異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第4章法国遠征編

第4話 アカツキ、激怒

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・・4・・
「え……?」

 勢い良く吹き飛び柱にに当たった椅子は音を立てて倒れ、怒号を上げる僕を見てアレン大尉は言葉を失う。
 少なくともこの一年間一度も激怒せず、アレン大尉も僕自身が蘇る前のアカツキでも見せたことがないような怒りの姿に呆然としていた。
 でも、もう我慢ならなかったんだ。

「兵の命をなんだと思っているんだあのクソ野郎は! 市街戦をやるのは一向に構わないさそういう戦略もある! 民の犠牲を聖戦というのも挙国一致の言葉で使われるから百歩譲るさ! けどなんだあの発言は! 私の為にも勝ってもらわねば困るだぁ!? 戦争舐めてんのか!!」

「も、申し訳ありませんでしたぁぁぁ!」

「あぁ!? 謝って済むんなら援軍なんて要請するんじゃねえよ! こっちは連合王国の兵士達一万人を背負ってやってきたんだ! 妖魔軍に蹂躙され続ければ法国は連合王国や共和国等から遮断されて孤立化。下手すれば滅亡だ! にも関わらず当本人の法国の司令官は自身の出世にご執心? 聖戦だなんだとほざいておいて、馬鹿にするのも大概にしろ!」

 前世の自分の素が出るほどに怒声を張り上げると、カレル准将は九十度頭を下げて必死に謝罪をする。違う、違うんだ。君が謝る必要はないんだ。けれど、僕もこの時ばかりかは感情が制御出来なかった。

「どうか、どうかお許しください! あの無能の豚はアカツキ准将閣下には邪魔であるのはご最もであります! しかし、各師団長を初めとして我々はアレとは違って……!」

「だったらとっとと豚野郎をどうにかしろよ! そんなに戦争に負けたいか!? 妖魔軍に国土を侵されたいか!? それともなんだ貴様等揃いも揃って階級章だけ引っ提げて突っ立っているだけの役立たずか!?」

「け、決してそんな事は!」

「なら――」

「旦那様、そこまでにしてあげなさい。アナタが、私が初めて見るくらいに怒る気持ちは痛い程分かるわ。けれど、カレル准将にあたるのはお門違いよ」

「…………」

「アナタの逆鱗に触れたのは彼が原因? 違うでしょう?」

「そうだね。俺だって無能の中将を殴りたくなったけれど、内輪揉めしたところで相手に有利を与えるだけだ。それに君はいつもの君らしくない。少し頭を冷やそう。な?」

「…………失礼、しました。お見苦しいところを……。リイナ、ありがとう……」

「どういたしまして」

 第三者に諭される事によってようやく怒りはおさまり、少しずつ沸騰した脳内は元を取り戻していく。ヒヤヒヤとその場を見ていたアレン大尉は安堵のため息をつき、九死に一生を遂げたような顔をしているカレル准将は力が抜けてその場に座り込んでしまった。

「カレル准将、申し訳ないね……。あなたが一番近いのだから、一番辛いのに……」

「いえ、とんでもございません……。ありがとう、ございます……」

 八つ当たりに等しい行いをしてしまったカレル准将に対して罪悪感が湧く。けれど彼に手を差し伸べる以外に僕は何も出来なかったし思いつかなかった。
 僕が出した手を掴んで起き上がるカレル准将はこちらが怒鳴り散らしたにも関わらず笑顔を見せる。けれど、その笑みには影りが多分に含まれていた。
 リイナの言う通り、らしくなかった。それに精神的負担が大きくかかっているカレル准将にはこれ以上余計な心配をかけたくない。ここで仕切りなおそうと僕は思い、深呼吸をすると。

「アレン大尉、心配かけてすまなかったね」

「いえ、いつものアカツキ准将閣下に戻られたようで何よりです」

「うん。――妖魔軍は六十キーラまで迫っている。あの兵器の訓練と調整はギリギリまで続けて。ここに来たのもきっとその件だよね?」

「はっ。はい、遅れていた予備部品などの関係物資が到着しましたのでそれをお伝えしようかと」

「ちょうどいいタイミングだね。残り三日、気にせず励んで」

「了解しました。それと、アカツキ准将閣下」

「どうしたんだい?」

「察しはついておりますので後ろから撃てと言われましたらいつでも」

「こらこら。そこまでは考えていないから」

「冗談です」

「分かりにくい冗談だなあ!?」

「ははっ、では失礼致します」

 アレン大尉はブラックジョークを言って笑みを浮かべると、司令部のテントを後にする。きっと彼なりに心を穏やかにさせようとしてくれたんだろう。方向性がまったくもって冗談に聞こえなかったけどね!

「…………後ろから。そうだ、なんでそんな簡単な手を思いつかなかったんだ……」

「カレル准将!?」

「いえ、なんでもありません」

 どんだけ嫌われてるんだよあの豚中将! 僕も初対面で大嫌いな部類になったからこれ以上は言わないけどさ……

「私は使い物にならない中将を凍結させたいわね……。イヤラシイ目で私を見てきて怖気がしたわ。イヤラシイ目で見ていいのは旦那様だけよ」

「リイナ、お前はブレないね……。けど、前半は同意だ。有利ではないむしろ不利な戦況においてあのような存在は邪魔でしかないな」

 僕を除く全員が不穏なことを言っているね!? どんだけ嫌われてるんだよあの豚野郎は!
 僕もアレについては初対面にして大嫌いな部類に入ったから何も言わないけどさ……。

「……話題を変えよっか。カレル准将、あの場では師団の配置や大まかな戦略しか聞けなかったけれどもっと詳細に話を聞きたいんだ。妖魔軍の今日までの動きから侵攻予想地点、各師団長の性格や戦略方式、Sランク武器所有者の特徴や召喚武器そのものについてと彼等がどう動く予定なのか。他にも沢山。カレル准将、あなたは名前も出したくないアレに代わって様々は情報や交流があるでしょ? 頼りにしたいんだ。いいかな?」

「はっ! もちろんです!」

「参謀長としての旦那様が戻ってきたわね」

「ああ。これならもう大丈夫そうだ」

 場の空気は良くなり、それからはカレル准将と活発に意見を交換する。見送りを頼まれただけの彼だったけれど、この後三時間ほどこの場で話し続けていた。
 話にならないどこかの肥太った阿呆は放っておいて、対妖魔戦への備えは進む。
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