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第13章 休戦会談と蠢く策謀編
第15話 アカツキは憂うものの、他国故に事態を見守ることしか出来ず
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・・15・・
3の月25の日
午後3時50分
連合王国軍統合本部・アカツキ執務室
「仕事が減らない。減らない。もしかして書類って畑から収穫されるんじゃないの……」
「旦那様、そろそろ一息ついたらどうかしら? 昼食を早めに摂ってからずっと根を詰めていたら集中力も落ちるわよ?」
「推奨。マスターには定期的な休息が必要。人間の最大集中力持続時間は約九十分。既に大幅に超過しています」
「うん、そうする……。無理無理、片付く気がしない……」
僕は目の前にそびえ立つ未決済の書類の山を前にして深くため息をつき、執務室にリイナとエイジスだけしかいないのをいい事に顔を机につけてへたれる。もしこの場面がマンガやアニメなら僕はデフォルメキャラになっているだろう……。
三の月になって以降、前線にでなくなった代わりに僕を待ち受けていたのは中将になってさらに地位が高くなったが故の膨大な事務処理だった。僕がマーチス侯爵の副官になったという要素も大きい。
なお山脈と化している書類の数々の中身はこんな感じ。
五の月初頭から始まる条約締結会議における外交団の護衛部隊の命令書。
護衛部隊編成だけでなくそれに関わる情報通信及び兵站組織の編成。
連合王国軍だけでなく各国軍も外交団護衛部隊を引き連れる為、その調整。
条約締結会議関連だけでもかなりの量に及ぶ。
そこへ通常軍務だけでなく、可能性はかなり低くなったものの条約締結会議が破綻した際の対策や気の抜けないものが多いこと多いこと。
優先度を付けて片付けてはいるものの、それ以上の書類や資料がここへ届くんだ。
一応僕の執務室には事務補助をしてくれる有能な士官数名が片付けてくれていて、そこに副官や秘書として優秀なリイナの事務処理能力やエイジスが前世のパソコンばりにスキャンや記録を取り後々覚えておくと楽になるものを記憶してくれているから相当楽になっているはずなんだけど、それでもこの状態。
ちなみに今は執務室の部下達に中休憩を取っていいと言ってあるから皆一度部屋の外に出ており、リフレッシュをさせていた。
「部下に休めと命令したのなら、アナタも休んだ方がいいわよ。今日中に決裁するべきものは既に終えたのだし、今は明日の分に取り掛かっているんでしょう?」
「うん……。義父上が手配してくれた優秀な部下達のお陰でだいぶ片付いたよ。リイナやエイジスも頑張ってくれてるから、僕はサインをするだけで済んでるし。ただそのサインが単調過ぎてかえって疲労を感じるんだよね……」
「単純作業だもの……。いつになっても慣れないわよねえ……」
「僕にとっては書類との戦争の方が苦手だよ……。気分転換がしたい……」
「彼等みたいに一度外に出てみたらどう?」
「ううん……。確かに深呼吸してリラックスもありかも……」
「リイナ様に賛成。統合本部の中庭などで軽い休息を取るのがよろしいかと」
定時まであと二時間程度だけれど、明日以降のスケジュールやこの立場にはありがちな突発的な予定――特に再来月には条約締結会議があるから尚更――に備えるとなると恐らくは残業になる。
ここで心と身体を休めておいた方がいいだろうと思った僕は二人の勧めもあるからと部屋の外に出るかという気分になった。
が、しかし。それは叶わなかった。扉の方からノックの音がする。
「アカツキ中将閣下、F室長ルイベンハルクです」
「……どうぞ」
「あらら、残念」
さよなら僕の休憩時間……。
僕は今日何度目か分からないため息をついてから、体を起こして顔を引き締める。いくつもある兼務の一つであるF調査室は僕が責任者だから、だらしない姿は見せられないからね……。
「失礼します。……アカツキ中将閣下、一昨日より山が高くなっておりませんか?」
「再来月の関連は軍については今がピークだからね……」
「お疲れ様です……」
「ありがと……。ええっと、要件は何かな?」
「定期報告にまいりました。今日は木の曜日ですので」
「そうだったね。こっちに追われてて頭から抜けてたよ」
「いえ、お気になさらず。報告はこちらになります」
「ありがとう」
執務机に差し出されたのはいつもより少し厚みのある報告書だった。
ああそっか……。協商連合は彼女の件で随分とバタバタしているんだっけ。
僕は分かりやすく要点が纏められた報告書を読んでいく。
なんというか、協商連合の評価を下方修正せざるを得ない情報が多いなあ……。
「ルイベンハルク中佐」
「はっ。はい、なんでしょうか」
「正直に意見を言ってほしい。どう思った?」
「協商連合現政権下は反対派閥が幅を利かせていると思われます。政争に決着がついたと言っても過言ではないでしょう。ただし、良くない決着でありますが」
「だろうね。フィリーネ少将が自ら退官を決意し、ロンドリウムからすら離れたという点から、いくらフィリーネ少将でも耐えられなかったと考えていいと思う。リイナ、あの封書を」
「分かったわ。――ルイベンハルク中佐。これを」
「ありがとうございます。これは……、協商連合国防大臣からの……。自分が目を通してしまってもいいのですか?」
「僕が許可する。F室長として、知っておくべき事だからね」
僕がリイナに言って彼女がルイベンハルク中佐に渡したのは一昨日協商連合から届いたばかりの封書。形式的には公の形を取ってあるけれど、中には協商連合国防大臣からの謝罪の言葉と事の顛末が並べられた手紙が数枚入っていた。
僕だけに対する文書じゃないからマーチス侯爵には既に見せたものだけれど、マーチス侯爵はこれを「反対派閥は愚かだ」と一刀両断していた。
「本人からの願い出なのをいい事に、追放に等しい処分ですね……。普通除隊ではなく、これでは不名誉除隊ではありませんか?」
「フィリーネ少将は先週退官願いを提出した。勲章も軍だけでなく国家からのものも含めて全て返還した。ここまではいいんだけどね、問題はここからだ」
「フィリーネ少将が退役願いを出したのをどこから聞きつけたのか、反対派閥の軍高官は普通除隊の形など認められないと国防大臣の部屋に訪れたらしいわ。曰く、彼女は著しく協商連合軍の名誉を傷付けたとして、反対派閥の政治家を巻き込んで処分を訴え出たそうよ」
「結果が、その手紙に書いてある内容だよ」
「退職金不交付。軍人恩給の不交付。退役少将の資格剥奪。軍登録完全抹消。召喚武器剥奪……。まるで犯罪者じゃありませんか……」
まさにルイベンハルク中佐の感想の通りだ。
前世の軍にも名誉除隊と不名誉除隊というものがあった。後者の場合、除隊した軍人は軍を去った後の数々の恩恵を受けられなくなる。また、軍人として不名誉除隊は最も恥ずべき事ともされているんだ。
けれど、不名誉除隊は相応の理由がないとまずはならない。例えば重大な罪を犯したとか、著しく軍の名誉を傷付けたとか。少なくともフィリーネ少将は重大な罪は犯していない。部下を殺したわけじゃないからね。
でも、反対派閥はどうやら軍の名誉を汚したから。部下を無理矢理犯したから――これは証拠が全くない。あくまで裏取りしていない証言が二件あっただけ。黒い噂の一つだ。――など様々な詭弁を並べ立てて国防大臣に不名誉除隊を迫ってきたと手紙には書かれている。
さらに。
「反対派閥はこれに加えてこれまで彼女が得た軍人としての収入の変換、早い話が賠償金請求じみた事までしでかそうとしたらしいけれど、これには流石に国防大臣が止めたらしいよ」
「いくらなんでもそれは……」
「私はフィリーネ少将を好きにはなれないけれど、彼女が無抵抗な病人だからってあからさまにやり過ぎだと思うわ。仮にもリチリアまでは英雄だったのに、部下殺しをしたのならともかく実際はそうではなくて、暗い話だって殆どが根も葉もない噂ばかり。こんな処分はあんまりよ」
「肯定。例えフィリーネ少将が苛烈な性格かつ、改革遂行の為にいくらかの人物が不幸になったとはいえ、最大幸福の原理から考察するにフィリーネ少将は国家に大きな恩恵を与えた人物。多大なる貢献をしたのは揺るぎない事実です」
「いずれにせよ、かつての英雄に対して惨すぎる仕打ちであるのは間違いありませんね……。しかし協商連合国内でこんな事があったとは驚きでした……。軍人事ともなれば、流石に大使館には直前まで流れてきませんから」
「正式な発表は明日だからまだ公にはされていないよ。こっちの大使館にしても新聞にしても、判明するのは当然明日だね」
「…………あえて明日という時間差にしたのは、速やかすぎる処分決定を避けてですか」
「恐らくね。フィリーネ少将が反撃されるのに多すぎる材料を作ってきたせいなのもあるけれど、反対派閥は機を伺って予め用意はしていたんじゃないかな。そうじゃなきゃ、こんなにも具体的かつ素早く動けなかったと思うよ。まるで、こうなるのを分かってたみたいにね」
「政府内部、軍、そして報道。全ては反対派閥の策略通りに。そして、フィリーネ少将は南西部の半島の先端にある小さな町、ペンザンシーへと半分隠居半分追放にと……」
「この件が分かるまでは好転しつつあると思っていたんだけどね……。どうやら僕は読み違いをしていたよ。一連の問題は、反対派閥にとっては余程根深いものらしいね」
「ペンザンシーには旅行者を装った情報機関員が向かいました。Fはどうしますか?」
「事態を注視しておいて。とはいえ、目立たないように彼女の動向を追うのはロンドリウムに比べて田舎だから難しくなった。君の判断に任せるよ」
「はっ。はい。よろしいので?」
「気になるけれど、優先度としてはこの書類の山関係の方が高いからね。ただ、引っ掛かりを覚えるような点があったらすぐ報告はするように。同盟国とはいえ腫れ物以上の扱いを受けているのが対象だから慎重に動いてね」
「了解しました。それでは自分はこれで失礼します」
「うん。ご苦労だったね」
「はっ。中将閣下も適度な休息をお取りください」
ルイベンハルク中佐が退室すると、僕はしばらくの間彼が持ってきた報告書を見つめる。
結局F調査室における僕の仕事はほとんど成果を上げられていない。それどころか事態は彼女にとって悪い方向ばかりに進む。
国外の出来事だからと干渉しなかったのがいけなかったのだけれど、とはいえ勢い付いている反対派閥を止められるとは思えない。
出来る事としたら、これ以上彼等が変な行動を起こさないよう密かに釘を刺しておくくらいか。いや、それも限界がある、か。
それに。
「旦那様……?」
「いや、なんでもないよ。少しだけでもいいから休憩を取ろっか。部下達もそろそろ戻ってくるけれど、彼等に出すコーヒーを作りがてらさ」
「ええ、そうしましょ。旦那様の大好きなクッキーもきっと届いているわ。物品預かり所に届くようにしていて、休憩中の彼等に取りに行くよう言っておいたもの」
「ありがとリイナ。やっぱり気分転換は必要だね」
しかし僕の気分は仕事が終わるまで晴れなかった。
嫌な予感がして、ならなかったから。
3の月25の日
午後3時50分
連合王国軍統合本部・アカツキ執務室
「仕事が減らない。減らない。もしかして書類って畑から収穫されるんじゃないの……」
「旦那様、そろそろ一息ついたらどうかしら? 昼食を早めに摂ってからずっと根を詰めていたら集中力も落ちるわよ?」
「推奨。マスターには定期的な休息が必要。人間の最大集中力持続時間は約九十分。既に大幅に超過しています」
「うん、そうする……。無理無理、片付く気がしない……」
僕は目の前にそびえ立つ未決済の書類の山を前にして深くため息をつき、執務室にリイナとエイジスだけしかいないのをいい事に顔を机につけてへたれる。もしこの場面がマンガやアニメなら僕はデフォルメキャラになっているだろう……。
三の月になって以降、前線にでなくなった代わりに僕を待ち受けていたのは中将になってさらに地位が高くなったが故の膨大な事務処理だった。僕がマーチス侯爵の副官になったという要素も大きい。
なお山脈と化している書類の数々の中身はこんな感じ。
五の月初頭から始まる条約締結会議における外交団の護衛部隊の命令書。
護衛部隊編成だけでなくそれに関わる情報通信及び兵站組織の編成。
連合王国軍だけでなく各国軍も外交団護衛部隊を引き連れる為、その調整。
条約締結会議関連だけでもかなりの量に及ぶ。
そこへ通常軍務だけでなく、可能性はかなり低くなったものの条約締結会議が破綻した際の対策や気の抜けないものが多いこと多いこと。
優先度を付けて片付けてはいるものの、それ以上の書類や資料がここへ届くんだ。
一応僕の執務室には事務補助をしてくれる有能な士官数名が片付けてくれていて、そこに副官や秘書として優秀なリイナの事務処理能力やエイジスが前世のパソコンばりにスキャンや記録を取り後々覚えておくと楽になるものを記憶してくれているから相当楽になっているはずなんだけど、それでもこの状態。
ちなみに今は執務室の部下達に中休憩を取っていいと言ってあるから皆一度部屋の外に出ており、リフレッシュをさせていた。
「部下に休めと命令したのなら、アナタも休んだ方がいいわよ。今日中に決裁するべきものは既に終えたのだし、今は明日の分に取り掛かっているんでしょう?」
「うん……。義父上が手配してくれた優秀な部下達のお陰でだいぶ片付いたよ。リイナやエイジスも頑張ってくれてるから、僕はサインをするだけで済んでるし。ただそのサインが単調過ぎてかえって疲労を感じるんだよね……」
「単純作業だもの……。いつになっても慣れないわよねえ……」
「僕にとっては書類との戦争の方が苦手だよ……。気分転換がしたい……」
「彼等みたいに一度外に出てみたらどう?」
「ううん……。確かに深呼吸してリラックスもありかも……」
「リイナ様に賛成。統合本部の中庭などで軽い休息を取るのがよろしいかと」
定時まであと二時間程度だけれど、明日以降のスケジュールやこの立場にはありがちな突発的な予定――特に再来月には条約締結会議があるから尚更――に備えるとなると恐らくは残業になる。
ここで心と身体を休めておいた方がいいだろうと思った僕は二人の勧めもあるからと部屋の外に出るかという気分になった。
が、しかし。それは叶わなかった。扉の方からノックの音がする。
「アカツキ中将閣下、F室長ルイベンハルクです」
「……どうぞ」
「あらら、残念」
さよなら僕の休憩時間……。
僕は今日何度目か分からないため息をついてから、体を起こして顔を引き締める。いくつもある兼務の一つであるF調査室は僕が責任者だから、だらしない姿は見せられないからね……。
「失礼します。……アカツキ中将閣下、一昨日より山が高くなっておりませんか?」
「再来月の関連は軍については今がピークだからね……」
「お疲れ様です……」
「ありがと……。ええっと、要件は何かな?」
「定期報告にまいりました。今日は木の曜日ですので」
「そうだったね。こっちに追われてて頭から抜けてたよ」
「いえ、お気になさらず。報告はこちらになります」
「ありがとう」
執務机に差し出されたのはいつもより少し厚みのある報告書だった。
ああそっか……。協商連合は彼女の件で随分とバタバタしているんだっけ。
僕は分かりやすく要点が纏められた報告書を読んでいく。
なんというか、協商連合の評価を下方修正せざるを得ない情報が多いなあ……。
「ルイベンハルク中佐」
「はっ。はい、なんでしょうか」
「正直に意見を言ってほしい。どう思った?」
「協商連合現政権下は反対派閥が幅を利かせていると思われます。政争に決着がついたと言っても過言ではないでしょう。ただし、良くない決着でありますが」
「だろうね。フィリーネ少将が自ら退官を決意し、ロンドリウムからすら離れたという点から、いくらフィリーネ少将でも耐えられなかったと考えていいと思う。リイナ、あの封書を」
「分かったわ。――ルイベンハルク中佐。これを」
「ありがとうございます。これは……、協商連合国防大臣からの……。自分が目を通してしまってもいいのですか?」
「僕が許可する。F室長として、知っておくべき事だからね」
僕がリイナに言って彼女がルイベンハルク中佐に渡したのは一昨日協商連合から届いたばかりの封書。形式的には公の形を取ってあるけれど、中には協商連合国防大臣からの謝罪の言葉と事の顛末が並べられた手紙が数枚入っていた。
僕だけに対する文書じゃないからマーチス侯爵には既に見せたものだけれど、マーチス侯爵はこれを「反対派閥は愚かだ」と一刀両断していた。
「本人からの願い出なのをいい事に、追放に等しい処分ですね……。普通除隊ではなく、これでは不名誉除隊ではありませんか?」
「フィリーネ少将は先週退官願いを提出した。勲章も軍だけでなく国家からのものも含めて全て返還した。ここまではいいんだけどね、問題はここからだ」
「フィリーネ少将が退役願いを出したのをどこから聞きつけたのか、反対派閥の軍高官は普通除隊の形など認められないと国防大臣の部屋に訪れたらしいわ。曰く、彼女は著しく協商連合軍の名誉を傷付けたとして、反対派閥の政治家を巻き込んで処分を訴え出たそうよ」
「結果が、その手紙に書いてある内容だよ」
「退職金不交付。軍人恩給の不交付。退役少将の資格剥奪。軍登録完全抹消。召喚武器剥奪……。まるで犯罪者じゃありませんか……」
まさにルイベンハルク中佐の感想の通りだ。
前世の軍にも名誉除隊と不名誉除隊というものがあった。後者の場合、除隊した軍人は軍を去った後の数々の恩恵を受けられなくなる。また、軍人として不名誉除隊は最も恥ずべき事ともされているんだ。
けれど、不名誉除隊は相応の理由がないとまずはならない。例えば重大な罪を犯したとか、著しく軍の名誉を傷付けたとか。少なくともフィリーネ少将は重大な罪は犯していない。部下を殺したわけじゃないからね。
でも、反対派閥はどうやら軍の名誉を汚したから。部下を無理矢理犯したから――これは証拠が全くない。あくまで裏取りしていない証言が二件あっただけ。黒い噂の一つだ。――など様々な詭弁を並べ立てて国防大臣に不名誉除隊を迫ってきたと手紙には書かれている。
さらに。
「反対派閥はこれに加えてこれまで彼女が得た軍人としての収入の変換、早い話が賠償金請求じみた事までしでかそうとしたらしいけれど、これには流石に国防大臣が止めたらしいよ」
「いくらなんでもそれは……」
「私はフィリーネ少将を好きにはなれないけれど、彼女が無抵抗な病人だからってあからさまにやり過ぎだと思うわ。仮にもリチリアまでは英雄だったのに、部下殺しをしたのならともかく実際はそうではなくて、暗い話だって殆どが根も葉もない噂ばかり。こんな処分はあんまりよ」
「肯定。例えフィリーネ少将が苛烈な性格かつ、改革遂行の為にいくらかの人物が不幸になったとはいえ、最大幸福の原理から考察するにフィリーネ少将は国家に大きな恩恵を与えた人物。多大なる貢献をしたのは揺るぎない事実です」
「いずれにせよ、かつての英雄に対して惨すぎる仕打ちであるのは間違いありませんね……。しかし協商連合国内でこんな事があったとは驚きでした……。軍人事ともなれば、流石に大使館には直前まで流れてきませんから」
「正式な発表は明日だからまだ公にはされていないよ。こっちの大使館にしても新聞にしても、判明するのは当然明日だね」
「…………あえて明日という時間差にしたのは、速やかすぎる処分決定を避けてですか」
「恐らくね。フィリーネ少将が反撃されるのに多すぎる材料を作ってきたせいなのもあるけれど、反対派閥は機を伺って予め用意はしていたんじゃないかな。そうじゃなきゃ、こんなにも具体的かつ素早く動けなかったと思うよ。まるで、こうなるのを分かってたみたいにね」
「政府内部、軍、そして報道。全ては反対派閥の策略通りに。そして、フィリーネ少将は南西部の半島の先端にある小さな町、ペンザンシーへと半分隠居半分追放にと……」
「この件が分かるまでは好転しつつあると思っていたんだけどね……。どうやら僕は読み違いをしていたよ。一連の問題は、反対派閥にとっては余程根深いものらしいね」
「ペンザンシーには旅行者を装った情報機関員が向かいました。Fはどうしますか?」
「事態を注視しておいて。とはいえ、目立たないように彼女の動向を追うのはロンドリウムに比べて田舎だから難しくなった。君の判断に任せるよ」
「はっ。はい。よろしいので?」
「気になるけれど、優先度としてはこの書類の山関係の方が高いからね。ただ、引っ掛かりを覚えるような点があったらすぐ報告はするように。同盟国とはいえ腫れ物以上の扱いを受けているのが対象だから慎重に動いてね」
「了解しました。それでは自分はこれで失礼します」
「うん。ご苦労だったね」
「はっ。中将閣下も適度な休息をお取りください」
ルイベンハルク中佐が退室すると、僕はしばらくの間彼が持ってきた報告書を見つめる。
結局F調査室における僕の仕事はほとんど成果を上げられていない。それどころか事態は彼女にとって悪い方向ばかりに進む。
国外の出来事だからと干渉しなかったのがいけなかったのだけれど、とはいえ勢い付いている反対派閥を止められるとは思えない。
出来る事としたら、これ以上彼等が変な行動を起こさないよう密かに釘を刺しておくくらいか。いや、それも限界がある、か。
それに。
「旦那様……?」
「いや、なんでもないよ。少しだけでもいいから休憩を取ろっか。部下達もそろそろ戻ってくるけれど、彼等に出すコーヒーを作りがてらさ」
「ええ、そうしましょ。旦那様の大好きなクッキーもきっと届いているわ。物品預かり所に届くようにしていて、休憩中の彼等に取りに行くよう言っておいたもの」
「ありがとリイナ。やっぱり気分転換は必要だね」
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