異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第15章 戦間期編2

第12話 Y特務機関設立

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 ・・12・・
 11の月7の日
 午後1時40分
 連合王国軍統合本部・マーチス元帥執務室

「ううむ。悪いがアカツキ、その提案にオレは賛同しても構わないが通るかどうかまでの保障は出来んぞ」

「そうですよね……」

 ダロノワ大統領の会談の翌日。リオはレーナに任せ、僕とリイナはいつも通り軍務へ。午前中
 の仕事を終えて昼食を挟んでからリイナにはいくつかの執務を任せて、エイジスと二人でマーチス侯爵の執務室へ向かった。
 無論、ここに来た理由は昨日のダロノワ大統領との会談で出た内容について。
 だけど、マーチス侯爵は難しい顔をしながら概要を述べた僕の言葉に対してそう返した。
 この返答は僕も予想していた。マーチス元帥も軍のトップにいるとはいえ、この国の性質上独断でゴーサインは出せるはずもない。ましてや任務を提案してきたのがかつての敵国人たる妖魔帝国出身者のダロノワ大統領達ともなれば、有無を言わさず頷けるはずも無かった。

「お前も知っているだろうが、休戦から二年半となって軍官民問わずかつてほどの緊張感が無い。中には無闇に妖魔帝国を刺激したくないからと、休戦中の軍拡は控えるべきだと言う者もいる。大戦中に戦費が少なからず予算を圧迫していて後回しになっていた事業もあるからだろうし、単純に再戦して泥沼化しかねない戦争を回避したいという理由もあるんだろう」

「補足。大戦中に推定された妖魔帝国本土まで侵攻し、起こりうる死傷者数と膨大な必要戦費を恐れ、一時とはいえせっかく掴んだを平和を捨ててまで再開戦を早めたくない。もしくは休戦期間そのものを延長させたいと望んでいる勢力は存在します」

「エイジスの言う通りだ。かつて貴族や政治家が想像していた戦争は遥か遠い昔のものになった。我々軍人ですら、勝ったはずのブカレシタでたった一戦であれ程までに死傷者が発生するとは考えていなかった。戦費については最早言うまでもない。だから妖魔帝国が再び戦火を切ってきたのであれば受けて立つが、それまではあの国に開戦の口実をこちらから与えたくないという者達はいるわけだ。当然、軍中枢においても存在する。お前も実感しているだろう?」

「ええ、まあ……。来年度の予算編成から見ても軍予算は昨年度より縮小。新型ライフルの最終開発予算と生産予算、新型機関銃の生産予算に情報関係及び兵站関係予算を取得するのには苦労したと、財務省と交渉を担当した者が溜息をついていましたね。財務省は、ここまで譲歩したのだから師団の拡大は今年はナシの方向にしてくれと言ったようで」

「財務省の言わんとする事も分からんではない。平時には軍なぞ基本金食い虫だ。土木訓練を兼ねた治水事業や道路整備事業に関与する事はあってもそれくらいだしな。そもそもだ。協商連合と法国は軍縮した中で連合王国軍は戦時中の編成を維持している」

 マーチス元帥の言う軍縮っていうのは、具体的に言うと協商連合軍は二個師団の縮小を決定したこと。法国軍も師団編成を変更して若干だけど縮小したという二点。
 まあ、協商連合軍はフィリーネ元少将の遺産たる師団は解体するなり編成変更するなりしたいという見え透いた理由があって、反対派閥からしたらやっと今年の春になって排除出来たという経緯がある。
 法国の場合は財政という切実な問題もあるかな。

「そのような中で連合王国軍は潤沢な国家財政のお陰で維持を出来ている。となると、贅沢は言えんわけだ。他国は軍縮傾向にあって民需へ振り向けるか財政再建。特に我が国を含めてロンドリウムにイリスは旧東方領の開拓もある。つまりは再戦準備もいるかもしれないが、それよりも民需拡大の時じゃないか、とな」

「経済的にはその面はありますね。そして、感情的には妖魔帝国を下手に刺激はしたくない。少なくとも、あちらが攻勢を掛けてこない限りは期限内は蜂の巣をつつくような事はしたくないと」

「ああ。特にA号改革から今日に至るまで出遅れてようやく落ち着いた西方辺りは、極力妖魔帝国に再戦の口実を与える事無く国力を高めたい。そう考える者は主流派寄りにも存在している。軍はともかく、商工の組合に資本家もだ」

「推測。軍事予算の拡充分を国内経済対策や旧東方領開拓予算に振り分けた方が経済効果としては大きいです。特に旧東方領開拓はかつての故郷だったエルフ理事会が望んでおり、エルフ理事会は戦時中多大なる協力をしている為にこれを無碍にするのは不可欠でしょう」

「つまり、だ。アカツキが持ち帰ってきた連合共和国による帝国潜入諜報任務は、議題にかけたとしても反対される可能性が高いというわけだ」

 マーチス侯爵は煙草に火をつけて紫煙をゆっくりと吐き出して、至極最もな正論を語り終えた。
 オレは賛成してもいいが道程は前途多難。各方面を説得出来るのなら通せるかもしれない。マーチス侯爵は暗にそう語っているようにも思えた。

「私も初めにこの聞いた時は義父上と同じ感想でした。いくら彼女達が今は味方でも、まだ疑う者もいます。ですから元祖国に潜入させたとしてダブルスパイに化ける懸念も捨てきれません。ですが、こちらをご覧下さい」

「ふむ。ダロノワ大統領からのか」

 僕は昨日ダロノワ大統領から受け取った極秘資料であるこの任務の概要と提言書を兼ねている書類を手渡す。
 そこにはダロノワ大統領達が考えた作戦の草案から任務を行うにあたっての思い、メリットも書かれていた。
 マーチス侯爵は吸い終えた煙草を灰皿に押して、目を通し始める。
 数分か、十数分か。彼は読み終えると、こう言った。

「論理的かつ、我々にもメリットのある提言だな。我が国では帝国本土への諜報任務では現状不可能という痛い点を突いてきているし、ダロノワ大統領の言う嫌な予感も妄想として片付けるには筋道が立っている。あの国が休戦期間延長を口にするのは裏がないわけじゃないからな」

「では、マーチス侯爵としては」

「これを読んで賛成の立場には回ろう。どちらにせよ、必要性の感じる任務であるのは疑いようがない上に実行可能なのは彼女達だけだか、な。しかしだ、いずれにせよアカツキ、お前の説得は不可欠だ。彼女達だけが直々に申し出た所で、賛成を表明する者はあまり多くない。何せ、まだ実績が無い。だが、お前は違う。各方面の仲介役やクッションとして果たしてきたから話を耳にしてくれる者はいるだろう」

「ありがとうございます、義父上。でしたら、まずはザッカーハウゼン中将に事前に話を持ちかけてみます」

「分かった。オレは外務のエディンと宮内のレオルディに話を通しておこう。将官級会議だけでは決められない案件になるだろうから、大臣勢への事前の根回しは任せろ。レオルディが首を縦に振れば西方派閥へも話が出来る」

「感謝致します」

「オレはダロノワ大統領達を信用してではなく、お前を信用して動くだけだ。当日の説得は全部お前に任せる。上手いことやってくれ」

「はっ。承知致しました」


 ・・Φ・・
 アカツキがマーチス元帥へダロノワ大統領達の提言を持ちかけて二人が動いてから十日後。
 極秘会議が開催された。
 当時の議事録は最重要機密である為に長年封印されていたが、そこには本件の結論まで書かれていた。
 以下に詳細を記す。

【日時】
 1843年11の月17の日
 連合王国軍統合本部・小会議室
『軍部外務宮内三大臣級及び選抜将官級極秘会議』

【参加者】
 ・宮内外務軍部三大臣
 ・マーチス元帥
 ・ザッカーハウゼン中将
 ・アカツキ中将
 ・西部中央東部統合軍司令官
 ・海軍二個艦隊各司令官
 ・エイジス特務官

【概要】
 妖魔諸種族連合共和国ダロノワ臨時大統領等による、妖魔帝国への諜報任務の提案に対する議決が本会議の目的である。
 妖魔帝国は休戦以降、大戦時の好戦性や皇帝レオニードが掲げる人類諸国絶滅からすると現状は不自然な程に事態不干渉である。亡命政権樹立も文書による批難のみで終わり、可能性としてあげられていた国境付近での軍事演習はこの二年半行われていない。それどころか、国境付近は予想に反して平穏である。
 さらには、妖魔帝国外務省は場合によっては休戦期間の延長をほのめかすなど、何かを待っている。もしくは期間延長に何らかの意図を持っているのではないかと考えられる。
 また、妖魔帝国は恐らく法国等に諜報員が潜んでいる可能性もあり協商連合では確認出来ないものの、政争による混乱を機に入り込まれた可能性もゼロではない。
 これでは一方的に情報を掴まれるだけであり、対して我々には有効な手段が持ちえていない。
 そこで、ダロノワ臨時大統領の提案するような帝国本土への諜報を行い、敵国内情を探り再戦に備えること。何故期間延長をほのめかしたのかの理由までを探れればそれを本件任務の理想的成功とす。

【結論】
 全会一致による可決。

 マーチス元帥、アカツキ中将、ザッカーハウゼン中将の強い要望により当初は要らぬ刺激を与えたくないとする西部統合軍司令官と外務大臣の意見があったものの西部統合軍司令官、外務大臣両名も帝国本土諜報任務の重要性は以前から認識しており、極力休戦期間は伸ばしたいもののいずれは再戦する認識もある為、情報は不可欠と考え賛成に転じた。

 ※補足
 本件は会議開催前にマーチス元帥、アカツキ中将が事前に個別対談を実施。まずはザッカーハウゼン中将と宮内外務両大臣が賛成を表明。外務大臣はあえて一時反対を表明するも西部統合軍司令官に対して誘導をする為の行動を行うと決定。
 さらには親交の深い中央統合軍が説得に回った事により、西部統合軍司令官は国益に適うのであればと最終的には賛成となった。
 これらはいわゆる根回しの産物であり、マーチス元帥及びアカツキ中将のこれまでの実績と影響力があるからこそ実現したと言えるだろう。


【結論に伴う新規設立機関】
 十一の月二十の日には国王陛下に上奏。
 密勅下りる。正式な始動は新年明けの一の月より。下記実行内容。

 軍情報機関内にY特務機関を設立。
 Y特務機関諜報員は連合共和国選抜人員から成る。サポートとして軍情報機関より出向員を選定。同時に諜報員の育成も行う。
 総責任者は、ザッカーハウゼン中将とダロノワ大統領が連名。オブザーバーにアカツキ中将。
 Y特務機関は軍情報機関機密費より拠出。
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