異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第1章転生編

第4話 お爺様と国境線の話をしよう

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 ・・4・・
 ロータス・ノースロード。七十一歳。
 アルネシア連合王国北東部の要、ノースロード家の前当主で僕ことアカツキの祖父だ。ノースロード家は当主が伯爵の位についているけれど、爵位そのものは死ぬまで持つものなので隠居してもお爺様は伯爵位を持っている。ただ、実権のかなりを既に父上に移譲しているので名誉的な意味が強いかな。
 このお爺様、当主時代には様々な功績を残している。お爺様が当主の時代はちょうどアルネシアが産業革命を迎えた頃だった。お爺様はその好機を逃さず、農業中心だったノースロード領の産業を工業中心に変貌させた。元々ノースロード領は国の北部にある事から冬の寒さは国内の中では厳しく今日のように雪が積もっていたという日もたまにある。なので農業生産効率はあまり良くなかったのだ。
 そこで、お爺様は領内経済を季節に影響されない工業へと転換。結果ノースロード領の財政は潤い、連合王国一の工業地帯である西部工業地帯程ではないにせよ工業地帯が生まれた。元々産業に対して人口が過剰気味だったノースロード領は労働人口には困らなかったので、工場の労働力を領内で確保。現在では、西部工業地帯に次いで豊かな領だと呼ばれるようになった。いわば、お爺様は名君と呼ばれる部類。前世の記憶が戻った僕から見ても立派な人だと思う。
 ただ、経済に注力している為に軍事方面の功績は少ない。流通網の構築で移動がしやすくなったのを兵站への貢献と考えるのならば、それもまた功績なんだろうけれど、他領に比べて軍隊が強い訳ではない。
 王様から軍を預かっているとは言ってもそれは名目上で、領内からの徴兵と育成から指揮に至るまで貴族に任されているんだから実質は貴族の軍隊だ。なので、かなりの裁量を任されている。お陰で練度はバラバラになりがちなんだけど、これは二百五十年も戦争が無かった弊害だろうね。
 話を戻そう。簡潔に纏めると、お爺様は経済においては名君だけど軍事や魔法については特筆する点はないという人かな。とはいえ、王政と貴族という形が残っている中でこれだけの結果を残しているんだから十分すぎるよね。領内どころか、国内でも人気のある貴族だし。
 さて、そのロータスお爺様と僕は昼食を摂り終えて今は食後のコーヒータイムに移っていた。ポートゥフの味?体が温まってとても美味しかったよ。

「アカツキや、それだけ食べられるようになったのならば体調は大分戻ったようじゃの」

 お爺様はコーヒーを口にしながら、ホッとした様子で僕を優しい眼差しで見ていた。お爺様と僕が口にしているコーヒーは南方大陸産。前世で言うならアフリカ大陸みたいなとこだね。コーヒーがここにもあるのは個人的にも嬉しい点の一つだ。

「はい。お陰様で殆ど治りました。今は体も軽いですから、明日からは普通に過ごせますよ」

「なら安心じゃの。アカツキは体こそ小さいが、丈夫じゃったから風邪を引くなんて珍しいと思ってのう」

「なるべく気を付けるようにはしているのですが、お父様とお母様が王都で仕事に励んでおられるというのに情けない限りです。留守中の領内を任せられていたので、なおさら」

「なに、人なのじゃからたまには風邪くらい引く。それに儂がおるから仕事に関しては心配無用じゃよ」

「ありがとうございます。助かります」

「礼には及ばんよ。孫の為じゃと思えば苦ではないわい。むしろ、隠居してから時間を持て余し気味じゃったからいい気分転換になったぞよ」

「そう言って貰えるのならば幸いです、お爺様」

 僕が礼を言うと、ロータスお爺様は柔らかく微笑む。敏腕を誇っていたお爺様も、孫の前ではよくいるおじいちゃんみたいだった。

「ところで、お爺様。コーヒータイムの雑談には少しお堅い話かもしれませんが、聞きたい事があります」

「なんじゃ?言うてみよ」

 僕の体調の話はそこそこに終えて、次の話題という事で僕はロータスお爺様に気になっていたことを聞く。前世の記憶が戻った事でこの部屋に来る前から聞こうと思っていたんだ。

「最近の妖魔帝国の動向はどうなっていますか?何か変わった動きとか、些細な変化でも構いません」

「妖魔帝国?」

「はい」

 ロータスお爺様はきょとんとした様子で僕に言葉を返す。
 僕はアカツキであり亮でもある、と考えていい。というかそういう事にした。アカツキの人格を違和感無く振る舞えながら亮という僕の人格になったこの状況は摩訶不思議で疑問もあるけれど、不思議に思ったとしても仕方ない。現状こうなっているんだし。
 まあそれはひとまず置いといて、この状態はある意味便利なもので、前世の記憶が戻ったとしても創作の転生モノのように一から世界の知識を学ばずに済んでいる。しかし、記憶が戻ったからこそ改めて聞こうと思ったのだ。もしかしたら、亮としての記憶によって新たな考えや対策も思いつくかもしれないから。なので、僕はロータスお爺様に今みたいに質問した。

「まず、妖魔帝国の様子は国境線からしか伺えぬのは知っての通りじゃろ?」

「ええ。そもそもあちらは我々とは種族の違う国ですから潜入は非常に難しく命懸けです。なので深入りは出来ず、得られる情報も限られています。しかし、我が国は隠密部隊を編成して定期的な妖魔帝国の内情を調べてもいるはずです」

「うむ。その通りじゃ。じゃから、手に入る情報は国境とその少し先までになるの」

「それだけでも構いません。お爺様はお父様とこの手の話もされておられるはずですから、何か聞いておられるかと思いまして」

「お主は魔法や儂みたいに経済中心に学んでおったからてっきり軍事について、ましてや二百五十年も動かぬ国境の事を聞いてくると思わなかったから驚いておる。心境の変化でもあったのかの?それか、風邪を引いて何かあったのかの?」

 冗談を言うように笑いつつも、言葉通りやや驚いた表情をしながら言うロータスお爺様。記憶を共有しているから自覚はあるんだけど、僕ことアカツキは魔法と領内経営中心に興味があったようで、安全保障分野は魔法関連はともかくとしてあまりお爺様と話はしてこなかったらしい。そりゃちょっとびっくりするよね。
 だけど、熱にうなされて夢で前世の最期を見た上でおまけに前世の記憶が戻りましたなんて絶対に言えないので僕はもっともらしい主張を言うことにする。

「僕も二十二です。遠くないうちに父上から受け継ぐ事になるでしょう。今度は僕が領主になるわけです。ともすれば、これまでのように魔法と経済ばかり偏って学ぶ訳にはいきません。ノースロードは国境こそ接してはいないものの決して遠くない距離に妖魔帝国が存在しています。そして、我が領に駐屯するのは二個師団。いざとなれば主戦力の一つになるでしょう。ならば、妖魔帝国の動きも随時知っておくべきかと」

「ほう。本当にどのような意識の変化があったのか気になるが、ごもっともじゃの。して、聞きたい事は妖魔帝国側の動向じゃったな」

「はい。よろしくお願いします」

 僕とロータスお爺様は同時にコーヒーを一口飲むと、一息置いてからお爺様は話し始める。

「まず、国境の向こう側にいる妖魔帝国軍じゃが相変わらずじゃ。こちらが国境線に配置しているのが合計で六個師団にも関わらず、あちらは推定で五個師団ってとこかの。あやつらは魔法に力を入れておるから儂等のような銃器の類は見当たらぬ。と報告には上がっておる。勿論、これまでの二百五十年間と同じように再侵攻なぞまるでするつもりはないようじゃ」

「二百五十年あって兵器の進展が乏しい、ですか」

「人間に比べて魔人は魔力が高いからの。攻撃魔法はモノによっては大砲程の高い火力を誇る。奴ら一人あたりの魔力保有量が平均で人間の五倍なのはアカツキはよく知っとるじゃろ?」

「え、ええ。それについては」

 前世の記憶がある分だけ、今の話を聞いて少し驚いてしまった。平均で五倍も違うのか。なるほど、それなら通常兵器に頼らなくても火力は十分な訳だ。ううん、やっぱりこの世界についての再確認は必要だなあ。後で魔法についても調べておこう。
 にしても、二世紀半もあって妖魔帝国軍は銃火器を所有していないなんて本当だろうか……。開発の必要性が薄いにしても技術の進歩でどこかで生まれそうなものだと思うんだけどなあ……。

「どうかしたのかの?」

「いえ、お気になさらず。続きをお願いします」

「うむ。その妖魔帝国軍じゃが、山脈を越えて新しく増援が送られたという情報は今のところ入ってはおらぬ。増えたのならば、国境線側からでもある程度分かるからの。無論、二百キーラ先に配置しているとなってしまうとこちらも察知しづらいが一個師団増えれば察知出来ぬわけではない。国境線に何らかの変化があるはずじゃからの」

「つまり、少なくとも妖魔帝国軍側に大きな動きはないと」

「そうじゃの。ただ、最近国境から魔物の流入量がやや増えたという話は入っておるの」

「魔物が、ですか」

 魔物は魔人に支配されている知能の低い生き物だ。ファンタジー世界でお馴染みのゴブリンだとかコボルドだとかオークだとか色々いる。だけど、魔人も全ての魔物を支配しているわけではなくて、好き勝手に動いている魔物も存在する。動物だからね。
 なので、時折国境からアルネシア連合王国へ魔物が出現することもある。ただ、魔物は大型を除いて大して強くもないので練度向上も兼ねてしばしば討伐部隊を組織している。国境に近い部分に合計で六個師団配置してあるのは妖魔帝国軍対策がほとんどだけど、この魔物討伐にも用いられているんだ。
 その魔物の流入量がやや増えた。というのは少し引っかかる。けれど、生き物なんだから個体量が増える事はあるだろうし、これだけではなんとも判断は出来なかった。それはロータスお爺様も同じように思っているようで、

「しかしの、魔物が劇的に増加したならともなく少しじゃ。討伐部隊が討ち漏らしたという話もないし、問題はないかの。儂等ノースロード二個師団に増援要請が来ておらぬのが何よりの証拠じゃ」

「大型の魔物の出現数はどうですか?」

「こちらも比例してやや増加傾向にあるだけじゃ。一般兵器では少しばかり手こずるからと魔法歩兵部隊が編成されて、いつものように難無く討伐しておる」

「となると、国境線はこれまでのように異常なし、というわけですね」

「うむうむ。相変わらず平和じゃよ、この国は。他の国の国境沿いまでは詳しくは分からぬが、少なくともアルネシアにおいてはそう言える」

「なるほど。ありがとうございました。勉強になります」

「儂も軍事については専門家ではないが、話をしていて楽しかったぞよ。よもや、アカツキとこのような会話を交わすとはと思うたよ」

「お爺様は素晴らしい当主でしたから。もちろん、当主から退かれて隠居された今も」

「孫に褒められるのは気分が良いのお」

 ふぉふぉふぉ、と笑うロータスお爺様。記憶が戻った初日にも関わらず、滞り無くお爺様と話せたのは僕にとっても収穫だった。
 それからは特にとりとめもない日常的な会話をした後、コーヒータイムも終えて僕もロータスお爺様も部屋を後にした。
 さて、次は魔法についての再確認と整理だね。
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