異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第4章法国遠征編

第3話 無能の極みにアカツキは

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・・3・・
「この危急の時に援軍感謝する! しかも連合王国は憎き妖魔共を殲滅させたルークス少将にアカツキ准将、リイナ中佐を送ってきてくるとは! 非常に心強いぞ! さあさあ、今日は貴官らを迎えるために料理を用意させた! 戦時で無ければもっと用意できたんだがな、まあたっぷりと食べてくれたまえよ!」

 ガハハハハ、と笑うルラージ中将は僕らをよそに上機嫌だった。
 僕は頭痛がしてきた気がするし、唖然とするしかなかった。妖魔軍はここから東六十キーラまで迫っている――何故か侵攻スピードは非常に緩慢としているけれど――のに、目の前にあるのはまるで高級レストランで出されそうな、一体僕達はどこにいるんだろうかと錯覚しそうなくらいの料理。とても前線司令部で出されるものとは思えない。
 ルラージ中将は何を考えているんだと言いたかったけれど、相手はこの戦線を取り仕切るトップだし、食べ物に罪はないので僕は心の内をしまって。

「ご歓迎ありがとうございます、ルラージ中将閣下。しかし、頂くのは戦況を聞きながらでもよろしいでしょうか?」

「うむ、構わぬぞ! なんでも聞いてくれたまえ!」

 作り笑いをしているのにも気が付かないルラージ中将と、僕のすぐ近くにいるカレル准将はお前は何もやっていないけどな、と毒を吐く。ルークス少将とリイナも言いたいことは山ほどありそうだけれど、心中はここではしまい表面上は取り繕って礼を述べて振る舞う。
 僕は酒なんて摂る気は起きないので、果実水を貰い、軽食の部類であるクラッカーに似た食べ物に手を伸ばして食べると早速本題に入る。この時点で雑談をするつもりは全く無かった。

「ルラージ中将閣下、まずは我々の配置を教えて頂けませんか?」

「おお、いいぞ! カレル准将、地図を持ってこい。――ええっとだな、まずは我が法国軍だが五個師団をヴァネティア近郊に配置しているぞ。戦線は南北に長いが、北部から中部にかけては山がちでこことは別途に二個師団いる。妖魔共は北部や中部にはあまり割いておらんくてな、戦力の殆どを南部に向けてきた」

 テーブルの空いている所に地図を広げると、ルラージ中将は説明を始める。さすがに戦況は頭に入っているらしい。そうじゃなきゃ困るけど。

「正攻法だと思われます。ヴァネティア付近の平野は狭くなっており、この街から北二十キーラはもう山地です。戦線全体が平野ならともかくとして、行軍に厳しい山地は選ばないでしょう。ともなれば、平野部であるヴァネティア近辺に戦力を集中させるのは最もな話です」

「忌々しい事だがな。しかし、我々には諸君等もいる! さらに法皇猊下はSランク召喚武器所有者を三人もお出しになってくださった!」

「そのSランク三人はどちらに?」

 ルークス少将は気になったのだろう。ここにその三人がいずれもいないことをルラージ中将に尋ねる。

「彼等なら本土側で警戒の任務にあたっておるぞ。厄介な魔人も現れているからであろうな。挨拶にはやってきたがすぐに向こうに行った。やる気があるのはいいことであるな」

 いや、恐らくあなたと話したくないからじゃないですかね。と僕は心の中で言いつつも、口を開く。

「続けてお聞きしますがよろしいですか?」

「よいぞ、アカツキ准将」

「妖魔軍は残存が六万程度と聞いておりますが、最新ではどれくらいですか? 頂いた情報は三日前で古いものです。今日現在はどれほどになりましたでしょうか?」

「うむ。実を言うとそこからは殆ど減っておらん。相手が少ないのならば出撃もさせるが、数はあちらが若干上でおまけに例の魔人もおる。なるべく温存させることにして、決戦場はヴァネティアから北、本土側の街であるトラビーザ市の東とした」

「そうですか……」

 トラビーザ市は人口約十万の、ヴァネティアの対岸から北北東に位置する街だ。事前の情報から法国軍五個師団はこの周辺に配置されているから今はもう驚きもしない。けれど、これだと……。
 僕が思案していると、どうやらリイナとルークス少将も気付いたらしい。まずリイナが発言した。

「ルラージ中将閣下。法国五個師団の配置、これではトラビーザの市街地から近くありませんこと?」

「おお、美しい令嬢リイナ中佐。気付いたかな? 此度であるが、もし妖魔共を抑えきれなかった時に備えて街で戦うつもりなのだよ。相手は数に勝る。平野での戦いでは些か不利であるからな。市街での戦闘に持ち込めば地の利はこちらにある上に、建造物を壊せば臨時の防壁にもなる。連中の速度も落ちる故に我々も戦いやすい」

「市街戦に持ち込むということですわね?」

「ご名答だ! 流石は聡明なリイナ中佐であるな!」

 下品な笑みを見せるルラージ中将にリイナは引きつり笑いをしながら答える。

「しかしルラージ中将。市街戦を決行するのはよろしいですが、包囲された場合はいかがするので? トラビーザは山の傍まで市街が伸びている訳ではありませんが」

「安心したまえ、ルークス少将。北部にはその為の備えとして二個師団を置いてある。余程の事がない限りありえんさ!」

「了解です」

 一応備えはあるらしいのを聞いて、それ以上はルークス少将は何も言わなかった。
 僕も市街戦には反対ではない。こちらが僕達連合王国軍を含めて六個師団に対して、遅滞戦術を使うなりして減らしていれば話は変わったかもしれないけれど温存策を取ったから相手も六万。双子の魔人もいることを含めれば決して有利とは言えない。ともなれば魔物軍団を市街に誘引すれば地理を知る法国側には有利に働くし、狭い場所での戦いなら銃を持つこちらがやはり優位だ。白兵戦にもつれこんでも奇襲などもやれない訳では無い。
 けれど、問題も多い。

「ルラージ中将閣下、今度は私からいいですか?」

「うむ、発言せよアカツキ准将」

「市街戦となった場合、郊外での戦いより街に大きな被害が及びます。最悪瓦礫の山と化しますし、最前線の司令部は市街地の南郊外。司令部も危うくなる可能性は視野にありますか?」

「想定しているのは市街地の東部及び中部に西部までだ。妖魔共が大砲などを持つのならば司令部にも危険が及ぶかもしれんが、問題なかろう。最悪市街地全体が戦場になったとて指揮系統には影響を及ぼさんよ」

「街を捨てる覚悟はおありですか? 勝っても復興に多大な時間と資源を投入しますが」

「仕方なかろう。これは聖戦ぞ。民共の事まで考えておられん」

「……なるほど」

 国民を守る為の防衛戦争で、民の事など知るか、ね……。まるで第二次世界大戦のどこかの国みたいだ。

「何か思うところでもあるのかね、アカツキ准将?」

「いえ。さらに重ねて聞きますが、市街戦は平原部での戦闘に比べて泥沼化する恐れもあります。連合王国式の空中射弾観測方式でも大砲の射弾観測はかなり難しくなり、僭越ながら其方側だと使えないも同然になります。ガトリング砲はともかく重火器を用いられない分だけ兵の消耗もそれだけ激しくなりますが」

「先も言うたが、法国の、神の為の聖戦だ。兵共も神のために戦えるのならば命は惜しくなかろよ。妖魔共を滅ぼす為ならば犠牲の数は問わん。勝てばいい。いや勝ってもらわねば困るのだ」

 私の為にもな、と本音がダダ漏れして耳に入ってくる。
 あぁ、ダメだ。どうにもこうにもこの中将は好きになれない。いい加減腹も立ってきた。
 布陣は問題ないと考えよう。市街戦もこの際とやかく言うことはない。決めたのは法国なんだし僕等が口を出すことじゃない。民間人には悪いけれどこれは戦争だからと軍人として割り切る事も出来る。
 だけど法国不利な展開において、この期に及んで自身の出世のみを気にしてそのつもりで兵の命を蔑ろにするのが許せなかった。
 もう限界だ。この場にいても建設的な会話が出来ないし、食事を摂る気も失せた。

「…………ルラージ中将閣下。どうやら長旅で睡眠も浅く疲労が溜まっていたようです。せっかく歓迎などして頂いたのに申し訳ありませんが、失礼させてもらってもよろしいですか?」

「自分もです、ね」

「ええ、そうですわね。私達も」

「お、おお。ルークス少将にリイナ中佐もか。構わんぞ。こちらこそ気付けずに申し訳ないな。ゆっくりしていってくれ」

「はっ。ご配慮痛み入ります。連合王国軍は最前線の司令部の東、トラビーザの南東に布陣致しておりますのでそちらに戻ります」

「分かった。カレル准将、彼等を彼等の師団本部まで見送ってやってくれ」

「りょ、了解しました。ひっ……!?」

 カレル准将はルラージ中将に敬礼して僕を見ると、小さく悲鳴を上げる。なんでそんな顔するかな。こうなる理由は分かってるでしょうよ。

「どうした?」

「い、いえ……」

 カレル准将は脂汗を垂らしながら歩き、扉を開ける。僕達はすぐにこの部屋を後にした。
 それからはひたすらに無言。ルークス少将やリイナも僕の瞳と表情を見はするけれど話しかけてこない。リイナだけは唯一、不安げに僕を見つめていた。
 ホテルだった、現在は司令部の建物を出て連合王国師団本部に向かう馬車に乗ってからも無言のままだった。
 馬車は僕達の師団本部に到着し、師団長や僕が指揮などを行うために設営された大きなテントに向かう。いつもより足早に歩き、普段であれば気軽に声を掛けてくる士官達も僕の顔を見るや否や異常を察知して話しかけてこない。
 テントに入るとノイシュランデの頃から顔馴染みの人物、今回僕が提言して同行させた一〇三魔法大隊副官のアレン大尉がこちらに気付く。

「アカツキ准将閣下、おかえりなさ――」

「クソッタレがふざけんじゃねえぞ!!」

 僕はゲルツ大尉に振り向くことも無く、近くに置いてあった椅子をおもいきり蹴っ飛ばした。
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