。だが、拾ったこの2枚にはそれは1ミリも触れられてない。むしろ死神と呼ばれる自分に対して『生きる価値がない』というような言葉多くがある。前のやつにも。だから、バルトはその時の軍隊の存在は眼中に無いんだ。おそらく今回の主犯はこの『りんどー』とか言う奴だ」
カッシアのその考えに2人は納得したように頷いた。そして、再び先へと進み始めた。
進んでいく中でクロードは一瞬空気が揺らいだのに気づき、銃を構えた。何かいる、そう本能が伝えていた。それは他の2人にも感じていたようで警戒態勢に入っていた。クロードの視界の端で影が動き、そこに向かって銃を撃った。すると、その影は脇道の床で動かなくなった。クロードはその影に近づき、正体を探った。
「なんだ……これ」
クロードは自分の目を疑った。彼が射殺した物は見た目は蛇そのものだが、どこか蛇とは違う部分があった。蛇の目は白濁しており、見えている感じはしない。地下通路は灯りがともしてあり、目が退化するほど光が無いわけじゃない。そして、普通の蛇は牙を口内に収納出来るがそれはもはや口を貫通し、牙は剥き出し状態で顔や胴体が何故か蝋のように白く爛れていた。仕舞うことすら出来なくなっている牙からはかなり強力だと思われる毒が滴っていた。
「アルビノ……ではないよな。これは……一体何が……?」
カッシアとジョーイも覗き込んだ。
「なんなんだよ。こいつ。蛇……のようだが……」
カッシアは静かに口を開いた。
「変異種、とでも言うやつか」
クロードは『変異種』という言葉に首を傾げた。ジョーイもなにやら考えていた。その様子を見たカッシアはため息混じりに自分の憶測を話した。
「はぁ……変異種、というのは普通は生物兵器を作ろうとする時に人の手で……薬品などを使って対象を化け物のように変化させたもののことだ。ヘルツォーク社は製薬会社だ。廃棄した薬品……」
ジョーイはカッシアの言葉が終わらないうちに彼を突き飛ばした。その直後、1匹の蛇がカッシアの立っていた場所に飛びかかった。その蛇が立て直さないうちに、ジョーイは蛇の頭を撃ち抜き、絶命させた。
「嘘だろ、さっきクロードが殺したはずじゃ……」
蛇の体にはクロードが撃ち込んだ銃痕が残っており、普通の生物であれば失血で絶命しているはずだった。
「化け物だろ……こんなの……」
クロードは恐怖を抱いていることを隠せなかった。銃を持つその手は震えていた。
「ジョーイ、助かった。ありがとう」
カッシアはそう言うと立ち上がり、服についた汚れをはたいて落とした。
「先を急いだ方がいいかもしれない。今の銃声で他にも寄ってきたらまずい……」
そう話すジョーイの表情は今まで見たことの無いほど険しかった。3人は周辺を警戒しつつ足速に先へと進み、鉄製の扉を開け中に入った。
部屋に入るや否や、ジョーイが先程の話をもういちど始めた。
「それで?変異種がなんだった?」
カッシアは続きを口にした。
「さっきジョーイが殺した蛇はヘルツォーク社の廃棄した薬品が混ざりあった水を飲んだのかそれを含んだ鼠を食したか……そのどちらかであの姿になったのだと思う。もし、薬品の化学反応でなければヘルツォーク社は意図的に生物兵器でも作る気なんだろう……っていいたかったんだ」
クロードは先程の光景を思い出し思わず身震いをした。ジョーイも信じられない、というようにカッシアの話を聞いていた。
すると、扉の外から呻き声や地響きとも捉えられるような低い音が聞こえ始めた。
「……まずい。来た道からも、その先からも……何か音がする……」
カッシアのその言葉にジョーイが真っ先に口を開いた。
「俺が引きつける。そうすれば安全に進めるだろ?俺、蛇とか好きだからちょっと遊んでやるだけだから……必ず追いつく」
カッシアもクロードも音の正体は蛇以外のものもいる、ということに気づいていてはいたがジョーイを引き止めることは出来ないと悟り、ただ頷くしか出来なかった。
ジョーイはネックレスを外し、クロードに手渡した。
「先輩?」
クロードが不安そうにジョーイを見つめると、彼は笑をたたえて
「お前らが寂しくないようにだ!」
と、明るく答えた。しかし、その瞳の奥にはどこか拭えない恐怖、不安が揺らいでいた。
「誰が寂しいなんて思うか。ジョーイ、無理だけはするな」
カッシアは眉間に皺を寄せ、そう言葉にすることしか出来なかった。
「大丈夫だ。そうだな……1時間だけ猶予をくれ。必ず道は作っておく」
不安を隠せないクロード達に背を向け、ジョーイはベネリM3を構えこれからクロード達が進む扉へと姿を消した。
扉の外からは発砲音が響いていたがそれも徐々に遠のいて行った。
「……そろそろか、行こう。カッシア」
殆ど発砲音が聞こえなくなったあたりでクロードはカッシアを連れて扉を開けた。扉の先には多数の化け物の死体が転がっていた。
「さすが、軍唯一の接近戦の専門家だ。……確実に頭を狙っている。厳しければ、有利になるようにも狙ってある……」
カッシアは頭の無い化け物の死体を見てそう呟いた。クロードは改めて自分の上司、先輩の凄さを思い知った。
ジョーイの切り開いてくれた道を2人は銃を構えつつ進む。
そして、約1時間進んだところで人影を見つけ警戒をしつつ、クロード達は近づいて行った。
「そんなところで何して……っ?!」
クロードはその人物がハッキリと確認できると息を飲んだ。
「……え……」
どんな状況でも顔色一つ変えないカッシアも今回ばかりは驚きの色を顕にした。
「カルダーノ、無事……だといいんだけど」
いつも明るく前向きなクロードが後ろめいたことを口にした。
カルダーノの安否は分からず、実際本当にヘルツォーク社にいるのかも確定はしていなかった。
重苦しい沈黙をジョーイが破った。
「クロード、あいつの強さなら絶対生き残ってるに決まってるだろ。今まで誰のお陰で俺たちが死地を乗り越えてこれたと思ってるんだ?他の誰でもないカルダーノだろ?」
その言葉でクロードは顔を上げた。その目元にはうっすらではあるが涙が浮かんでいた。
「わかってます……でも、もし……もし、カルダーノに……その、なにかあったら僕は……」
クロードはそこで口を閉じ、カッシア達に背を向けた。その姿をただ無言で見ていたカッシアが音もなく立ち上がると、クロードの目の前に移動し、手に持っていたスマホでクロードの写真を何食わぬ顔で撮影した。
「カ、カッシア?!空気読めよ!」
ジョーイはその行動に驚いているが、カッシアは涼しい顔をしていた。
「……ふむ……いいものが撮れた。後でカルダーノにメールでもするか」
クロードは一瞬何があったのか理解していないようだったが、直ぐに我に返るとカッシアに掴みかかった。
「お前……!こんな状況で何やってんだよ!」
クロードの手を軽く払うと、カッシアは口元にうっすらと笑みを浮かべた。
「そうだ。その勢いだ。……手間をかけさせるな。こんな時だからこそ、副司令官の下に配属されたお前の力が必要なんだ。そんなことで落ち込むな。俺たちの副司令官は絶対に生きている。幼なじみのお前が信じなくて誰が信じてやるんだ?」
クロードはカッシアの言葉に涙を拭き、軽く深呼吸をした。
「そうだな……僕は自分の立場忘れてたよ。ありがとう、カッシア。目が覚めた。あいつは絶対に生きている。だから、行こう。カルダーノを探しに」
クロードはそう言うと荷物を背負い、立ち上がる。その表情は先程のように暗くは沈んでおらず強い意志を感じられた。
「やり方というものがあるだろ……カッシア」
ジョーイはカッシアにそう言葉をかけた。
「人には……やる気が出る言い方、というものがある。……クロードは、自分の情けないところがカルダーノに見られることを嫌う……だから、あの方法が1番有効的だ」
ジョーイはため息をついたが、何も言い返せなかった。
「しかし、カッシア。お前、あの間合いを詰める時、いや。立ち上がる時音がしなかった……」
カッシアはジョーイの方を見て口を開いた。
「仕方がない。家系……代々の職業柄の問題だ。俺はその仕事で手を汚してはいないから……安心しろ」
その言葉にジョーイではなく、クロードが反応した。
「そういえば、カッシアの家って元々どんな仕事してたんだっけ?」
カッシアはしばらく考えていたが、慎重な面持ちで口を開いた。
「俺……か。俺は……いや、俺の家族は代々『暗殺業』で生計を立てていたんだ。俺は今は軍人だが……父の代で暗殺業は畳むと言っていた。安全に稼げない、表立って生活できないからだ、とも聞いている。今は家族全員足を洗っている。しっかり一般人として生活しているさ」
その言葉にクロードとジョーイは絶句した。
「どおりで、気配消すのも偵察も上手いわけだ……」
やっとのことでジョーイが口を開いた。軽く頭を横に振って気持ちを切り替え再び歩き出した。
「さぁ、行こうか。カルダーノの所……ヘルツォーク社へ!」
クロードの威勢のいいその言葉にカッシアとジョーイは頷いた。
これから進む先がとてつもなく険しく、危険だということも知らず。ただ『仲間を助けたい』その気持ちだけで進むのは相応しくない……と気づくのはそう遅くはならないだろう。
クロード達が軍部を出てから約1時間車に揺られていた。道を知っているのはジョーイの為、彼が車を出した。
「軍の車使えないのだるいよなぁ……だって弾薬とか常備なんだし……積み替える必要なかったのに……」
クロードが窓の外を見ながらため息をついた。
「クロード。我儘を言うな……仕方ないだろ、カルダーノが消えたなんて言えないからな……他のメンツには」
ジョーイはそう言うとゆっくりと車の速度を緩めていく。
「よし、もうそろそろヘルツォーク社の裏道に着く。そこからは歩きで行く。車だとバレちまうからな……この辺に車を停めていく」
ジョーイは車を近くの獣道の中に停め、車を降りた。それに続くようにカッシアとクロードも降りた。
「にしても……ここ行くのか……」
クロードは深々とため息をついた。
これから進もうとしているところは道があった影すらもない整備のされていない道。
その道を見据えながらカッシアが口を開いた。
「これくらい、問題は無いさ。ただ、地下からの侵入とだけあってどのようなセキュリティシステムがあるのかすら分からない。……これだけデカい会社だ。何かしら罠はあると思った方がいいだろうな」
カッシアの言葉にクロードたちは頷いた。
「じゃあ、行こうか」
クロードのその言葉と共に未開の道を進み始めた。
慎重に進むこと約2時間。
クロードは額の汗を拭いながらジョーイに声をかけた。
「先輩。どの辺まで進めばいいんですか?」
ジョーイはかつて自分の父親がつけた目印を探しながら答えた。
「親父が言ってた印があとひとつあるはずだ。それを見つけたらすぐに扉がわかると言っていた。あと少し……のはずだ……」
ジョーイの言葉にクロードも周辺を確認しながら歩みを進めるようになった。
「おい……カッシアは?」
ジョーイが足を止め、辺りを見渡す……が、カッシアの姿は見当たらず、クロードも足を止めた。
「あれ……本当だ。どこに……」
カルダーノと同様、攫われたのではないか……そんな考えがクロードの頭の中に浮かんだ。クロードは咄嗟に来た道を引き返そうと動き出したが、ジョーイに引き留められた。
「落ち着け、クロード。お前ひとりで引き返したとしても、迷うだけだ。そうなれば敵の思うつぼだ。ここで一旦待とう」
クロードはジョーイの方を向き、少し考えてから頷いた。
「そう……ですね。先輩の言う通りです。2時間程ここでカッシアを待ちましょう。それで来なければ先に進みます」
ジョーイは掴んでいたクロードの腕を離し、頷いた。
「寒いとは思うが、火は起こさない。もし、引火でもしたら大変だ……それに、俺達をつけている敵が居たとしたら場所がバレてしまうからな」
そう言うとジョーイは上着を着直し、近くの倒木に腰かけた。その手にはしっかりとベネリM3というジョーイ愛用のポンプ式ショットガンが握られていた。
クロードは近くの木にもたれかかり、愛用武器のSCAR-Lを足元に立て掛けておいた。そのままクロードは考え事に耽っていた。
待つこと約1時間半。カッシアが戻ってくる気配は一向にない。
「おい、クロード。2時間経っても戻ってこなかったら少し時間伸ばして待つか?」
ジョーイの問いかけにクロードは首を横に振った。
「いや、待ちません。来なければ僕と先輩だけでこの先進みます。引き伸ばして、遅くなって……助けられなかったら、それこそ後悔すると思うので」
そう答えたクロードの目には強い意志が宿っていた。「絶対に助ける。誰も死なせはしない」そう目が語っていた。
出発目前になると、クロードが準備をしようと動こうとした。すると、その喉元に何か冷たいものが触れクロードは動きを止めた。その感覚には覚えがあった。
「これは……ナイフ……」
相手にきこえないようにボソッとそう口にした。クロードは下手な抵抗をせず、敵側の要求を待った。……が、しかし。切られることもなく、それがクロードの首から離れた。
「……え……?」
クロードは恐る恐る振り向いた。
そこにはカッシアの姿があった。
「……何、呆けた顔している。ふっ……俺の腕も落ちたもんじゃないな……」
カッシアの姿を見たクロードは安堵からか、深くため息をついた。
「お前……本当に、心配したんだぞ。攫われたかもしれないなんて考えまでしたんだぞ?」
カッシアはバツが悪そうに目を逸らした。
「いや、その……すまん。俺、偵察を先にしてどんな危険があるか教えようと思ってな……」
ジョーイはカッシアの肩に手を置いた。
「まあ、それでも。一応仲間に伝えておいた方がいいと思うぞ」
その言葉にカッシアは頷いた。
「あぁ。次から、そうする。……そうだ、この先に地面に固定された鉄板を見つけた。……多分そこが入口だと思う。最近取り替えたあとがあった」
3人は顔を見合わせ、頷き歩みを進めた。
約1時間後。
カッシアが見つけたという鉄板を見つけた。
「確かに、ここにあるにしては錆がない。引き摺ったような跡もある……恐らくここが親父から聞いた地下への入口なんだろうな」
ジョーイはその場にしゃがみこみ、外せないか試し始めた。鉄板はしっかり固定されており、外せないようになっていた。
「……しっかり固定されているようだな。ジョーイ、少し変わってくれ。この程度のものなら……少量の、爆薬で何とかなる」
カッシアはそう言うとサイドバックから小さな包み紙とプラスチックの筒等を取り出し簡単に組み立てる。直ぐに簡易なプラスチック爆弾が完成しそれを、鉄板と地面の間にねじ込み少し離れカッシアがサイレンサーの着いたSMGで撃ち抜く。すると、極めて小規模な爆発を起こし、鉄板が外れた。
「こんなもんか。……守るならもっと厳重にしないと……意味無いぞ……」
カッシアは眉をひそめ、外れた鉄板をずらした。そこには階段があった。
「ここから……ヘルツォーク社の内部に行けるのか……にしても、なんだ?この匂い」
クロードは思わず口と鼻を手で覆った。
「確かに……なんと言えばいいのか、生臭い?違う気がするが……とにかく不快だな」
ジョーイも普段戦場でする布で口元を覆っていた。
ただひとり、カッシアだけは涼しい顔をしていた。
「なんだ、この程度で……とにかくこんなところで足を止めている暇は無いはずだ。行くんだろ?カルダーノ助けに」
カッシアの言葉にクロードは顔を上げ、銃を握り直し頷いた。
「あぁ、行こう。俺達の仲間を助けに」
クロードの言葉を合図に、階段を降り暗闇の中へ進み始めた。
クロードは懐中電灯のスイッチを入れ、ゆっくり歩き進む。それにカッシアとジョーイが続く。
「地下水道……?いや、そんなことは無いか……よく分からないが」
どこからか水の滴る音が聞こえてきたり、恐らく鼠と思われる生き物が這う音がきこえていた。どこから襲われてもおかしくないくらい音が木霊している。
そのまま辺りを照らしながら進むと、地下牢のような格子戸が沢山ある空間に出た。各々が懐中電灯で照らしながら歩いていると、カッシアは1つの格子戸に鍵が刺さったままになっていることに気づいた。
「杜撰な……いや、これも罠……?」
カッシアは呟き、その鍵を見つめながら、ゆっくりと近づいた。よく見ると錆びており、途中で折れていることがわかった。カッシアはそれに手を伸ばそうとして格子部屋の中に1枚の紙が落ちている事に気づき、鍵を手に取るのをやめ格子戸を開いた。
中に入ったカッシアはその紙を拾い、懐中電灯で照らした。その紙には赤黒い拙い文字が沢山書いてあった。
「これは……インクじゃなくて……まさか、血か?」
カッシアが部屋の中で座り込んでいるのを見たクロードが近づいていった。
「カッシア?どうした?」
クロードの言葉にカッシアは拾った紙を見せた。
「ん?手紙……か?」
その様子に気づいたジョーイも合流した。
「お、どうした?なんか手がかりか?」
ジョーイは横からその紙を覗き込んだ。
「手がかりかは分からないですけど……ちょっと読んでみます。えーっと?……『俺は、いつまでこんな事を続ける?もう、誰も殺したくない。手が赤く汚れるのは、嫌だ。もう、やめたい、誰も殺したくない、俺は死神じゃない』……か。死神……?どこかで聞いたきがする。それに、これ日付が1か月前になってる」
クロードは頭を抱えて死神と呼ばれるこの人物について考え込んだ。すると、カッシアが静かに口を開いた。
「死神……生まれてすぐ裏社会に攫われた奴なら心当たりがある。……通称『死神』。本名は『バルト・ルディアス』という奴がいるのは知っているが……そいつとも限らない。噂によれば少し前に死んでいるとか……」
バルト、という名前を聞いた途端ジョーイが信じられないというようにカッシアを見つめた。
「バルト……ルディアス?!あいつはお前らが軍に入ったあと3ヶ月後に政府からの命令で排除……俺が当時率いていた小隊で捕え、公開処刑されているはず……だから、その日付はありえないはずだ」
言い切るジョーイにカッシアは冷静に反論をした。
「もし、その時に捕まえたのがバルトの偽物だったかもしれない……そうは考えなかったのか?裏社会に囚われた人間なら幾らでも影武者、ダミーはいる。俺も元々そっち側の人間だからわかるんだ」
カッシアの言うことは説得力があり、ジョーイは幾度となく頷いていた。
「もし、生きていたとしたらどうなるんですか?」
クロードはふと思ったことを口にした。
「もし、生きているのであれば……カルダーノを攫ったのはそいつの可能性がある。そして、カルダーノが生きているという可能性も格段に落ちる……」
その言葉を聞いたクロードには怒り、よりも絶望の表情が顕になった。それに気づいたカッシアはクロードの背中を軽く叩いた。
「大丈夫だ。もし、俺たちに復讐しようとしているのならばカルダーノは生かしておくはずだ。まだ希望はある」
カッシアに引っ張られるようにしてクロード達はその場を後にした。カッシアの手にはその死神と呼ばれる者のメモが握られていた。
右も左も分からない状況で奥へと進んでいくカッシア達。クロードはまだ気持ちの切り替えが出来ないままでいた。水の流れる音が徐々に近づいており、明かりのついた場所へとたどり着いた。そこは下水道だった。反対側の通路には扉があり、そこから僅かに階段があるのが確認できた。
「おい、カッシア。あの先行けばこの地下から抜け出せそうじゃないか?」
ジョーイが下水道を挟んだ反対側に見える扉を指さした。その表情は心做しか安堵しているように捉えられた。
「無くはないが……ここ、渡る気か?」
カッシアはそう言うと下水道を見た。水路の幅は広く、流れが速い。水量も多かった。その為、流されるかもしれないとカッシアは考えていた。
「それしか最短ルートはないだろ?」
カッシアはその言葉にため息をついた。
「ヘルツォーク社は昔から裏社会との繋がりの噂が絶えないんだ。水路になにか仕掛けてある可能性も否めない」
カッシアの言葉にようやくクロードが口を開いた。
「じゃあ。どうすればいいんだ?早く行かないとカルダーノが危ない」
カッシアはクロードとジョーイを交互に見て、諦めたかのようにサイドバックを漁った。少ししてカッシアはグラップルガンを手に持っていた。
「万が一のために持っていたが……まさか使う羽目になるとはな……」
そう言うとカッシアは反対側の通路上にあるパイプにそれを撃ち込み、ワイヤーを張った。
「あとはどう行くかは各自に任せる。俺は専用金具持ってるから問題がないが」
クロードはカッシアが言い終わる前にワイヤーを掴み、そのまま腕の力のみで渡って行った。軍の中で1番小柄で身軽なクロードだからこそできる荒業だった。それを見たカッシアはジョーイに無言で金具を手渡した。
「本当はクロードにも渡すつもりだったが……それより、本来グラップルの使用はこういうのは想定していない。何かあっても自己責任だ。いいな?」
カッシアはそうジョーイに釘を刺し、自分が先にワイヤーに金具を引っ掛け、先に進み使い方をジョーイに見せた。ジョーイも同じようにワイヤーに金具を引っ掛け、進んだ。全員が合流すると金属製の扉を開け、先に進む。扉の先にある階段を昇る。
階段の先には少し開けた部屋があり、地下から出られた訳では無いということに気づくのに時間はかからなかった。
クロードは壁にかかっている破れた地図を見つけ、舌打ちをした。
「まだ地下か……くそっ……」
カッシアは顔色ひとつ変えずに、クロードの隣から地図を見つめている。
「……なるほど。まだ割と時間はかかりそうだ。とりあえず……一旦休憩しよう。万が一の時に備えて、だ」
カッシアはクロードの状態を考慮し、そう提案した。精神的疲労がある、そう判断したのだ。
「いや、このまま先に……」
クロードは尚も先に進もうとするが、それをカッシアは許さなかった。
「ダメだ。休憩は絶対必要だ……特にお前は」
クロードは引き留められた事に苛立ちを隠せなかった。
「は?カルダーノの危機だってのに休めって?お前……正気?」
当たり前だ、と言わんばかりの冷たい目でカッシアはクロードを見ている。
暫く2人は睨み合っていたが、クロードが折れた。
「わかったよ……」
クロードが部屋に置いてある木箱に腰を下ろした。それを見届けたカッシアは腕時計を見た。
「15分後に……出る」
カッシアの言葉とともに、ジョーイも近くの木箱に腰を下ろした。カッシアはナイフの手入れを始めた。
「クロード、この任務……いや、この仕事は今までとは訳が違う……本部からの援軍も無ければ、俺達が死んだところで責任を取らなきゃいけないのは生死問わずカルダーノになる。そうなった場合、迷惑はカルダーノの姉に……だから、少しは頭を冷やしてくれ」
クロードはそう指摘され静かに頷いた。カッシアは再度腕時計を確認し、部屋を見渡す。ほとんど廃材ばかりで使えそうなものは無く、最近人が来た形跡もない。冷静に分析をしながらカッシアはふと違和感を感じた。
「カッシア、どうした?」
カッシアの表情が少し強ばった事に気づいたジョーイが声をかけた。
「いや……何か、こう……この部屋に違和感があるというか……」
ジョーイはカッシアと同じように部屋を見渡した。そして、ジョーイは破られた地図の前に立った。
「この地図真新しいよな。どう見ても。でもなんでこんなに破られてるのかわからない。」
破れ、床に散らばった地図の破片をカッシアは手に取り観察している。
「これは、意図的に切り刻まれた訳では無い……と思う。切り口が綺麗じゃない。何かあって破られた……そして、何か、惨劇があったらしい。上手くその部分を隠しているみたいだが少し残っている」
カッシアはジョーイに地図の破片を見せた。よく見るとこそには赤黒いシミがついていた。他の破片を上手く繋ぎ合わせ、大体の形を取り戻した。カッシアはこんな時「カルダーノならどうするか」と、一瞬考えそうになったが頭を横に振って考えないように気持ちを切り替えた。
「これは俺自身で考えないとダメなんだ。ずっとあいつだったら……なんて甘えてたら前に進めない」
再び地図を見つめ、短く息を吐き出した。どのルートから行っても必ず組み立てができなかった地図で示されている地下の中心部を通過しなければならなかった。この中心部には何があるのか、どんな部屋なのかが全く分からない状態だった。
「この中心部は……」
カッシアは指で壁を叩いている。
「ここだけないのか」
カッシアは顎に手を当てて考え込んだ。建物の構造自体は全く分からないが大手製薬会社ということもあり地下にはダストシュートや薬品の廃棄所を作ってあると考えついた。
「ここにあるのは恐らく、ダストシュートか薬品廃棄所……のはずだ。薬品会社なら……」
カッシアのその言葉にクロードが口を開いた。
「なぁ、カッシア。ヘルツォーク社は地下で何やら実験をしているって噂があったんだ。もし、それが事実なら実験場があるのかもしれない」
実験、そう口に出したカッシアは再び考え込んだ。
暫く沈黙がその場を支配していた。そしてジョーイか沈黙を破った。
「バルトと言い、ヘルツォーク社の噂……もしこれらが全て事実だとしたら俺らは確実にカルダーノよりも危機的状況にあると考えて間違いはないと思うが……どうだ?」
カッシアは頷いた。そして腕時計を確認すると、地図から離れ荷物を持った。
「あぁ、間違いない。事実確認は別として……今ここで何かあったら袋の鼠だ。……時間だ。行こう」
クロードたちはカッシアとともにその部屋を後にした。
小部屋から進むこと約30分。入り組んだ通路を3人は歩いていた。
「どこ通ったのかすらもうわかんないや……」
似たような道ばかりを目にし、クロードは嘆いていた。そんなクロードを尻目にカッシアは淡々と歩みを進めており、ジョーイもそれについていった。さらに進むと、脇道の床に紙が落ちているのをクロードは見つけた。
「カッシア!あそこ、なんかあるぞ」
クロードは脇道を指さし、それを拾った。
「また、あの赤黒い字で書いてある……なになに?『俺は数ヶ月前殺される予定だったらしいが、りんどーって人の手引きで助かったらしい。その代わり俺に似た1人の子供が死んだとか……結局俺に関わったやつはロクな事がない……子供を選ぶなんて惨いことを。俺の言えた立場では無いが。それでもやっぱり死ぬべきだったのは俺なんじゃないだろうか?皆から忌み嫌われている死神なんだ。死神なんて必要ないだろ?』か。……また、死神か」
クロードはその紙をカッシアの持っていた手紙と照らし合わせて見た。文字の癖、字体、文字の色……全てが一致している。
「やっぱり……バルトは生きている。あの時処刑されたのは別の……」
ジョーイの顔は少し血の気がないように感じられた。カッシアはポケットからメモ帳を取り出し、なにやら書き込んでいた。クロードは手紙にバルトが書いたのか確認できないか名前を探している。
「この手紙の内容からして、俺達の軍への恨みは感じられない。むしろ自分に対しての嫌悪しかない……と、言うことはバルトは白だ」
カッシアの言葉にジョーイとクロードは顔を見合せた。
「な、なんで言いきれるんだ?教えてくれ、カッシア」
カッシアはジョーイをに自分がメモした部分を見せた。
「まず、俺達のことを恨んでいるならまずジョーイ、お前の特徴を書くはずだ。だが、拾ったこの2枚にはそれは1ミリも触れられてない。むしろ死神と呼ばれる自分に対して『生きる価値がない』というような言葉多くがある。前のやつにも。だから、バルトはその時の軍隊の存在は眼中に無いんだ。おそらく今回の主犯はこの『りんどー』とか言う奴だ」
カッシアのその考えに2人は納得したように頷いた。そして、再び先へと進み始めた。
進んでいく中でクロードは一瞬空気が揺らいだのに気づき、銃を構えた。何かいる、そう本能が伝えていた。それは他の2人にも感じていたようで警戒態勢に入っていた。クロードの視界の端で影が動き、そこに向かって銃を撃った。すると、その影は脇道の床で動かなくなった。クロードはその影に近づき、正体を探った。
「なんだ……これ」
クロードは自分の目を疑った。彼が射殺した物は見た目は蛇そのものだが、どこか蛇とは違う部分があった。蛇の目は白濁しており、見えている感じはしない。地下通路は灯りがともしてあり、目が退化するほど光が無いわけじゃない。そして、普通の蛇は牙を口内に収納出来るがそれはもはや口を貫通し、牙は剥き出し状態で顔や胴体が何故か蝋のように白く爛れていた。仕舞うことすら出来なくなっている牙からはかなり強力だと思われる毒が滴っていた。
「アルビノ……ではないよな。これは……一体何が……?」
カッシアとジョーイも覗き込んだ。
「なんなんだよ。こいつ。蛇……のようだが……」
カッシアは静かに口を開いた。
「変異種、とでも言うやつか」
クロードは『変異種』という言葉に首を傾げた。ジョーイもなにやら考えていた。その様子を見たカッシアはため息混じりに自分の憶測を話した。
「はぁ……変異種、というのは普通は生物兵器を作ろうとする時に人の手で……薬品などを使って対象を化け物のように変化させたもののことだ。ヘルツォーク社は製薬会社だ。廃棄した薬品……」
ジョーイはカッシアの言葉が終わらないうちに彼を突き飛ばした。その直後、1匹の蛇がカッシアの立っていた場所に飛びかかった。その蛇が立て直さないうちに、ジョーイは蛇の頭を撃ち抜き、絶命させた。
「嘘だろ、さっきクロードが殺したはずじゃ……」
蛇の体にはクロードが撃ち込んだ銃痕が残っており、普通の生物であれば失血で絶命しているはずだった。
「化け物だろ……こんなの……」
クロードは恐怖を抱いていることを隠せなかった。銃を持つその手は震えていた。
「ジョーイ、助かった。ありがとう」
カッシアはそう言うと立ち上がり、服についた汚れをはたいて落とした。
「先を急いだ方がいいかもしれない。今の銃声で他にも寄ってきたらまずい……」
そう話すジョーイの表情は今まで見たことの無いほど険しかった。3人は周辺を警戒しつつ足速に先へと進み、鉄製の扉を開け中に入った。
部屋に入るや否や、ジョーイが先程の話をもういちど始めた。
「それで?変異種がなんだった?」
カッシアは続きを口にした。
「さっきジョーイが殺した蛇はヘルツォーク社の廃棄した薬品が混ざりあった水を飲んだのかそれを含んだ鼠を食したか……そのどちらかであの姿になったのだと思う。もし、薬品の化学反応でなければヘルツォーク社は意図的に生物兵器でも作る気なんだろう……っていいたかったんだ」
クロードは先程の光景を思い出し思わず身震いをした。ジョーイも信じられない、というようにカッシアの話を聞いていた。
すると、扉の外から呻き声や地響きとも捉えられるような低い音が聞こえ始めた。
「……まずい。来た道からも、その先からも……何か音がする……」
カッシアのその言葉にジョーイが真っ先に口を開いた。
「俺が引きつける。そうすれば安全に進めるだろ?俺、蛇とか好きだからちょっと遊んでやるだけだから……必ず追いつく」
カッシアもクロードも音の正体は蛇以外のものもいる、ということに気づいていてはいたがジョーイを引き止めることは出来ないと悟り、ただ頷くしか出来なかった。
ジョーイはネックレスを外し、クロードに手渡した。
「先輩?」
クロードが不安そうにジョーイを見つめると、彼は笑をたたえて
「お前らが寂しくないようにだ!」
と、明るく答えた。しかし、その瞳の奥にはどこか拭えない恐怖、不安が揺らいでいた。
「誰が寂しいなんて思うか。ジョーイ、無理だけはするな」
カッシアは眉間に皺を寄せ、そう言葉にすることしか出来なかった。
「大丈夫だ。そうだな……1時間だけ猶予をくれ。必ず道は作っておく」
不安を隠せないクロード達に背を向け、ジョーイはベネリM3を構えこれからクロード達が進む扉へと姿を消した。
扉の外からは発砲音が響いていたがそれも徐々に遠のいて行った。
「……そろそろか、行こう。カッシア」
殆ど発砲音が聞こえなくなったあたりでクロードはカッシアを連れて扉を開けた。扉の先には多数の化け物の死体が転がっていた。
「さすが、軍唯一の接近戦の専門家だ。……確実に頭を狙っている。厳しければ、有利になるようにも狙ってある……」
カッシアは頭の無い化け物の死体を見てそう呟いた。クロードは改めて自分の上司、先輩の凄さを思い知った。
ジョーイの切り開いてくれた道を2人は銃を構えつつ進む。
そして、約1時間進んだところで人影を見つけ警戒をしつつ、クロード達は近づいて行った。
「そんなところで何して……っ?!」
クロードはその人物がハッキリと確認できると息を飲んだ。
「……え……」
どんな状況でも顔色一つ変えないカッシアも今回ばかりは驚きの色を顕にした。
0
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