異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第18章 ドエニプラ攻防戦編

第3話 遅れる前進速度と空からの脅威

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 ・・3・・
 9の月21の日
 午後0時10分
 コルツォーク川西岸・人類諸国統合軍前線司令部付近


「今日で渡河してから二日経つけれど、進出速度が芳しくないわね……」

「やっぱりリイナもそう思うよね」

「ええ、これだと当初の七割近くがやっとじゃないかしら」

「同意。友軍は前進しているものの各所で敵部隊による火力集中攻撃や遊撃を受けるかしており、死傷者はオディッサ程ではありませんが侵攻時速はこれまでの最低値になっています」

「だよねえ……」

 コルツォーク川西岸に置かれた前線司令部から少し離れ、仮設橋の向こう側で戦況の観測をしている僕達は最前線の様子を見ながら率直に感想を漏らした。
 十八の日に事前段階として昼夜を問わず爆撃や砲撃を実行。翌日からは渡河作戦を決行して橋頭堡を確保してから東進をしていた。ここまでは良かったんだ。
 ところが東進を始めたその日の夕方から早速妖魔帝国軍による洗礼を受けることになる。
 恐らくは兵器類を集中運用しているんだろうけど、進出線に対して徹底的な火力投射や『ソズダーニア銃砲兵』部隊の投入が起きている。これによって友軍は少なからず損害を生じさせていた。
 こうなっているのは地形が大きく関係している。僕達が占領しようとしているドエニプラには正面に大きな森林地帯と沼沢地帯が広がっており大規模な部隊を投入出来ない。ある程度侵攻してから伏兵として忍ばせる程度ならば可能だけど、これまでのように前面に広く分厚く展開するのは不可能だった。
 だからどうしても進出線が限られる。それが今進んでいる北部と南部の街道筋付近だ。こうなると防御側は有利になる。有限の戦力を効率的に配置出来るからだ。しかも、今までに比べると兵力差が縮まっているから尚更侵攻が一筋縄ではいかなくなっているわけなんだ。

「でも旦那様。妖魔帝国軍の抵抗は延々とって訳でも無いわよね。私達が相手を上回る火力をぶつけ続けて戦線が崩れそうになると潔く後退しているわ。引き際も絶妙と言えるくらいよ」

「全くだよ。同じような所感が前線の指揮官クラスから続々と上がってる。無理な突撃はしてこない。地区での負けが確定したとなると撤退していく。しかもその撤退はオディッサやムィトゥーラウ以上に統率が取れていて、敵軍に組織力が残っている以上深追いなんて出来ない。だったかな」

「確定事項。本戦闘における妖魔帝国軍司令官は極めて優秀だからでしょう」

「ダロノワ大統領にここの方面司令官について問い合わせておいて良かったよ。知らなかったら、今まで通りだと慢心してもっと手酷くやられていたと思う」

「シェーコフ大将だったわね。妖魔帝国軍では珍しい、老齢ながらも先進的な視点を持つ優れた軍人だって」

 リイナの口から出た妖魔帝国軍ドエニプラ方面軍司令官、シェーコフ大将。この戦いが始まってわずか二日で計画を狂わせてきた張本人だ。
 ここまでの戦いと同様に、敵司令官の分析をしたかった参謀本部や僕はかつては味方で今は僕達の味方であるダロノワ大統領などへ彼の情報を教えてもらったんだ。
 すると、返ってきた通信はこんな感じだった。

 ・皇帝が無能と切り捨てた数々の将官クラスの中でも粛清対象にならなかった点でまず他とは違う人物。

 ・他の将官と違い旧来の戦略や戦術に固執せず、優れていると自身が判断すれば躊躇せず採用する柔軟性を持っている。

 ・よって妖魔帝国軍が戦間期で進化した戦略や戦術には強く興味と関心を持ったのだろうと推測され、自身の管理下にある軍にはいち早く導入し訓練を重ねていただろう。

 ・皇帝レオニードからの信頼も厚く、恐らくはかなりの自由裁量権を持っていると考えられる。

 ・要所故に物資も優先配備される可能性が高い。警戒は強めた方が良いだろう。

 時間通信量の限界もあるから可能な限り簡潔に纏められた内容から、参謀本部も僕もシェーコフ大将を最大限警戒すべき人物と判断。兵站部門と航空部隊には多少無茶をしてもらうことにはなったけど、当初計画以上の火力をもって粉砕することにした。勿論、敵司令官に関する情報は指揮官クラス全員に情報共有もした。
 けれど、ここまでしても妖魔帝国軍の抵抗に人類諸国統合軍は苦戦――今は勝っているのは間違いないけれど――させられていた。

「報告。アレン中佐が支援要請のあった方面から帰還したようです」

「みたいだね。早速報告を聞いてみよう」

 午前中に支援要請を受けて大隊を引き連れていたアレン中佐が戻ってきた姿をエイジスは捉え、僕は彼等のいる方に手を振る。
 アレン中佐達はそれからすぐに僕達の所へ到着した。服が煤けていたり、一部の兵士には傷跡もある。どうやら少し損害は出てしまったらしい。

「ご苦労だったね、アレン中佐。負傷者は直ちに後送。無事な者も休息をさせてやって」

「ありがとうございます、アカツキ中将閣下。そうさせて頂きます。自分はどうすれば?」

「すまないけど、報告が聞きたいんだ。いいかな?」

「はっ。了解しました」

 アレン中佐は部下達に素早く指示を出していくと、数分後には再び僕の所に戻ってきた。
 彼は数言交わしてから、報告としてまずこう言った。

「連中、間違いなく手練です。練度はムィトゥーラウより少し上程度だとは思うのですが、動きからするとアレは上がかなり優秀ではないかと……」

「やっぱりか……。僕も初日に前線指揮をしたのと、こうやって視察して感じたよ。手際が良すぎる」

「仰る通りです。先の戦闘でも同じように思いました」

「アレン中佐が言うのだから、間違いないわね」

「はい、リイナ准将閣下。支援要請先の少佐も今まで以上に手強いと言っておりました」

「二日間での人類諸国統合軍の死傷者は約五〇〇〇。これは出鼻をくじかれたね。初日の僕らをギリギリまで引き付けてから一斉火力投射からしておかしいと思ったけれど、シェーコフ大将はこれだけの軍を手足の様に動かせるずば抜けて有能な指揮官だよ」

「戦力差は僅かに五万有利なだけ。地の利はあちらにあって、さらに指揮官は優秀なんてきたらこれはもしかすると……」

「ここだけの話、市街戦になったら泥沼だね……」

 僕は声を潜めて言う。リイナは頷き、アレン中佐も悔しいですがその展開は目に見えてますね。と零す。
 アレン中佐の話すとおり、練度自体はオディッサやムィトゥーラウより少し高いくらいかなという程度だった。となると、ここまで苦戦させられる理由は一つしかない。
 指揮官の存在だ。
 相手の動きを見れば作戦全体を統括するシェーコフ大将から各師団長へ。各師団長からさらに下へと命令が確実に実行されているとしか思えない。それを可能にする練度もあるし、きっと物資も揃っているんだろう。追加で届く物資は航空部隊や召喚士攻撃飛行隊の空爆やロケット等で妨害や損失を出せるからかなりの備蓄をしていると思う。だからエイジスに分析をさせたけれどかなりの量を地下か強固な陣地に置いている上に不便にならない程度に分散しているから、僕達が割に合わないとすぐに判明。おまけに物資集積箇所には対空攻撃に優れた魔法兵が配備されたり召喚士飛行隊が邀撃ようげきに出てくるから上手くいかない。
 とまあ空爆に限ってもこんなんだし、僕達の兵器も精密な誘導弾がないからこればかりはどうしようもないわけだ。
 こうなると、重要都市と周辺を巡る攻防は泥沼と化すだろう。前世のあの戦いよろしく冬まで戦わざるを得なくなるかもしれない。
 冬の戦いは極力避けたい。いくら前世のあの戦いと違って冬季戦装備を整え、兵器についても火属性魔法で暖めるって力技を使えば維持は可能だ。
 でも、必要以上に消耗させられる。消耗したとすると、人類諸国統合軍は戦力を保てるかは未知数だ。本当の総力戦にまで色々と基準を引き下げればまだ戦えると思う。だけど、勝ったとしても最悪破滅の道を歩むことになるだろう。こんなのは最後の手段だ。

「これはそろそろ、手札を切るべきなのかもしれないね……」

「どうしたの、旦那様。何か呟いてた気がするけれど」

「多少ならともかく大幅な計画遅延は許されないから、そろそろカードを場に出すべきかなって」

「そうね……。前倒しではあるけれど、出さないなんて持ち腐れだもの」

「賛成。最低でも一枚はカードを切るべきですマスター」

「同じく賛成です。このままでは底なし沼に持っていかれかねません。前線の兵士の士気にも関わりますから、マーチス元帥閣下に判断を仰いだ方がよろしいかと」

 僕の言葉に皆が首肯し、それぞれの感想を述べる。
 決まり、だね。一度マーチス侯爵に相談して会議に掛けるべきだろう。決定してしまえば後は早いんだし。

「となれば、一度総司令部に戻った方がいいね。アレン中佐の部隊も一昨日、昨日、今日と消耗したから最低でも半日か一日は後ろに下げたいし」

「ご配慮感謝致します、アカツキ中将閣下」

 アレン中佐がほっとした表情になり頭を下げる。
 比較的人員に余裕があるのならば、休息は取らせたい。今後どうなるか分からないのであれば尚更だ。
 僕は、じゃあ総司令部へ向かおうか。と、口にしようとした瞬間だった。
 エイジスがぴくりと身体を動かして急に空を睨み出す。

「エイジス、何があった?」

「…………いえ。探知範囲の上限で魔力反応を掴んだのですが、妙です」

 エイジスが探知範囲の上限で、ということはかなりの距離になる。初期でも十分すぎたけれど経験蓄積でアップデートを果たした彼女の探知範囲は約八〇キーラ。距離が遠くなればなるほど探知精度は低下するとはいっても、探知出来る事に意味がある。彼女のおかげでどれだけ救われているかなんて枚挙に暇がない。
 さて、上限八〇キーラで引っかかったということは何かが起きたのは間違いない。問題は、妙という発言の中身だ。

「妙、とは?」

「まだ遠すぎるので判断は不可能…………。探知精度を広範囲探知方式に変更。…………これは?!」

「何があったエイジス?」

「警告。十一時から一時方向より超高速の飛行体を捕捉。距離約七〇〇〇〇前後。速度……、約二七〇、二八〇……! 方位、西進」

「まさかそんな?!」

「二八〇だって!?」

 すぐさま視覚情報共有を開いたリイナはエイジスの報告通りの飛翔する何かの余りにも速い速度に驚愕し、アレン中佐は聞いた事もない数字に思わず大声で叫ぶ。
 対して、僕は。

「時速約二八〇……。エイジス、数は」

「サー、マスター。飛翔体の数は……、約一〇〇。編隊を組み、なおも飛行中」

「間違いない。アレだ、リイナ」

「そうね……。驚いてしまったけれど、よくよく考えればアレしかないわ……」

 初めこそ人類諸国統合軍では極一部を除いて聞かない数値を妖魔帝国軍の勢力圏から探知した事実に驚いたリイナだけど、心当たりがあるだけにすぐに冷静になる。

「エイジス。緊急割り込みでいい、総司令部に向けて空襲警報の発令を通達。この情報も最優先で送信」

「サー、マスター」

「アカツキ中将閣下! 約二八〇なんて時速、もしかして……」

「うん。そのもしかしてだよ。これだけの速度で編隊で飛翔するのはアレしかない。…………光龍族だ」
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