異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第13章 休戦会談と蠢く策謀編

第10話 英雄達の休息・上

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 ・・10・・
 2の月20の日
 午後3時40分
 アルネシア連合王国南部・アルシュプラット北部
 1等車の車内

 待ちに待ったリイナとの旅行の日がやってきた20の日。
 この日までに粗方しなければならない仕事を片付けた僕達は、20の日朝に王都発南部ヨーク行きの列車に乗って保養地で有名なアルシュプラットへ向かっていた。
 南部アルシュプラットは王都から列車で約八時間かかる所にある山の麓の町だ。人口は約二万五千人とあまり多くはないけれど、年間を通じて沢山の観光客や静養目的の貴族や富裕層が足を運ぶ風光明媚な観光地。温泉あり、別荘あり、ゆったりとした時間が過ごせる自然豊かなこの地には戦争にも区切りが付いたからと減少気味だった来訪者が増えつつあるらしい。
 それが証拠に貴族や富裕層が主な乗客層である一等車も六割ほど席が埋まっていた。とはいっても一つ一つの座席がとても広い一等車だから乗っているのは十数人だけどね。

「いい天気だなあ。旅行初日にはもってこいの快晴だ」

「旦那様との旅行の出だしが絶好の天候で嬉しいわ。車窓から眺められる長閑な景色も楽しめるもの」

「報告。魔法観測気象情報局による情報によると、明日の天気も晴れとのこと。明後日も天気は悪くないそうです」

 エイジスは僕の隣にある座り心地のいい座席にペタンと座りながら言う。彼女の今日の服装はデフォルトの黒いドレスではなく、リイナが人形店でオーダーメイドしたフリルの多い真紅のドレスだった。どことなく前世の赤色主体のゴスロリっぽい感じだ。

「素晴らしいわね。天気予報の精度はまだまだだけど、明日ならだいぶ正確でしょうし」

「それなら旅の疲れを癒した明日は自然を眺めながらのんびり散歩できるし、明後日はアルシュプラットの街並みを楽しめそうだね」

「ええ。ぜひそうしましょ。明日は休息日でお店の休みも多いけれど、明後日なら開いてるわ。せっかくのアルシュプラットなのだから色んなお店を見て回りたいものね」

 やや山あいの地形を進むため速度を落として走る列車の車内でゆったりとしながら、僕とリイナは翌日どうするかを楽しげに話す。
 ニコニコしっぱなしのリイナはいつにも増して綺麗だった。完全休日となった事で彼女はこの旅行にお気に入りの私服をいくつも持ってきている。今日着ているのは黒色で少しだけ装飾があしらわれたロングスカートに、真ん中にフリルがある純白のトップス。その上には落ち着きのある濃い灰色のカーディガンを羽織っていた。外に出る時に着用していたロングコートは備え付けの衣服掛けに置いてあった。ちなみに彼女が両耳に付けているのはこの前の休みに買ったやや小型のイヤーカフ。小さな宝石があしらわれている白銀色が基調のそれは、リイナが顔を少し動かす度に揺れていた。

「……? どうしたの旦那様?」

「今日のリイナはいつも以上に美人だなあって」

 僕がポロッと正直に感想を漏らすと、リイナはきょとんとした後に頬を少し赤らめた。こういう事の大抵は彼女が先に言うものだから、不意打ちには弱いみたいだ。

「旦那様もさらっと言うようになったわね……。でも、とても嬉しいわ。旦那様も可愛くてカッコイイわよ?」

「マスターの私服はフォーマルさを意識したもの。しかしいつもと違いスリーピースを着ておられるので、マスターの知的な一面をよく現しています」

「二人して褒められるとちょっと照れるね。どうにも派手すぎる服は似合わないから、持ってきたのはこんなのが多いかな」

「私はとても好きよ?」

「ありがと、リイナ」

 僕もリイナも上機嫌だから会話の間笑顔は絶えなかった。軍務から離れた穏やかな時間が流れていく。
 数十分すると牧歌的な風景が少し変わり、住宅地がちらほらと現れ始める。どうやらアルシュプラットの市街地外縁部まで来ていたようだ。
 すると、一等車の専属車掌が扉を開けて入ってきた。

「ご利用の皆様方、鉄路の長旅お疲れ様でした。当列車はまもなくアルシュプラット駅に到着致します。本日もロイヤルサウスラインをご利用くださいましてありがとうございました。お降りのお客様はこれより降車手配を致します」

「リイナ、降りる準備をしよっか」

「ええ。そうしましょ」

 僕とリイナはアルシュプラット駅で降りるので、コートを羽織ったりなど降車準備を始める。
 列車はホームに入り、停車。
 そうしていると、先程の専属車掌がやってきた。

「アカツキ様、リイナ様。ご利用ありがとうございました。ごゆるりと、アルシュプラットでの休暇をお過ごしください。旅のお荷物などはすぐに手配致しますね」

「ありがとうね。いい時間を過ごせたわ」

「ありがとう。業務、引き続きがんばってね」

「はいっ、またのご利用お待ちしております!」

 立ち上がり、列車から降りる際には一等車の乗客達から、

「アカツキ様、リイナ様、エイジスさん。良い旅を!」

「アルシュプラットの温泉は最高ですよ。ゆっくり過ごしてくださいね」

「英雄閣下達に、良き休日を」

 と暖かい言葉を貰った。
 外に出ると、いくら連合王国南部とはいえ二の月らしい冷え込みだった。国内じゃ比較的暖かい地方だけど、今の気温が零度に近い事をエイジスが伝えてくれる。この分だと夜は氷点下だろうね。
 列車から降りると、僕達の荷物などを持っている見知った顔数人と合流する。

「長旅お疲れ様でした、ご主人様」

「我々執事やメイドに二等車を手配してくださってありがとうございました。お陰で長い鉄路でも疲れは全く感じなかったですな」

 声を掛けてきたのはレーナとクラウド。他にいた者達も丁寧な所作で礼をする。
 今回の旅行には、同行者がいる。それが王都別邸メイド長のレーナと三人のメイド。それに、護衛兼執事で別邸執事長のクラウドと四人の執事だった。
 別邸には合計で二十数名の使用人がいて、旅行中には屋敷に必要な最低限の人員は維持しつつも交代制で久しぶりの長い休暇を出したんだけど、彼等彼女等はその中でも一緒に付いてきてくれた人達だ。
 レーナ達は旅行中の世話をしてくれるし、クラウド達はいくら完全なプライベートとはいえ立場上護衛――彼等は執事であるけれど、軍にも籍を置いている身でもある――が必要だからと同行している。

「なら良かった。二等車の乗客達とはどうだった? いないとは思うけど君らがいて、古臭い考えを持った人が変な視線を送ってきたりとか」

「いえ、全く問題ありませんでしたアカツキ様」

「むしろ好感の目で見られましたな。何せ、我らが主はアカツキ様でありますから。普段の御三方の話などをせがまれたくらいですぞ。お答え出来る範囲のみで応対しました」

「おおう、僕らの日常生活を。まあ構わないよ。クラウドやレーナ達の判断で話してくれてたなら、問題はないさ」

 本来ならば休暇があるはずなのに来てくれたのだからと、僕は皆に二等車を手配した。
 常識的には使用人は三等車だけど、僕が手配したことや家格の高いノースロード家のメイドや執事は例え使用人であっても一目置かれる存在なので特に反感などは無かったようだ。
 むしろ二等車の乗客から僕やリイナの話をせがまれて答えられる範囲で結構話が盛り上がったみたいだし。

「クラウド、馬車の手配ってどうなってる?」

「既に駅前の広場に停められておりますぞ。我々や荷物などに関しても、アルシュプラット駐屯の部隊が手配してくださいました。リイナ様のご実家ヨーク家の別荘まで、護衛もして下さるそうで」

「了解したよ。道中の警備までしてくれるって聞いてるから、彼等には感謝しないとね」

 僕達がアルシュプラットに休暇で訪れる事は大きくはないけれど、報道がされている。あくまでプライベートだからだ。
 けれど、その地となるアルシュプラットでは大ニュースになっているらしく、駅のホームにいる今ですら周りには人混みが出来ているくらいで、さっきチラリと見えたけど駅前広場には結構市民達や観光客がいるらしい。
 前世じゃ考えられない立場と地位になった今だからこそ起きる現象だと改めて思ったよね。

「さ、馬車がいるなら行こっか」

 立ち話をしている必要も無いし、僕達はホームから改札へ向かう。
 駅を出る際にはアルシュプラット駅の駅長や駅員達から敬礼を受け、次には市民達の歓声。馬車の前まで行くと警備を担当してくれる部隊の隊長といくつかの言葉を交わして僕とリイナにエイジスは馬車に乗り込んだ。

「アルシュプラットの中央通りは賑わってるねえ。どこもかしこも人だかりだ」

「考察。アルシュプラットは開戦当初法国戦線の一時的崩壊により、打撃を受けていました。しかし、戦線が東に進むにつれて来訪者数は回復。昨年の停戦以降はさらに増加し、賑わいを取り戻しています」

「観光地なんて、戦争で一番影響を受けるものね。けれど、これだけ沢山の人々が歩いているのなら安心したわ」

 ゆっくりと進む馬車の窓から、アルシュプラットの街並みと行き交う人々を眺めながら僕とリイナはこの街についてを話す。連合王国経済は全土で軒並み高成長を遂げているが、南部の観光地は戦争の影響でやや出遅れていたんだ。
 けど、この様子なら心配は全くなさそうだね。

「そうだリイナ。実はアルシュプラット出身の士官達が僕達にってオススメのお店や名所をピックアップしてくれた資料をくれたんだ。明日は別荘にいる時はどこに行くか相談しない?」

「名案ね! そうしましょ!」

「賛同。ワタクシもマスターやリイナ様のお手伝いをします」

 軍務から完全に離れた今までで一番長い休日はまだ始まったばかり。
 休みを謳歌しなくちゃね。
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