異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第6章『鉄の暴風作戦』

第18話 勝利からの帰還

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・・18・・
10の月17の日
午前10時10分
ジトゥーミラ・完成した連合王国軍最前線司令部の建造物前

 朝晩は肌寒くなり、間もなく訪れる冬を感じさせる十の月十七の日。僕はリイナと共に幾つかの鞄を持って、出発の支度を終えていた。
 というのも、本国からこのような通達があったからだ。

『アカツキ・ノースロード及びリイナ・ノースロード。また、アカツキ・ノースロード直轄の大隊総員へ。二十二の日に入れ替わりの駐留軍が到着し二十四の日に派遣軍の出発が行われるが、それに先立って先に指定した人物は帰還せよ。特に、アカツキ・ノースロードとリイナ・ノースロードはそのまま王都召還とする』

 僕とリイナ、護衛にはアレン大尉達を伴ってアルヴィンおじさん達より先に帰還しろ。この命令の意図を僕はすぐに察知した。
 ほぼ間違いなく、ジトゥーミラ・レポートについてだろう。あのレポートの半分は僕がダロノワ大佐やモロドフ大佐、チェーホフ中佐から聴取した内容で、リイナが記録したものだから。
 この軍令が届いたのは十五の日。後任に関してはそもそもアルヴィンおじさん達も遅れて帰還するのだから引き継ぎに関してはあまり多くなく、入れ替わりでやってくる参謀長が仕事しやすいように整えておいて迎えたのが今日。
 僕とリイナの見送りには、アルヴィンおじさんとルークス少将。それに立派な髭が特徴的な五十代半ばの男性である連邦軍司令官のハリカイネン少将も来てくれていた。

「一週間先に帰還だなんて羨ましいぜ。って本来言いたいとこなんだがな……」

「アカツキくんもリイナも、帰国しても多忙になりそうだからね……。せめて帰路の途中はゆっくりするんだよ? 最も、馬車じゃ中々そうはいかないだろうけれど」

 戦いに勝ってからの帰還になるけれど、あまり浮かない顔をするアルヴィンおじさんとルークス少将。頭にはジトゥーミラ・レポートが過ぎったんだろう。
 けれど、勝利の余韻が存在しない訳ではなく、表情にはまだ余裕があった。

「ノイシュランデには一日滞在出来ますが、アルネセイラに戻れば再び多忙な日々になるでしょうね。ああ、そういえばノイシュランデでは小規模ながら凱旋パレードがあるんでした。あと、先に帰還している僕とリイナも王都の方の凱旋パレードも参加でしたっけ。めでたいですが、過密スケジュールになりそうです……」

「まーた兄上達が心配しそうだぜ」

「他にも事務作業や会議が大量に待っているわね。そうなると旦那様は忙しくなって睡眠時間をたまに削ることになりそうだし、しっかり私が管理しておくわ」

「頼んだよリイナ。アカツキくんに倒れられたらその一日が連合王国の損失に繋がるからな」

「任せて、お兄様」

「過保護だ……」

 リイナとルークス少将の会話に僕は苦笑いしながらぼやくと、アルヴィンおじさんの隣にいたハリカイネン少将は堪えきれずに笑っていた。

「あ、あの……、ハリカイネン少将……?」

「く、ははっ。いや、すまない。愉快なやり取りについ、な。だがアカツキ准将。ルークス少将の指摘は的確であるぞ。若くして准将になった貴官は連邦軍でも有名でな。自分も貴官のような存在がいたらがいれば妖魔軍のあの手口も乗り越えられたのやもしれんと思ってしまったものだ……」

「妖魔軍のかの作戦は兵站線に極度の負担をかける妙技でしたから、私も予想が出来ませんでした。アレを想定出来る者はいなかったかと」

「むう……。そうではあるがしかし、貴官等には迷惑をかけたのは事実。だが、これよりは我が連邦軍も連合王国軍と共に万が一あればこのジトゥーミラを守ってみせよう」

「よろしくお願いします、ハリカイネン少将閣下」

「うむ! 任せたまえ!」

「アカツキ准将閣下! 馬車の準備と荷物の積み込みが終わりました!」

 ハリカイネン少将との会話に区切りが出来た頃、アレン大尉から帰還の用意が整った旨が伝えられる。

「了解したよ。――では、皆さん。これにてお先に失礼します」

「おう。道中気を付けろよ?」

「近頃は冷えてきたからね。風邪とか引かないようにね」

「貴官のますますの活躍、連邦軍も期待しておるぞ!」

「はっ。皆様もお気を付けて」

 僕とリイナは三人に敬礼すると、馬車へと向かう。その周辺には僕達の帰還をどこからともなく聞きつけたのか、大勢の士官を含む兵士達がいた。

「アカツキ准将閣下万歳!」

「可憐なる参謀長閣下万歳!」

「アルネシア連合王国軍万歳!」

「ロイヤル・アルネシアに栄光を!」

「ようし! この場の総員へ告ぐ! アカツキ准将閣下に、敬礼ッッ!!」

 そこにいた者達の中でも一番階級の高い中佐の男性軍人が促すと、全員が敬礼をする。勝利によって皆が笑顔だった。
 僕は微笑んで、リイナもにこやかに答礼する。
 馬車に乗り込んでも、動き出しても人波に囲まれ敬礼や拍手、手を振られ僕達は窓から顔を出して返していく。
 それらは市街地に出るまで続き、ようやく静かになったのは外側防衛線だった辺りまで進んだ頃だった。

「すごい見送りだったわね。私まで誇らしい気分になったわ」

「推定。ルブリフに続く連戦連勝により、兵達のマスターに対する信頼は絶大であるからと思われます」

「いくら妖魔軍の装備が著しく劣っていたとしても、これまでに相対した敵軍は十万、いいえ二十万を越えているわ。それに対して圧倒的な勝利を収めたのは歴史的な偉業だもの」

「嬉しくないと言ったらウソになるけれど、今後を考えると気が重いよ……。勝ち続ければ勝ち続けるほど、敗北は許されなくなる。戦争はまだ終わりじゃないし、皇帝の思想を鑑みると尚更ね……」

「もう、旦那様。こんな時くらい素直に喜びなさいな。ジトゥーミラ・レポートの事が頭にのしかかっているのは分かるけれども」

 リイナは僕を励ますように言うと、手を伸ばして僕の頭を撫でた。

「あの、リイナさん。撫でている理由は?」

「私がしたいだけ」

「平常運転だった!?」

 とはいえ、いつも通りに振る舞うリイナにはいつも支えられている。
 そう、だね。戦いには勝ったんだ。今は喜ぶべき時だろう。

「ごめんごめん。仕事柄、ついね」

「難しい事を考えるのは本国に帰還してからにしましょ? そうだわ! せっかくアルネセイラに戻るんですもの。前から旦那様が行きたがっていた旧市街のカフェに二人でいかない? 美味しいケーキに紅茶もあるあのお店よ」

「お、いいね。暫く戦場で甘味とは縁が遠かったんだよね。今から楽しみだ」

「ふふっ、甘味になると喜色の笑みを浮かべる旦那様。最高だわ」

「だってケーキだよ? 戦争には勝ててもあの魅力には勝てないさ」

「くふふっ。間違いないわ」

 和やかな馬車の雰囲気。穏やかなリイナとのやり取り。
 新たな問題が見えてきてしまったけれど、今くらい安寧の時間を過ごしても許されるはず。
 僕はよく晴れた天気の下で、しばしリラックスした時間を楽しむのだった。
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