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第4章法国遠征編
第7話 ヴァネティア平野の戦い1〜勝利を願って〜
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・・7・・
午前8時3分
トラビーザ市南南東
連合王国軍師団本部
「召喚士飛行隊第一飛行隊第一中隊から報告! トラビーザ北東方面には敵魔物軍団一個師団一個旅団相当が方向転換!」
「第二中隊からも報告あり! 東方面には敵二個師団一個旅団が向かっているとのこと!」
「第三中隊から報告入りました! 我々のいる南東方面に向かっている敵軍はおよそ二個師団です!」
朝を迎えたトラビーザ市郊外の、僕達がいる連合王国軍師団本部情報司令テントには、召喚士飛行隊第一飛行隊からの情報が次々と届けられる。ルブリフのように六個飛行隊を使う贅沢は出来ないけれど、それでも一個飛行隊三十六人からなる偵察飛行は今回も有効に働いたみたいだ。
「一個師団で二個師団を相手か……。普通なら不利な展開だが俺達ならどうにかなりそうだな」
「相手は魔人では無く魔物の二個師団です。過信は禁物ですが火力で押し切ればどうとでもなるでしょう。しかし、ルブリフの時みたいにこちらが丘陵の上といった有利な地形にはいませんから、多少の被害は想定しておかないといけません。それにここは法国で補給の問題もあります。一応一昨日に本国から予備物資が届きましたが、贅沢な使い方は出来ません。国内と違って輸送の関係上すぐに大量の武器弾薬は届きませんから」
「昨日あった、飛行隊からの報告も気にかかるわね。ゴブリンの中に魔法を行使可能なゴブリンマジシャンも少数混ざっているらしいわ」
「攻撃魔法を使われるだけでも厄介だが、魔法障壁も使われるだろうし前ほどの火力で圧倒は難しいかもしれないね……」
「侵攻軍が何らかの形でルブリフ丘陵の戦いの情報が得ている可能性が高いかもしれません。対策を練られても仕方ないかと」
ルブリフ丘陵の戦いでは情報を伝えられるであろう魔人ごと消し飛ばしたはずだから相手が得られる反省材料は少ないはずだし、法国への侵攻は連合王国へのそれに比べて早い。けれど現場にいた魔人を倒しても確実に全滅の報は入っているだろう。そうなれば、恐らく占領された法国のどこかに潜む召喚士部隊の隊長が備えをしてくるのは不思議なことではなかった。
「ところでアカツキくん。召喚士部隊の魔人共は見つかりそうかい?」
「厳しいですね……。二日前からフクロウなどを用いた夜間偵察も行わせていますが、想定される地点が広い上に有力な場所であるウィディーネは無事な建造物も多いですし、瓦礫も大量にあります。隠れるのには適した場所ですし、何より連れてこれたのは一個飛行隊ですから索敵にも限界があります」
「むう……、やはり本国のようにはいかないか……」
「召喚士も適度に休ませなきゃいけないものね……」
「これが国内なら復興が遅れるのを覚悟で召喚士攻撃隊による絨毯爆撃も行えますが……」
「絨毯爆撃とはなんだい? 君が考えている方法かな?」
「ええ。街全体に召喚士攻撃隊がやった空爆を行います。威力からしてある程度の魔石さえ揃えば実現可能ですよ」
「旦那様は妖魔軍から悪魔族より悪魔らしいと言われそうね」
「またとんでもなくえげつのない作戦を考えるものだね……」
「これは戦争です。甘っちょろい思考でいたら僕らが死にますし兵の犠牲も増えますから」
「それもそうか。司令要員、騎兵隊による索敵はどうだい?」
「三十分前の定期報告ではMC1835の射程まであと一時間でした。既に師団麾下の砲兵隊はいつでも撃てる状態にあります」
「分かった。この戦いでも活躍を期待していると伝えておいてくれ」
「了解しました!」
「さて僕達はいいですが、法国がどうなるか……。トラビーザ正面に展開する法国二個師団はそろそろ敵二個師団一個旅団と激突する頃ですね」
「法国だって諸国の軍の中では強い方よ。魔法能力者は羨ましいと思えるくらいの、軍の半数もいるのだもの。魔法火力が高いのだから打ち負かされる事は無いでしょうし、私達が偵察飛行隊一個中隊を割いて支援しているのよ。いつもよりは戦いやすくなっているはずだわ」
「事前に師団長とも連携などの面も打ち合わせをしてあるからな。あの中将が横槍さえ入れてこなければ問題ないのではないかな?」
「その中将は何か仰ってましたか? 作戦命令など出すとは思うんですが」
「馬鹿の一つ覚えにトラビーザを死守せよ。抑えきれなければ市街戦だばっかりさ」
「この際邪魔さえしてくれなければそれでいいですよ」
「まったくだわ。そんざいしなくてもいいくらいだもの」
僕とリイナ、ルークス少将のルラージ中将への評価にテント内は苦笑いが聞こえてくる。中には「ウチはアカツキ参謀長で良かったよな」「ああ本当に。ルークス少将閣下が師団長だし」「リイナ中佐もいれば心強いわ」と、声に出して語り合う姿もあった。
しかし、彼等も法国から通信が入ると顔が引き締まる。北から聞こえてきた砲撃と共に一人の要員が早速口を開いた。
「法国正面二個師団、敵約二万五千に対して砲撃を開始!」
「第三中隊より連絡! こちらに向かう約二万はあと一〇〇〇で砲の射程に入ります!」
法国が保有する野砲、LCC1811は連合王国のMC1835に比べて旧式で射程は半分の四二〇〇。おまけに分速三発がやっとで連射も出来ないからこちらのように面制圧は不可能だろう。早々に近距離戦に突入すると思う。対してMC1835なら敵が遠くにいる時点から砲撃が可能だ。連合王国軍がトラビーザの東にいる法国軍に比べてやや後方にいるのに攻撃開始時間がほぼ同じになったのはそれが理由だね。
「敵軍、有効射程まであと六〇〇!」
「アカツキくん、事前の作戦通りでいいかい?」
「はい、構いません」
「了解だ。――砲兵隊に通達! 目標は敵軍前方! ただし、地上観測と空中観測の双方を用いて射程に入ったオークコマンダーとゴブリンマジシャンを優先目標とせよ!」
「了解! 砲兵隊へ通達! 目標敵軍前方! ただし地上観測及び空中観測を用い射程内に入ったオークコマンダーならびにゴブリンマジシャンは優先目標!」
「敵射程圏内!」
「全砲兵隊、砲撃開始!」
ルークス少将の命令からすぐさま、戦場の女神たる砲兵隊は一斉砲撃を始める。
ヴァネティア平野の戦いの火蓋は切って落とされた。
午前8時3分
トラビーザ市南南東
連合王国軍師団本部
「召喚士飛行隊第一飛行隊第一中隊から報告! トラビーザ北東方面には敵魔物軍団一個師団一個旅団相当が方向転換!」
「第二中隊からも報告あり! 東方面には敵二個師団一個旅団が向かっているとのこと!」
「第三中隊から報告入りました! 我々のいる南東方面に向かっている敵軍はおよそ二個師団です!」
朝を迎えたトラビーザ市郊外の、僕達がいる連合王国軍師団本部情報司令テントには、召喚士飛行隊第一飛行隊からの情報が次々と届けられる。ルブリフのように六個飛行隊を使う贅沢は出来ないけれど、それでも一個飛行隊三十六人からなる偵察飛行は今回も有効に働いたみたいだ。
「一個師団で二個師団を相手か……。普通なら不利な展開だが俺達ならどうにかなりそうだな」
「相手は魔人では無く魔物の二個師団です。過信は禁物ですが火力で押し切ればどうとでもなるでしょう。しかし、ルブリフの時みたいにこちらが丘陵の上といった有利な地形にはいませんから、多少の被害は想定しておかないといけません。それにここは法国で補給の問題もあります。一応一昨日に本国から予備物資が届きましたが、贅沢な使い方は出来ません。国内と違って輸送の関係上すぐに大量の武器弾薬は届きませんから」
「昨日あった、飛行隊からの報告も気にかかるわね。ゴブリンの中に魔法を行使可能なゴブリンマジシャンも少数混ざっているらしいわ」
「攻撃魔法を使われるだけでも厄介だが、魔法障壁も使われるだろうし前ほどの火力で圧倒は難しいかもしれないね……」
「侵攻軍が何らかの形でルブリフ丘陵の戦いの情報が得ている可能性が高いかもしれません。対策を練られても仕方ないかと」
ルブリフ丘陵の戦いでは情報を伝えられるであろう魔人ごと消し飛ばしたはずだから相手が得られる反省材料は少ないはずだし、法国への侵攻は連合王国へのそれに比べて早い。けれど現場にいた魔人を倒しても確実に全滅の報は入っているだろう。そうなれば、恐らく占領された法国のどこかに潜む召喚士部隊の隊長が備えをしてくるのは不思議なことではなかった。
「ところでアカツキくん。召喚士部隊の魔人共は見つかりそうかい?」
「厳しいですね……。二日前からフクロウなどを用いた夜間偵察も行わせていますが、想定される地点が広い上に有力な場所であるウィディーネは無事な建造物も多いですし、瓦礫も大量にあります。隠れるのには適した場所ですし、何より連れてこれたのは一個飛行隊ですから索敵にも限界があります」
「むう……、やはり本国のようにはいかないか……」
「召喚士も適度に休ませなきゃいけないものね……」
「これが国内なら復興が遅れるのを覚悟で召喚士攻撃隊による絨毯爆撃も行えますが……」
「絨毯爆撃とはなんだい? 君が考えている方法かな?」
「ええ。街全体に召喚士攻撃隊がやった空爆を行います。威力からしてある程度の魔石さえ揃えば実現可能ですよ」
「旦那様は妖魔軍から悪魔族より悪魔らしいと言われそうね」
「またとんでもなくえげつのない作戦を考えるものだね……」
「これは戦争です。甘っちょろい思考でいたら僕らが死にますし兵の犠牲も増えますから」
「それもそうか。司令要員、騎兵隊による索敵はどうだい?」
「三十分前の定期報告ではMC1835の射程まであと一時間でした。既に師団麾下の砲兵隊はいつでも撃てる状態にあります」
「分かった。この戦いでも活躍を期待していると伝えておいてくれ」
「了解しました!」
「さて僕達はいいですが、法国がどうなるか……。トラビーザ正面に展開する法国二個師団はそろそろ敵二個師団一個旅団と激突する頃ですね」
「法国だって諸国の軍の中では強い方よ。魔法能力者は羨ましいと思えるくらいの、軍の半数もいるのだもの。魔法火力が高いのだから打ち負かされる事は無いでしょうし、私達が偵察飛行隊一個中隊を割いて支援しているのよ。いつもよりは戦いやすくなっているはずだわ」
「事前に師団長とも連携などの面も打ち合わせをしてあるからな。あの中将が横槍さえ入れてこなければ問題ないのではないかな?」
「その中将は何か仰ってましたか? 作戦命令など出すとは思うんですが」
「馬鹿の一つ覚えにトラビーザを死守せよ。抑えきれなければ市街戦だばっかりさ」
「この際邪魔さえしてくれなければそれでいいですよ」
「まったくだわ。そんざいしなくてもいいくらいだもの」
僕とリイナ、ルークス少将のルラージ中将への評価にテント内は苦笑いが聞こえてくる。中には「ウチはアカツキ参謀長で良かったよな」「ああ本当に。ルークス少将閣下が師団長だし」「リイナ中佐もいれば心強いわ」と、声に出して語り合う姿もあった。
しかし、彼等も法国から通信が入ると顔が引き締まる。北から聞こえてきた砲撃と共に一人の要員が早速口を開いた。
「法国正面二個師団、敵約二万五千に対して砲撃を開始!」
「第三中隊より連絡! こちらに向かう約二万はあと一〇〇〇で砲の射程に入ります!」
法国が保有する野砲、LCC1811は連合王国のMC1835に比べて旧式で射程は半分の四二〇〇。おまけに分速三発がやっとで連射も出来ないからこちらのように面制圧は不可能だろう。早々に近距離戦に突入すると思う。対してMC1835なら敵が遠くにいる時点から砲撃が可能だ。連合王国軍がトラビーザの東にいる法国軍に比べてやや後方にいるのに攻撃開始時間がほぼ同じになったのはそれが理由だね。
「敵軍、有効射程まであと六〇〇!」
「アカツキくん、事前の作戦通りでいいかい?」
「はい、構いません」
「了解だ。――砲兵隊に通達! 目標は敵軍前方! ただし、地上観測と空中観測の双方を用いて射程に入ったオークコマンダーとゴブリンマジシャンを優先目標とせよ!」
「了解! 砲兵隊へ通達! 目標敵軍前方! ただし地上観測及び空中観測を用い射程内に入ったオークコマンダーならびにゴブリンマジシャンは優先目標!」
「敵射程圏内!」
「全砲兵隊、砲撃開始!」
ルークス少将の命令からすぐさま、戦場の女神たる砲兵隊は一斉砲撃を始める。
ヴァネティア平野の戦いの火蓋は切って落とされた。
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