異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

文字の大きさ
332 / 390
第22章 死守せよ、ムィトゥーラウ―オチャルフ絶対防衛線編

第3話 後退支援作戦を提案したのは

しおりを挟む
・・3・・
 1の月20の日
 午前8時25分
 人類諸国統合軍・ムィトゥーラウ中央方面軍前線司令部


 一の月も二十日になる頃には帝国軍はムィトゥーラウまで約四〇キーラにまで迫ってきていた。
 人類諸国統合軍は当初の計画通りジリジリと意図を持った後退を続けているものの数的不利という戦力差はやはり拭い難くて、ここしばらく綱渡りな展開が多くなっている。これだけの統率を保ちつつも戦線が破綻していないのは奇跡と言っても過言ではなかった。
 僕もマーチス侯爵と話した二日後の十三の日には従来のムィトゥーラウ市街にある司令部ではなく、ムィトゥーラウ中央方面軍前線司令部へ拠点を変えた。
 僕の役職はマーチス侯爵の副官。そして、能力者化師団の総司令官だ。これまで後方での作戦立案や様々な調整をメインに行っていたけれど、オチャルフの資材系手配や大体の後方での仕事は終えたし、何より戦線を支える事自体が日に日に難しくなっている。
 そこで僕が向かえば士気向上にも繋がるし、作戦計画にとって重要な局面を迎えつつある今ここからは、エイジスを保有する僕がいた方が戦線管理もしやすくなる。
 マーチス侯爵の命令もあって、僕は前線にいるわけた。
 二十の日午前八時半前。
 今はリイナ、エイジスにアレン大佐――一昨日までの激戦で彼の部隊は一日だけこの後方に休息と補充で下げさせている――のいつものメンツに加え、ココノエ陛下達もいた。場所は前線から約十キーラ離れた地点。連合王国の能力者化師団三個師団の内、今いるブロックを担当している第一〇一能力者化師団師団長、オスカー師団長案内のもとで戦線視察をしていた。
 帝国軍のほとんどの主要砲火力射程ギリギリ範囲外かつ、視察するのに安全を保てる程度のここからだと戦争の様子はよく観察する事が出来ていた。

「苦しい、展開だね……」

「はい。一〇一は他師団の負担も一部請け負っておりますので既に損耗率が七パルセント近くにまで上昇しており、そろそろ厳しくなるかと」

 僕はエイジスの情報共有画面と単眼鏡を交互に見ながら戦線の様子を観察し言うと、オスカー師団長は苦々しい表情で返す。

「エイジス、ブロック内にいる帝国軍の動きはどう?」

「サー。帝国軍は昨日より前線に展開する軍の一部転換を行い、以後攻勢が強まっています。マップにマークしてある帝国軍第八軍隷下の師団が二個師団。それが転換後に配置された軍になります」

「エイジスよ。第八軍隷下の師団とやらは、確かあのリシュカとやらが指揮官の軍じゃったな?」

「肯定。その通りですココノエ陛下」

「ふむぅ、厄介じゃのお」

 前線の状況が書き込まれた地図を見ながら、ココノエ陛下はため息をつく。

「ここに来て帝国軍も本腰を入れ始めたという事かしら」

「だろうねリイナ。単純に展開していた帝国軍師団が一〇一の奮闘で損耗していたから交代させたんだろうけど、今まで第八軍は後方予備だったはず。それが表に出てきたってことは、後々の市街戦でこっちの抵抗を減らす為にまずは二個師団を投入してきたんだろうさ」

「補足。ただし、帝国軍第八軍内にいると思われる帝国軍第八近衛師団はブロック内で探知しておりません。また、リシュカ・フィブラの魔力も同様です」

「高みの見物とはいいご身分ね。役職故に滅多には前線には姿を出さないんでしょうけれど」

「まだ、なだけだろうね。いつかは立ちはだかってくるはずだ」

「自分としては帝国軍のバケモノでしたか。ソレが出てこなくてほっとしてますよ。損害が桁違いになります。今ですらこの有様なのですから」

 オスカー師団長は険しい顔つきで言う。
 昨日からあの人が率いる第八軍の一部が前線に出てきた事により、一〇一は苦しい戦いを強いられているからだ。

「オスカー師団長、正直に言って欲しい。一〇一師団はあとどれ位戦線を維持出来る?」

「ムィトゥーラウ市街戦さえ気にしなければまだ幾らでもやれますが、今後の事を踏まえるとそろそろ後退させたいところです。連隊長クラスからは悲鳴に近い進言がありまして、私の一存で下げられるギリギリまでは後退良しの命令は出しました」

「構わないよ。能力者化師団は虎の子師団で、補充もすぐには難しい。オチャルフでも活躍してもらわなきゃいけない以上、損耗は避けたいからね」

「であれば四半日、午後には後退させたいですな……。既に前線司令部には連絡はしてあるのでスムーズに配置転換は済むと思われます。ですから夕方まで維持させるのは……」

「午後、か……。エイジス、一〇一師団を午後に後退させたとして、当日夜までと交代の師団配置で戦線がどうなるか予測演算を」

「サー、マスター」

 エイジスはすぐさま演算を始める。
 結果は三分と少しで出た。
 やっぱ、そうなるか……。

「演算完了。戦線を現状維持させながらの一〇一師団と入れ替わる部隊の配置転換には最低でも半日を要します。主要素、帝国軍第八軍隷下師団は練度が高く一筋縄では後退出来ない点。さらに一〇一の代わりに当該ブロックには一般的な師団であれば現状の三割増しは必要になるかと」

「半日は苦しいですね……。持たせろと言われれば持たせますが……」

 オスカー師団長はやれますと言うけれど、間違いなく少しでも早く後退させたいと思っている。
 けれど、予備兵力の乏しさが中々許してくれないのも知っている。彼は苦渋の決断を迫られているわけだ。
 僕としてはどうにかしてあげたい。でも、どうにかするには足りないものが多い。
 戦線の推移を画面で見渡し、なんとか一時間でも早く交代させられないだろうかと僕が思考回路をフル回転させた時だった。
 一人、沈黙を破るように発言する人がいた。
 ココノエ陛下だ。

「ならば、妾達が時間稼ぎをするのが良さそうじゃの」

「ココノエ陛下達が、でありますか?」

「うむ。妾達じゃ。ただし、お主やエイジス、アレン大佐達の力を借りることになるがの。無論、オスカー師団長の一〇一もじゃ」

 突然の彼女の提案に僕は戸惑う。
 ココノエ陛下達が僕達の力を借りて時間稼ぎってどういうこと?
 僕はどうやって時間を、と思っていると陛下から答えを教えてくれた。

「何も妾達は龍となって戦うばかりではないのはお主も知っておろう?」

「え、ええ。勿論。ですが、二個師団の足止めともなれば至難の業です。いや、待てよ……。龍化せずに地上で時間稼ぎとなると……」

「気付いたかの?」

「まさかですが、以前お話をされておられた皇国式戦術級魔法の発動でありますか?」

「ご名答じゃ。前線にいる八人のうち三人は航空優勢確保の任を任せておるから実質五人で決行する事になるが、妾が発動し補助に実朝らだけでは足らぬが、なあに、エイジスもおるからの」

「確かにエイジスのリソースなら可能ではありますね」

「そうね。前に陛下から皇国式戦術級についてはお聞きしていたけれど、威力の面からも申し分ないわ」

「肯定。戦術級魔法の補助であれば迎撃術式等ディフェンスモードの並列処理は可能です」

「あの……。ココノエ陛下直々に後退援護をして頂けるのであれば恐悦至極に尽きますが、一体皇国式戦術級とやらでどのように行うのでしょうか……。威力面もご教授願いたく……」

「オスカー師団長の言う通りだね。威力については僕も知っているけど、手順を知りたい。陛下、作戦を教えて頂けますか?」

「勿論じゃ。思いつきじゃが、大体これから話す形で進めるつもりじゃ」

 すると、ココノエ陛下は作戦について話し始める。
 簡潔に纏めるとこうだった。


 1,皇国式戦術級魔法名『龍光閃りゅうこうせん』は、光属性広範囲光線術式である。発動までに十分を要するものの、発動すれば帝国軍に対して横薙ぎの高威力光線術式で攻撃可能。余程の高密度魔法障壁でないと防げない。

 2,そこで僕やエイジスにリイナ、アレン大佐達の大隊。後退する一〇一師団に協力して欲しいとのこと。

 3,ただし一〇一師団はこれまでの後退行動に変更は無し。帝国軍の部隊を攻撃予測地点に多く集めて貰えればいい。場所は後退地点の内、帝国軍から見て十数メートルの丘を登りきった所。

 4,協力のメインは僕達になる。戦術級魔法詠唱中は陛下達は無防備になってしまう。よって僕達がするのはココノエ陛下達の護衛とのこと。

 5,まずエイジス。役目は二つ。一つ目がココノエ陛下の補助。エイジスの能力的に座標と範囲の決定が最適なのでこれを担当。二つ目、飛来する砲弾や魔法からディフェンスモードで迎撃もしくは魔法障壁で防御。

 6,続いて僕やリイナはエイジスと同じく迎撃と防御を担当。これは僕とリイナがエイジスの情報共有で敵の動きをリアルに読み取れる為。よって僕達の隣には通信要員を控えさせる。

 7,アレン大佐達は一〇一師団の撤退と攻撃地点への誘導を補助。基本的に白兵戦では無く、敵の衝突力減衰を主とする遠距離支援射撃に徹する。

 8,なお本作戦の詠唱完了まで当該ブロック内の重火力は作戦地域に後方支援攻撃として集中させる。

 9,詠唱完了と共に最終座標を確定。友軍の退避を確認して発動する。

 10,作戦成功後、一〇一師団以外の当該ブロック担当部隊は帝国軍を追撃し深追いさせないようにする。可能であれば少しでも敵軍を後退させたい。

 11、その間に一〇一師団は後退。交代の部隊も参戦し一時的でもいいので従来の戦線を維持。後、作戦の完全完了後に当該ブロック全部隊が予定通りの後退を行う。


「――とざっとこんなものじゃな。一〇一師団については元々の行動からさほど変わらぬし、アレン大佐の大隊もアカツキが指揮権を握っているであろ? 作戦の確認と情報共有の為の打ち合わせは少々必要じゃし後方支援攻撃の要請もいるじゃろうが、即席で行えるはずじゃぞ」

 ココノエ陛下の作戦提案に、僕は大きく感心した。
 彼女の作戦はまず何よりも今ある材料――ここでいうと人的資源のこと――で実現可能である点だ。
 さらに作戦実行にあたっての打ち合わせも最低限で済むのも素晴らしい。
 これは悩む必要すら無いよね。即決だ。

「ココノエ陛下、その作戦やりましょう。もう少しだけ内容を打ち合わせで詰めたら、すぐに手配をします」

「……! うむ!!」

 僕の返答にココノエ陛下は顔を明るくさせる。
 僕達は早速、陛下の立案した作戦を書面に起こして実行する為の準備を始めるのだった。
 そして、同日午後三時過ぎ。
 一〇一師団等を含む、今いるブロックの後退支援作戦『龍の加護作戦』開始を迎えることになる。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

ステータス画面がバグったのでとりあえず叩きます!!

カタナヅキ
ファンタジー
ステータ画面は防御魔法?あらゆる攻撃を画面で防ぐ異色の魔術師の物語!! 祖父の遺言で魔女が暮らす森に訪れた少年「ナオ」は一冊の魔導書を渡される。その魔導書はかつて異界から訪れたという人間が書き記した代物であり、ナオは魔導書を読み解くと視界に「ステータス画面」なる物が現れた。だが、何故か画面に表示されている文字は無茶苦茶な羅列で解読ができず、折角覚えた魔法なのに使い道に悩んだナオはある方法を思いつく。 「よし、とりあえず叩いてみよう!!」 ステータス画面を掴んでナオは悪党や魔物を相手に叩き付け、時には攻撃を防ぐ防具として利用する。世界でただ一人の「ステータス画面」の誤った使い方で彼は成り上がる。 ※ステータスウィンドウで殴る、防ぐ、空を飛ぶ異色のファンタジー!!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

処理中です...