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7. 新たな敵
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~新宿区~
13:30
平日の新宿駅。
電車から流れ出て来た会社員達の流れ。
蕎麦屋から出て来た駿河《するが》がその流れに逆らいながら改札へと向かう。
「っつ?」
一瞬はその程度の違和感。
しかし、次の一歩が踏み出せない。
冷や汗が一気に溢れて来る。
すれ違う波に弾かれ、背中から落ちる。
「キャーッ❗️」「うわぁー❗️」
響き渡る悲鳴を聞きながら…意識が消えた。
上半身とは反対の方へ下半身が倒れていく…。
先に現場に着いたのは、警察ではなく、飛鳥神であった。
「す、駿河ッ!」
目を開けたままの駿河。
そばに膝をつき、その顔を見つめる神。
追いついた手下が集まる。
そこへやっと警察官が着いた。
手下達が、警察官を遮る。
「駿河…仇は必ず取るからな、ゆっくり休め」
そっと右手で、駿河の瞼を閉じる。
「行くぞ」
険しい顔に、野次馬達が道を開ける。
手下が後に続く。
10分後、紗夜と昴が到着。
「ひどい…」
「ご苦労様です。被害者の身元は…」
「駿河光樹 29歳 飛鳥組組員です」
神から連絡を貰った紗夜が伝える。
「凄い切り口ですね、しかも丁度骨盤と肋骨の間です」
(ここは…ダメね)
監視カメラの位置を確認した紗夜。
「あそことあそこの監視カメラの映像を本部に送って来ださい。昴さん、戻りましょう」
嫌な予感がした。
~渋谷区~
14:40
信号が変わり、大勢の人が交差するスクランブル交差点。
「ぅひゃぁあー❗️」
その悲鳴が合図の様に、人の輪が広がる。
その中心に、うつ伏せに倒れている男。
車に乗り込んだ紗夜の携帯が鳴る。
「紗夜、スクランブル交差点で二人目だ」
「分かりました、向かいます」
「紗夜さん…」
厳しい顔に思わず言葉が出なかった昴。
~港区~
16:00
人気映画が丁度終わり、人が流れ出す。
六本木ヒルズ内の映画館。
流れがまばらになりかけた頃。
次の回の入場客が……止まった。
見つめる先に、一人の男性が倒れていた。
「さっきの被害者と、全く同じ手口ですね」
スクランブル交差点で監視カメラを確認し、警察官に伝えた時、また携帯が鳴った。
「どこ…ですか?」
予感がしていた紗夜。
「六本木ヒルズへ行くわよ」
絶望感が昴を打ちのめす。
「えっ?ラブ…さん」
沈痛な面持ちで、遺体を確認するラブがいた。
「ラブさん、もしかして…」
「TERRA開発部門の高橋さんです」
「やはり…」
ラブにも紗夜の読みの意味は分かっていた。
警察官が野次馬を必死で抑える中、子供が抜け出して来る。
「パパーっ!」
「卓、待って…えっ?あ、あなた❗️」
その後を強引に書き分け、母親が追って来る。
休暇をとり、趣味の映画を見ている間、買い物をしていた妻と息子。
彼が待ち合わせ場所に来ないため、見に来たのであった。
「パパ!パパ!パパぁ…」
胸に顔を埋め、泣きじゃくる。
「ラブさん、どうして?何でうちの人が、何で…どうして…」
ラブの足元にすがり、泣き崩れる母親。
警察官が、子供と母親を引き離す。
深く一礼し、そこを去るラブ。
「紗夜さん、本部へ」
「はい。昴、戻るわよ」
無言で従う昴。
車に乗り込んだラブ。
「クッソー、ヤツめ❗️」
後悔と怒りが心の中でぶつかり合う。
~警視庁対策本部~
18:00
【第16号】連続通り魔殺人事件
悪夢の構図から抜け出せない東京。
新たな対策本部にメンバーが揃う。
「ちょっと、困ります、ちょっと!」
飛鳥神が警備員を引きずりながら現れた。
富士本が手招きし、警備員が下がる。
「昴、まとめて報告を」
「…。最初の被害者は駿河光樹、飛鳥組組員。二人目は沓脱康二、非番の警察官。三人目は、高橋徹、TERRAコーポレーション社員です」
「手口については私から」
豊川部長が、自ら報告する。
「ご覧の通り、三人とも非常に鋭利な刃物により、骨盤と肋骨の間を一瞬で切断。おそらく本人は斬られたことに気づく間も無かったと考えられる。死因は出血死」
「目撃者は今のところ無しです」
「あれだけ人がいて、誰も見ていないのか?」
「富士本さん、人混みの中で周りの人を見ますか?斬られた本人でさえ気づかない一瞬。周りが気付いた時には、犯人はもう…いない」
いつになく厳しいトーンのラブ。
「ラブ様、調査結果が出ました」
AIの声が割り込む。
「お願い」
「府中刑務所に収監されていました、李龍辰《リ・ロンシン》ですが、記録が不明確なまま、現在は収監されていません」
「何だと❗️」
最初に声を上げたのは神であった。
「終身刑だろうが、警察は何やってんだ❗️」
「李龍尊《リロンソン》の力に負けたのですわ、富士本様❗️」
ヴェロニカの言葉も強い。
ラブの脳裏に、龍尊の言葉が蘇る。
「警察に任せた私の責任です」
(早く手を打ってれば…)
「ラ…ラブさん…」
富士本には、言える言葉が無かった。
「犯人は、龍辰。あの手口…人混みの中で対象のみを一瞬で断つ居合抜き。凶器は半月刀。彼はその武を極めた達人」
「ラブ❗️」神が詰め寄る。
「この件は私が片付ける」
「ちょい待ちッ❗️」
入り口に、腕を吊った、咲が立っていた。
「いくらラブさんでも、殺人を見逃すわけにはいかないわ!それが警察よ」
「警察じゃ無理。奴を止められはしない!」
「ラ…ラブ…」
その威圧に、咲が圧《お》されて下がる。
「奴の狙いは私。これ以上誰も殺させない❗️」
「待ってラブさん!」
紗夜も入り口に立つ。
「どいてください」
(な…なんて殺気、これがラブさん?)
咲も身を切られる様な気を感じていた。
そこに、電話が鳴り響いた。
(こんな時に)
「はい刑事課。もしもし、もしも……はっ❗️」
昴の体が固まる。
続けて咲の携帯が鳴る。
「はい、咲よ!」
「咲さん、その人を止めちゃダメ。絶対に止めちゃダメだからね」
「七海、そうはいかないのよ!」
電話を切る。
その隙をついて、ラブが動く。
「バシバシバシ!」
「クッ…」
ラブが崩れる。
紗夜が放った電気銃が背中に命中していた。
「ラブさん、ごめんなさい」
紗夜がラブに近づく。
力を振り絞り、振り向いたラブ。
その胸に、咲の電気銃が突き立った。
(アイ…T2、咲さんを守って…)
ラブの並外れた聴覚には、七海の声が聞こえていたのである。
気絶したラブに手錠を掛け、別室の刑事課員を呼ぶ。
「おい、お前ら正気か?ラブになんてこ…」
「ドサッ」
昴の放った電気銃が背中に命中していた。
~中野区~
16:20
それは、偶然が引き合わせたものか、地道な捜査の賜物《たまもの》か、或いは不運な巡り合わせか。
東京都の西側で連続している『連続死体解体遺棄事件』を止めるべく、淳一は毎夜、住宅地域を見廻っていた。
まだ灯りのない家が多い中、その端の家に灯りが付いた。
母親と女の子の声が聞こえた。
「いつまで、こんなんが続くのやら、全く」
とボヤいた時、その家の灯りが消えた。
距離は30m余り。
咄嗟に身を隠す淳一。
ゆっくり近づく。
声は聞こえない。
ただ、かすかに物音だけが聞こえた。
家の塀までたどり着く。
すると、薄明かりが灯り、閉じたままのカーテンに影が揺れている。
(ロウソクか…やはり怪しい)
ゆっくりと慎重な動きで玄関に着き、ドアに耳を当てて音を聞く。
微かに呻き声が聞こえた。
(12号か!)
立ち上がり、ドアノブに手をかけた瞬間。
「ガン❗️」
後頭部を殴られ、意識が霞む。
(クソッ…)
準備を済ませた犯人は、帰宅する父親を待ち伏せていたのであった。
ドアが開かれ、後ろからベルトを掴み上げられ、中へ放り込まれた。
「うぅ…なんて力だ…」
うめきながら、丸まった姿勢の懐《ふところ》で、スマホの受話音量をゼロにし、刑事課への直通ダイヤルアイコンを押す。
表を確認し、鍵をかけた犯人が戻って来る。
スマホを内向きにし、パンツの中へ入れた。
髪を掴まれ起こされたボディに蹴りが入る。
「グァっ!」
ズボンのポケットからもう一つの個人携帯を取り出し、かけるフリをする。
「ガッ!」
その手を蹴られ、携帯が吹き飛ぶ。
転がった携帯を何度も踏みつける犯人。
幸い、手帳と銃は、上着ごと車の中である。
起き上がった顔面を蹴られ、意識が消えた。
暫くして、ぼんやりと周りが見えて来た。
椅子に縛られ、猿轡《さるぐつわ》をかまされて声は出せない。
テーブルの向かいには母親が縛られていた。
その母親の目が見開かれ、必死でもがく。
「ドサッ!」
テーブルの真ん中に、裸の少女が置かれた。
意識はないが、生きている。
「うぅうー!うぅー!」
必死で抵抗するが声にならない。
手を上に伸ばし、仰向けにされた少女。
その掌に太い釘を当てる。
「うぅうー!うー❗️」
何の躊躇《ためら》いもなく、テーブルへ打ち付けた。
「ゔぅー❗️」意識が戻る少女。
「バシッ!」
予測してたかの様に少女を殴り、手際よくもう片手も打ち付ける。
「ぁゔ!」
暴れる片足を、ハンマーで殴る。
「バキッ!」
骨が折れた。
掴んだ足を立て、その甲を釘で固定する。
痛みに体は反応するが、もう少女には抵抗する気力すら無い。
(早く来い!早く!)
その時、手首に冷たい感触があり、瞬時に激痛に変わる。
縛られた手を生暖かいものが伝う。
少しして、赤黒い液体が入ったワイングラスが目の前に置かれた。
次には、母親の前にも置かれた。
(クソっ!助けないと…クソー❗️)
歯痒さと憎しみで涙が溢れる。
(早く、助けないと…早く…)
ナイフが娘の乳房に当てられた瞬間。
「バンッバンッバンッ❗️」
犯人の喜悦に酔いしれた意識に向けて、窓越しに放った紗夜の銃弾が、犯人の頭を撃ち抜いていた。
「ガン❗️」
ドアが破られ、警察が突入して来た。
「淳❗️しっかりして!早く医療班を!」
「…さ…や、少女を…少女を…」
「分かった、分かったから…淳!」
涙が溢れる。
「紗夜さん!急がないと!」
昴が、すがる紗夜を振りほどく。
「お願い、淳を…私の夫を助けて!」
3台の救急車が、パトカーの先導で、現場を離れて行った。
いつもは静かな住宅地が、多くのパトカーと野次馬、報道陣でごった返していた。
「間に合うといいですね」
昴が呟く。
「間に合うに決まってるじゃない。あのしぶとい淳が紗夜を残して死んだりしないわよ!」
「昴、お前のヤマも、やっと終わったな」
そんな淳一の声が、聞こえた気がした。
犯人は即死。
後のことであるが、本名 荒木士郎。
精肉店に勤務していた頃に、今で言うパワハラ師匠と喧嘩になり、師匠の腕を切断。
殺人未遂と傷害罪で服役し、2ヶ月ほど前に横浜刑務所を出所。その後は行方不明であった。
「さて、面倒臭い報道陣は部長に任せて、帰りましょ、昴」
野次馬をかき分けて進む二人。
「全く邪魔ね。どいてよ怪我人なんだから」
その時、咲の勘が目の前に迫る男に気付いた。
(しまった❗️)
一瞬目を閉じた。
目を開くと直ぐ斜め前に、ヤツがいた。
(斬られてない…でも…⁉️)
七海が見上げる。
「だから、ダメって言ったのに…バカ」
「昴❗️」咲が叫ぶ。
右にいた昴が、七海と目の前の男に気付く。
七海の両腕が、ガッシリ男の腕を掴んでいた。
「早く❗️」
銃口を男の腹部に当て、上に向けて撃つ。
「バンッ❗️」
腹からの銃弾が男の後頭部までを貫通した。
「キャーッ❗️」
「銃だ、逃げろ❗️」
男の血を浴びた野次馬が、必死で離れていく。
李龍辰《リロンシン》の体が崩れ落ちる。
七海が手を放し、咲にもたれかかる。
座り込み、七海を腕に抱いた咲。
半月刀が、七海の体に深く切り込まれ、背骨で止まっていた。
「昴!救急車を!早く❗️」
「咲さん…私はもうムリだから」
「何で、何でよ!」涙が止まらない。
「咲さんは、私の想いを叶えてくれたから」
「運命が見えるなら、どうして❗️」
咲の頭の中で、必死で止めていた声が響く。
「見える者が干渉しないと、変えられないんだよ。淳一さんを導いたのも私。これでも七海、頑張ったんだからね…」
七海の意識が薄らぐ。
「ダメ❗️私なんかの為に死んじゃダメ❗️」
「…あのね、7年前に運命を大きく変えた時から…いつかはこうなると分かってたの…だから、咲さんは…もっと生きてね…」
「バカ❗️私より七海が生きなきゃ❗️」
「…あっ…あの4人…の殺…鬼の…命は…
…変えら…なかった…操られて…………」
腕の中で、七海の重みが増した。
「…目を開けて…七海、ねえ…七海っ❗️」
(さよなら 咲さん)
「うわぁあああぁ❗️ななみ……」
救急車のサイレンか遠くから…聞こえて来た。
13:30
平日の新宿駅。
電車から流れ出て来た会社員達の流れ。
蕎麦屋から出て来た駿河《するが》がその流れに逆らいながら改札へと向かう。
「っつ?」
一瞬はその程度の違和感。
しかし、次の一歩が踏み出せない。
冷や汗が一気に溢れて来る。
すれ違う波に弾かれ、背中から落ちる。
「キャーッ❗️」「うわぁー❗️」
響き渡る悲鳴を聞きながら…意識が消えた。
上半身とは反対の方へ下半身が倒れていく…。
先に現場に着いたのは、警察ではなく、飛鳥神であった。
「す、駿河ッ!」
目を開けたままの駿河。
そばに膝をつき、その顔を見つめる神。
追いついた手下が集まる。
そこへやっと警察官が着いた。
手下達が、警察官を遮る。
「駿河…仇は必ず取るからな、ゆっくり休め」
そっと右手で、駿河の瞼を閉じる。
「行くぞ」
険しい顔に、野次馬達が道を開ける。
手下が後に続く。
10分後、紗夜と昴が到着。
「ひどい…」
「ご苦労様です。被害者の身元は…」
「駿河光樹 29歳 飛鳥組組員です」
神から連絡を貰った紗夜が伝える。
「凄い切り口ですね、しかも丁度骨盤と肋骨の間です」
(ここは…ダメね)
監視カメラの位置を確認した紗夜。
「あそことあそこの監視カメラの映像を本部に送って来ださい。昴さん、戻りましょう」
嫌な予感がした。
~渋谷区~
14:40
信号が変わり、大勢の人が交差するスクランブル交差点。
「ぅひゃぁあー❗️」
その悲鳴が合図の様に、人の輪が広がる。
その中心に、うつ伏せに倒れている男。
車に乗り込んだ紗夜の携帯が鳴る。
「紗夜、スクランブル交差点で二人目だ」
「分かりました、向かいます」
「紗夜さん…」
厳しい顔に思わず言葉が出なかった昴。
~港区~
16:00
人気映画が丁度終わり、人が流れ出す。
六本木ヒルズ内の映画館。
流れがまばらになりかけた頃。
次の回の入場客が……止まった。
見つめる先に、一人の男性が倒れていた。
「さっきの被害者と、全く同じ手口ですね」
スクランブル交差点で監視カメラを確認し、警察官に伝えた時、また携帯が鳴った。
「どこ…ですか?」
予感がしていた紗夜。
「六本木ヒルズへ行くわよ」
絶望感が昴を打ちのめす。
「えっ?ラブ…さん」
沈痛な面持ちで、遺体を確認するラブがいた。
「ラブさん、もしかして…」
「TERRA開発部門の高橋さんです」
「やはり…」
ラブにも紗夜の読みの意味は分かっていた。
警察官が野次馬を必死で抑える中、子供が抜け出して来る。
「パパーっ!」
「卓、待って…えっ?あ、あなた❗️」
その後を強引に書き分け、母親が追って来る。
休暇をとり、趣味の映画を見ている間、買い物をしていた妻と息子。
彼が待ち合わせ場所に来ないため、見に来たのであった。
「パパ!パパ!パパぁ…」
胸に顔を埋め、泣きじゃくる。
「ラブさん、どうして?何でうちの人が、何で…どうして…」
ラブの足元にすがり、泣き崩れる母親。
警察官が、子供と母親を引き離す。
深く一礼し、そこを去るラブ。
「紗夜さん、本部へ」
「はい。昴、戻るわよ」
無言で従う昴。
車に乗り込んだラブ。
「クッソー、ヤツめ❗️」
後悔と怒りが心の中でぶつかり合う。
~警視庁対策本部~
18:00
【第16号】連続通り魔殺人事件
悪夢の構図から抜け出せない東京。
新たな対策本部にメンバーが揃う。
「ちょっと、困ります、ちょっと!」
飛鳥神が警備員を引きずりながら現れた。
富士本が手招きし、警備員が下がる。
「昴、まとめて報告を」
「…。最初の被害者は駿河光樹、飛鳥組組員。二人目は沓脱康二、非番の警察官。三人目は、高橋徹、TERRAコーポレーション社員です」
「手口については私から」
豊川部長が、自ら報告する。
「ご覧の通り、三人とも非常に鋭利な刃物により、骨盤と肋骨の間を一瞬で切断。おそらく本人は斬られたことに気づく間も無かったと考えられる。死因は出血死」
「目撃者は今のところ無しです」
「あれだけ人がいて、誰も見ていないのか?」
「富士本さん、人混みの中で周りの人を見ますか?斬られた本人でさえ気づかない一瞬。周りが気付いた時には、犯人はもう…いない」
いつになく厳しいトーンのラブ。
「ラブ様、調査結果が出ました」
AIの声が割り込む。
「お願い」
「府中刑務所に収監されていました、李龍辰《リ・ロンシン》ですが、記録が不明確なまま、現在は収監されていません」
「何だと❗️」
最初に声を上げたのは神であった。
「終身刑だろうが、警察は何やってんだ❗️」
「李龍尊《リロンソン》の力に負けたのですわ、富士本様❗️」
ヴェロニカの言葉も強い。
ラブの脳裏に、龍尊の言葉が蘇る。
「警察に任せた私の責任です」
(早く手を打ってれば…)
「ラ…ラブさん…」
富士本には、言える言葉が無かった。
「犯人は、龍辰。あの手口…人混みの中で対象のみを一瞬で断つ居合抜き。凶器は半月刀。彼はその武を極めた達人」
「ラブ❗️」神が詰め寄る。
「この件は私が片付ける」
「ちょい待ちッ❗️」
入り口に、腕を吊った、咲が立っていた。
「いくらラブさんでも、殺人を見逃すわけにはいかないわ!それが警察よ」
「警察じゃ無理。奴を止められはしない!」
「ラ…ラブ…」
その威圧に、咲が圧《お》されて下がる。
「奴の狙いは私。これ以上誰も殺させない❗️」
「待ってラブさん!」
紗夜も入り口に立つ。
「どいてください」
(な…なんて殺気、これがラブさん?)
咲も身を切られる様な気を感じていた。
そこに、電話が鳴り響いた。
(こんな時に)
「はい刑事課。もしもし、もしも……はっ❗️」
昴の体が固まる。
続けて咲の携帯が鳴る。
「はい、咲よ!」
「咲さん、その人を止めちゃダメ。絶対に止めちゃダメだからね」
「七海、そうはいかないのよ!」
電話を切る。
その隙をついて、ラブが動く。
「バシバシバシ!」
「クッ…」
ラブが崩れる。
紗夜が放った電気銃が背中に命中していた。
「ラブさん、ごめんなさい」
紗夜がラブに近づく。
力を振り絞り、振り向いたラブ。
その胸に、咲の電気銃が突き立った。
(アイ…T2、咲さんを守って…)
ラブの並外れた聴覚には、七海の声が聞こえていたのである。
気絶したラブに手錠を掛け、別室の刑事課員を呼ぶ。
「おい、お前ら正気か?ラブになんてこ…」
「ドサッ」
昴の放った電気銃が背中に命中していた。
~中野区~
16:20
それは、偶然が引き合わせたものか、地道な捜査の賜物《たまもの》か、或いは不運な巡り合わせか。
東京都の西側で連続している『連続死体解体遺棄事件』を止めるべく、淳一は毎夜、住宅地域を見廻っていた。
まだ灯りのない家が多い中、その端の家に灯りが付いた。
母親と女の子の声が聞こえた。
「いつまで、こんなんが続くのやら、全く」
とボヤいた時、その家の灯りが消えた。
距離は30m余り。
咄嗟に身を隠す淳一。
ゆっくり近づく。
声は聞こえない。
ただ、かすかに物音だけが聞こえた。
家の塀までたどり着く。
すると、薄明かりが灯り、閉じたままのカーテンに影が揺れている。
(ロウソクか…やはり怪しい)
ゆっくりと慎重な動きで玄関に着き、ドアに耳を当てて音を聞く。
微かに呻き声が聞こえた。
(12号か!)
立ち上がり、ドアノブに手をかけた瞬間。
「ガン❗️」
後頭部を殴られ、意識が霞む。
(クソッ…)
準備を済ませた犯人は、帰宅する父親を待ち伏せていたのであった。
ドアが開かれ、後ろからベルトを掴み上げられ、中へ放り込まれた。
「うぅ…なんて力だ…」
うめきながら、丸まった姿勢の懐《ふところ》で、スマホの受話音量をゼロにし、刑事課への直通ダイヤルアイコンを押す。
表を確認し、鍵をかけた犯人が戻って来る。
スマホを内向きにし、パンツの中へ入れた。
髪を掴まれ起こされたボディに蹴りが入る。
「グァっ!」
ズボンのポケットからもう一つの個人携帯を取り出し、かけるフリをする。
「ガッ!」
その手を蹴られ、携帯が吹き飛ぶ。
転がった携帯を何度も踏みつける犯人。
幸い、手帳と銃は、上着ごと車の中である。
起き上がった顔面を蹴られ、意識が消えた。
暫くして、ぼんやりと周りが見えて来た。
椅子に縛られ、猿轡《さるぐつわ》をかまされて声は出せない。
テーブルの向かいには母親が縛られていた。
その母親の目が見開かれ、必死でもがく。
「ドサッ!」
テーブルの真ん中に、裸の少女が置かれた。
意識はないが、生きている。
「うぅうー!うぅー!」
必死で抵抗するが声にならない。
手を上に伸ばし、仰向けにされた少女。
その掌に太い釘を当てる。
「うぅうー!うー❗️」
何の躊躇《ためら》いもなく、テーブルへ打ち付けた。
「ゔぅー❗️」意識が戻る少女。
「バシッ!」
予測してたかの様に少女を殴り、手際よくもう片手も打ち付ける。
「ぁゔ!」
暴れる片足を、ハンマーで殴る。
「バキッ!」
骨が折れた。
掴んだ足を立て、その甲を釘で固定する。
痛みに体は反応するが、もう少女には抵抗する気力すら無い。
(早く来い!早く!)
その時、手首に冷たい感触があり、瞬時に激痛に変わる。
縛られた手を生暖かいものが伝う。
少しして、赤黒い液体が入ったワイングラスが目の前に置かれた。
次には、母親の前にも置かれた。
(クソっ!助けないと…クソー❗️)
歯痒さと憎しみで涙が溢れる。
(早く、助けないと…早く…)
ナイフが娘の乳房に当てられた瞬間。
「バンッバンッバンッ❗️」
犯人の喜悦に酔いしれた意識に向けて、窓越しに放った紗夜の銃弾が、犯人の頭を撃ち抜いていた。
「ガン❗️」
ドアが破られ、警察が突入して来た。
「淳❗️しっかりして!早く医療班を!」
「…さ…や、少女を…少女を…」
「分かった、分かったから…淳!」
涙が溢れる。
「紗夜さん!急がないと!」
昴が、すがる紗夜を振りほどく。
「お願い、淳を…私の夫を助けて!」
3台の救急車が、パトカーの先導で、現場を離れて行った。
いつもは静かな住宅地が、多くのパトカーと野次馬、報道陣でごった返していた。
「間に合うといいですね」
昴が呟く。
「間に合うに決まってるじゃない。あのしぶとい淳が紗夜を残して死んだりしないわよ!」
「昴、お前のヤマも、やっと終わったな」
そんな淳一の声が、聞こえた気がした。
犯人は即死。
後のことであるが、本名 荒木士郎。
精肉店に勤務していた頃に、今で言うパワハラ師匠と喧嘩になり、師匠の腕を切断。
殺人未遂と傷害罪で服役し、2ヶ月ほど前に横浜刑務所を出所。その後は行方不明であった。
「さて、面倒臭い報道陣は部長に任せて、帰りましょ、昴」
野次馬をかき分けて進む二人。
「全く邪魔ね。どいてよ怪我人なんだから」
その時、咲の勘が目の前に迫る男に気付いた。
(しまった❗️)
一瞬目を閉じた。
目を開くと直ぐ斜め前に、ヤツがいた。
(斬られてない…でも…⁉️)
七海が見上げる。
「だから、ダメって言ったのに…バカ」
「昴❗️」咲が叫ぶ。
右にいた昴が、七海と目の前の男に気付く。
七海の両腕が、ガッシリ男の腕を掴んでいた。
「早く❗️」
銃口を男の腹部に当て、上に向けて撃つ。
「バンッ❗️」
腹からの銃弾が男の後頭部までを貫通した。
「キャーッ❗️」
「銃だ、逃げろ❗️」
男の血を浴びた野次馬が、必死で離れていく。
李龍辰《リロンシン》の体が崩れ落ちる。
七海が手を放し、咲にもたれかかる。
座り込み、七海を腕に抱いた咲。
半月刀が、七海の体に深く切り込まれ、背骨で止まっていた。
「昴!救急車を!早く❗️」
「咲さん…私はもうムリだから」
「何で、何でよ!」涙が止まらない。
「咲さんは、私の想いを叶えてくれたから」
「運命が見えるなら、どうして❗️」
咲の頭の中で、必死で止めていた声が響く。
「見える者が干渉しないと、変えられないんだよ。淳一さんを導いたのも私。これでも七海、頑張ったんだからね…」
七海の意識が薄らぐ。
「ダメ❗️私なんかの為に死んじゃダメ❗️」
「…あのね、7年前に運命を大きく変えた時から…いつかはこうなると分かってたの…だから、咲さんは…もっと生きてね…」
「バカ❗️私より七海が生きなきゃ❗️」
「…あっ…あの4人…の殺…鬼の…命は…
…変えら…なかった…操られて…………」
腕の中で、七海の重みが増した。
「…目を開けて…七海、ねえ…七海っ❗️」
(さよなら 咲さん)
「うわぁあああぁ❗️ななみ……」
救急車のサイレンか遠くから…聞こえて来た。
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「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
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