異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第2部 戦間期に歩むそれぞれの道 第14章 戦間期編1

第16話 それは最早到底戦いとは言えぬ虐殺で

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 ・・16・・
 4の月10の日
 午前9時50分
 パルティラッテから南南東
 第8近衛師団移動司令部


「リシュカ中将相当官閣下。午前六時より開始された作戦第一段階、敵正面熱帯林地帯及び敵師団への爆撃と散布は完了。第二段階、ゾズダーニア約三〇〇が投入。陽動は今の所成功しております」

 10の日の午前。ついに作戦は開始され、午前十時を迎えた頃には正面攻勢は激しさを増していたとの報告が妖魔帝国軍の一般的編成に比較すると充実した情報通信網を持つ第八近衛師団、騎馬にて移動中のリシュカにも続々と入っていた。通信要員が携行しているのは人類諸国側のそれに比べやや大型の魔法無線装置。ブカレシタの際に密かに鹵獲した物が帝都で研究され模倣された代物だ。術式効率化に難があり人類諸国の携行型魔法無線装置に比すれば大型化してしまったがそれでも携行に耐えうる程度にはなっていた。

「はいはーい。司令部に残した予備と防衛の一個旅団以外、約一五〇〇〇はどうしてる?」

「現在、作戦区域C3方面に行軍中です。同時に召喚士監視飛行隊による敵索敵も継続」

 作戦区域とは妖魔帝国が召喚士飛行隊を実用化、空中観測が可能になった事でアカツキがしたように彼らも正確な作戦区域地図を手に入れたのである。A以下を南北、1以下に東西を割り振ったこの方式もリシュカの入れ知恵であり、本作戦で本格的な実用化。結果として、作戦会議通りの行軍を可能としていた。

「了解。オットー准将、私達の師団は敵に悟られてそう? 一応迂回して分かりにくくしてあるけど」

「空中偵察によれば敵の反応は無し。斥候を放つ余裕も無さそうです。報告によれば我々が相対する一個師団から一部戦力を抽出したとの事。ただ、思ったより割かなかったようで」

「ふうん、敵も別方面からの奇襲の警戒はしてるわけね。蛮族共にしては頭に回るじゃない。いや、こういった慢心は良くないね。ま、未だに前装式フリントロックから脱せられない武器しか持たない相手だし、魔法能力者だけには警戒しておきましょう。トチムキン情報参謀、中隊間魔法無線装置情報一元化の調子は?」

「はっ。作戦司令部が六十四の魔法無線装置から入る情報を統括、それら取り纏められた情報はここ移動司令部に逐次入るようになっておりますが、問題ありません」

 リシュカはこの遠征にあたって量産中の魔法無線装置、特に携行型を多く持ってきていた。

「ならよし。オットー准将、今の位置は川を越えてるからB7で良かったよね?」

「はい、架橋部も作戦通りです」

「架橋は魔法を使えばそう苦労はしません。全員が渡りきったらとっとと次の段階へ移るわよ。ザリンコフ作戦参謀、近衛師団担当作戦第二段階要員の準備は?」

「予め渡河させ長めの休憩をさせてありますので、事前想定訓練の時間内ならば機動可能ですリシュカ中将相当官閣下」

「よーしよし。だったら問題無し。私と護衛も準備に入ろうかな。ヴォードフ大佐は集結点にいる?」

「はっ。はい」

「ほい。じゃあ行くとしますね」

「リシュカ様」

「なあに、オットー准将」

「くれぐれもお気をつけて」

「分かってるわよ。蛮族共にやられる程度だと思って?」

「まさか。行ってらっしゃいませ」

「はいよー。オットー准将、移動司令部は任せたよ」

「御意」

 リシュカはよりすぐりの、これより行動を共にする精鋭一個小隊を引き連れて前方にいる集団の地点へ到着し下馬する。そこには二個大隊の将兵がいた。
 出迎えたのは見た目は三十代半ばの男性がいた。オットー准将とは対照的な、いかにも現場組といった無骨な風貌だった。

「お待ちしておりました、リシュカ中将相当官閣下」

「ご苦労、ヴォードフ大佐。準備は良くて?」

「はっ。魔法能力者特殊機動大隊二個大隊、いずれも問題ありませぬ」

「ならこれより近衛師団担当作戦第二段階へ移るよ。目標は敵一個師団。ゾズダーニアと空爆、毒によって敵は混乱しこれから交戦する師団も戦力抽出によって約八〇〇〇程度まで減っているとはいえ、空中偵察によると防護柵もあれば魔法能力者もそこそこいるらしい。さらには後方には雑魚の民兵も控えているから戦力比は我の約十倍。けど、お前達なら負けないよね?」

「はっ。勿論にございます。陛下より授かりし魔法銃と遠征までに重ねた厳しい訓練を乗り越えた者のみここにいます。模擬戦において素晴らしき魔法の才と戦の才を発揮なされたリシュカ中将相当官閣下までおられれば我らは無敵。蹴散らしてみせましょう」

 ヴォードフ大佐は表情はほとんど変えないものの、自信に満ちた言動を見せる。二個大隊の将兵も誰も不安など見せていなかった。
 ヴォードフ大佐にせよ、ここにいる二個大隊にせよ、元々は別の部隊の精鋭達である。だがレオニードが実験師団を設立した際に選抜。さ、にリシュカが魔法能力者を選定して出征前の二十日間で集中訓練を施した。時間に余裕が無い為に短期の訓練であったが、内容は苛烈。まさに特殊部隊を育成せんが為の訓練であった。
 脱落者はいたものの元が精鋭だけありリシュカが思うよりそれは少なく、乗り越えた者達の練度はさらに向上。彼女の作戦思想に叶った二個大隊が一応の完成をしたのである。
 とはいえ短期育成。彼女は問題点がこの作戦で発見されれば帰国後に第二次訓練を施す算段でいた。

「うんうん、いい顔つきだ。帝国の為に命を賭けて作戦を遂行なさい。お前達の働きが作戦成功の鍵を握っている。命を賭けてと今言ったけど、無駄死になんてするんじゃないよ?」

『はっ!』

 一斉に妖魔帝国式の敬礼を見せるヴォードフ大佐と二個大隊の将兵に対しリシュカは満足気に頷いた。

「んじゃ、総員高速移動準備を始めなさい。これから通過する熱帯林地帯の隙間は距離約十三キルラ。二十分かけずに通過して一気に雪崩込むよっ!」

 リシュカの号令に約一〇〇〇名の最精鋭は雄叫びを上げる。

「瞬脚、三重展開」

 リシュカは身体強化魔法を詠唱、ヴォードフ大佐達も身体強化魔法を詠唱する。
 リシュカと一〇〇〇〇の将兵は一斉に行動を開始した。魔法銃と弾薬、魔法杖などの装備を持ちながらその時速は約四〇キルラを上回る。人類諸国においてようやく蒸気トラックが普及し、一般的な部隊の行軍速度が時速約三キルラ程度であるのを考えると約十倍以上の速度。騎兵の全速力を上回る速さである。
 本来、三重展開ともなれば継続的に使用すれば魔力を大きく消耗する。よって人類諸国では作戦に耐えうる基準としてBランク以上の魔法能力者とされている。
 しかし、それはあくまでも人類諸国の基準だ。今いるのは魔人達。人類に比べ約五倍の魔力を保有している。つまり、精鋭達で固めれば作戦可能時間も約五倍。
 そして、彼等が装備する魔法銃とはアカツキが小さな野砲と称する程の威力。
 導き出される答えは一つ。今ここにいる者は攻撃力と移動速度だけならば、約一〇〇〇両の軽戦車が敵師団を蹂躙せんと、さながら電撃戦を演じようとしているのである。
 明らかに戦力過剰。しかしリシュカはまだこれが実験段階の一つとしてか考えていないのが末恐ろしいところであった。
 ともかくとして、約一〇〇〇の特殊機動大隊二個大隊は僅か十八分で熱帯林地帯を通過。
 そして、族名通り悪魔達は首長国の師団を襲いかかる。
 待ち構えていた首長国師団約八〇〇〇。気候柄日焼けで色黒い肌を持つ彼等の前に、突如として現れた。

「私が敵師団に穴を開ける!! 直後、魔法銃による一斉攻撃を開始しなさい!!」

 リシュカは命令を下してすぐに猛スピードで前進を続けながら詠唱を始める。
 詠唱短縮を行使した彼女はすぐに最終節まで詠み終えた。

「――黒槍よ敵を貫け。『黒爆槍雨エクスプロージョン・ブラックランスレイン』」

 刹那、上空数十メルラに数十にも及ぶ漆黒の魔法陣が一挙に出現。黒槍は凄まじい速さで首長国師団の防柵各所へ降り注ぎ、着弾と同時に黒い爆炎を上げる。防柵どころか前装式銃と魔法障壁を展開していた魔法能力者諸共吹き飛ばした。
 黒爆槍雨。闇属性と炎属性二属性混合の広範囲上級魔法は人類諸国では存在せず、妖魔帝国の限られた魔法能力者が行使可能な魔法である。リシュカは元々闇属性の適性が高い上にSランク魔法能力者。覚えるのに苦労などなかった。
 リシュカの広範囲魔法によって首長国師団の防衛線に大きな穴が開く。ヴォードフ大佐はこのタイミングを逃すはずもなかった。

「第一波、一斉射撃せよ!!」

 一矢乱れぬ隊列の最前方からリシュカが一旦後退した直後、まず第一波の統制射撃が行われた。爆発性の高い火属性魔法が込められた銃弾は無残にも首長国兵達を大量に吹き飛ばした。爆音と共に妖魔帝国と言語が違えどこればかりかは言語を発する者達共通の叫び声がそこかしこから聞こえてきた。

「ひゅー!! きぃもちぃぃ!! 第二波やっちゃいなさい!!」

「御意! 第二波、撃て!」

 自身の魔法と一回の一斉射撃だけで大混乱に陥り既に瓦解寸前の首長国師団を見てリシュカはえも言われぬ快感を抱きつつもリシュカは第二波射撃を命令。すぐさまヴォードフ大佐が命じ、第二回目の射撃は一回目よりやや後方に命中する。

「今ので軽く一個大隊で吹っ飛んだでしょ! ね、ヴォードフ大佐!」

「恐らくは。――第三波、一斉射撃!」

 第一、第二波の攻撃した者は既に後ろへ下がり高速前進しながら次弾装填をしている。攻撃は止むことはない。若干もたつきはあるものの問題の無い範囲で第三波の一斉射撃が敢行される。
 首長国師団の常識からしたら急速過ぎる襲撃にただでさえ浮き足立ち、あまつさえ貧弱な防御力しか持たない彼等は第三波で完全に統制が崩壊する。
 こうなってしまえば最早組織的抵抗は不可能。後方に控えていた民兵共々散り散りに逃亡を始めた。
 リシュカは脆い、あまりにも脆く実験にすらならないとバラバラに逃げていく首長国師団に侮蔑の視線を送りながらそれでも攻撃の手は止めない。いや、止めるはずもなかった。

「ふん、所詮は蛮族ね。話にもならないわ。けど、くひひっ、逃すはずがないじゃない。総員、狩りの時間よ」

「リシュカ中将相当官閣下はやはり戦いになるとお人が変わられる。まるで狩猟であるのに自分も依存はありませんが」

「雑魚共とはいえ生き残られると面倒だもの。食らい尽くしなさい」

「御意。まずは第一大隊、対近距離戦戦闘行動へ移行せよ。殲滅戦だ」

『了解!!』

 ヴォードフ大佐の一声で一個大隊が殲滅戦を開始。次々と首長国兵士を討ち取っていく。

「当然、私も参加するよ」

「自分は傍で護衛致します」

 リシュカは魔法杖から武装を光龍刀へと持ち替える。この武器は妖魔帝国が光龍皇国を征服した際に持ち帰った名刀で、レオニードは遠征に際して好きな武器を持っていけと気前よくリシュカに言い、彼女は前世でも馴染みのある日本刀に近いこれを選んだのである。レオニードは珍しいのが好きなんだなと笑っていたが、実際は西洋系の剣より使いやすいというだけである。
 リシュカは光龍刀を抜刀する際に血糊が付着しないよう保護の魔法を施す。風魔法などの属性攻撃こそ不可能だが、外側の表面上に魔法を纏わせるのは可能なのは既に実証済みであった。
 一旦停止して戦況を眺めていたリシュカだが、一度、二度と軽く跳躍すると。

「さ、光龍刀だっけ。こいつの斬れ味を確かめてみようかな」

「試し斬りでありますか」

「そそ」

「自分は閣下をお守りするまでであります」

「じゃあ背中はよろしく。――第二大隊、お前らも行くぞ」

『はいリシュカ中将相当官閣下!!』

「大隊、突撃っ!!」

 うおおおおおおお!! と、第二大隊の兵達は勇猛に声を上げて突撃を始める。
 既に第一大隊が蹂躙し狩りをしている中、第二大隊が参戦した事で加速度的に首長国師団の戦死者が増えていく。
 そこに現れるは狩猟者達を統率する、歪に口角を曲げるリシュカとヴォードフ達。
 極わずかな時間でリシュカは巧みに光龍刀を振り、次から次へと首長国兵の四肢いずれかを切断させるか一刀両断していく。前世やフィリーネの頃より狂気じみた笑い声はあまり上げないものの、愉しそうに彼女は狩っていく。

「逃げてばっかりじゃ、殺されちゃうよっと!」

「もー、少しは抵抗しなさいなー!」

「手応えなさすぎー。一つ、二つ、三つぅ!」

「少しは骨のある奴はいないのかしら?」

「つまんない、つまんないなあ。刃向かうやつがほとんどいない。ま、でも斬るけどね!」

 まるで遊戯に興じるかのように死体の山を築いていくリシュカ。返り血が付いても顔以外なら気にもせず、頬に付いたものだけは拭っていく。
 圧倒的な戦い、いや、もう既に戦いですらない。一方的な虐殺は昼過ぎまで続き、合流した本隊たる第八近衛師団が到着すると首長国一個師団はリシュカの宣言通り、たった一日で完全浄化すなわち殲滅させられた。
 北西側も第八近衛師団の動きに呼応して攻撃を開始。ここでも首長国軍は指揮が混乱している事、そもそも兵器の質に差がありすぎた事、リシュカの一兵残らず殺し尽くせの言葉に従い三日間に渡り敵を壊滅させた。
 こうしてリシュカ考案の作戦、『毒霧と火の浄化作戦』は大成功を収め、戦線が完全崩壊した首長国軍残存部隊はパルティスタッチャへ命からがら撤退した。わずか三日で戦線が大きく南進した妖魔帝国軍は突出部を形成した上でパルティスタッチャを完全包囲。
 そして、さらに一週間後の十七の日。想定よりも五日早く妖魔帝国軍パルティラッテ方面攻略軍は首長国の最要衝地、パルティスタッチャを占領。
 パルティスタッチャ市街から郊外に至るまで無事な建物はほぼ無く、一面焼け野原かつ生きている首長国人はいないのではないかと思える程の光景だったという。
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