異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

文字の大きさ
28 / 250
第3章 中央高地戦線編

第4話 甲府方面奪還作戦会議

しおりを挟む
 ・・4・・
「まずは現在の戦況から説明しよっか。ホロマップに注目して」

 璃佳が言うと、孝弘達はホログラムの地図に視線を移す。甲府盆地全体が表示されており日本軍の支配領域には薄い水色が、CT占拠側は薄い赤で着色されていた。

「先日に作戦で私達は韮崎周辺まで確保。さらに南部方面は今後の足がかりとして御勅使川みだいがわ付近までは確保してる。面積としては大した事ないけど、この後に話す作戦の橋頭堡みたいなもんだね」

「川を臨時防衛線とする形ですね。この後さらに進出するにしても、万が一の防衛線には使えると」

「そゆことだね米原少佐。先の戦闘はあくまで前段作戦ってわけさ。次に彼我の兵力について。画面を切り替えるよ」

 璃佳がホロマップの操作をすると、地図のやや上に兵力数と簡易的だが部隊配置も表示される。CT側には集団で動き少々統率が取れた動きをするものの部隊という概念が薄いため、各方面の概数が出されていた。

「CT側が結構多いですね……。兵力比だと富士宮より開きがあるし」

「ごめーとー、関少佐。日本軍の兵力は私達第一特務連隊を加えても約一六五〇〇。ただし先の戦闘で死傷者が出てるから実数は約一六〇〇〇ってとこかな。それに対してCTの数は約五五〇〇〇から約六〇〇〇〇。兵力比だと富士・富士宮より広がっちゃってるね」

「大佐の情報に補足する。作戦開始までに後方から兵力の補充がある。陸軍からで数は二五〇〇の一個連隊だ」

「思ったより少ないんですね……。情勢を踏まえれば仕方ないですけど」

 熊川の補足に対して水帆は正直な感想を漏らす。

「高崎少佐の懸念は最もだ。俺も思ったからな。君達も知っての通り、現在の我々は他にも戦線を抱えている。君達がいた富士だけでなく、俺達が前までいた新潟方面。他にも山形方面、青森方面。そして、北海道」

「ぶっちゃけ北海道はもう厳しいを通り越しているんだけど、道民の避難は何としてでも完了させないといけない。人数が人数だけに凄い時間がかかってね。もうすぐ終わるらしいんだけど、当面はあっちに兵力を割かないといけないわけ。攻撃に輸送にと海軍は大忙しだよ。そんな中でも上が兵力を出せたのは作戦の為ってのもあるけど目処が立ったからってのもあるのよ」

「志願制の一般予備役と能力者予備役っすね」

 志願制の予備役とは、陸軍が行っている予備兵力のことだ。普段は会社勤めをしているが年間で最低限の訓練を実施している。これら予備役は有事の際に招集されることになっている。
 魔法軍が実施している魔法予備役も似たようなシステムである。
 能力者は一般兵力に比べると希少だが、全員が軍人になるわけではない。能力者もそれぞれ普通に魔法関連の会社に勤めているか、魔法教師になるなど様々な進路がある。

 ただしこれは平時の話であり、有事の際には事前に登録した者は招集されることがあるのだ。この事前登録者にはいくつかタイプがあるが、代表的なのが一年に一度最低限の訓練を実施し国から補助金が給付される予備役能力者。もう一つが、国家魔法奨学金制度利用者だ。

 魔法を学び大学まで卒業しようとすると、その学費は理系卒業者より高く薬学部卒業者よりやや安い位には学費が必要になる。そこで国は独自の奨学金制度を設けたのだ。それが国家魔法奨学金である。
 この奨学金制度利用者の予備役枠は、前線には出向かないが地元で治安維持や後方支援にあたる。前線に兵力を割くと必然的に不足する後方展開兵力を補う。それが彼等の役目であるわけだ。
 大輝は転移前に学生として得ていた知識だからこそ、すぐに答えを出せたのである。

「当たりだよ、川島少佐。即応予備については先月の段階で全て出し尽くしててね。今は登録されてた予備役と魔法予備役について随時投入してるわけ。即応と違ってこっちは即席とはいえ実戦投入前の訓練だけでも済ませないといけなくてさ。後方展開兵力にしても一緒。で、これの第二次が終わったのが先々週」

「予備役を後方配置することで常備兵力にやっと余裕が出始めた。その中の内、約二五〇〇がまもなく我々の所に来るという具合だ」

「補足説明ありがとうございます。一個連隊いるかいないかでだいぶ変わりますから、有難い話ではあるかと」

「そう理解してくれると助かるよ、米原少佐。さ、次は今後の方針について話そっか。まだ作戦は正式に布告されていないけれど、だいたい今から話す内容で進むと思うよ。マップを変えるね」

 璃佳がまた端末を操作すると、マップが変わる。ホロマップには今後の作戦で進出する地域と方角が矢印で表されていた。

「先に結論を言おっか。私達の目標は二つ。南部方面は鰍沢口駅かじかざわぐちえき手前まで進出して甲府盆地南部を押さえること。もう一つが東部方面。甲府市中心部を奪還し、善光寺駅まで進出する。進出ラインは善光寺駅と甲府市内の身延線沿いで、南部方面の鰍沢口で南部方面進出ラインと連結。南限がちょうど笛吹川と釜無川の合流部になるかな。こっちがメインだね」

 璃佳が説明した作戦は、先日行われた戦闘が前段作戦と称するに相応しい規模だった。現有兵力約二〇〇〇〇の内、既存領域の防衛に必要な兵力を除いたほぼ全ての戦力を投入するとのことで、さらにその先を考えるにはこれがギリギリというラインでもあった。

「かなり大規模というか、日本で初の大規模反攻作戦になりそうですね」

「ぴんぽーん、だね高崎少佐。すぐに到着する約二五〇〇はこの作戦に組み込まれることになる。一応、十日後にはさらに追加の一個連隊がとうちゃくするけどこれは防衛用戦力。私達は甲府盆地の中央部まで一気に奪還するんだけど、その兵力が約一五〇〇〇さ」

「南アルプス市方面から鰍沢口駅手前まで進出の南部方面に一個旅団規模、韮崎を足がかりに塩崎、竜王、そして甲府市中心部へ進出する東部方面に一個師団規模。現在展開している部隊は装備の補充もされつつありますから、機動師団及び機動旅団としての展開が可能。さらにここ第一特務連隊もいますから、攻勢としては申し分無さそうですね」

「ま、ここまで整えるのに上は結構無理したらしいけどね。富士の方もあるから、万全には整えられなかったみたいだけど」

 孝弘の軽い分析に璃佳は情報を補足させる。ただし言葉の最後の方では肩をすくめていた。万全にはいかないという点は軍にとっての宿命であるものの、やはりベストの状態にしたいからだ。今の状況ではそれが叶うはずも無いのだから、璃佳も肩をすくめるしかない。
 気を取り直した璃佳は説明を続けた。

「んで、こっからは私達第一特務の作戦中の動きだけどめちゃくちゃシンプル。東部方面展開部隊の最先鋒。高位魔法能力者で構成される我が連隊は航空魔法兵力・地上魔法兵力の両面となって敵戦線に穴を開け、消し飛ばし、あるいは友軍の支援をしながら作戦を完遂させる。こんだけ」

 こんだけと璃佳は言うものの、孝弘達は第一特務連隊でないと果たせない任務だと強く感じていた。敵の最前面に立つということは最も敵の抗戦に晒されるのだ。要するに一番危険な任務である。

「質問です」

「何かな、関少佐」

「航空魔法兵力とありますが、これは連隊総員に当てはまるということですか?」

「うん。ここにいるような情報要員や戦闘をメインで行わない魔法工兵部隊は除くけどそれ以外の全戦力は皆、飛行魔導機器の『フェアル』が使えるからね。敵に航空戦力があるなら割り振りも考えるけど、今回は違うでしょ?    もちろん初期段階における航空戦力の割り振りはするけれど、途中からは適宜になるかな」

「となると、私達は難しいかもしれません」

「安心して。訓練はするから。多少は出来るでしょ?」

「まあ、多少は」

「富士であれだけ活躍して飛行魔法に心配とは珍しいっすね」

 既に作戦を伝えられている大隊長メンツの内、長浜が意外だという様子で言った。

「長浜少佐、この四人はいわゆる軍機モノの四人だからさ」

「あっ、なるほど。何となく察しました。失礼したっす」

 少佐という立場上四人の情報は多少耳にしている長浜はそれ以上は口を開かなかった。

「まあでも、一応君達は基本地上要員だから安心して。その代わり、陸上高機動展開はしてもらうけど大丈夫だよね?」

 陸上高機動展開とは加速魔法を用いて戦闘を行うことである。高練度部隊なら必須の技能だ。

「はい。自分を含め四人ともいけます」

「米原少佐、ちなみに四人とも時速何キロ出せる?   ウチのメンツは高機動展開なら時速六〇は余裕で出せるけど」

「六〇は余裕です。八〇でも十分に。機動戦闘車の最高速度くらいまでなら継続分数にもよりますが、可能です」

「さっすがー。なら問題ないね」

 孝弘達はアルストルムで嫌という程に高機動展開、つまり加速魔法を用いた戦闘を行っている。機動戦闘車の最高速度である時速約一〇〇キロ位までなら何度も経験があったのだ。なお、あっさりと言ってのけた孝弘に対して大隊長の三人は感心していた。時速六〇までならともかく、時速一〇〇を継続分数にもよるが可能と言える人材は第一特務と言えどそういないからである。

「となると、君達四人は私の直轄で高機動してもらおっか。これで大体は決まりかな?   昨日の会議で作戦開始日時が概ね決まってね。恐らく一週間後になるんだって。正式な布告があったらまた作戦会議をするけど、ま、今みたいな感じでやるからよろしくっ」

『はっ。了解致しました』

 四人とも敬礼をすると、璃佳はニコニコしながは答礼する。

「さーさー、お堅い説明はこれくらいにしておいて、この後はささやかながら君達の歓迎会をしよっか。軍の糧食ばっかだけど温食で揃えたし、ご飯は貴重な楽しみの一つでしょ?    駅のすぐ北に小さなショッピングセンターがあるからさ、一時間後にそこで開催。荷物片付けて部屋の手配と確認済んだら集合ねー。私も行くからさ」

 連隊の大隊長達への挨拶と現況確認を終えた孝弘達は、用意された個人用の部屋の確認と荷物を置くと璃佳が行っていた歓迎会へと向かう。
 それはささやかというにはそこそこに大規模なバーベキュー会場で、孝弘達は早速連隊の将兵達と作戦前の僅かな平穏ながらにこやかに交流を行うのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...