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第13章 休戦会談と蠢く策謀編
第2話 謁見と、轍を踏まない為でもある出世
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・・2・・
「マーチス、アカツキ、リイナ、エイジスよ! よくぞ帰還した! 余はそちらが無事に姿を見せてくれた事を嬉しく思うぞ!」
数段高い先にある王座に座る陛下は、破顔の笑みを見せていた。
僕達が陛下の前に臣下の礼をした後、最初の発言は勝利に対してではなく四肢のどこも欠けることなく帰ってこれた事を先に口にした。そこから陛下がいかに心優しき人物かが分かる。
「マーチス。良くぞ勝利をもたらしてくれた! そちには感謝してもしきれんくらいであるぞ」
「はっ。恐悦至極に存じます、陛下。自分にとっても想定外の結末を迎えましたが、戦いを勝利で終えた上によもや停戦から休戦の話にまでなるとは思いませんでしたが、これにて旧東方領の全域奪還は叶いました」
「うむ。旧東方領へそちらを送る時、余は言うた。奪還は悲願であると。それを成し遂げてみせたのである。大儀であった」
「ありがとうございます、陛下」
陛下はマーチス侯爵の言葉に満足そうに頷くと、次は僕に顔を向けた。
「アカツキよ、そちもようやってくれた。大戦が始まって以来の約一年半、そちは我が連合王国に尽くし見事、妖魔共に奪われていたかつての領土を取り返してみせた。A号改革の時から、そちがいなければ今はないと余は思うておる。礼を言うぞ、アカツキ」
「勿体無いお言葉であります、陛下」
「リイナ、よくアカツキを支えてくれた。英雄の働きには常に支えとする者が必要である。妻としてだけではなく、副官としての働き見事であった。誇らしく思うぞ」
「感謝の極みにございますわ、陛下。大変嬉しく思います」
「うむうむ。そして、エイジス。そちの活躍も王都にまで届いておる。アカツキの窮地を救ってくれたこと、感謝するぞ」
「ありがとうございます、国王陛下」
エイジスは一度立ち上がると流麗な動作でスカートの両裾を摘んで礼をし、再び片膝をついた。
僕達の姿に二、三度頷くと、戦果に対する報いの話に移った。
「旧東方領の全域奪還が果たされた事で、どのように分割するかは外務省の務め故にここでは話を省く。が、戦功第一は連合王国に変わりない。法国の取り分や連邦の取り分を除いては極力連合王国領土とするよう命ずるつもりじゃ。覚えておくが良い」
『はっ』
「さて、そちらの働きぶりには余も応えねばならぬし、国民だけでなく貴族や軍人も認めておる。よって、そちら一人ずつに言い渡すとしよう。マーシャル」
「はい、陛下」
陛下はそう言うと、宮内大臣や宮内官僚に命じて複数の書簡を持ってこさせる。
まず一つ目を手に取ると。
「マーチス・ヨーク大将」
「はっ」
「そちの三カ国軍総司令官としての働きは余だけでなく協商連合、法国も感謝の言葉が伝えられておる。また、各国から勲章が授与された。協商連合からはユニオン・プラチナクロス勲章が、法国からは第三位聖天使セイント・クロス勲章が授与される。連邦や共和国、王国からも同等の勲章があるぞ。授与式は後日であるがここに祝すると共に伝えようぞ」
「はっ」
「我が連合王国からは、銀薔薇付アルネシア・クロスソード勲章を送る。この国で最上位に次ぐ勲章じゃ」
「有り難き幸せにございます、陛下」
マーチス侯爵が授与される勲章は連合王国において二番目の勲章、銀薔薇付アルネシア・クロスソード勲章。金薔薇付の次とはいえここ数十年授与された事がない名誉の勲章だ。
「それだけではないぞ。余は考えたのじゃが、かつての大戦の時にあったが後の平和な世では形骸化し誰も名乗らなかった階級を復活させる。元帥号じゃ。そちを大将から元帥へと昇進、第二攻勢前は軍部大臣であった経験も鑑み、組織再編され軍指揮権を一本化する連合王国軍統合本部統合総司令官へと任命する」
「はっ……! 必ずや責務を果たしてみせます」
さすがのマーチス侯爵も陛下のこの発言には目を見開いて驚いていた。
まず元帥号の復活という事態が約二百年ぶりだ。しかも前大戦後のような名誉職ではなく、実態の伴った形。それは次に述べられた軍組織再編に伴う統合総司令官という立場に現れていた。
これまでは軍部大臣が一手に担っていても間に合っていたけれど、大戦の開始によって職務が多岐に渡り組織として効率的ではなかった。そこで僕達が第二攻勢へ向かう前から着々と進められていた分業体制が整ったんだ。
官僚機構としての統率者として、軍部大臣。
そして、国王陛下の代理として軍全体の指揮を担う統合総司令官。それにマーチス侯爵は命じられたのだ。これでマーチス侯爵は国内においてこれまで以上の実権を握る事となったわけだね。
「これよりは休戦会談、休戦が果たしたとて一時的であるだろうから再戦もありうる。その時に備え、励むようにの」
「御意!」
「次に、アカツキ・ノースロード少将。そちの総指揮官付特務参謀及び旅団長としての功績には余だけでなく、各国首脳からも賛辞が送られておる。よって、協商連合軍からはマーチスと同じくユニオン・プラチナクロス勲章が、法国より第四位聖天使セイント・クロス勲章が授与される。こちらも後日じゃ。続いて、余からは銅薔薇付アルネシア・クロスソード勲章を送る。第三位の勲章じゃ」
「非常に嬉しく思います、陛下」
「うむうむ。じゃがそれだけではない。此度の働きにより、西方貴族からもついに疎む者などおらなくなった。実績をここまで出せば少なくとも反対など出来まい? そこでじゃ。余は他にも理由があるが、そちを然るべき地位につける」
「はっ。どのようなものでしょうか」
「いくつかあるが、一つずつじゃ。一つ、そちの階級は昇進。連合王国軍少将から中将とする。二つ、マーチスが統合総司令官に就任に伴いそちを統合総司令官付副官とする。本来ならば中央なり東部なりの統合軍司令官に就けたいくらいなのじゃが、お主はまだ若い。しかし活躍に見合う席は用意したい。故の統合総司令官付副官じゃ。これなら相応の指揮権を得られる上に中将に相応しい椅子でもある」
「多大なるご配慮を頂き、感謝の念がつきません。陛下。ありがとうございます」
前世じゃ大尉だったのが、ついにこの世界では中将になった。前の世界を考えればありえないことだ。あの人ですら到達出来ない高みだろう。
傍から見れば出世欲がないように見えるらしい僕だけど、嬉しくないわけがない。戦場で働きをみせ、報われる。これほど良い話はないだろう。
だから、思わず笑みがこぼれてしまった。例え停戦から列車の中でまで頭の中から離れなかった事があっても、この時ばかりかは素直に嬉しかったんだ。
「お主が笑ってくれて、余は嬉しく思うぞ。これからも、この国を頼むぞよ」
「はっ! 必ず、ご期待に応えてみせます!」
「うむうむ。さらに、当然の話ではあるが副官のリイナ大佐も准将へ昇進とする。副官の地位はそのままで良い。相応の副官に副官がいてもおかしくはないであろう?」
「誠にありがとうございますの、陛下。これからもアカツキ中将閣下をお支え致します」
「余からも頼むぞ。エイジスについても、異例中の異例であるがいい加減階級がないと不便であろうと思うて用意をしてある。エイジス、そちを総司令官付副官付特務官とする。階級としては大佐相当としよう。余の名で新たに設けた職責じゃが、噛みそうに長いややこしき名称じゃが覚えておくようにの」
「最大限の感謝を致します、陛下。ワタクシ、エイジス。今後もマスターのお傍に仕え、務めを果たします」
陛下はリイナの昇進だけでなく、召喚武器であるけれどほぼ人間のような存在のエイジスにも階級を授けられた。陛下なりのお気持ちなのだろう。
そうやって功績に対する話にも区切りがつくと、陛下はふとこんな話題を持ちかけてきた。
「ところでアカツキよ。お主、協商連合に何か働きかけたようじゃの?」
「働きかけ、何のことでしょうか?」
陛下が不敵に笑むと、僕は発言の意図が掴めず疑問に疑問で返してしまう。
「ふむ。そちでも軍務の多忙さで失念する事もあるようじゃの。都に帰還した安堵もあるであろうし仕方あるまいか」
「申し訳ございません。お教え頂けますか? ……あ、いえ。大変失礼しました。思い出しました」
働きかけ、という単語ですぐさま記憶が蘇る。僕はすぐに反応した。
「良い良い。誰にでもあることよ。協商連合内における、内政問題。絶妙な具合の書状を送ったようじゃが、アレには協商連合大統領が大使館経由で礼を言うておったわ。なんでも、フィリーネ少将の重たすぎる処分に異議を唱えたとな」
「出過ぎた真似であったかもしれませんが、終わり方がどうであれリチリアの英雄に対する行いとは思いませんでしたので」
「まあ、の。協商連合国内では随分と酷い言われようであった戦乙女のフィリーネ少将は、余もやり過ぎであると思うたし、敵を作り過ぎたと感じてはおった。が、政争の道具として槍玉に挙げられるのも筋違いとは思うていての。じゃが余が介入しようものならそれこそ内政干渉じゃ。そこをそちは内政干渉とならない程度かつ、最大限効力を発揮する形で送った。話によると、降格の話も出ておったらしい」
「階級降格でありますか……。いかにも反対派閥がこれを好機にと考えたような動きでありますね」
「うむ。しかし、反対派閥もそちを敵には回したくないそうでの。何せそちの後ろがあるじゃろ? 軍人もじゃが、商業的な意味でも、の。いらぬ摩擦と損失は生みたくなかったようじゃ」
「私からは何もするつもりもありませんが、深読みしてくれたのならば面倒にならずに済む話でありますね」
「全くじゃ。しかし、それでも不当な処分だと余は思うがの……」
「こればかりかはどうしようも……。あちらにはあちらの事情がありますゆえ」
「うむ。じゃからの、アカツキ。協商連合であのような事が起きてしもうたから、余はそちに先に言うた地位を与えたのじゃ。聡明なお主なら、これで理解するであろ?」
「…………はい。ご配慮、痛み入ります」
なるほどな。と僕は思った。
陛下にとっても、僕とフィリーネ少将には共通点が幾つもあるとお考えらしい。
確かに、僕もそう感じている。同じように改革を行い、数の差はあれど戦地に立った。
そして同じように戦い、形の違いはあれど勝利をもたらした。
けれど、僕と彼女には大きな隔たりがある。
それは扱いの一言に尽きるだろう。
かたや若干二十代半ばで中将にまでなり、統合総司令官付副官という出世の約束された椅子が用意された。
かたやリチリア島を救ったにも関わらず、召喚武器の副作用によって味方に恐怖を与えたからと即刻本国帰還かつ謹慎に近しい処分を受けた。
この差は余りにも大きい。大きすぎる。
どうしてこうなったかは、ひとえにコネクションの差なのだろう。
そして、陛下はこうも思われたのだろう。
英雄を傍に置いておきたいという気持ちもあるだろうけれど、何よりも僕が同じようなハメにならないようにしておきたい。その為には絶対権力者たる自らが何人なんぴとたりとも寄せ付けぬ絶対保護と、マーチス侯爵というさらに揺らがぬ地位を確保した人物の隣に置くことで、何かあっても庇えるように、と。
どうやら僕は、余程この国の重要人物に好かれている。前例が生まれてしまったが故に、余計に。
だったら僕は、重責であろうとも応えなければならないだろう。改めて、そう感じた。
僕がゆっくりと首を縦に振ると、陛下は頷かれるだけだったけれど内心が伝わったと判断されたのか話はここで終わりとなった。
「そちらを始め軍人達の不断の努力により実ったこの機会を余は逃すつもりは無い。身勝手に戦端を開いておきながら調子良く停戦、休戦など不届き千万。と、余も思う所はあるが、しかし想定以上の戦争の長期化は避けておきたい。何せ余も歳じゃからの。故に、一時の平和であっても国民の為に叶えてやりたいと思う。じゃから余はそちらにこう言おうぞ。この国の、守護者であれ、との」
『はっ!!』
陛下はそう話を結ばれると、謁見は終了した。
けれど陛下は僕達がここを後にする前に、僕にこう言った。
「アカツキよ。今日の夜、午後の九時頃に少し時間はあるかの?」
「本日の予定はありませんので、空いておりますが。いかがなされましたか」
「実は、一度お主と二人だけで話してみたいと思うておった。人払いもする、余とお主だけの夜の茶会じゃ。自慢の紅茶と洋菓子も用意しておく。どうじゃ?」
「大変名誉な時間でございます。ぜひ、夜の茶会を過ごさせてください」
「うむ。それでは午後九時に再び王宮へこい。場所は余の書斎。待っておるぞ」
「マーチス、アカツキ、リイナ、エイジスよ! よくぞ帰還した! 余はそちらが無事に姿を見せてくれた事を嬉しく思うぞ!」
数段高い先にある王座に座る陛下は、破顔の笑みを見せていた。
僕達が陛下の前に臣下の礼をした後、最初の発言は勝利に対してではなく四肢のどこも欠けることなく帰ってこれた事を先に口にした。そこから陛下がいかに心優しき人物かが分かる。
「マーチス。良くぞ勝利をもたらしてくれた! そちには感謝してもしきれんくらいであるぞ」
「はっ。恐悦至極に存じます、陛下。自分にとっても想定外の結末を迎えましたが、戦いを勝利で終えた上によもや停戦から休戦の話にまでなるとは思いませんでしたが、これにて旧東方領の全域奪還は叶いました」
「うむ。旧東方領へそちらを送る時、余は言うた。奪還は悲願であると。それを成し遂げてみせたのである。大儀であった」
「ありがとうございます、陛下」
陛下はマーチス侯爵の言葉に満足そうに頷くと、次は僕に顔を向けた。
「アカツキよ、そちもようやってくれた。大戦が始まって以来の約一年半、そちは我が連合王国に尽くし見事、妖魔共に奪われていたかつての領土を取り返してみせた。A号改革の時から、そちがいなければ今はないと余は思うておる。礼を言うぞ、アカツキ」
「勿体無いお言葉であります、陛下」
「リイナ、よくアカツキを支えてくれた。英雄の働きには常に支えとする者が必要である。妻としてだけではなく、副官としての働き見事であった。誇らしく思うぞ」
「感謝の極みにございますわ、陛下。大変嬉しく思います」
「うむうむ。そして、エイジス。そちの活躍も王都にまで届いておる。アカツキの窮地を救ってくれたこと、感謝するぞ」
「ありがとうございます、国王陛下」
エイジスは一度立ち上がると流麗な動作でスカートの両裾を摘んで礼をし、再び片膝をついた。
僕達の姿に二、三度頷くと、戦果に対する報いの話に移った。
「旧東方領の全域奪還が果たされた事で、どのように分割するかは外務省の務め故にここでは話を省く。が、戦功第一は連合王国に変わりない。法国の取り分や連邦の取り分を除いては極力連合王国領土とするよう命ずるつもりじゃ。覚えておくが良い」
『はっ』
「さて、そちらの働きぶりには余も応えねばならぬし、国民だけでなく貴族や軍人も認めておる。よって、そちら一人ずつに言い渡すとしよう。マーシャル」
「はい、陛下」
陛下はそう言うと、宮内大臣や宮内官僚に命じて複数の書簡を持ってこさせる。
まず一つ目を手に取ると。
「マーチス・ヨーク大将」
「はっ」
「そちの三カ国軍総司令官としての働きは余だけでなく協商連合、法国も感謝の言葉が伝えられておる。また、各国から勲章が授与された。協商連合からはユニオン・プラチナクロス勲章が、法国からは第三位聖天使セイント・クロス勲章が授与される。連邦や共和国、王国からも同等の勲章があるぞ。授与式は後日であるがここに祝すると共に伝えようぞ」
「はっ」
「我が連合王国からは、銀薔薇付アルネシア・クロスソード勲章を送る。この国で最上位に次ぐ勲章じゃ」
「有り難き幸せにございます、陛下」
マーチス侯爵が授与される勲章は連合王国において二番目の勲章、銀薔薇付アルネシア・クロスソード勲章。金薔薇付の次とはいえここ数十年授与された事がない名誉の勲章だ。
「それだけではないぞ。余は考えたのじゃが、かつての大戦の時にあったが後の平和な世では形骸化し誰も名乗らなかった階級を復活させる。元帥号じゃ。そちを大将から元帥へと昇進、第二攻勢前は軍部大臣であった経験も鑑み、組織再編され軍指揮権を一本化する連合王国軍統合本部統合総司令官へと任命する」
「はっ……! 必ずや責務を果たしてみせます」
さすがのマーチス侯爵も陛下のこの発言には目を見開いて驚いていた。
まず元帥号の復活という事態が約二百年ぶりだ。しかも前大戦後のような名誉職ではなく、実態の伴った形。それは次に述べられた軍組織再編に伴う統合総司令官という立場に現れていた。
これまでは軍部大臣が一手に担っていても間に合っていたけれど、大戦の開始によって職務が多岐に渡り組織として効率的ではなかった。そこで僕達が第二攻勢へ向かう前から着々と進められていた分業体制が整ったんだ。
官僚機構としての統率者として、軍部大臣。
そして、国王陛下の代理として軍全体の指揮を担う統合総司令官。それにマーチス侯爵は命じられたのだ。これでマーチス侯爵は国内においてこれまで以上の実権を握る事となったわけだね。
「これよりは休戦会談、休戦が果たしたとて一時的であるだろうから再戦もありうる。その時に備え、励むようにの」
「御意!」
「次に、アカツキ・ノースロード少将。そちの総指揮官付特務参謀及び旅団長としての功績には余だけでなく、各国首脳からも賛辞が送られておる。よって、協商連合軍からはマーチスと同じくユニオン・プラチナクロス勲章が、法国より第四位聖天使セイント・クロス勲章が授与される。こちらも後日じゃ。続いて、余からは銅薔薇付アルネシア・クロスソード勲章を送る。第三位の勲章じゃ」
「非常に嬉しく思います、陛下」
「うむうむ。じゃがそれだけではない。此度の働きにより、西方貴族からもついに疎む者などおらなくなった。実績をここまで出せば少なくとも反対など出来まい? そこでじゃ。余は他にも理由があるが、そちを然るべき地位につける」
「はっ。どのようなものでしょうか」
「いくつかあるが、一つずつじゃ。一つ、そちの階級は昇進。連合王国軍少将から中将とする。二つ、マーチスが統合総司令官に就任に伴いそちを統合総司令官付副官とする。本来ならば中央なり東部なりの統合軍司令官に就けたいくらいなのじゃが、お主はまだ若い。しかし活躍に見合う席は用意したい。故の統合総司令官付副官じゃ。これなら相応の指揮権を得られる上に中将に相応しい椅子でもある」
「多大なるご配慮を頂き、感謝の念がつきません。陛下。ありがとうございます」
前世じゃ大尉だったのが、ついにこの世界では中将になった。前の世界を考えればありえないことだ。あの人ですら到達出来ない高みだろう。
傍から見れば出世欲がないように見えるらしい僕だけど、嬉しくないわけがない。戦場で働きをみせ、報われる。これほど良い話はないだろう。
だから、思わず笑みがこぼれてしまった。例え停戦から列車の中でまで頭の中から離れなかった事があっても、この時ばかりかは素直に嬉しかったんだ。
「お主が笑ってくれて、余は嬉しく思うぞ。これからも、この国を頼むぞよ」
「はっ! 必ず、ご期待に応えてみせます!」
「うむうむ。さらに、当然の話ではあるが副官のリイナ大佐も准将へ昇進とする。副官の地位はそのままで良い。相応の副官に副官がいてもおかしくはないであろう?」
「誠にありがとうございますの、陛下。これからもアカツキ中将閣下をお支え致します」
「余からも頼むぞ。エイジスについても、異例中の異例であるがいい加減階級がないと不便であろうと思うて用意をしてある。エイジス、そちを総司令官付副官付特務官とする。階級としては大佐相当としよう。余の名で新たに設けた職責じゃが、噛みそうに長いややこしき名称じゃが覚えておくようにの」
「最大限の感謝を致します、陛下。ワタクシ、エイジス。今後もマスターのお傍に仕え、務めを果たします」
陛下はリイナの昇進だけでなく、召喚武器であるけれどほぼ人間のような存在のエイジスにも階級を授けられた。陛下なりのお気持ちなのだろう。
そうやって功績に対する話にも区切りがつくと、陛下はふとこんな話題を持ちかけてきた。
「ところでアカツキよ。お主、協商連合に何か働きかけたようじゃの?」
「働きかけ、何のことでしょうか?」
陛下が不敵に笑むと、僕は発言の意図が掴めず疑問に疑問で返してしまう。
「ふむ。そちでも軍務の多忙さで失念する事もあるようじゃの。都に帰還した安堵もあるであろうし仕方あるまいか」
「申し訳ございません。お教え頂けますか? ……あ、いえ。大変失礼しました。思い出しました」
働きかけ、という単語ですぐさま記憶が蘇る。僕はすぐに反応した。
「良い良い。誰にでもあることよ。協商連合内における、内政問題。絶妙な具合の書状を送ったようじゃが、アレには協商連合大統領が大使館経由で礼を言うておったわ。なんでも、フィリーネ少将の重たすぎる処分に異議を唱えたとな」
「出過ぎた真似であったかもしれませんが、終わり方がどうであれリチリアの英雄に対する行いとは思いませんでしたので」
「まあ、の。協商連合国内では随分と酷い言われようであった戦乙女のフィリーネ少将は、余もやり過ぎであると思うたし、敵を作り過ぎたと感じてはおった。が、政争の道具として槍玉に挙げられるのも筋違いとは思うていての。じゃが余が介入しようものならそれこそ内政干渉じゃ。そこをそちは内政干渉とならない程度かつ、最大限効力を発揮する形で送った。話によると、降格の話も出ておったらしい」
「階級降格でありますか……。いかにも反対派閥がこれを好機にと考えたような動きでありますね」
「うむ。しかし、反対派閥もそちを敵には回したくないそうでの。何せそちの後ろがあるじゃろ? 軍人もじゃが、商業的な意味でも、の。いらぬ摩擦と損失は生みたくなかったようじゃ」
「私からは何もするつもりもありませんが、深読みしてくれたのならば面倒にならずに済む話でありますね」
「全くじゃ。しかし、それでも不当な処分だと余は思うがの……」
「こればかりかはどうしようも……。あちらにはあちらの事情がありますゆえ」
「うむ。じゃからの、アカツキ。協商連合であのような事が起きてしもうたから、余はそちに先に言うた地位を与えたのじゃ。聡明なお主なら、これで理解するであろ?」
「…………はい。ご配慮、痛み入ります」
なるほどな。と僕は思った。
陛下にとっても、僕とフィリーネ少将には共通点が幾つもあるとお考えらしい。
確かに、僕もそう感じている。同じように改革を行い、数の差はあれど戦地に立った。
そして同じように戦い、形の違いはあれど勝利をもたらした。
けれど、僕と彼女には大きな隔たりがある。
それは扱いの一言に尽きるだろう。
かたや若干二十代半ばで中将にまでなり、統合総司令官付副官という出世の約束された椅子が用意された。
かたやリチリア島を救ったにも関わらず、召喚武器の副作用によって味方に恐怖を与えたからと即刻本国帰還かつ謹慎に近しい処分を受けた。
この差は余りにも大きい。大きすぎる。
どうしてこうなったかは、ひとえにコネクションの差なのだろう。
そして、陛下はこうも思われたのだろう。
英雄を傍に置いておきたいという気持ちもあるだろうけれど、何よりも僕が同じようなハメにならないようにしておきたい。その為には絶対権力者たる自らが何人なんぴとたりとも寄せ付けぬ絶対保護と、マーチス侯爵というさらに揺らがぬ地位を確保した人物の隣に置くことで、何かあっても庇えるように、と。
どうやら僕は、余程この国の重要人物に好かれている。前例が生まれてしまったが故に、余計に。
だったら僕は、重責であろうとも応えなければならないだろう。改めて、そう感じた。
僕がゆっくりと首を縦に振ると、陛下は頷かれるだけだったけれど内心が伝わったと判断されたのか話はここで終わりとなった。
「そちらを始め軍人達の不断の努力により実ったこの機会を余は逃すつもりは無い。身勝手に戦端を開いておきながら調子良く停戦、休戦など不届き千万。と、余も思う所はあるが、しかし想定以上の戦争の長期化は避けておきたい。何せ余も歳じゃからの。故に、一時の平和であっても国民の為に叶えてやりたいと思う。じゃから余はそちらにこう言おうぞ。この国の、守護者であれ、との」
『はっ!!』
陛下はそう話を結ばれると、謁見は終了した。
けれど陛下は僕達がここを後にする前に、僕にこう言った。
「アカツキよ。今日の夜、午後の九時頃に少し時間はあるかの?」
「本日の予定はありませんので、空いておりますが。いかがなされましたか」
「実は、一度お主と二人だけで話してみたいと思うておった。人払いもする、余とお主だけの夜の茶会じゃ。自慢の紅茶と洋菓子も用意しておく。どうじゃ?」
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