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第4章法国遠征編
第6話 チャイカ姉妹は待ち望む
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・・6・・
6の月24の日
午前6時13分
トラビーザ市から東の某所
これから戦場になる場所には似つかわしくない程、その日のトラビーザ市周辺は綺麗な朝日が昇っていた。
法国軍と連合王国軍からなる多国籍軍と相対するは平野を蠢く六万もの魔物軍団。あと二時間もすれば両軍は衝突するであろう。
それらを放棄された典型的なイリス法国の民家から愉しそうに眺めるのは、双子の魔人、チャイカ姉妹であった。
「いよいよねえ、レイラ。今度はどんな悲鳴が聴けるのかしら?」
「いよいよね、ラケル姉様。わたし、今からとっても楽しみだわ」
くつくつと笑う二人はこれから殺し合いが始まるにも関わらず、まるで遊戯施設で楽しむかのような雰囲気を醸し出していた。戦争を戦争と捉えず、遊びの一種と思っているのであろう。しかし、とはいえ彼女等も任務そのものは忘れていない。その前座として味方の確認などを話し始めた。
「ところでラケル姉様。魔物を操るアレらはどうなのかしら?」
「そうね。話によると、拠点をウィディーネに置いたらしいわ。あの街ならトラビーザからさほど遠くはないし、建物や瓦礫などが沢山あるから身を隠すにはぴったりよ。ほら、今もあそこに魔力を帯びた鳥が飛んでいるでしょう? あれは人間の召喚士が召喚して放った動物よ」
「昨日から定期的に飛んでいるわよね、姉様。それも散発的ではなくて、定期的に」
「恐らくだけど、私達を監視する為だわ。今どこにいて、どれ位の数がいるかを報告しているのでしょうね。昨日の夜にやってきた斥候によると、夜にもフクロウなんて鳥を使って夜間監視もしてたから大変だったなんて言っていたわ。あんな動き、法国の事前の情報には無かったからきっと……」
「連合王国かしら、姉様?」
「ええそうね。トラビーザの方には連合王国の軍旗もあったから間違いないわ。ルブリフでは連合王国に派遣した帝国軍が全滅に等しい被害を受けた上に私達の召喚士部隊は音信不通で全員が未だ帰還せず。不気味で素敵でしょうがない連合王国軍ですもの、きっと召喚した動物を使って監視網を構築して実行をしたのもあの国だわ」
「ねえねえ姉様。それじゃあ彼もいるかしら? 彼よ彼。可愛い顔して殺気に満ちていたあの子よ」
「そうねえ、レイラ。いてくれたら嬉しいわ。むしろいてちょうだい。だって、わくわくしちゃうもの」
ラケルとレイラが言う彼とは、アカツキの事。彼女等は連合王国行きではなく法国行きを命じられていた為、アカツキと再び相見えられないのかと心底残念がっていた。ところが、法国が連合王国に援軍を要請したことにより法国の地に連合王国軍が現れた。可能ならばチャイカ姉妹とは遭遇したくないと思っているアカツキにとっては甚だ迷惑な話であるが、チャイカ姉妹はあの場にアカツキがいると信じてやまないのである。事実、彼はいるのではあるが。
「けれどレイラ。その前に私達は任務をこなさないと行けないわ。彼を殺す事に比べれば、赤子をあやすくらいに簡単な任務よ」
「ちぇー、つまんないわ姉様。わたし、肥太った豚なんて興味無いわよ?」
「私も同じよ。けれども、畏れ多くも皇帝陛下から直々に授かったお仕事だもの。手早く済ませちゃいましょう? そうすれば、彼とだって戦えるわ」
「はあい。さっくり焼豚に仕上げちゃいましょう。それならイイでしょう、ラケル姉様?」
「ええ、ええ。そうしちゃいましょう」
諜報の任務に就きながらも強大な能力を持つチャイカ姉妹には個別行動が許され、別途特殊な任務が与えられている。それが先程から彼女等が言っている豚や焼豚の単語に繋がる訳だ。
「監視は過ぎたみたいね。まだ朝だから島伝いなら誰にも見つからず渡れるわ。行きましょう?」
「はーい、ラケル姉様」
二人はするとそれまで広げていた黒翼を隠し、ウィディーネで死体から調達した法国軍の女性用軍服に身を包む。どうやら変装をして任務を遂行するようだった。
くすくす、くすくすと笑う彼女達。
脅威は刻一刻と迫っていた。
6の月24の日
午前6時13分
トラビーザ市から東の某所
これから戦場になる場所には似つかわしくない程、その日のトラビーザ市周辺は綺麗な朝日が昇っていた。
法国軍と連合王国軍からなる多国籍軍と相対するは平野を蠢く六万もの魔物軍団。あと二時間もすれば両軍は衝突するであろう。
それらを放棄された典型的なイリス法国の民家から愉しそうに眺めるのは、双子の魔人、チャイカ姉妹であった。
「いよいよねえ、レイラ。今度はどんな悲鳴が聴けるのかしら?」
「いよいよね、ラケル姉様。わたし、今からとっても楽しみだわ」
くつくつと笑う二人はこれから殺し合いが始まるにも関わらず、まるで遊戯施設で楽しむかのような雰囲気を醸し出していた。戦争を戦争と捉えず、遊びの一種と思っているのであろう。しかし、とはいえ彼女等も任務そのものは忘れていない。その前座として味方の確認などを話し始めた。
「ところでラケル姉様。魔物を操るアレらはどうなのかしら?」
「そうね。話によると、拠点をウィディーネに置いたらしいわ。あの街ならトラビーザからさほど遠くはないし、建物や瓦礫などが沢山あるから身を隠すにはぴったりよ。ほら、今もあそこに魔力を帯びた鳥が飛んでいるでしょう? あれは人間の召喚士が召喚して放った動物よ」
「昨日から定期的に飛んでいるわよね、姉様。それも散発的ではなくて、定期的に」
「恐らくだけど、私達を監視する為だわ。今どこにいて、どれ位の数がいるかを報告しているのでしょうね。昨日の夜にやってきた斥候によると、夜にもフクロウなんて鳥を使って夜間監視もしてたから大変だったなんて言っていたわ。あんな動き、法国の事前の情報には無かったからきっと……」
「連合王国かしら、姉様?」
「ええそうね。トラビーザの方には連合王国の軍旗もあったから間違いないわ。ルブリフでは連合王国に派遣した帝国軍が全滅に等しい被害を受けた上に私達の召喚士部隊は音信不通で全員が未だ帰還せず。不気味で素敵でしょうがない連合王国軍ですもの、きっと召喚した動物を使って監視網を構築して実行をしたのもあの国だわ」
「ねえねえ姉様。それじゃあ彼もいるかしら? 彼よ彼。可愛い顔して殺気に満ちていたあの子よ」
「そうねえ、レイラ。いてくれたら嬉しいわ。むしろいてちょうだい。だって、わくわくしちゃうもの」
ラケルとレイラが言う彼とは、アカツキの事。彼女等は連合王国行きではなく法国行きを命じられていた為、アカツキと再び相見えられないのかと心底残念がっていた。ところが、法国が連合王国に援軍を要請したことにより法国の地に連合王国軍が現れた。可能ならばチャイカ姉妹とは遭遇したくないと思っているアカツキにとっては甚だ迷惑な話であるが、チャイカ姉妹はあの場にアカツキがいると信じてやまないのである。事実、彼はいるのではあるが。
「けれどレイラ。その前に私達は任務をこなさないと行けないわ。彼を殺す事に比べれば、赤子をあやすくらいに簡単な任務よ」
「ちぇー、つまんないわ姉様。わたし、肥太った豚なんて興味無いわよ?」
「私も同じよ。けれども、畏れ多くも皇帝陛下から直々に授かったお仕事だもの。手早く済ませちゃいましょう? そうすれば、彼とだって戦えるわ」
「はあい。さっくり焼豚に仕上げちゃいましょう。それならイイでしょう、ラケル姉様?」
「ええ、ええ。そうしちゃいましょう」
諜報の任務に就きながらも強大な能力を持つチャイカ姉妹には個別行動が許され、別途特殊な任務が与えられている。それが先程から彼女等が言っている豚や焼豚の単語に繋がる訳だ。
「監視は過ぎたみたいね。まだ朝だから島伝いなら誰にも見つからず渡れるわ。行きましょう?」
「はーい、ラケル姉様」
二人はするとそれまで広げていた黒翼を隠し、ウィディーネで死体から調達した法国軍の女性用軍服に身を包む。どうやら変装をして任務を遂行するようだった。
くすくす、くすくすと笑う彼女達。
脅威は刻一刻と迫っていた。
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