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第3部『血と硝煙と死体の山の果てに』第16章 春季第三攻勢作戦『電光の双剣』
第9話 妖魔帝国軍の敗北は筋書き通りでしかなく。
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・・9・・
6の月13の日
午後1時30分
妖魔帝国・帝都レオニブルク
皇宮・皇帝執務室
アカツキ達人類諸国統合軍南部統合軍が、妖魔帝国軍の奇襲に対し大きな犠牲を払いながらも防ぎ切った翌々日。妖魔帝国帝都・レオニブルクの皇宮、皇帝執務室では前日までの戦闘詳報が既に皇帝レオニードの手に届いていた。
彼の執務机にある戦況報告書の内容は妖魔帝国にとっては芳しいものでは無かった。
しかし、レオニードの機嫌は悪くはなかった。今も妖魔帝国式の紅茶が入った高価なティーカップを片手に持ち一口飲むと、再び戦況報告書に目を通している。
彼の傍に控えているのは特別相談役のリシュカ。三十分程までから始まったレオニードの午後の公務を、いつものように特別相談役として補助していた。
「今回も負け、か。直前まで隠匿させた上での奇襲で『ソズダーニア・タンク』も投入したのだからもう少し奴等に戦死者を出せると思ったんだが、それが五割もやられたんじゃあな」
「オディッサに送った『ソズダーニア・タンク』、STは三〇〇。そのうち前線に出したのが二五〇だけどこうもこっぴどくやられるとは私も思わなかったよ」
「残存している『ソズダーニア・タンク』は約一七〇。オディッサを守りきるにはリシュカよ、どう思う?」
「難しいと思うよ、陛下。奇襲効果で人類諸国統合軍南部統合軍には確実にダメージを与えたけれど、早期に立て直しをされて包囲計画は頓挫。移動重火力のSTもこれだけ数を減らすと薄く広く伸ばして展開するか、数点に集中して運用するかのどちらかを強いられるからね。それだけじゃない。オディッサからの報告ではあのクソ英雄と人形もいたし、おそらく分析もされたんじゃない? 次に仕掛けた所でSTの姿が割られているし、急場凌ぎながらも対処法を立ててくるだろうね」
リシュカは至極冷静に自軍と敵たる人類諸国統合軍の分析をしていく。
オディッサの戦いの中でも妖魔帝国軍が初めて『ソズダーニア・タンク』を投入した今回の奇襲戦。
妖魔帝国軍と人類諸国統合軍南部統合軍の損害は以下のようになっていた。いずれも十二の日夜までの速報値である。
【妖魔帝国軍側損害】
死者:約二一〇〇〇
負傷者:約二八〇〇〇
捕虜:約一一〇〇〇
捕虜除く合計:約四九〇〇〇
【人類諸国統合軍損害】
死者:約八五〇〇(内、能力者化師団:二五〇〇)
負傷者:約一一〇〇〇(内、能力者化師団:四〇〇〇)
復帰可能者:約五五〇〇(内、能力者化師団:二〇〇〇)
捕虜:約二五〇〇(推測)
捕虜除く合計:約一九五〇〇
「STだけじゃない。後方予備含めて約三〇万いたオディッサ方面軍が捕虜を含めて約二〇パルラも失ったのだから痛手だな、リシュカ」
「休戦前にあったような完敗じゃないにしても、痛手なのは間違いないね。負傷者はいくらかが前線復帰可能とは言っても無視は出来ない損害だもの。能力者化師団の練度を少し甘く見積もってたかも」
流石のリシュカも新編成の能力者化師団については情報が不足していた。存在そのものは諜報機関を通じて知ってはいたが、果たしてどれ程の戦力なのかまでは推測でしか計れなかった。
しかし、こうは言うものの彼女の恐ろしい点は能力者化師団について情報不足ながら正確に練度や戦法を読んでいた事にある。
まず能力者化師団が第二次世界大戦中から戦後にかけての巡航速度と最大速度で部隊を展開させる点だ。
防御力こそSTに劣るものの、速度面では大きく上回っている。STにとっての脅威はこの能力者化師団にあるかもしれないと見立てていたが、まさに現実はその通りになった。
対策として随伴歩兵という護衛を伴う事で小回りのきく能力者化師団への牽制とさせていたが、いかんせん能力者化師団はリシュカの予想を上回る練度だった。
ここまでは兵器と部隊の面から見た敗因であるが、次に二人が語ったのは違う側面からであった。
「それだけじゃないだろう。オディッサに戻ってこれた士官から得た情報によると、やはりと言うべきかアカツキと召喚武器人形の存在は妖魔帝国にとって目障りのようだ。二人をカバーするように隙を作らせず攻撃を繰り返したリイナもな。アレらがいる以上は厄介極まりないだろうさ」
「能力者化師団の創設にはクソ英雄も関わってるらしいから、とことん私達を邪魔したいんだろうね。ったく、腹立たしいったらありゃしないよ」
「ちょっと有能程度の指揮官じゃ奴には勝てんだろうな。少なくとも、戦術面では」
「だね。今は大人しく『作戦通り』に事を進めていくしかないよ」
リシュカはアカツキの名が出ると憎悪を滲み出していたが、歪んだ表情はすぐに平静を取り戻した。
元は同じ世界に生きていた人間で彼は自身の部下だったにも関わらず、この世界では対局の存在になってしまった。
妖魔帝国に鞍替えした事で今は重用されているが、協商連合にいた時は同じ道を歩み同じように英雄的活躍をしたのに、結果は真逆。
彼女の性格に決定的破綻をもたらした出来事は、恨みの根も相応に深いのである。
しかし、敗北したこの戦いではあるが妖魔帝国軍にとって収穫が無かった訳では無いし、決して無駄でも無かったのである。
「でもさ、陛下。初戦から人類諸国統合軍に対して大きな損害を出させたのは成果だと私は思うよ。人類諸国統合軍南部統合軍は約六五万人いるとは言っても後方予備が潤沢な訳じゃないし、法国のと含めて四個師団しかない能力者化師団を相当損耗させたのは大戦果だからね。おそらく能力者化師団はしばらくの間、休息と再編成に乏しい後方予備の補充を迫られるはず」
くひひ、とリシュカは人類諸国統合軍を嘲けるような笑みをする。
彼女の言うように人類諸国統合軍南部統合軍は奇襲によって打撃を受けていた。十二の日の夜までにオディッサから西約一一キーラにまで戦線を回復させてはいたが、作戦開始から僅かな間に死傷者約二万の損害は少なからず今後の作戦を狂わせる数字であったし、補充のしにくい能力者化師団の損害が約一割というのは痛手に過ぎていた。
全体を通じれば僅か三パルセントの損害かもしれないが、能力者化師団が頭一つ抜けて損害が大きかった事によって侵攻速度は低下してしまったのである。
ちなみにだが、北部統合軍は南部統合軍に比べれば損害は少ないものの死傷者約八〇〇〇を生じさせている。キャエフの目の前まで迫ってはいるが、休戦前程の順調さは無かった。
「貴様の言う通りだ。戦争はまだ始まったばかりだと言うのに、我々は奴等に出血を強要させた。休戦前のようにはいかないと知らしめた。これは十分な戦果だぞ」
「だからオディッサとキャエフの司令官を鼓舞する通信を送ったんだね。随分とやる気を出してくれてるみたいだよ?」
「重畳だ。今はまだ負けてもいい。奴等を国土深くまで誘い込み、攻勢限界点を迎えた所で例の計画と共に反撃に転じ、致命的打撃を与えられればな」
「海軍は今のとこ人類諸国統合軍は大人しいみたい。主戦場が陸だし、そもそも私達帝国海軍は他の計画の準備もあって積極的には出るつもりは無いから、あっちも私達が攻めてこない限りは刃を交えるつもりは無いんじゃない? あー。でも、主軸になる国の国内事情もあるかも。諜報機関の情報は陛下も耳にしてるよね?」
「勿論だ。協商連合はチェーホフの奴が裏で暗躍して着々と進めている計画がジワジワと効果を出してきているのもあるが、相変わらず内紛を続けているからな。英雄殺しの国家はどこまでも愚かさ」
レオニードはリシュカを見ながら笑う。リシュカは微笑みで返した。
「私を殺した大バカ野郎が身内で醜い争いを続ければ続けるほど、計画は容易く成り立つからね。植民地にせよ、本国にせよ、ね」
「全くな。せいぜい今は味方同士でやり合ってればいい。あと奴等の動向と言えば連合王国くらいか。老いた王は遂に息子に座を譲るつもになったらしいな」
「そろそろかなとは思っていたけどね」
リシュカは想定の範囲内と言わんばかりの表情をしているが、これについては妖魔帝国政府関係者全体の共通見解でもあった。
休戦前の時点で既にエルフォード・アルネシア齢八十に近い。彼自身は休戦前の時点であと五年かと言っていたが本人の予想に反して未だ健常だ。まだ三年、四年ならば王位にいても問題はない。
しかし、もう老齢なのは間違いがなく万が一がいつあるかは分からない。本来ならば休戦中に息子へ王位を継がせても良かったのだが、周囲の意見もあって休戦期間中は王位交代が滞りなく進められるよう長い準備と調整をしており、今年の六月になってようやく発表されたのである。
再戦したとはいえまだ始まったばかりであり、戦地が遠い故に国内情勢は明るい。であるのならば今のうちにと息子へと譲位することにしたのである。
生前退位は半年後の翌年一の月一日と決定された。新年の新しい空気と共に連合王国は王も変わるとしたのである。式典を開くには持ってこいの日でもあった。
「しかし半年後、か。人工太陽を爆ぜさせるには最適だと思うが、リシュカ。貴様はどう考える」
「モノは出来てるし、運ぶ手段は前から決定されてる。あとはそうだね、他の計画との兼ね合いに、クソッタレ共がどこまで侵攻してくれるか、かな」
「南方と、協商連合だな。同時多発させれば一番混乱させられるが、機を見てで構わんだろ。オレとて本土に奴等をのさばらせるのは面白くない。人的資源の源泉となる市民とて無闇に消耗したくないしな」
「あら、意外と臣民に配慮する気持ちがあるんだね」
「そらそうさ。何せオレの臣民だからな」
「これは失礼しました、陛下。じゃあ、当面は陛下の意のままにということでいいかな?」
「そうしてくれ。ああそうだ。今日は午後四時に終わってくれて構わん。ルシュカが茶会から帰ってくるからな。後は察してくれ」
「はいはいごちそうさま。甘さで胸焼けになりそう」
おどけるように笑うリシュカと、良い許すと微笑するレオニード。
妖魔帝国軍は敗北した。
しかし、筋書き通りの敗北の裏では着々と反撃の機会が練られようとしていたのであった。
6の月13の日
午後1時30分
妖魔帝国・帝都レオニブルク
皇宮・皇帝執務室
アカツキ達人類諸国統合軍南部統合軍が、妖魔帝国軍の奇襲に対し大きな犠牲を払いながらも防ぎ切った翌々日。妖魔帝国帝都・レオニブルクの皇宮、皇帝執務室では前日までの戦闘詳報が既に皇帝レオニードの手に届いていた。
彼の執務机にある戦況報告書の内容は妖魔帝国にとっては芳しいものでは無かった。
しかし、レオニードの機嫌は悪くはなかった。今も妖魔帝国式の紅茶が入った高価なティーカップを片手に持ち一口飲むと、再び戦況報告書に目を通している。
彼の傍に控えているのは特別相談役のリシュカ。三十分程までから始まったレオニードの午後の公務を、いつものように特別相談役として補助していた。
「今回も負け、か。直前まで隠匿させた上での奇襲で『ソズダーニア・タンク』も投入したのだからもう少し奴等に戦死者を出せると思ったんだが、それが五割もやられたんじゃあな」
「オディッサに送った『ソズダーニア・タンク』、STは三〇〇。そのうち前線に出したのが二五〇だけどこうもこっぴどくやられるとは私も思わなかったよ」
「残存している『ソズダーニア・タンク』は約一七〇。オディッサを守りきるにはリシュカよ、どう思う?」
「難しいと思うよ、陛下。奇襲効果で人類諸国統合軍南部統合軍には確実にダメージを与えたけれど、早期に立て直しをされて包囲計画は頓挫。移動重火力のSTもこれだけ数を減らすと薄く広く伸ばして展開するか、数点に集中して運用するかのどちらかを強いられるからね。それだけじゃない。オディッサからの報告ではあのクソ英雄と人形もいたし、おそらく分析もされたんじゃない? 次に仕掛けた所でSTの姿が割られているし、急場凌ぎながらも対処法を立ててくるだろうね」
リシュカは至極冷静に自軍と敵たる人類諸国統合軍の分析をしていく。
オディッサの戦いの中でも妖魔帝国軍が初めて『ソズダーニア・タンク』を投入した今回の奇襲戦。
妖魔帝国軍と人類諸国統合軍南部統合軍の損害は以下のようになっていた。いずれも十二の日夜までの速報値である。
【妖魔帝国軍側損害】
死者:約二一〇〇〇
負傷者:約二八〇〇〇
捕虜:約一一〇〇〇
捕虜除く合計:約四九〇〇〇
【人類諸国統合軍損害】
死者:約八五〇〇(内、能力者化師団:二五〇〇)
負傷者:約一一〇〇〇(内、能力者化師団:四〇〇〇)
復帰可能者:約五五〇〇(内、能力者化師団:二〇〇〇)
捕虜:約二五〇〇(推測)
捕虜除く合計:約一九五〇〇
「STだけじゃない。後方予備含めて約三〇万いたオディッサ方面軍が捕虜を含めて約二〇パルラも失ったのだから痛手だな、リシュカ」
「休戦前にあったような完敗じゃないにしても、痛手なのは間違いないね。負傷者はいくらかが前線復帰可能とは言っても無視は出来ない損害だもの。能力者化師団の練度を少し甘く見積もってたかも」
流石のリシュカも新編成の能力者化師団については情報が不足していた。存在そのものは諜報機関を通じて知ってはいたが、果たしてどれ程の戦力なのかまでは推測でしか計れなかった。
しかし、こうは言うものの彼女の恐ろしい点は能力者化師団について情報不足ながら正確に練度や戦法を読んでいた事にある。
まず能力者化師団が第二次世界大戦中から戦後にかけての巡航速度と最大速度で部隊を展開させる点だ。
防御力こそSTに劣るものの、速度面では大きく上回っている。STにとっての脅威はこの能力者化師団にあるかもしれないと見立てていたが、まさに現実はその通りになった。
対策として随伴歩兵という護衛を伴う事で小回りのきく能力者化師団への牽制とさせていたが、いかんせん能力者化師団はリシュカの予想を上回る練度だった。
ここまでは兵器と部隊の面から見た敗因であるが、次に二人が語ったのは違う側面からであった。
「それだけじゃないだろう。オディッサに戻ってこれた士官から得た情報によると、やはりと言うべきかアカツキと召喚武器人形の存在は妖魔帝国にとって目障りのようだ。二人をカバーするように隙を作らせず攻撃を繰り返したリイナもな。アレらがいる以上は厄介極まりないだろうさ」
「能力者化師団の創設にはクソ英雄も関わってるらしいから、とことん私達を邪魔したいんだろうね。ったく、腹立たしいったらありゃしないよ」
「ちょっと有能程度の指揮官じゃ奴には勝てんだろうな。少なくとも、戦術面では」
「だね。今は大人しく『作戦通り』に事を進めていくしかないよ」
リシュカはアカツキの名が出ると憎悪を滲み出していたが、歪んだ表情はすぐに平静を取り戻した。
元は同じ世界に生きていた人間で彼は自身の部下だったにも関わらず、この世界では対局の存在になってしまった。
妖魔帝国に鞍替えした事で今は重用されているが、協商連合にいた時は同じ道を歩み同じように英雄的活躍をしたのに、結果は真逆。
彼女の性格に決定的破綻をもたらした出来事は、恨みの根も相応に深いのである。
しかし、敗北したこの戦いではあるが妖魔帝国軍にとって収穫が無かった訳では無いし、決して無駄でも無かったのである。
「でもさ、陛下。初戦から人類諸国統合軍に対して大きな損害を出させたのは成果だと私は思うよ。人類諸国統合軍南部統合軍は約六五万人いるとは言っても後方予備が潤沢な訳じゃないし、法国のと含めて四個師団しかない能力者化師団を相当損耗させたのは大戦果だからね。おそらく能力者化師団はしばらくの間、休息と再編成に乏しい後方予備の補充を迫られるはず」
くひひ、とリシュカは人類諸国統合軍を嘲けるような笑みをする。
彼女の言うように人類諸国統合軍南部統合軍は奇襲によって打撃を受けていた。十二の日の夜までにオディッサから西約一一キーラにまで戦線を回復させてはいたが、作戦開始から僅かな間に死傷者約二万の損害は少なからず今後の作戦を狂わせる数字であったし、補充のしにくい能力者化師団の損害が約一割というのは痛手に過ぎていた。
全体を通じれば僅か三パルセントの損害かもしれないが、能力者化師団が頭一つ抜けて損害が大きかった事によって侵攻速度は低下してしまったのである。
ちなみにだが、北部統合軍は南部統合軍に比べれば損害は少ないものの死傷者約八〇〇〇を生じさせている。キャエフの目の前まで迫ってはいるが、休戦前程の順調さは無かった。
「貴様の言う通りだ。戦争はまだ始まったばかりだと言うのに、我々は奴等に出血を強要させた。休戦前のようにはいかないと知らしめた。これは十分な戦果だぞ」
「だからオディッサとキャエフの司令官を鼓舞する通信を送ったんだね。随分とやる気を出してくれてるみたいだよ?」
「重畳だ。今はまだ負けてもいい。奴等を国土深くまで誘い込み、攻勢限界点を迎えた所で例の計画と共に反撃に転じ、致命的打撃を与えられればな」
「海軍は今のとこ人類諸国統合軍は大人しいみたい。主戦場が陸だし、そもそも私達帝国海軍は他の計画の準備もあって積極的には出るつもりは無いから、あっちも私達が攻めてこない限りは刃を交えるつもりは無いんじゃない? あー。でも、主軸になる国の国内事情もあるかも。諜報機関の情報は陛下も耳にしてるよね?」
「勿論だ。協商連合はチェーホフの奴が裏で暗躍して着々と進めている計画がジワジワと効果を出してきているのもあるが、相変わらず内紛を続けているからな。英雄殺しの国家はどこまでも愚かさ」
レオニードはリシュカを見ながら笑う。リシュカは微笑みで返した。
「私を殺した大バカ野郎が身内で醜い争いを続ければ続けるほど、計画は容易く成り立つからね。植民地にせよ、本国にせよ、ね」
「全くな。せいぜい今は味方同士でやり合ってればいい。あと奴等の動向と言えば連合王国くらいか。老いた王は遂に息子に座を譲るつもになったらしいな」
「そろそろかなとは思っていたけどね」
リシュカは想定の範囲内と言わんばかりの表情をしているが、これについては妖魔帝国政府関係者全体の共通見解でもあった。
休戦前の時点で既にエルフォード・アルネシア齢八十に近い。彼自身は休戦前の時点であと五年かと言っていたが本人の予想に反して未だ健常だ。まだ三年、四年ならば王位にいても問題はない。
しかし、もう老齢なのは間違いがなく万が一がいつあるかは分からない。本来ならば休戦中に息子へ王位を継がせても良かったのだが、周囲の意見もあって休戦期間中は王位交代が滞りなく進められるよう長い準備と調整をしており、今年の六月になってようやく発表されたのである。
再戦したとはいえまだ始まったばかりであり、戦地が遠い故に国内情勢は明るい。であるのならば今のうちにと息子へと譲位することにしたのである。
生前退位は半年後の翌年一の月一日と決定された。新年の新しい空気と共に連合王国は王も変わるとしたのである。式典を開くには持ってこいの日でもあった。
「しかし半年後、か。人工太陽を爆ぜさせるには最適だと思うが、リシュカ。貴様はどう考える」
「モノは出来てるし、運ぶ手段は前から決定されてる。あとはそうだね、他の計画との兼ね合いに、クソッタレ共がどこまで侵攻してくれるか、かな」
「南方と、協商連合だな。同時多発させれば一番混乱させられるが、機を見てで構わんだろ。オレとて本土に奴等をのさばらせるのは面白くない。人的資源の源泉となる市民とて無闇に消耗したくないしな」
「あら、意外と臣民に配慮する気持ちがあるんだね」
「そらそうさ。何せオレの臣民だからな」
「これは失礼しました、陛下。じゃあ、当面は陛下の意のままにということでいいかな?」
「そうしてくれ。ああそうだ。今日は午後四時に終わってくれて構わん。ルシュカが茶会から帰ってくるからな。後は察してくれ」
「はいはいごちそうさま。甘さで胸焼けになりそう」
おどけるように笑うリシュカと、良い許すと微笑するレオニード。
妖魔帝国軍は敗北した。
しかし、筋書き通りの敗北の裏では着々と反撃の機会が練られようとしていたのであった。
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