異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第6章『鉄の暴風作戦』

第4話 彼ら魔人にとって終わらぬ悪夢だったとしても

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・・4・・
9の月16の日
午後1時10分
旧ジトゥーミラ市中心部・妖魔帝国軍魔人連隊本部


「敵襲! 敵襲ぅぅぅ!」

「またか……! またなのか……! 方角はどっちだ!?」

「南西からです! 数およそ三十かそれ以上!」

「ええい忌々しい! 撃ち落とせ!」

「し、しかしあの相手では……!」

「やらぬよりは余程いい!! やれ!!」

「は、はっ……!」

「もう何日目なんだ……。それも、昼どころか夜までも……!」

 ジトゥーミラに展開している妖魔帝国魔人連隊の連隊長である、二枚の黒翼を持つ大佐は悪態をつく。彼の瞳の下には深くクマが出来ており、肉体的にも精神的にも疲労困憊であった。
 原因はアカツキと参謀本部合同立案の『流星雨作戦』による空爆だ。
 十二の日から始まった空爆は初日ですら空から爆発物が投げ込まれ大きな被害が発生するという戦慄で迎えられた。早速南側の門と防壁の一部、旧市街南部の一部が破壊された。魔物の死傷者は八百二十五。魔人の死傷者六十二。
 この時は一過性のものであると大佐を始めとする魔人達は思っていたが、その日の夜にも小規模ながらもまるで自分達の居場所が露呈しているのではないかという精密さで行われ、運良く寝床にしている場所には落ちなかったが安眠は許されなくなってしまった。魔人の死傷者も十二人出てしまった。
 人間共め小賢しい。最初の夜はまだ罵倒する余裕が彼等にはあった。

「たまったものではない……! 人間共がやってくるからと作った防壁も門は、直しても直しても、壊される……!」

 ところが十三の日昼にもまた爆撃。被害は東側の門と防壁、本部近くの食料庫。魔物の死傷者五百四十、魔人の死傷者二十八。
 十四の日。午前中に三度目の空爆。修繕中の南側門が破壊。この時は南部防壁を中心に爆破される。魔物死傷者六百二十、魔人の死傷者四十一。
 真夜中、小規模夜間爆撃。食料庫の一つが爆発。司令部ほど近くにも着弾。しかもこの時には一発が宿舎を直撃し、死者三十八名。負傷者四十名。
 十五の日。昼過ぎに四度目の爆撃。司令部付近の宿舎に直撃。さらに唯一無事だった北部の門も破壊。防壁は各所で損傷。明らかに爆撃精度が上がっている。

「やっと反撃しようと思っても……、空を舞う漆黒の衣を纏う魔神が……、なんなのだアレは……。どうして、正確に貫いてくる……」

 前日から行われていた魔人連隊所属員による、これまでのような散発的ではなく集中的な追尾式魔法の迎撃。中級魔法は魔人とはいえ連射すれば消耗する。それでも背に腹は変えられず敢行。連日連夜の空爆を行う召喚飛行生物の魔法障壁をようやく破って一部を負傷させた。
 いける。そう思っていたら、魔人達に降り注いだのは大量の魔法だった。
 正体はエイジスによる逆反撃。彼女がレーダーで感知し、召喚士の動物達が魔法障壁を壊されたからと離脱した代わりにやってきたのが彼女だ。
 エイジスは濃密な対空魔法攻撃をしていた魔人部隊の一団に対して多重捕捉を行った後に、一斉魔法射撃。生き残りによれば一挙に魔法陣が空を支配していたという。着弾したのは破壊性の強い火属性魔法。本当は初級魔法なのだがエイジスが放つ高威力魔法は中級どころか規模から上級魔法行使と生き残りによる報告がされており、魔人達は震え上がった。この日の魔物死傷者二百九十七。魔人部隊死傷者、これまでで最大の百三十八。
 そして今日、十六の日。五度目の昼間爆撃だった。

「戦果は、戦果はあるのか!? 撃ち落とせたか!?」

「げ、現在確認中です!」

 声を荒らげる大佐に、報告員の兵士は慌てふためいていた。周囲の者と同じように、彼もまた睡眠不足に陥っていた。
 既に各方面からはまた爆発物が落下し、激しい音が響いている。南と東。ずっと集中的に狙われている箇所だ。恐らくまた修繕箇所がやられたのだろう。もしかしたら新たに壊されたかもしれない。一際大きく響いた破壊音はここ司令部の近くに落ちたものだろう。

「で、伝令! ま、まままま、また、また現れました! こ、黒衣の魔神人形です!」

「まただとぉ!? ふざけるなよ!? 何度我々を蹂躙すれば気が済むのだ!?」

「南部防壁は空から降る爆弾と魔人人形により破壊! 魔物共の死傷者多数!」

「報告ぅぅ!」

 新たな女性兵士の伝令が、ここに来て以降修繕した司令部の建物内に転びながら入ってくる。衣服と頭髪は乱れ、また彼女にも深くクマが刻まれている。

「ど、どうしたんだ今度は!?」

「ま、魔神が、集中対空攻撃を行っていた部隊に掃射! 死傷者多数! 弾薬庫周辺です!」

「弾薬庫だとぉ!?」

 アカツキの予想通り、魔人連隊は魔法銃を持ち込んでいた。型式はアカツキ達からすればいささか旧式の前装式単発ライフルではあるが、連合王国のL1815程度の水準のものではある。それらを一人一丁装備していた。対空射撃にも用いられている。
 その弾薬庫周辺が襲われたのだ。二箇所に分散しているとはいえ、連隊分の半数ともなれば相当な量になる。
 もし、そこを空爆されたら……。
 大佐はもう何度流したか分からない脂汗がつたう。頼むから、着弾してくれるな……。
 だがしかし。そうして、悲劇は襲うのだ。

「しかし、弾薬庫の被害は免れ、きゃああああああああ?!」

「あああああ!?」

「だあああああぁぁ!?」

 ここ数日で一番の凄まじい爆発音と衝撃。元から頑丈そうに作ってあり残っていて、修繕もしたはずの司令部の建物が大きく揺れて窓ガラスが割れる。中にいた大佐含め全員が体を伏せるか転倒する程のものだった。

「まさか、まさか……!?」

 よろめき、立ち上がる大佐。割れたガラスの破片をブーツで蹴飛ばし、外を見る。方角はよりにもよって弾薬庫のうちの一ヶ所。先程死傷者が発生したと報告があったばかりの場所だった。

「人間共め……、いや、何が所詮人間共だ……」

 悪夢だった。怪我する可能性もあるというのに、それをいとわず大佐はその場で立っていられなくなり体を崩す。

「魔法銃は、唯一連中にも対抗しうるもので、我ら魔人が持つべき魔法文明の武器……。それが、吹き飛んだ……」

「もういやあああああああ!!」

「まだ人間共は姿を現していないのに!! なのに、こんな!!」

「帰りたい……。帰りてぇよぉぉぉぉ!」

 司令部内は絶望に満ちていた。これまでの戦争は敵と対峙して初めて始まるものである。ところが人間は姿を見せる前から嘲笑うかのように毎日こうして爆撃を重ねてくるのである。魔物死傷者は既に二千を越え、魔人の死傷者は三百五十を越えた。今日の爆撃でさらにその数は増えるだろう。しかもだ。生き残っていても生きた心地がしない毎日。既に彼らの神経は摩耗しきっており、戦意もへったくれも無かった。元々、望まぬ出征でもあったのだから。

「帰れない……。帰れないんだ……。皇帝の粛清に遭っては、もはや……。それでも、ここで勝てば許されると信じて……、今日まで……」

「大佐……」

「犠牲と出血を伴う、強行改革……。反対したのが運の尽きだったな……。どこからか皇帝直属のアレに漏れていたのも、な……」

 魔物軍団が次々と大量に送られているのは、皇帝による魔物の民族浄化と人類諸国を消耗させるのが目的。そして、送られる魔人部隊は皇帝に背いた粛清対象であったのだ。彼等は皇帝にとって不必要な存在。だからこの戦地にいた。
 それでも、彼等には希望があったのだ。戦争に勝利すれば許される。また家族の元に戻られる。なあに、相手はたがだか人間だ。日頃見下している弱々しい種族だ。魔物を差し向け我らが動けば一度に崩れる。まるで、軋んだ大黒柱を蹴飛ばせば倒壊する家のように。
 ところが現実は違っていた。何が弱々しい人間だ。脆弱な連中だ。ルブリフの頃から既に歯車は狂い出し、法国でも負けた。比較的善戦しており少しずつだが押しつつあった北部戦線も、このザマである。
 それら全てに関わっていたのは、連合王国。ゆえに彼等悪魔にとって連合王国は自分達よりもよほど悪魔に映っているだろう。特に自分達の知らない手法で戦争をするアカツキに至っては最早言うまでもない。無論、アカツキの名を知るものはこの場には誰もいないのだが。何せ彼らは捨てられたも同然の軍人達なのだから。

「しかし、まだ諦めるな……。こちらには、まだ前線で戦う四万五千とここにも六万五千以上が残っている……。負けた訳では、ない……」

「大佐、しかし……。先月入った、皇帝直轄の情報では、連合王国軍は十五万も差し向けてきたんですよ……」

「十五万全部では絶対に来ない。この街までは遠い。防衛拠点などに兵を置けば減っているはず。そうさな……、十万には減っているだろう」

「それでも、十万です。連邦軍も相手にせねば……」

「ならば、連邦は退ければよい。少なくとも、挟み撃ちに遭わないよう、ここに来られないようにしてしまえばいいのだ……」

「まさか……」

「急ぎ伝えよ。北部戦線は撤退。遅滞戦術を使いつつ、こちらへ戻れと。拠点にしている街は徹底的に焦土としろ。物資補給も、いや、水すらも確保を難しくしろ。さすれば、連邦軍はジトゥーミラまでやって来れまい」

「りょ、了解しました……」

 大佐の意図を汲んだ彼の副官は、動き始める。
 未だ混乱が止まぬ司令部内。それでも大佐の瞳はぎらぎらと鈍い光がともっていた。
 彼はニヤリと笑って呟く。

「我らは悪魔よ。ならば、悪魔らしくするまで。タダでは、終わらせんぞ……。クククククッ!」
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