異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第6章『鉄の暴風作戦』

第5話 ジトゥーミラの戦い1〜無駄だった勧告にアカツキは〜

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・・5・・
9の月19の日
午前10時45分
旧ジトゥーミラ市南西13キーラ・連合王国軍前線総司令部

 前々日が雨だったので進行の遅れと空爆停止はあったものの、昨日からは再び晴天に戻った事で概ね予定通りにジトゥーミラ市南西郊外に到着した19の日の午前中。今日もジトゥーミラ市に対する空爆は行われ、戦果は続々と僕達がいる、小高い丘に陣取った司令部の戦況情報室テントに報告されていた。通信要員は次々と空爆部隊からの報告を受けとっている。

「攻撃飛行隊、空爆を完了」

「市西部のB4、B5と市南部E7、E8及びFとGの7、8を重点に魔石爆弾を投下。効果を認むるもので、西部は侵入可能程度に防壁を破壊、南部も再度門を破壊しました」

「市街地空爆部隊は司令部と推定される建物を完全に破壊。事前に敵司令部機能を麻痺させたと思われます」

「途中、敵より迎撃を受けるも我らが黒のドレスの姫君は多重魔法攻撃を反撃を敢行。これにより敵魔物部隊と魔人部隊に損害多数とのこと」

「よしっ! アカツキ准将、出だしはまずまずみてえだな」

 戦果報告に司令部内の大きなテントにいる人達が歓声を上げ、地図に書き込みを担当する者が攻撃済み位置を追加していく。総司令官たるアルヴィンおじさんは喜色の笑みで僕に話しかけてきた。

「流星雨作戦による空爆で敵の防衛施設は意味を成さなくなりましたし、旧ジトゥーミラにあって利用されていた城壁も吹き飛ばしておきました。これで市街地突入はしやすくなります」

「喜ばしいが、警戒しろだっけか?」

「はい。これまでと違い、空爆によって発生した瓦礫は天然の防御施設になっています。元々長年放置されていた街なので廃墟も同然でしたから、この作戦をやらなくてもほぼ同じだったとは思いますが」

「その場合は歩兵への支援を怠らないだろ? 魔法兵科の障壁を用いつつやるしかねえな。その為に歩兵随行組には優秀なのを配置してある」

「北の橋は破壊し、北と南の門も敵軍が修理するのを諦めさせるほどに壊しました。すぐさま空爆出来るのに、東の橋をあえて残しておいた事の意味を汲み取ってくれれば助かるんですが……」

「私達は市街地を包囲しつつある。空爆も行った。これから砲兵による防衛線及び市街地への一斉砲撃も行う。死にたくなければ東へ撤退しろ。いわゆる撤退勧告よね?」

 リイナの言うように、僕達連合王国軍は妖魔帝国軍の魔人部隊に対して撤退勧告と降伏勧告を行った。拡声魔法で大袈裟に事を伝え、同時に撤退及び降伏に関しての文書を外側防衛ラインまで使者を通じて送ってはみたんだけど……。

「徐々に後退を始めたって報告が気にかかるけれど、とはいえまだ北部戦線が健在だからなあ。併せて降伏勧告も形式的にはしてるけどあっちが始めた戦争だし、妖魔帝国の連中はプライドが高いらしいからね。意味無いかも」

「こっちとしては早く終わって被害が抑えられるならありがてえけど、ダメだろうな」

「連日連夜の空爆でアカツキくんの読み通りかなり精神をやられてると思うけれど、ジトゥーミラにはまだまだ戦力が残ってるもんなあ……」

 僕の発言に続いてアルヴィンおじさん、ルークス少将の順に口を開く。
 午前中に行われた空爆前に使者を送ってそこそこの時間が経過している。即断即決でこちらに返答がない辺り、あっちの中で揉めているか勧告を黙殺するかのどちらかだろう。個人的には後者な気がするけれど。
 ルークス少将が話したように空爆を行ったとはいえ、推定被害は四千から六千。外側の防壁六割に内側の防壁を四割。さらに食料庫を三ヶ所、弾薬庫と思われる所も一つ爆撃したから十分な損害を与えているけれど、それでも約六万五千の敵は残っている。いくら夜間爆撃も含めた一連の作戦で敵の精神が摩耗しているとはいえ、見下している人間相手の欲求を飲むとは思えない。ほぼ間違いなく戦いになるだろう。
 相手から見ると扇形に広がるように僕達連合王国軍が包囲網を作っていく中でも結局相手からの返答はなかった。この頃には空爆に参加していたエイジスも戻ってきて、隣でふよふよといつも通り浮いていた。僕は懐中時計の時刻を見てため息をついて。

「午後一時になったかぁ……」

「前方展開の師団から報告。妖魔軍からの勧告回答の兆候なし」

「マスター。空爆を行った最中にこの目での判断になりますが、敵の戦意は思ったより落ちていません。魔物軍団指揮者たるコマンダーも倒していますが、また元の数に戻っています。予備にしていた誰かが召喚したのでしょう。とても撤退や降伏はしない。黙殺したと推測します」

「だよねえ……」

「ったく、諦めが悪いってーの……」

「大半が洗脳された魔物じゃ仕方ないわよね」

「アカツキくん、となると」

「ええルークス少将閣下。やるしかありませんね。アルヴィン中将閣下、ジトゥーミラ戦の作戦第二段階を決行する事を具申します」

「だな。司令部付き師団と第一師団を除く全師団砲兵隊に通達。照準合わせ及び装填を始めろ。併せて、空中観測班の召喚士飛行隊は離陸し観測準備体制につけ」

「了解しました。通達します」

 アルヴィンおじさんの命令はすぐさま全軍に布告され、戦場の様子を見るために僕とリイナは外に出ると、砲兵隊達が行動している様がよく見えた。連合王国軍が展開する向こう側には、旧ジトゥーミラ市が広がっている。今日も行われた爆撃による炎上で、所々黒煙が上がっている。

「悪く思わないでよ、妖魔軍の魔人達。侵攻してきた君達が悪いし、これが戦争なんだ」

 僕はぽそりと呟く。これから行われるのはルブリフを上回る司令部師団直衛の一個師団を除く八個師団砲兵隊による濃密な観測射撃。ここは妖魔軍がいる以上シュペティウのように再利用せずに徹底的に破壊するつもりだ。その後、歩兵と魔法兵科の兵達が突入する。その頃には間違いなく旧市街地は灰塵と化すだろう。
 相手が同じ人類やエルフドワーフとの戦争なら誰かは躊躇するかもしれない。けれど、敵は妖魔帝国だ。二百五十年前に誰も情なんて持ち合わせていないし、僕はそもそも前世から殺すか殺されるかの戦争だととっくに割り切っている。
 侵略を仕掛けてきた方が悪いんだから。元はこちらの土地だから反撃されるのもまた当然ってわけ。

「マイマスター。用意が完了したようです」

「みたいだね」

 首から提げた単眼鏡で味方の砲兵達を観察すると装填も完了し、後は撃つだけになっている。空中観測の動物達も既に上空で旋回中。
 僕は後ろを振り向くと、アルヴィンおじさんと目が合って互いに頷く。

「攻撃開始だッッ! 妖魔軍の野郎共を吹き飛ばせッッ!」

 アルヴィンおじさんの命令が下ってすぐ、前方展開の全師団が一斉に砲撃を開始する。
 ジトゥーミラの戦いは砲兵達による戦争オーケストラで幕が上がった。
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