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第23章オチャルフ要塞決戦編(前)
第4話 モルツォイの戦いにて、コルトとレイリア達は奮戦す
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・・4・・
2の月26の日
午前10時過ぎ
モルツォイ市街地から東にある塹壕防衛線付近
第一一連隊第二〇一大隊展開区域
統合軍参謀本部の予測通り、帝国軍は二十六の日にはモルツォイ市街地近郊にまで西進していた。
統合軍はこれに対してモルツォイ市を第一防衛線、トルポッサ市東部を第二防衛線、テイツォル市東部に最終防衛線を設定。さらにモルツォイからトルポッサに至るまで周辺に幾つもの塹壕を構築していた。
「天候が予報より良くなったのは悪くないが、帝国軍が動きやすくなるのは良くないな……。ノルド通信兵、トルポッサの本部は敵はどれくらい襲来すると言っていた?」
「はっ、コルト少佐。第一能力者化師団展開区域には、およそ二個師団の兵力が侵攻してくるとのこと。再確認を取りましょうか? この新型魔法無線装置ならすぐですよ」
ノルド曹長が持ってきているのは、今月に入って第一能力者化師団を始め第一線級師団に配備された新しい携行型魔法無線装置。これまでのような文章読み上げタイプではなく、アカツキの前世ではオーソドックスな音声でやり取りするタイプの無線装置だ。文字の読み上げや打込をする必要がなく、言葉でやり取り出来るようになって便利になった。
司令部設置型も同時に導入されたのに伴い、携行型もこれに変わったのである。特に第一能力者化師団には優先的に配備されており、携行型については小隊単位で更新がされていた。
「いや、いい。約八〇〇〇で約二〇〇〇〇と戦う、か。ここしばらくで慣れたとはいえ、あの波状攻撃は心臓に悪いんだよな……」
「そーかなぁ。私は別になんとも思わないよ、コルト兄さん。だって、アレらを殺せばいいんでしょ? 単純明快だと思うけどなー」
「お前のその肝の据わり方は尊敬したいくらいだが、くれぐれも無茶だけはするなよ?」
「はぁい」
「コルト少佐、偵察結果の報告が入りましたよ。間もなく帝国軍の突撃前砲火力攻撃が来るそうです」
「了解。大隊全体へ、塹壕に退避しろと通達しろ」
「はっ」
コルトがノルドに言うと、ノルドは通話の形ですぐさま二〇一大隊全体へ命令を伝えていく。
帝国軍は常套手段として突撃前に必ず、畑を耕す位の火勢で砲火力の集中投射を行う。コルトが心臓に悪いと言っていたのはこの火力投射もあるからだ。
幸いな事に今回は帝国軍の侵攻が遅れていたので砲撃から身を守るだけの塹壕も構築出来たが、運悪く塹壕内に着弾してしまえば結果は火を見るより明らか。彼は自分のいる場所がそうならないよう祈っていた。
「さて、そろそろか」
「嫌な予感がピリピリってするねえ、コルト兄さん」
「やめてくれレイリア。魔法障壁があるとはいえ、至近弾なんてものはそう何度も経験したくない」
「まーねー」
緊張感のある声音のコルトに対して、レイリアはどこ吹く風といった様子で間延びした声だった。
そう間も置かず、散発的だった砲撃音は一斉に大きなものへと変わる。帝国軍が砲撃を始めたのだ。
「さあ来るぞ。総員魔法障壁は最大展開。身を伏せろ」
『はっ』
さほど時間が経たないうちに、あちこちから着弾の激しい音が響いてくる。中には数十メートルも離れていないような所に落ちたものもあった。
「今は耐えろ」
コルトが塹壕に身を潜ませながら周りに伝えていく。
統合軍からは『帝国軍の開墾砲撃』と呼ばれているこれは、精鋭の兵士達でも肝が冷える。新兵ならトラウマものであり、発狂して塹壕の外に出かねないし、現にとある師団では本当にそういった事例をいくつも耳にする。その結果など、言うまでもない。
将兵達はこの砲撃が止んで帝国兵が突撃してきたら返り討ちにしてやろうと、互いを励まし合い鼓舞し合う。
砲撃は十五分程度経つと止んだ。
(先月よりやはり短いな……。物資不足はありえないだろうが、何にせよ助かる)
以前より数分とはいえ短く終わったのをコルトは感謝し、塹壕から顔を出す。砲撃音もやや疎らになっていた。
代わりに聞こえてきたのは。
「召喚士偵察飛行隊より連絡。帝国軍、一斉に突撃開始。我々の担当区域からの距離、約四一〇〇。正面の第一波は身体強化魔法で急速に向かってきています」
「目視で確認した。しかし、相変わらず耳障りな雄叫びだな」
「ホントにね。私、この音大っ嫌い」
「同感だレイリア。――さて、迎撃準備に移るぞ!」
『はっ!』
大隊の将兵はまず魔法銃の弾薬装填と武装のチェックを行っていく。
彼らは手際よく終えると、すぐに射撃態勢を整えた。
「まだだ。まだ撃つなよ」
「距離約三〇〇〇かな」
「第一射、遠距離射撃は一五〇〇で行う。火属性爆発系の曲射だ」
友軍の後方支援砲撃とL1、L2の推進音は今日も頼もしく聞こえる。しかし、帝国軍の攻勢を挫くには至らない。
「距離約二〇〇〇だよコルト兄さん」
「あと約五〇〇だ。総員、狙わなくていい。準備詠唱だけしておけ」
コルトの命令の直後、塹壕から多数の淡い光が現れる。魔法発動前の光だ。
そして、帝国軍が約一五〇〇まで迫ると。
「斉射!」
塹壕から大隊総員の遠距離斉射が始まった。左右からも斉射音が聞こえる事から、ウェルダーとチェスティーの大隊も同じ判断をしたのだろう。
数百もの魔法弾は弧を描くように飛んでいき、帝国軍の将兵達に降り注ぐ。帝国軍の砲撃に負けず劣らない轟音だ。
「敵の魔法障壁の一部を完全破壊。効果ありだよコルト兄さん」
「よし、そのまま距離約一一〇〇で第二射。属性は同じでいくぞ」
第二射も統制の取れた射撃だった。
その前に各所からの魔法銃射撃があったことから帝国軍の将兵は魔法障壁をする間もなく銃弾を受ける事となり、多数の肉塊が大地に散乱する。
だが帝国軍は突き進む。数が減った様子もあまり見受けられない。ただ波のように押し寄せるばかりである。
「黒い波って最初に表現した人は作家になれると思うなぁ」
「まったくだな。帝国軍の恐ろしい所は数だ。だが、恐れるものでもない。約八〇〇、約五〇〇で斉射した後、近接戦闘へ移行だ」
「はーい」
『了解!』
レイリアと大隊の兵士達が返答すると、二回の斉射の後に近接戦闘の準備を手早く終える。レイリアは魔法剣を抜き、兵士達も魔法銃に銃剣をつけるか、魔法銃を背負う形にして魔法剣や魔法槍などそれぞれの近接武器を手にした。
距離は四〇〇。威圧するように大声を上げながら帝国軍の兵士達は迫ってくる。
そして、コルトは命じた。
「総員、突撃!! 帝国軍に鉄槌を!!」
『うおおおおおおおお!!』
二〇一大隊の兵士達が、左右にいるウェルダーやチェスティーの大隊兵士達とも突撃を始めた。
互いの砲撃が、法撃が、銃弾が飛び交う中で兵士達は突き進む。
その中で勇猛果敢に突出したのはレイリアだ。兵士達も後に続く。
「あいつ、毎度の事ながら怪我する心配もしてないな。顔に傷ついたらどうするんだか」
コルトはため息をつきながら、レイリアを守るためにも走る速度を上げた。
「ていこっくぐんはー! ひっとりのっこらずぶっ殺すー!」
軽やかなリズム笑みを浮かべながら歌うレイリアは快速で走りながら魔法剣を横に振る。
すると、彼女の周りに十数、いや二十数の魔法陣が現界する。
「惨殺しちゃえ! 『風刃演舞風刃演舞』!」
レイリアが詠唱を終えると、魔法陣の数だけ鋭い刃を持った風が帝国軍の兵士を襲う。
一般的な風の刃なら魔法障壁で防げるが、レイリアのそれは彼女の魔法能力の高さによって威力はかなり高くなっている。軽々と魔法障壁を突き破った風刃は帝国兵を切り刻み、悲鳴と断末魔が響き渡る。
だが、帝国兵にとっての悪夢は終わらない。本来なら命中したら消えるはずの風刃は消滅しない。通過した後に、また戻ってきたのだ。
「おっどれー! おっどれー! まいあーがれー!」
「兄ながら、あの乱舞は恐ろしいな」
「敵にレイリア少佐がいたら自分は逃げたくなりますね」
レイリアに追いついたコルトは彼女の撃ち漏らしを魔法剣で切り伏せるか法撃で死体に変えながら、彼女の戦闘の様子を見て苦笑いする。コルトの隣にいる士官も似たような表情だ。
レイリアが今発動している魔法は、一般的な一度敵に当たれば消滅するものではなく、通常より多くの魔力を消費して三十秒近く持続して展開する特殊な魔法だ。
殺傷力も高いが、何せ継続型なのである程度は操作が必要なのがネックでありこの手の魔法を使う者は少ない。だがレイリアは天性の才能でこれらを巧みに扱う。しかも歌いながら、だ。
彼女の二つ名『狂騒の乱舞者』は、この様子が由来になっていた。
「コルト少佐! 第二波、もう来ます!」
「了解。妹ばかりに任せるわけにもいかない。俺も一仕事するか」
大隊の士官が早くも第二波襲来を告げる。乱戦状態になっている塹壕付近に、新たな帝国兵が迫っているのをコルトは確認した。
彼は部下に発動までの援護を依頼すると、略式での詠唱を始めた。
「敵を縛り、凍てつかせよ。――『氷縛監獄』」
コルトが発動したのは、氷属性上級魔法『氷縛監獄』。指定した範囲数十メートルにいる帝国軍の兵士は足元から突如現れた氷によって動けなくなり、下半身まで拘束される。
「続けて発動。――監獄は爆ぜる、『監獄爆破』」
コルトが左の口角を曲げながら魔法剣を振り下ろすと、『氷結監獄』が突然爆発する。監獄に囚われた帝国兵達は当然即死、さら爆破した事によって氷は弾丸のように周囲に飛び散っていく。絶大な威力と余りにも惨いその様に帝国兵の中には悲鳴を上げるものもいた。
「いいねーコルト兄さん! 私もどんどん殺っちゃうよー!」
コルトとレイリアを中心とした攻撃で第一波と第二波は壊滅。続けて現れた第三波と第四波もコルト達だけでなく一一連隊や第一能力者化師団全体の奮戦でこれらを撃滅した。
しかし、午後になっても止まない第六波ともなると連戦状態の彼等にも疲労と魔力低下が見受けられるようになる。
結果、トルポッサの司令部は第一能力者化師団の後退を許可。戦線を数キロ後退させ、モルツォイ市役所や駅付近を放棄することとなった。
対して帝国軍はモルツォイ市街地を奪還。この日は数キーラほど進むことが出来た。
しかし、その代償は余りにも大きかった。特に第一能力者化師団の戦域に至っては帝国軍はこの日だけで約三〇〇〇の死傷者が発生し、一個連隊相当の兵力を消耗したのだから。
オチャルフ要塞戦の前哨戦たるモルツォイ・トルポッサの戦いは、初日から後の大激戦を予感させるものであった。
2の月26の日
午前10時過ぎ
モルツォイ市街地から東にある塹壕防衛線付近
第一一連隊第二〇一大隊展開区域
統合軍参謀本部の予測通り、帝国軍は二十六の日にはモルツォイ市街地近郊にまで西進していた。
統合軍はこれに対してモルツォイ市を第一防衛線、トルポッサ市東部を第二防衛線、テイツォル市東部に最終防衛線を設定。さらにモルツォイからトルポッサに至るまで周辺に幾つもの塹壕を構築していた。
「天候が予報より良くなったのは悪くないが、帝国軍が動きやすくなるのは良くないな……。ノルド通信兵、トルポッサの本部は敵はどれくらい襲来すると言っていた?」
「はっ、コルト少佐。第一能力者化師団展開区域には、およそ二個師団の兵力が侵攻してくるとのこと。再確認を取りましょうか? この新型魔法無線装置ならすぐですよ」
ノルド曹長が持ってきているのは、今月に入って第一能力者化師団を始め第一線級師団に配備された新しい携行型魔法無線装置。これまでのような文章読み上げタイプではなく、アカツキの前世ではオーソドックスな音声でやり取りするタイプの無線装置だ。文字の読み上げや打込をする必要がなく、言葉でやり取り出来るようになって便利になった。
司令部設置型も同時に導入されたのに伴い、携行型もこれに変わったのである。特に第一能力者化師団には優先的に配備されており、携行型については小隊単位で更新がされていた。
「いや、いい。約八〇〇〇で約二〇〇〇〇と戦う、か。ここしばらくで慣れたとはいえ、あの波状攻撃は心臓に悪いんだよな……」
「そーかなぁ。私は別になんとも思わないよ、コルト兄さん。だって、アレらを殺せばいいんでしょ? 単純明快だと思うけどなー」
「お前のその肝の据わり方は尊敬したいくらいだが、くれぐれも無茶だけはするなよ?」
「はぁい」
「コルト少佐、偵察結果の報告が入りましたよ。間もなく帝国軍の突撃前砲火力攻撃が来るそうです」
「了解。大隊全体へ、塹壕に退避しろと通達しろ」
「はっ」
コルトがノルドに言うと、ノルドは通話の形ですぐさま二〇一大隊全体へ命令を伝えていく。
帝国軍は常套手段として突撃前に必ず、畑を耕す位の火勢で砲火力の集中投射を行う。コルトが心臓に悪いと言っていたのはこの火力投射もあるからだ。
幸いな事に今回は帝国軍の侵攻が遅れていたので砲撃から身を守るだけの塹壕も構築出来たが、運悪く塹壕内に着弾してしまえば結果は火を見るより明らか。彼は自分のいる場所がそうならないよう祈っていた。
「さて、そろそろか」
「嫌な予感がピリピリってするねえ、コルト兄さん」
「やめてくれレイリア。魔法障壁があるとはいえ、至近弾なんてものはそう何度も経験したくない」
「まーねー」
緊張感のある声音のコルトに対して、レイリアはどこ吹く風といった様子で間延びした声だった。
そう間も置かず、散発的だった砲撃音は一斉に大きなものへと変わる。帝国軍が砲撃を始めたのだ。
「さあ来るぞ。総員魔法障壁は最大展開。身を伏せろ」
『はっ』
さほど時間が経たないうちに、あちこちから着弾の激しい音が響いてくる。中には数十メートルも離れていないような所に落ちたものもあった。
「今は耐えろ」
コルトが塹壕に身を潜ませながら周りに伝えていく。
統合軍からは『帝国軍の開墾砲撃』と呼ばれているこれは、精鋭の兵士達でも肝が冷える。新兵ならトラウマものであり、発狂して塹壕の外に出かねないし、現にとある師団では本当にそういった事例をいくつも耳にする。その結果など、言うまでもない。
将兵達はこの砲撃が止んで帝国兵が突撃してきたら返り討ちにしてやろうと、互いを励まし合い鼓舞し合う。
砲撃は十五分程度経つと止んだ。
(先月よりやはり短いな……。物資不足はありえないだろうが、何にせよ助かる)
以前より数分とはいえ短く終わったのをコルトは感謝し、塹壕から顔を出す。砲撃音もやや疎らになっていた。
代わりに聞こえてきたのは。
「召喚士偵察飛行隊より連絡。帝国軍、一斉に突撃開始。我々の担当区域からの距離、約四一〇〇。正面の第一波は身体強化魔法で急速に向かってきています」
「目視で確認した。しかし、相変わらず耳障りな雄叫びだな」
「ホントにね。私、この音大っ嫌い」
「同感だレイリア。――さて、迎撃準備に移るぞ!」
『はっ!』
大隊の将兵はまず魔法銃の弾薬装填と武装のチェックを行っていく。
彼らは手際よく終えると、すぐに射撃態勢を整えた。
「まだだ。まだ撃つなよ」
「距離約三〇〇〇かな」
「第一射、遠距離射撃は一五〇〇で行う。火属性爆発系の曲射だ」
友軍の後方支援砲撃とL1、L2の推進音は今日も頼もしく聞こえる。しかし、帝国軍の攻勢を挫くには至らない。
「距離約二〇〇〇だよコルト兄さん」
「あと約五〇〇だ。総員、狙わなくていい。準備詠唱だけしておけ」
コルトの命令の直後、塹壕から多数の淡い光が現れる。魔法発動前の光だ。
そして、帝国軍が約一五〇〇まで迫ると。
「斉射!」
塹壕から大隊総員の遠距離斉射が始まった。左右からも斉射音が聞こえる事から、ウェルダーとチェスティーの大隊も同じ判断をしたのだろう。
数百もの魔法弾は弧を描くように飛んでいき、帝国軍の将兵達に降り注ぐ。帝国軍の砲撃に負けず劣らない轟音だ。
「敵の魔法障壁の一部を完全破壊。効果ありだよコルト兄さん」
「よし、そのまま距離約一一〇〇で第二射。属性は同じでいくぞ」
第二射も統制の取れた射撃だった。
その前に各所からの魔法銃射撃があったことから帝国軍の将兵は魔法障壁をする間もなく銃弾を受ける事となり、多数の肉塊が大地に散乱する。
だが帝国軍は突き進む。数が減った様子もあまり見受けられない。ただ波のように押し寄せるばかりである。
「黒い波って最初に表現した人は作家になれると思うなぁ」
「まったくだな。帝国軍の恐ろしい所は数だ。だが、恐れるものでもない。約八〇〇、約五〇〇で斉射した後、近接戦闘へ移行だ」
「はーい」
『了解!』
レイリアと大隊の兵士達が返答すると、二回の斉射の後に近接戦闘の準備を手早く終える。レイリアは魔法剣を抜き、兵士達も魔法銃に銃剣をつけるか、魔法銃を背負う形にして魔法剣や魔法槍などそれぞれの近接武器を手にした。
距離は四〇〇。威圧するように大声を上げながら帝国軍の兵士達は迫ってくる。
そして、コルトは命じた。
「総員、突撃!! 帝国軍に鉄槌を!!」
『うおおおおおおおお!!』
二〇一大隊の兵士達が、左右にいるウェルダーやチェスティーの大隊兵士達とも突撃を始めた。
互いの砲撃が、法撃が、銃弾が飛び交う中で兵士達は突き進む。
その中で勇猛果敢に突出したのはレイリアだ。兵士達も後に続く。
「あいつ、毎度の事ながら怪我する心配もしてないな。顔に傷ついたらどうするんだか」
コルトはため息をつきながら、レイリアを守るためにも走る速度を上げた。
「ていこっくぐんはー! ひっとりのっこらずぶっ殺すー!」
軽やかなリズム笑みを浮かべながら歌うレイリアは快速で走りながら魔法剣を横に振る。
すると、彼女の周りに十数、いや二十数の魔法陣が現界する。
「惨殺しちゃえ! 『風刃演舞風刃演舞』!」
レイリアが詠唱を終えると、魔法陣の数だけ鋭い刃を持った風が帝国軍の兵士を襲う。
一般的な風の刃なら魔法障壁で防げるが、レイリアのそれは彼女の魔法能力の高さによって威力はかなり高くなっている。軽々と魔法障壁を突き破った風刃は帝国兵を切り刻み、悲鳴と断末魔が響き渡る。
だが、帝国兵にとっての悪夢は終わらない。本来なら命中したら消えるはずの風刃は消滅しない。通過した後に、また戻ってきたのだ。
「おっどれー! おっどれー! まいあーがれー!」
「兄ながら、あの乱舞は恐ろしいな」
「敵にレイリア少佐がいたら自分は逃げたくなりますね」
レイリアに追いついたコルトは彼女の撃ち漏らしを魔法剣で切り伏せるか法撃で死体に変えながら、彼女の戦闘の様子を見て苦笑いする。コルトの隣にいる士官も似たような表情だ。
レイリアが今発動している魔法は、一般的な一度敵に当たれば消滅するものではなく、通常より多くの魔力を消費して三十秒近く持続して展開する特殊な魔法だ。
殺傷力も高いが、何せ継続型なのである程度は操作が必要なのがネックでありこの手の魔法を使う者は少ない。だがレイリアは天性の才能でこれらを巧みに扱う。しかも歌いながら、だ。
彼女の二つ名『狂騒の乱舞者』は、この様子が由来になっていた。
「コルト少佐! 第二波、もう来ます!」
「了解。妹ばかりに任せるわけにもいかない。俺も一仕事するか」
大隊の士官が早くも第二波襲来を告げる。乱戦状態になっている塹壕付近に、新たな帝国兵が迫っているのをコルトは確認した。
彼は部下に発動までの援護を依頼すると、略式での詠唱を始めた。
「敵を縛り、凍てつかせよ。――『氷縛監獄』」
コルトが発動したのは、氷属性上級魔法『氷縛監獄』。指定した範囲数十メートルにいる帝国軍の兵士は足元から突如現れた氷によって動けなくなり、下半身まで拘束される。
「続けて発動。――監獄は爆ぜる、『監獄爆破』」
コルトが左の口角を曲げながら魔法剣を振り下ろすと、『氷結監獄』が突然爆発する。監獄に囚われた帝国兵達は当然即死、さら爆破した事によって氷は弾丸のように周囲に飛び散っていく。絶大な威力と余りにも惨いその様に帝国兵の中には悲鳴を上げるものもいた。
「いいねーコルト兄さん! 私もどんどん殺っちゃうよー!」
コルトとレイリアを中心とした攻撃で第一波と第二波は壊滅。続けて現れた第三波と第四波もコルト達だけでなく一一連隊や第一能力者化師団全体の奮戦でこれらを撃滅した。
しかし、午後になっても止まない第六波ともなると連戦状態の彼等にも疲労と魔力低下が見受けられるようになる。
結果、トルポッサの司令部は第一能力者化師団の後退を許可。戦線を数キロ後退させ、モルツォイ市役所や駅付近を放棄することとなった。
対して帝国軍はモルツォイ市街地を奪還。この日は数キーラほど進むことが出来た。
しかし、その代償は余りにも大きかった。特に第一能力者化師団の戦域に至っては帝国軍はこの日だけで約三〇〇〇の死傷者が発生し、一個連隊相当の兵力を消耗したのだから。
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