2 / 9
第二章
出会いと別れ
しおりを挟む
春の朝。
目覚めるといつも、一番に空を見上げました。
そこから見る空を、桜の花びらが美しく彩っていました。
小さな神社の軒下に、私の家はあって、二人・・・いえ、2匹の妹と暮らしてたのです。
家といっても、ミカンの絵がついた、小さなものです。
あの頃の私は、まだ生まれて半年くらいだったと思います。
私たちが生きていられたのは、ある少女のおかげでした。
その少女が、私が最初に出逢った「イイ人」です。
少女は毎朝、学校と言うところへ向かう途中、ここに寄って、ミルクや食べ物を届けてくれたのです。
少女はいつも一人でした。
時々は、帰りに食べかけのパンをくれることもありました。
「リンリン♪」
背中の四角い箱に、ぶら下がっている、鈴の音が近づいてくると、私たちは、家から身を乗り出して待ち構えました。
『いっぱい食べて、大きく、強くなるんだよ~。』
そう言いながら、食べている私たちを、優しく微笑んで見ていました。
私は、この少女が大好きでした。
毎日、あの鈴の音を待ちわびていたのです。
ある日の夕方、女の子の様子が少し変でした。
背中にあった、四角い箱は無くなっており、可愛い洋服は泥だらけだったのです。
(悲しそう・・・。何があったんだろう。)
私の不思議そうな顔を見てか、女の子はすぐにいつもの笑顔になって、言いました。
『だいじょうぶだよ。ネコちゃん。ちょっと転んじゃったんだ…。ランドセルは無くなっちゃったけど、これはちゃんと持ってるからね。』
広げた小さな掌には、あの鈴がありました。
輪っかは、ちぎれて、少し形も潰れていました。
『これね、お父さんからもらったんだよ。私これが大好き。ネコちゃんたちも好きなんだよね。』
その音がすると、私たちが飛んでくることを知っていました。
『でもね・・・。鳴らなくなっちゃった・・・。ごめんね・・・。』
つぶれたせいで、音がしなくなったのでした。
「ギリッ。」
かすかに、奥歯を噛み締める音が聞こえました。
(どうしたんだろう…。)
私はまだ幼く、鈴を見つめる少女の悲しみを、理解することはできなかったのです。
少しして少女は、いつもの様に私のノドを撫でてくれました。
実は、私のノドにはピンクのアザがあり、そこだけハゲていました。
その「アザ」が、女の子のお気に入りだったのです。
その春が終わり、青々とした葉っぱが、私の空を覆い始めた頃です。
夜、私は月を見ていました。
(あの子の名前は、何ていうんだろう…。っていうか…ボクも名前欲しいなぁ…)
その時。
『お父さん、あそこあそこ、ほら。』
一人の男の子が、お父さんと近づいて来ました。
『ほらね。可愛いいでしょ。』
『しかし…、捨てネコだからなぁ。汚いじゃないか。』
(自慢の爪で、引っ掻いてやろうか!)
『飼いたけりゃ、日曜にショップへ連れて行ってやるぞ。』
『だめだよ! このままじゃこの子達、いつか死んじゃうよ。』
(そんなに簡単に殺さないでくれる?)
『お願い、飼ってもいいでしょ?お父さん。』
後で分かったのですが、男の子の母親は、2年前に亡くなっていました。
『分かった分かった。お父さんが、出張でいない時は、ネコでもいないよりゃましか。』
(いちいち、一言多い…。)
『だが、一匹だけだぞ。それもオスがいいな。メスは、子供生んじゃうからな。』
『え~っ!そんな、他の2匹がかわいそうだよ。』
(オスって・・・ボクじゃん。冗談じゃない! 妹達を残して、行くわけにはいかないし、あの子にも会えなくなる。)
『大丈夫さ、一人ぼっちにはならないんだから。それに、二匹なら、誰かまとめて拾ってくれるかもしれないぞ。』
(そ、それは・・・。そうなのかな?ボクは邪魔?)
『分かったよ、お父さん。』
(いや、チョット待って! やっぱり妹達と別れたくない!!)
子猫が人に逆らっても、無駄な抵抗でした。
『おお、なかなか元気な子だ。鳴いて喜んでるじゃないか。』
(「泣いて」頑張ってるの!!)
少年に抱き抑えられ、連れて行かれる私を、妹達の不安そうな目が、見つめていました。
(きっと、大丈夫。あの子がいるから。元気で生きるんだぞ・・・。)
『お父さん・・・。この子泣いてる。』
『バカ。ネコが泣くわけないだろ。』
私にとって、初めての涙というものでした。
男の子の家は、小さな工場といっしょになっており、お父さんは、そこの社長さんでした。
しょんぼりとしている私を気にしてか、男の子は、色んな食べ物を、次から次へと持ってきました。
無視していた私も、目の前に、高そうなお刺身の盛り合わせが置かれた時には、びっくりしました。
『おい!、それは今夜の晩飯のおかずだ!!それだけは勘弁してくれ。』
そう言って、お父さんが飛んできました。
その後少しして、私が、柔らかく上品に味付けされたカツオの煮付け(高級ネコ缶)を食べていると、お父さんが来ました。
『目の前に見せといて、取り上げるってのは、いい気分じゃないからな。』
そう言って、お刺身を一切れ、置いていきました。
こうして私は、この二人のことが、好きになって行ったのです。
次の朝、「日曜日」という日でした。
私が窓から空を見ていると、男の子がドタドタと走って来たのです。
『ほら、これ!』
一枚の紙が広げられました。
(読めるわけが・・・)
『「レイ」。君の名前だよ。』
説明によると、親子で読んでいる漫画に、出てくる人物の名前だということでした。
なんでも、素手でものを切ることができる超人だとのこと。男の子は、昨夜ベッドの中で、私の名前を考えてくれたのでした。
自慢の爪を見て、思いついた様です。
「レイ」
(はじめてもらった、自分の名前。)
漫画がどうであれ、私は嬉しくてたまりませんでした。
『僕は、峰崎 健次。よろしくね、レイ。』
生まれて初めて、ご主人様に、名前で呼ばれたのでした。
目覚めるといつも、一番に空を見上げました。
そこから見る空を、桜の花びらが美しく彩っていました。
小さな神社の軒下に、私の家はあって、二人・・・いえ、2匹の妹と暮らしてたのです。
家といっても、ミカンの絵がついた、小さなものです。
あの頃の私は、まだ生まれて半年くらいだったと思います。
私たちが生きていられたのは、ある少女のおかげでした。
その少女が、私が最初に出逢った「イイ人」です。
少女は毎朝、学校と言うところへ向かう途中、ここに寄って、ミルクや食べ物を届けてくれたのです。
少女はいつも一人でした。
時々は、帰りに食べかけのパンをくれることもありました。
「リンリン♪」
背中の四角い箱に、ぶら下がっている、鈴の音が近づいてくると、私たちは、家から身を乗り出して待ち構えました。
『いっぱい食べて、大きく、強くなるんだよ~。』
そう言いながら、食べている私たちを、優しく微笑んで見ていました。
私は、この少女が大好きでした。
毎日、あの鈴の音を待ちわびていたのです。
ある日の夕方、女の子の様子が少し変でした。
背中にあった、四角い箱は無くなっており、可愛い洋服は泥だらけだったのです。
(悲しそう・・・。何があったんだろう。)
私の不思議そうな顔を見てか、女の子はすぐにいつもの笑顔になって、言いました。
『だいじょうぶだよ。ネコちゃん。ちょっと転んじゃったんだ…。ランドセルは無くなっちゃったけど、これはちゃんと持ってるからね。』
広げた小さな掌には、あの鈴がありました。
輪っかは、ちぎれて、少し形も潰れていました。
『これね、お父さんからもらったんだよ。私これが大好き。ネコちゃんたちも好きなんだよね。』
その音がすると、私たちが飛んでくることを知っていました。
『でもね・・・。鳴らなくなっちゃった・・・。ごめんね・・・。』
つぶれたせいで、音がしなくなったのでした。
「ギリッ。」
かすかに、奥歯を噛み締める音が聞こえました。
(どうしたんだろう…。)
私はまだ幼く、鈴を見つめる少女の悲しみを、理解することはできなかったのです。
少しして少女は、いつもの様に私のノドを撫でてくれました。
実は、私のノドにはピンクのアザがあり、そこだけハゲていました。
その「アザ」が、女の子のお気に入りだったのです。
その春が終わり、青々とした葉っぱが、私の空を覆い始めた頃です。
夜、私は月を見ていました。
(あの子の名前は、何ていうんだろう…。っていうか…ボクも名前欲しいなぁ…)
その時。
『お父さん、あそこあそこ、ほら。』
一人の男の子が、お父さんと近づいて来ました。
『ほらね。可愛いいでしょ。』
『しかし…、捨てネコだからなぁ。汚いじゃないか。』
(自慢の爪で、引っ掻いてやろうか!)
『飼いたけりゃ、日曜にショップへ連れて行ってやるぞ。』
『だめだよ! このままじゃこの子達、いつか死んじゃうよ。』
(そんなに簡単に殺さないでくれる?)
『お願い、飼ってもいいでしょ?お父さん。』
後で分かったのですが、男の子の母親は、2年前に亡くなっていました。
『分かった分かった。お父さんが、出張でいない時は、ネコでもいないよりゃましか。』
(いちいち、一言多い…。)
『だが、一匹だけだぞ。それもオスがいいな。メスは、子供生んじゃうからな。』
『え~っ!そんな、他の2匹がかわいそうだよ。』
(オスって・・・ボクじゃん。冗談じゃない! 妹達を残して、行くわけにはいかないし、あの子にも会えなくなる。)
『大丈夫さ、一人ぼっちにはならないんだから。それに、二匹なら、誰かまとめて拾ってくれるかもしれないぞ。』
(そ、それは・・・。そうなのかな?ボクは邪魔?)
『分かったよ、お父さん。』
(いや、チョット待って! やっぱり妹達と別れたくない!!)
子猫が人に逆らっても、無駄な抵抗でした。
『おお、なかなか元気な子だ。鳴いて喜んでるじゃないか。』
(「泣いて」頑張ってるの!!)
少年に抱き抑えられ、連れて行かれる私を、妹達の不安そうな目が、見つめていました。
(きっと、大丈夫。あの子がいるから。元気で生きるんだぞ・・・。)
『お父さん・・・。この子泣いてる。』
『バカ。ネコが泣くわけないだろ。』
私にとって、初めての涙というものでした。
男の子の家は、小さな工場といっしょになっており、お父さんは、そこの社長さんでした。
しょんぼりとしている私を気にしてか、男の子は、色んな食べ物を、次から次へと持ってきました。
無視していた私も、目の前に、高そうなお刺身の盛り合わせが置かれた時には、びっくりしました。
『おい!、それは今夜の晩飯のおかずだ!!それだけは勘弁してくれ。』
そう言って、お父さんが飛んできました。
その後少しして、私が、柔らかく上品に味付けされたカツオの煮付け(高級ネコ缶)を食べていると、お父さんが来ました。
『目の前に見せといて、取り上げるってのは、いい気分じゃないからな。』
そう言って、お刺身を一切れ、置いていきました。
こうして私は、この二人のことが、好きになって行ったのです。
次の朝、「日曜日」という日でした。
私が窓から空を見ていると、男の子がドタドタと走って来たのです。
『ほら、これ!』
一枚の紙が広げられました。
(読めるわけが・・・)
『「レイ」。君の名前だよ。』
説明によると、親子で読んでいる漫画に、出てくる人物の名前だということでした。
なんでも、素手でものを切ることができる超人だとのこと。男の子は、昨夜ベッドの中で、私の名前を考えてくれたのでした。
自慢の爪を見て、思いついた様です。
「レイ」
(はじめてもらった、自分の名前。)
漫画がどうであれ、私は嬉しくてたまりませんでした。
『僕は、峰崎 健次。よろしくね、レイ。』
生まれて初めて、ご主人様に、名前で呼ばれたのでした。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
王の影姫は真実を言えない
柴田はつみ
恋愛
社交界で“国王の妾”と陰口を叩かれる謎の公爵夫人リュミエール。彼女は王命により、絶世の美貌を誇る英雄アラン公爵の妻となったが、その結婚は「公爵が哀れ」「妻は汚名の女」と同情と嘲笑の的だった。
けれど真実は――リュミエールは国王シオンの“妾”ではなく、異母妹。王家の血筋を巡る闇と政争から守るため、彼女は真実を口にできない。夫アランにさえ、打ち明ければ彼を巻き込んでしまうから。
一方アランもまた、王命と王宮の思惑の中で彼女を守るため、あえて距離を取り冷たく振る舞う。
離婚した彼女は死ぬことにした
はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる