異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第20章 絶望の帝国冬季大攻勢編

第9話 彼の回復を願って

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 ・・9・・
 12の月14の日
 午前4時20分
 統合軍野営地

「ココノエ陛下。アカツキ中将閣下を、どうかよろしくお願い致します……」

「…………うむ。任せよ。――行くぞ」

「御意」

「御意に」

 アレンがココノエ達にアカツキを任せたのがほんの三十分前の事であった。
 夜中に発生した事象にも関わらず、アカツキのムィトゥーラウ搬送は驚くほど早く決定が下された。マーチスが速やかにムィトゥーラウへ運ばせるように即決したからである。ココノエ達であれば今の野営地からムィトゥーラウの司令部まで夜が明ける前に到着可能だからだ。
 アレンはココノエ達に自身の上官を預けると、自分と部下のアリッサはようやく一息つくことが出来た。
 時刻は既に午前四時半前。リシュカ達が行った破壊工作は小規模であったのもあり消化作業も終わっていた。野営地の混乱も収まり、今は静けさが支配している。
 しかし、アレンやアリッサは眠ることなど出来るはずもなかった。
 アレンは熱いコーヒーに口をつけて、リシュカと対敵した時のことを思い出していた。

「アリッサ大尉」

「はい。なんでしょうか、アレン大佐」

「私は、あんな中将閣下を初めて見た……」

「アレン大佐でも、ですか……」

「ああ。自慢ではないが、今や統合軍全体に影響力を持つアカツキ中将閣下がまだ大隊を持つくらいの頃から知っているんだ。だから初めて顔を合わせた頃を含めれば十年以上だろうか。その私でも、あんな中将閣下は見たことがない」

 アレンはアカツキがまだA号改革を打ち出す前、つまり転生前の状態から知る数少ない人物でもある。アリッサはまだ第一〇三大隊の名前だった頃に入隊している。アレンよりは後にせよ、今や最古参と言っても差し支えの女性士官。
 その二人が、アカツキが恐慌状態に陥り錯乱していたのを見るのが初めてなのだから余程の何かがあったには違いないと感じていた。

「…………一体、どうしてあんな様子になられたのでしょうか」

「詳しくは私も分からない。ただ、ありきたりな理由で良ければ、それらを並べようとすれば幾つも出てくるだろうな……」

「ブリック大将閣下の死でしょうか」

「あるだろうな」

「今月に入ってから退却を続けていますが、遅滞防御の指揮は」

「それもだな。ドエニプラから後退して以降、中将閣下の睡眠時間は極端に減っている。元からあの方は過労気味だが平時は休日もあって余暇を取られておられていたし、先月までは休む時間があった」

「ええ。自分達はアカツキ中将閣下があちらこちらに視察に向かわれる際に護衛として同行していましたから、精力的に動かれていたのは存じております」

「ああ。だが、今月に入ってからはどうだ? 退却ルートの選定だけでなく三個軍を崩壊させないよう士気の低下に極力努め、兵士達に声を掛け、空襲となれば自身も戦われ、支援が必要となれば可能な限りムィトゥーラウに要請をかけられておられた。移動中も常に地図を見られ、入った情報からベターな選択肢を選び続ける。他にもいくらでもあるぞ。――ともかくとして三個軍の中で敗走中にも関わらず脱落者が少なく軍の体裁を保っていられたのは、アカツキ中将閣下によるものが大きい」

 アレンは自らの目で見てきたアカツキの様子をアリッサに語る。
 一般的に敗北し後退する軍を、それも三個軍を組織力を保って動かすなど至難の業である。アカツキが前世で学んだ知識はあくまで中隊クラスの指揮であり、今日のように軍規模を指揮出来ているのはこの世界での経験の賜物である。前世の知識と今世の経験の歯車が噛み合ってこそ、今のアカツキがあるのだ。
 とはいえ、これにも限界はある。
 敗走している厳しい条件下の中にも関わらず、アカツキの指揮下に入る参謀本部の人数が減っている。これはブリックが一個軍を率いてドエニプラに留まり時間稼ぎをした影響もある。いくらブリックが三個軍用に作戦指揮系統の人員を振り分けていたとはいえ、自身の一個軍用にも必要だからだ。
 結果として、三個軍としてはやや心許ない人員数。
 敗走という統合軍にとっては初の環境下での士気低下。
 帝国軍による夜間空襲による精神的消耗。
 今まで自分達が行ってきた戦法をお返しだと言わんばかりに帝国軍に受けたことで、軍の頭脳たる参謀達も睡眠不足により日増しに摩耗していったのである。
 そのような中でもアカツキは、表面上は普段とほぼ変わらない振る舞いを見せていたのだ。

「アカツキ中将閣下のおかげで我々は他方面に比べて被害が少なく済んでいるというわけですね……。しかし、中将閣下も人。精神はすり減っていき、今日の件がトドメを刺した、と……」

「恐らくはな。リイナ准将閣下は仰っていた。あの女を見た瞬間からおかしくなったと。ただ、私には理由が皆目検討がつかない」

「…………そう、ですか」

 アリッサはコーヒーに口をつけて夜空を見上げた。チラついていた小雪は止み、しかし曇天によって星は見えない。

「だがな、アリッサ大尉。原因が何であれ私達のすべき事は変わらない。むしろアカツキ中将閣下が一時的に指揮不能になった今こそ、我々の働きが求められる。私達ですらこうだ。奥様でもあるリイナ准将閣下の方がショックと心労は大きいだろう」

「はい……」

「故に、我々はリイナ准将閣下をお支えしなければならない。少なくとも、ムィトゥーラウにつくまでは」

「了解しました。…………自分は、アカツキ中将閣下が早く良くなればと思います」

「私もだ。アカツキ中将閣下が統合軍にとって欠けてはならない軍人だからではない。一人の、お人としてだ」

「はい……」

 アカツキの心身不調に衝撃を受けたアレン達。
 だが、彼等はただ打ちひしがれてはいなかった。自分の成すべきことを成し、軍人として務めを果たそうとしていた。
 二人はコーヒーを飲み終えると、いつも通り軍務に戻ったという。
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