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第十三章
443 幸運の蝶
しおりを挟む「いらっしゃいませ」
俺とレフが店に入ると、そんな声がかけられる。その人物はプリミナではなく、二十代前半の女性のようだった。
茶髪のポニーテールと、同色の瞳をした優しそうな女性である。ウェイトレスの服装をしていることから、ここで雇われているのだろう。
すると女性は俺を見て、申し訳なさそうに続けてこう口にする。
「当店は飲食店ですが、お値段が全体的に高くなっています。安くても小銀貨二枚からとなっておりますが、お手持ちは大丈夫でしょうか?」
おそらく俺の見た目の年齢から、所持金が足りない可能性を考慮して言ってくれたのだろう。
どうやら幸運の蝶は、それなりに値段の高い店のようだ。
だが金なら全く問題ない。俺はストレージから小金貨を何枚か取り出して、女性に見せる。
「問題ない。金ならある」
「っ、これは申し訳ございません。お席にご案内いたしますね」
女性はそう言って頭を下げると、俺とレフを席に案内してくれた。
ちなみにレフについて何も言われなかったので、ペット可の店だったようである。
故にそれについて訊いてみると、以前店主が世話になった人物が、サモナー系の人物だったようだ。
なのでサイズ制限はあるものの、ペットや使役しているモンスターを連れても問題は無いらしい。
おそらくその世話になった人物とは、もしかして俺のことだろうか? 店主がジェイクやプリミナであれば、その可能性は高いだろう。
幸運の蝶の面々には、確かカード召喚術について話していたし、実際連携確認の時に見せていたはずだ。
そのこともあって、ペットや使役したモンスターを店内に連れるのもありにしたのかもしれない。
俺はそんなことを思いながら、案内された席に着席した。
またそこでメニュー表を渡され、決まったら声をかけるように言われる。俺がそれに頷くと、女性はその場から静かに離れていった。
プリミナとジェイクについて訊こうと思っていたが、それを訊く前に案内されてしまったな。
ペット可について訊いたら、移動し終わってしまったのである。
まあそれについては、別に急ぐ必要はないか。
訊けなかったことについては、特に気にしないことにした。
そう思いながらふと周囲を見れば、客が俺以外にも何人かおり、ウェイトレスも数人いる。そこにプリミナと、ジェイクの姿はない。
今は昼時よりも少し早いので、比較的空いているようだ。とりあえず、俺も何か頼もう。
そう思いメニュー表を見ると、見事にマッドクラブ系の料理ばかりが並んでいる。
おおっ、これは凄い。
所持しているマッドクラブの在庫はほぼ尽きていたので、このメニュー表を見ただけで胸が躍る。
俺はメニュー表の中から、贅沢にマッドクラブを一杯使った茹でマッドクラブに決めた。あとは飲み物にエールを頼もう。
またレフには殻を剝いてある茹でマッドクラブの足を、数本頼むことにする。
そうして注文が決まったので、ウェイトレスを呼んでその内容を注文した。
少々時間がかかるらしいが、マッドクラブが食べられるのなら仕方がない。
俺はワクワクしながら、食事が来るのを待った。
そしてとうとう、茹でマッドクラブが運ばれてくる。
「お待たせいたしました。こちら茹でマッドクラブと、殻を剥いたマッドクラブの足。それとエールになります」
「おおっ!」
「にゃぁ!」
ウェイトレスはそう言って、テーブルに料理を並べてくれる。一人では複数運べなかったのか、もう一人と一緒に持ってきた。
マッドクラブは足を広げると普通に一メートルは優に超えるので、かなり大きい。
故にマッドクラブ一杯分とは、その大きさもあって結構多いのだ。
また足と胴体は既に分離されており、甲羅も外されている。またひっくり返された甲羅には、蟹みそがあった。
これは、とても旨そうだ。
そう思いつつ、まず俺はレフに殻を剥いてあるマッドクラブの足の皿を、床に置いてやる。
一応先にウェイトレスには許可をとってあるので、問題はない。
そうして俺は、いよいよマッドクラブの足を一本手に取る。殻には既に切れ目が入っており、簡単に剥くことができた。
すると殻の中からは、ぎっしりとした身が姿を現す。それを見た瞬間、俺はごくりと喉が鳴った。
「それじゃあ、頂こう」
「にゃん!」
俺はそう言うと、まずは何もつけずにそのままマッドクラブの足を口に入れる。
噛んだ瞬間に、濃厚な旨味が口の中全体に広がった。
そして手に持った部分を引き抜き、マッドクラブの身を咀嚼して、ゆっくりと飲み込んだ。
「……旨い。旨いな」
「にゃにゃん!」
俺はその旨さに感動して、静かにそう呟いた。レフも同様に、鳴き声を上げる。
俺が旅の途中で茹でたマッドクラブと比べても、断然こちらの方が旨い。
やはり素人が茹でるのと、専門店が茹でるのとでは、全く違うということだろう。
あのときマッドクラブを振る舞ったのは、間違いではなかった。巡り巡って、こうして目の前の料理へとなったのだから。
“マッドクラブは、本当に最高だ!”
そうして気がつけば、あれだけあったマッドクラブは全て、俺の腹の中へと収まった。自分でも本当に、よく食べきれたと思う。
「旨かったな……」
「にゃぁん……」
俺とレフは、茹でマッドクラブにとても満足した。
するとそんなとき、不意に何者かから声をかけられる。
「そりゃあ良かった! 作った甲斐があったというものだぜ!」
その声の主に俺が視線を向ければ、そこには筋肉質でゴツい感じの男がいた。
年齢は二十代後半くらいであり、短い茶髪と意志の強そうな茶色い瞳をしている。
また服装はコックのそれであり、身長が190cmくらいということも含めて、若干違和感が凄い。
だがそんな人物だが、俺には見覚えがあった。少し年齢を重ねたようだが、間違いなく目の前の人物は、ジェイクである。
「ジェイクなのか。久しぶりだな」
「ははっ、そりゃ、こっちのセリフだ。来たなら先に、声をかけてくれればよかったのによ。
マッドクラブ一杯を一人で食べ切りそうな少年がいるって聞いて、何となく気になって一目見に行かなければ、いたことに気づかなかったぞ」
そう言ってジェイクは、俺と再会できたのが嬉しいのか、笑みを浮かべた。
対して俺は、先に声をかけなかったことについて謝る。実際マッドクラブに夢中になって、途中からその事については忘れていた。
「それは、すまなかった」
「いや、別に構わねえよ。あんだけ旨そうに食ってくれただけで、十分だ。それに食い終わったら、声をかけてくれるつもりだったんだろ? まさか、そのまま帰ることはしなかったよな?」
「まあ、それは当然だ。再会するために、ここまでやってきたのだからな」
「そうか、そりゃあよかった!」
俺が最初から会うつもりだったことに対して、ジェイクはどこかホッとしたような雰囲気を出す。
もしかしたら俺が声をかけずに、そのままいなくなる可能性もあったと思っていたのかもしれない。
ジェイクは見た感じ元気そうだな。安心した。それはそうと、プリミナはいないのだろうか?
俺はそれが気になって、ジェイクにそのことを尋ねてみる。
「そういえば、プリミナはどうしたんだ? ここにはいないのか?」
「ああ、プリミナか。あいつは今、留守にしているぞ。まあ、詳しいことはここではなんだ。場所を移そうぜ。幸い今は空いているし、他のコックに任せても問題ないはずだ」
「わかった」
ジェイクの言葉に頷いて、俺とレフは場所を移すことになった。
ちなみにその際に食事の代金は、いらないと言われてしまう。金に余裕があるので払うと言ったのだが、結局今回は無料にしてもらうことになった。
そうして俺とレフは、ジェイクに奥の部屋に案内してもらう。どうやらホールの奥には、ジェイクの生活スペースの部屋が、いくつかあるらしい。
普段ジェイクは、この奥のエリアで生活をしているようだ。その中の一部屋に、俺とレフは案内される。
さて、プリミナは現在不在のようだが、いったいどこに行っているのだろうか。
俺はそう思いながら、ジェイクから詳しい話を聞くのだった。
____________________
本編とは関係ありませんが、お正月に蟹を食べました。おいしかったです。
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