Reincarnation 〜TOKYO輪廻〜

心符

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7. 新たな敵

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~新宿区~

13:30
平日の新宿駅。

電車から流れ出て来た会社員達の流れ。
蕎麦屋から出て来た駿河《するが》がその流れに逆らいながら改札へと向かう。

「っつ?」

一瞬はその程度の違和感。
しかし、次の一歩が踏み出せない。
冷や汗が一気に溢れて来る。

すれ違う波に弾かれ、背中から落ちる。

「キャーッ❗️」「うわぁー❗️」

響き渡る悲鳴を聞きながら…意識が消えた。
上半身とは反対の方へ下半身が倒れていく…。


先に現場に着いたのは、警察ではなく、飛鳥神であった。

「す、駿河ッ!」

目を開けたままの駿河。
そばに膝をつき、その顔を見つめる神。
追いついた手下が集まる。

そこへやっと警察官が着いた。
手下達が、警察官を遮る。

「駿河…仇は必ず取るからな、ゆっくり休め」

そっと右手で、駿河の瞼を閉じる。

「行くぞ」

険しい顔に、野次馬達が道を開ける。
手下が後に続く。



10分後、紗夜と昴が到着。

「ひどい…」

「ご苦労様です。被害者の身元は…」

「駿河光樹 29歳 飛鳥組組員です」
神から連絡を貰った紗夜が伝える。

「凄い切り口ですね、しかも丁度骨盤と肋骨の間です」

(ここは…ダメね)
監視カメラの位置を確認した紗夜。

「あそことあそこの監視カメラの映像を本部に送って来ださい。昴さん、戻りましょう」

嫌な予感がした。



~渋谷区~

14:40
信号が変わり、大勢の人が交差するスクランブル交差点。

「ぅひゃぁあー❗️」

その悲鳴が合図の様に、人の輪が広がる。
その中心に、うつ伏せに倒れている男。



車に乗り込んだ紗夜の携帯が鳴る。

「紗夜、スクランブル交差点で二人目だ」

「分かりました、向かいます」

「紗夜さん…」
厳しい顔に思わず言葉が出なかった昴。



~港区~

16:00
人気映画が丁度終わり、人が流れ出す。
六本木ヒルズ内の映画館。

流れがまばらになりかけた頃。
次の回の入場客が……止まった。

見つめる先に、一人の男性が倒れていた。



「さっきの被害者と、全く同じ手口ですね」

スクランブル交差点で監視カメラを確認し、警察官に伝えた時、また携帯が鳴った。

「どこ…ですか?」

予感がしていた紗夜。

「六本木ヒルズへ行くわよ」

絶望感が昴を打ちのめす。




「えっ?ラブ…さん」

沈痛な面持ちで、遺体を確認するラブがいた。

「ラブさん、もしかして…」

「TERRA開発部門の高橋さんです」

「やはり…」

ラブにも紗夜の読みの意味は分かっていた。
警察官が野次馬を必死で抑える中、子供が抜け出して来る。

「パパーっ!」

「卓、待って…えっ?あ、あなた❗️」

その後を強引に書き分け、母親が追って来る。

休暇をとり、趣味の映画を見ている間、買い物をしていた妻と息子。
彼が待ち合わせ場所に来ないため、見に来たのであった。

「パパ!パパ!パパぁ…」
胸に顔を埋め、泣きじゃくる。

「ラブさん、どうして?何でうちの人が、何で…どうして…」

ラブの足元にすがり、泣き崩れる母親。

警察官が、子供と母親を引き離す。

深く一礼し、そこを去るラブ。

「紗夜さん、本部へ」

「はい。昴、戻るわよ」

無言で従う昴。

車に乗り込んだラブ。

「クッソー、ヤツめ❗️」

後悔と怒りが心の中でぶつかり合う。




~警視庁対策本部~

18:00
【第16号】連続通り魔殺人事件

悪夢の構図から抜け出せない東京。
新たな対策本部にメンバーが揃う。

「ちょっと、困ります、ちょっと!」

飛鳥神が警備員を引きずりながら現れた。
富士本が手招きし、警備員が下がる。

「昴、まとめて報告を」

「…。最初の被害者は駿河光樹、飛鳥組組員。二人目は沓脱康二、非番の警察官。三人目は、高橋徹、TERRAコーポレーション社員です」

「手口については私から」

豊川部長が、自ら報告する。

「ご覧の通り、三人とも非常に鋭利な刃物により、骨盤と肋骨の間を一瞬で切断。おそらく本人は斬られたことに気づく間も無かったと考えられる。死因は出血死」

「目撃者は今のところ無しです」

「あれだけ人がいて、誰も見ていないのか?」

「富士本さん、人混みの中で周りの人を見ますか?斬られた本人でさえ気づかない一瞬。周りが気付いた時には、犯人はもう…いない」

いつになく厳しいトーンのラブ。

「ラブ様、調査結果が出ました」

AIアイの声が割り込む。

「お願い」

「府中刑務所に収監されていました、李龍辰《リ・ロンシン》ですが、記録が不明確なまま、現在は収監されていません」

「何だと❗️」

最初に声を上げたのは神であった。

「終身刑だろうが、警察は何やってんだ❗️」

「李龍尊《リロンソン》の力に負けたのですわ、富士本様❗️」

ヴェロニカの言葉も強い。
ラブの脳裏に、龍尊の言葉が蘇る。

「警察に任せた私の責任です」
(早く手を打ってれば…)

「ラ…ラブさん…」
富士本には、言える言葉が無かった。

「犯人は、龍辰。あの手口…人混みの中で対象のみを一瞬で断つ居合抜き。凶器は半月刀。彼はその武を極めた達人」

「ラブ❗️」神が詰め寄る。

「この件は私が片付ける」

「ちょい待ちッ❗️」

入り口に、腕を吊った、咲が立っていた。

「いくらラブさんでも、殺人を見逃すわけにはいかないわ!それが警察よ」

「警察じゃ無理。奴を止められはしない!」

「ラ…ラブ…」
その威圧に、咲が圧《お》されて下がる。

「奴の狙いは私。これ以上誰も殺させない❗️」

「待ってラブさん!」
紗夜も入り口に立つ。

「どいてください」

(な…なんて殺気、これがラブさん?)
咲も身を切られる様な気を感じていた。

そこに、電話が鳴り響いた。

(こんな時に)
「はい刑事課。もしもし、もしも……はっ❗️」
 昴の体が固まる。

続けて咲の携帯が鳴る。
「はい、咲よ!」

「咲さん、その人を止めちゃダメ。絶対に止めちゃダメだからね」

「七海、そうはいかないのよ!」

電話を切る。

その隙をついて、ラブが動く。

「バシバシバシ!」
「クッ…」

ラブが崩れる。
紗夜が放った電気銃が背中に命中していた。

「ラブさん、ごめんなさい」

紗夜がラブに近づく。
力を振り絞り、振り向いたラブ。
その胸に、咲の電気銃が突き立った。

(アイ…T2、咲さんを守って…)

ラブの並外れた聴覚には、七海の声が聞こえていたのである。

気絶したラブに手錠を掛け、別室の刑事課員を呼ぶ。

「おい、お前ら正気か?ラブになんてこ…」

「ドサッ」

昴の放った電気銃が背中に命中していた。



~中野区~

16:20

それは、偶然が引き合わせたものか、地道な捜査の賜物《たまもの》か、或いは不運な巡り合わせか。

東京都の西側で連続している『連続死体解体遺棄事件』を止めるべく、淳一は毎夜、住宅地域を見廻っていた。

まだ灯りのない家が多い中、その端の家に灯りが付いた。

母親と女の子の声が聞こえた。

「いつまで、こんなんが続くのやら、全く」

とボヤいた時、その家の灯りが消えた。

距離は30m余り。
咄嗟に身を隠す淳一。

ゆっくり近づく。
声は聞こえない。
ただ、かすかに物音だけが聞こえた。

家の塀までたどり着く。
すると、薄明かりが灯り、閉じたままのカーテンに影が揺れている。

(ロウソクか…やはり怪しい)

ゆっくりと慎重な動きで玄関に着き、ドアに耳を当てて音を聞く。
微かに呻き声が聞こえた。

(12号か!)

立ち上がり、ドアノブに手をかけた瞬間。
「ガン❗️」

後頭部を殴られ、意識が霞む。
(クソッ…)

準備を済ませた犯人は、帰宅する父親を待ち伏せていたのであった。

ドアが開かれ、後ろからベルトを掴み上げられ、中へ放り込まれた。

「うぅ…なんて力だ…」

うめきながら、丸まった姿勢の懐《ふところ》で、スマホの受話音量をゼロにし、刑事課への直通ダイヤルアイコンを押す。

表を確認し、鍵をかけた犯人が戻って来る。
スマホを内向きにし、パンツの中へ入れた。

髪を掴まれ起こされたボディに蹴りが入る。

「グァっ!」

ズボンのポケットからもう一つの個人携帯を取り出し、かけるフリをする。

「ガッ!」

その手を蹴られ、携帯が吹き飛ぶ。
転がった携帯を何度も踏みつける犯人。

幸い、手帳と銃は、上着ごと車の中である。

起き上がった顔面を蹴られ、意識が消えた。



暫くして、ぼんやりと周りが見えて来た。
椅子に縛られ、猿轡《さるぐつわ》をかまされて声は出せない。

テーブルの向かいには母親が縛られていた。
その母親の目が見開かれ、必死でもがく。

「ドサッ!」

テーブルの真ん中に、裸の少女が置かれた。
意識はないが、生きている。

「うぅうー!うぅー!」

必死で抵抗するが声にならない。

手を上に伸ばし、仰向けにされた少女。
その掌に太い釘を当てる。

「うぅうー!うー❗️」

何の躊躇《ためら》いもなく、テーブルへ打ち付けた。

「ゔぅー❗️」意識が戻る少女。

「バシッ!」
予測してたかの様に少女を殴り、手際よくもう片手も打ち付ける。

「ぁゔ!」

暴れる片足を、ハンマーで殴る。

「バキッ!」
骨が折れた。

掴んだ足を立て、その甲を釘で固定する。
痛みに体は反応するが、もう少女には抵抗する気力すら無い。

(早く来い!早く!)
その時、手首に冷たい感触があり、瞬時に激痛に変わる。

縛られた手を生暖かいものが伝う。

少しして、赤黒い液体が入ったワイングラスが目の前に置かれた。

次には、母親の前にも置かれた。

(クソっ!助けないと…クソー❗️)

歯痒さと憎しみで涙が溢れる。

(早く、助けないと…早く…)

ナイフが娘の乳房に当てられた瞬間。

「バンッバンッバンッ❗️」

犯人の喜悦に酔いしれた意識に向けて、窓越しに放った紗夜の銃弾が、犯人の頭を撃ち抜いていた。

「ガン❗️」

ドアが破られ、警察が突入して来た。

「淳❗️しっかりして!早く医療班を!」

「…さ…や、少女を…少女を…」

「分かった、分かったから…淳!」

涙が溢れる。

「紗夜さん!急がないと!」
昴が、すがる紗夜を振りほどく。

「お願い、淳を…私の夫を助けて!」


3台の救急車が、パトカーの先導で、現場を離れて行った。



いつもは静かな住宅地が、多くのパトカーと野次馬、報道陣でごった返していた。

「間に合うといいですね」

昴が呟く。

「間に合うに決まってるじゃない。あのしぶとい淳が紗夜を残して死んだりしないわよ!」

「昴、お前のヤマも、やっと終わったな」
そんな淳一の声が、聞こえた気がした。

犯人は即死。
後のことであるが、本名 荒木士郎。
精肉店に勤務していた頃に、今で言うパワハラ師匠と喧嘩になり、師匠の腕を切断。
殺人未遂と傷害罪で服役し、2ヶ月ほど前に横浜刑務所を出所。その後は行方不明であった。

「さて、面倒臭い報道陣は部長に任せて、帰りましょ、昴」

野次馬をかき分けて進む二人。

「全く邪魔ね。どいてよ怪我人なんだから」

その時、咲の勘が目の前に迫る男に気付いた。
(しまった❗️)

一瞬目を閉じた。
目を開くと直ぐ斜め前に、ヤツがいた。

(斬られてない…でも…⁉️)

七海が見上げる。

「だから、ダメって言ったのに…バカ」

「昴❗️」咲が叫ぶ。

右にいた昴が、七海と目の前の男に気付く。
七海の両腕が、ガッシリ男の腕を掴んでいた。

「早く❗️」

銃口を男の腹部に当て、上に向けて撃つ。
「バンッ❗️」

腹からの銃弾が男の後頭部までを貫通した。

「キャーッ❗️」
「銃だ、逃げろ❗️」

男の血を浴びた野次馬が、必死で離れていく。

李龍辰《リロンシン》の体が崩れ落ちる。
七海が手を放し、咲にもたれかかる。

座り込み、七海を腕に抱いた咲。

半月刀が、七海の体に深く切り込まれ、背骨で止まっていた。

「昴!救急車を!早く❗️」

「咲さん…私はもうムリだから」

「何で、何でよ!」涙が止まらない。

「咲さんは、私の想いを叶えてくれたから」

「運命が見えるなら、どうして❗️」
咲の頭の中で、必死で止めていた声が響く。

「見える者が干渉しないと、変えられないんだよ。淳一さんを導いたのも私。これでも七海、頑張ったんだからね…」

七海の意識が薄らぐ。

「ダメ❗️私なんかの為に死んじゃダメ❗️」

「…あのね、7年前に運命を大きく変えた時から…いつかはこうなると分かってたの…だから、咲さんは…もっと生きてね…」

「バカ❗️私より七海が生きなきゃ❗️」

「…あっ…あの4人…の殺…鬼の…命は…
  …変えら…なかった…操られて…………」

腕の中で、七海の重みが増した。

「…目を開けて…七海、ねえ…七海っ❗️」

(さよなら 咲さん)

「うわぁあああぁ❗️ななみ……」


救急車のサイレンか遠くから…聞こえて来た。
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