異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

文字の大きさ
204 / 390
第13章 休戦会談と蠢く策謀編

第11話 英雄達の休息・下

しおりを挟む
 ・・11・・
 2の月23の日
 午前11時15分
 アルシュプラット・ヨーク家別荘

 別荘に到着した20の日は特に何かをした訳ではなくのんびりと過ごし、翌日は別荘から程近い大きな自然公園で散歩をしたりして過ごした。そこでは小さな子供達が僕とリイナを見つけて握手をせがまれたり、ちょっとだけど遊び相手にもなったりして普通の人のように過ごした。
 22の日はアルシュプラットの中心街まで出て、小物とか売ってる雑貨店をいくつも巡って色々買い込んだり、アルシュプラット出身の士官達オススメのカフェにも行ったね。彼等は僕が甘味好きなのをよく知っていて、女性士官が絶対に食べてほしいと言っていた法国産のオレンジを使ったミルフィーユによく似たケーキはそれはもう絶品だった。
 とまあ、ここまではごくごく普通の夫婦のお出かけみたいな感じだったんだ。
 問題はここからだ。宵の時間になって訪れたのは、アルシュプラット中心街で有名なパブレストラン。ここも士官達イチオシのお店だった。
 入店した時、既にかなりのお客さんがいたんだけど、僕とリイナが入るとそれはもう一同大驚き。そりゃそうだよね、新聞報道でしか聞いた事の無い人物が来たんだから。
 でも、あくまで僕とリイナはプライベートだからと気にせずやっててほしいと伝えると切り替わりは早く、サインや握手を求められたりした以外は普段と変わらない様子になった。

「そう思ってた時期が僕にもありました……!」

 ところがどっこい、リイナはこういう大衆的な所には貴族故にあまり行かないから相当浮かれていたようで、ガンガンお酒を飲んでいた。エールにワイン、パブレストランオリジナルカクテルなど様々。僕が一杯飲む間に彼女は三杯も飲んでいた。
 彼女はとにかくお酒が強い。めちゃくちゃ強い。あれだ、ザルってやつさ。
 そのリイナはというと、パブレストランの真ん中に立ってエールのジョッキを高く掲げてこんな事をしていた。

「みんなぁー! 楽しんでるぅー?」

『おー!!』

「飲んでるぅー?」

『おー!!』

「男達、お酒は好きかしらー!」

『大好きだぜぇ!!』

「女達、お酒は美味しいかしらー!」

『リイナ様、カッコイイー!!』

「ふふふふっ! ふふふふっ! 今ここに、リイナ・ノースロードが宣言するわ! 今からあなた達の飲食代、全部私が出してあげるっっ!!」

「ふぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

「やったぜぇぇぇぇぇ!!」

「我らが英雄に乾杯っっ!!」

「リイナ様万歳っっ!!」

「ヨーク家とノースロード家に乾杯っっ!」

「さあ皆! グラスにジョッキを掲げなさいな!! 素晴らしい夜に、乾杯っっ!!」

『乾杯っっ!!』

「なんだこれ……」

「リイナ様は相当気分が高揚されておられるようです」

「だろうね、エイジス」

 それはもう大盛り上がりだった。この時ばかりはメイドや執事達も無礼講ということで飲酒をリイナが許可し、どんちゃん騒ぎになった。
 僕は酔いすぎない程度に飲んでいたから、カクテルグラスを持ちながらこっそりパブレストランの中年男性の店長の所まで行くと。

「悪いね店長。僕の嫁がだいぶ酔っ払ってるみたいで……」

「構いやしませんよ。むしろ今日だけで何日分も稼げて大助かりです」

「なら良かった。ああこれ、小切手。アルシュプラットの王立銀行に行けば引き出せるようになってるから、支払いはこれでよろしくね」

「ありがとうございます、アカツキ様。……この金額、だいぶ多いのでは?」

 店長が申し訳なさそうに僕へ言うけれど、僕は人差し指を唇に当てて。

「僕も酔いが結構回ってるみたいだから、さ」

「感謝します」

「どういたしまして」

 店長に向けてニッコリと微笑むと、カウンター席に座った僕に彼はお酒のツマミになる一口サイズの乾燥肉を出してくれた。

「しかし、意外でした。アルシュプラットに来られていたのは存じてましたが、まさかリイナ様やアカツキ様がこのような庶民の店に来て下さるなんて」

「王都のとある部下達が教えてくれたんだ。彼等はアルシュプラットで生まれてアルシュプラットで育った人達でさ、帰省の際は行きつけだからって勧められて。僕やリイナはあんまり来ない所だから新鮮でね、リイナが行ってみたいって言ったんだよね」

 まあ前世でならそこそこ通ってたんだけどね。

「そうでしたか。我々からすると、アカツキ様やリイナ様は雲の上の存在です。しかし、それは我々の偏見だったようですね。とても身近な存在に思えますよ」

「リイナは日頃からよく頑張ってくれているから羽を伸ばしたいんだろうね。昔ほどじゃないにしても、貴族だと堅苦しい場面も多いから、気兼ねなく楽しめる時間が必要なのさ」

「アカツキ様もですか?」

「はははっ、そうだね。月末までは、貴族とか軍人とかじゃなくて、ただのアカツキとして楽しみたいかな」

「でしたら存分に楽しんでいってください。またの御贔屓も」

「了解したよ」

「もー! 旦那様ぁ! 一人で静かに飲むのもいいけれど、こっちに来て一緒に踊りましょ?」

「ふぇ? 踊る?」

 あれだけ飲んでも足取り確かなリイナは、しかし酒によってだいぶ赤くなった顔でニコニコしながらやってきてそんな事を言う。
 彼女の向こう側にはいつの間にやら楽器を用意してた男女が数人。僕と視線が合うとおどけた様子で軍人じゃないけれど敬礼をする。
 用意周到なことだね……。
 でも、ま、いっか。

「それでリイナ。何を踊ればいいのかな?」

「舞踏会のようなのじゃなくて、テンポよく楽しむものよ。アドリブでしましょ?」

「つまり何もかんがえてなかったね? おっけ、手を取りましょう奥さん」

「ふふっ。エスコートをお願いね、旦那様?」

 僕とリイナのやり取りに大歓声を上げる人達と、演奏者達はクラシックではなくてジャズ調の演奏をスタートする。
 軽やかなステップで僕達は踊り、それから夜が深くなる時間まで飲めや歌えや踊れやのとても楽しい時間を過ごしたのだった。

 ・・Φ・・
「…………とはいえ。いくら中期休暇だからって、乱れた休日過ぎるねこれは」

 別荘の寝室にある窓からは、既に天頂まで上った太陽の陽射しが降り注いでいた。
 一体今何時なんだろうとベッドの横に置いてある懐中時計を手に取ると、時刻は案の定もうすぐ昼になる事を示していた。
 ……ただれすぎだろ。

「まあ、僕もリイナもあれだけ飲んだらこうなるか……。いてて、腰が痛い……」

 いわゆるお察し展開だ。
 別荘に帰ったのは日付が変わる一時間前。まだ酔いが残っているとはいえ、ある程度醒めたから湯に浸かって着替えて、寝室に行った時点でルートは確定している。
 ベッドに腰掛けた途端押し倒され、馬乗りにされて、リイナに美味しく頂かれたんだ……。

「くふふっ、旦那様。いただきまぁす」

 の言葉と共に……。
 そこからはもうめちゃくちゃにめちゃくちゃだった。何回戦したかなんて、四回目あたりから覚えていない……。
 その結果がこれ。普段は軍務もあるからと控えめが多いから仕方ないね!
 ちなみにエイジスは雰囲気を察していつの間にかいなくなっており、今もこの部屋にはいなかった。

「腰も痛ければ頭も痛い……。二日酔いもありそうだ……」

 生まれたままの姿だったから乱雑に置いてあった室内着に着替えて、覚束無い足取りで立ち上がる。
 リイナはというと、まだ夢の世界だった。あれだけお楽しみすれば、寝ていてもおかしくないよね。
 寝室の小さいテーブルにはガラス製の水差しはあったはずの水が空になっていた――全く記憶にないけれど――から、僕はリイナの唇にそっとキスだけして寝室を出る。
 頭はまだ寝ぼけているし、ズキズキと頭痛がする。これじゃあ今日一日は動けないだろうね……。
 寝室を出てリビングの方へ向かうと、クラウドがいた。

「おはようございます、アカツキ様。その様子ですと、どうやらかなりお楽しみのようでしたな」

「おはようクラウド……。ナニがあったかは、うん」

「多くは語りませんぞ。夫婦仲が円滑なのは良きことです」

「そこの心配は全く無いね……。あれ、レーナ達は?」

「本日と明日の食材を買いに午前中から出ております。昼は胃に負担のない軽食が用意されておりますが、朝と昼の兼用ですな」

「完璧に昼ご飯だね。でもその前に、水が欲しいかな」

「かしこまりました。薬もお持ちします」

 僕は椅子に座って、ふう、と一息つく。少しすると、クラウドがグラスを持ってきてくれた。

「ありがとう。ん、んくっ、はぁぁぁ、美味しい……」

「昨日はよく飲まれておりましたからな」

「久しぶりにあんなに飲んだよ。ん……? この手紙は?」

 二日酔いに効果のある薬と同じ効果のある魔法薬ポーションを飲んでから、水を一気に飲み干すと、目に入ったのはテーブルに置かれた手紙だった。

「二時間ほど前にアルシュプラットの駐屯兵が持ってきた手紙です」

「ありゃ、起こしてくれても良かったよ?」

「特に急ぎのものでもなく、アカツキ様は休暇中ですからと先方が。一応の報告とのことで」

「ふうん。分かったよ」

 僕はクラウドに再び水を注いでもらってから、グラスを片手に手紙を開ける。
 宛は中央、F調査室からのもので定期報告だった。休暇中とはいえ、自分が関わるものは定期報告含めて届けるようにしているけど確かに急ぎの内容ではなかった。

「妖魔帝国の影は無し。潜伏の可能性は否定出来ないものの低いものと結論に至る、と。フィリーネ少将は相変わらず。やっぱり杞憂なのかなあ」

 手紙をそっと閉じると、僕はぼんやりと天井を見つめる。
 この様子なら余程緊急性の高い案件は入ってこなさそうだ。全ての日程でしっかりと心と体を休められるだろう。
 僕は少しだけの時間ソファに身体を預けると、その後は朝食兼昼食を食べることにした。胃にとても優しいコンソメスープはとても美味しかった。
 ちなみにリイナは、正午過ぎに起きてきたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。

いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。 そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。 【第二章】 原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。 原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

処理中です...