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第23章オチャルフ要塞決戦編(前)

第3話 作戦会議

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 ・・3・・
 ウェルティアは作戦会議が始まると、担当する戦域の大きな地図に敵と味方に見立てた駒を配置した。

 「まず帝国軍の侵攻状況から説明しようか。帝国軍は現在このトルポッサから東約六五キーラに最進出部隊がいる。トルポッサに向かっている連中の数は約一三万。我々よりやや数が上回る。相変わらず奴等は数で攻めてくるってわけ。けど、ここ最近は以前に比べて変化があるわ」

 「帝国軍の侵攻速度が低調ですね。参謀本部の予測より一週間程度遅れていませんか?」

 「その通りさ、ウェルダー少佐。奴等、こちらのハラスメント攻撃と徹底的な鉄道線と輸送道路の破壊で案の定遅れてるわけ。帝国軍は我々統合軍に比べて兵站輸送の鉄道依存度が高いからね。一番大きいのは、ムィトゥーラウにある鉄道基地と駅ごとあのちびっこ中将は吹っ飛ばした点かしら。こうなるとは思ってたけど、まんまとハマってくれてるってわけさ」

 ウェルティアは指揮棒でムィトゥーラウの辺りをトントンと叩きながら説明する。
 鉄道が開通して以来戦争の形態が大きく変わったゆえに、戦争は鉄道など輸送部門に大きく依存するようになった。その欠点が帝国軍に露呈したといっていい状況が今である。
 統合軍は鉄道運用に一日の長がある為、どのように妨害すればいいのか知っている。あらゆるハラスメント攻撃もこの為というわけだ。

 「でもでもウェルティア大佐ー。奴等って人海戦術でなんとかするヤツらでしょ? そろそろ建て直しもするんじゃない?」

 「いい質問だねレイリア少佐。確かに奴等は民間人にせよ徹底的に徴発して今頃ムィトゥーラウの鉄道基地を再建してるはず。あたしの見立てでは今週にでも復旧するんじゃないかしら」

 「てことは来週にはまた黒い大波かぁ……」

 「うへえって顔しても仕方ないぞレイリア。あの野郎共の常套手段だ」

 「知ってるー。倒しても倒しても湧いてくるのもねー」

 レイリアは顔を顰めて言う。帝国軍の人海戦術による突撃や浸透戦術は年末に散々痛い目に遭っているからだ。彼女自身、帝国軍の兵士は畑で採れるんじゃないかと思ってる程には。

 「あ、でもウェルティア大佐ぁ。あちらの侵攻速度低下は私達にとってもメリットがありましたよねぇ? 職務柄色んな兵士や下士官とも話しましたけどぉ、私達が担当するモルツォイからトルポッサにかけての防衛線は、予定していたのより塹壕も掘れたって聞きましたぁ」

 「メイリー少佐なら肌身で感じたでしょうね。なにせ、トルポッサ方面軍司令官ヴィンセント中将閣下のご命令だもの。塹壕線を構築し、出来る限りの時間を稼ぎ敵の出血を強要せよってね」

 「帝国軍の兵士、質が落ちてきた兆候がありますからねぇ。少年卒業したてみたいな子も混ざるようになって、お可哀想に」

 メイリーお可哀想にという割に、全く哀れみの感情がこもっておらず、むしろ嘲笑をしていた。
 彼女の帝国軍に対する冷酷な見方はいつもの事なので、ウェルティアは説明を続ける。

 「ただ、塹壕が予定より構築出来ているとはいえ帝国軍が一週間足らずでトルポッサの東、モルツォイ付近にまで到達するだろう。南部方面はオチャルフ要塞があるからいいけれども、北部にはオチャルフほどの要塞が無いから兵力が多めに配置されている。いつものことだけど、あたし達はマシになったとはいえ数的不利の状況下で戦うことになるわ」

 「ほんとにいつもの事だよね。ボクの安眠はいつ訪れるのやら……」

 「そうボヤくなチェスティー少佐。トルポッサが終わればオチャルフ要塞に下がって一旦休息は取れるはずよ」

 「ふぁーい……。給料分の仕事はしますよーっと」

 「そうは言いつつも、いつも懸命に戦ってくれて感謝するチェスティー少佐」

 「この連隊が無くなっちゃ困るからね、ヴェルダー少佐。ここ、居心地いいし許される範囲なら寝ててもいいし」

 「それはお前が有能だからだ。普通なら処分モノだけどな」

 「知ってるよコルト。ボクは好き放題やれるならちゃんと仕事はするよ。しばらく安眠は出来なさそうだし」

 普段眠たそうにしているチェスティーだが、別にサボっている訳では無いから連隊の面々は責めることはしないし、視察にくるアカツキも実績を鑑みて大目に見ていた。

 「その通りさ、チェスティー少佐。我が連隊の担当地域はモルツォイからトルポッサにかけての機動攻撃。塹壕、市街地、あらゆる地形を用いて敵を叩くこと。あとはオチャルフ要塞にある前線総司令部から後退許可が出てからは、通常師団の鉄道輸送トラック輸送による撤退輸送の時間稼ぎね。ちなみにこれは第一能力者化師団全体の作戦方針よ。細かいとこはあたしのような連隊長や旅団長クラスに任されているわ」

 「わー、ここしばらくのいつものだー」

 「俺達能力者化師団は身体強化魔法でトラック並の速度で後退しようと思えば出来るからな。機動力のある部隊の役目だから仕方ないぞ、レイリア。――ですがウェルティア大佐。我々とて魔力をいつでも温存出来るとは限りません。我々も後退する以上、支援は得られますか?」

 「コルト少佐、支援については安心なさい。今回の戦いでも移動が容易いロケット部隊が火力支援を行ってくれる。トラックで運搬可能な野砲も出してくれると上から連絡があったもの」

 「大体どれくらいでしょうか?」

 「トルポッサの為に、通常の師団火力に比べ五〇パルセントくらいね」

 「それは有難い大盤振る舞いですね。航空戦力はどうでしょうか?」

 「天候次第だけれど、この戦域に約四〇から五〇機程度は出してくれるみたいよ。それに加え北に航空戦力を割いた分、必要と判断すれば東の陛下も支援してくれると連絡があった」

 「ココノエ陛下もですか。心強いですね」

 「幾ら放棄する予定のトルポッサとはいえ、ここには約九〇〇〇〇の将兵がいるもの。我らの中将閣下は火力の出し惜しみはしないっていつもの方針だ」

 「了解しました。それであれば撤退許可が下りるまで全力で戦います」

 「頼むわよ、コルト少佐」

 「はっ!」

 「さて、作戦に関する説明はざっとこんなものね。何か質問は?」

 ウェルティアの問いに質問をする大隊長達はいなかった。

 「よし。ならば作戦会議は以上とするわ。――帝国軍南部方面の指揮官は幸い、あの悪名高いリシュカでもなければ全体の総司令官シェーコフでもないゾルドォーク大将とのこと。コルト少佐の伝手である妖魔諸種族連合共和国の軍人によれば、彼は無能ではないけれど有能ではない、いわゆる正攻法で戦ってくる指揮官よ。出世欲があることから既に遅延している作戦行動に焦りを抱いているはず。だから我々はいつも通り任務を成功させればいいだけ。敵の侵攻までに可能な限り備え、帝国軍が現れれば叩き潰せ。あんた達の働きに期待するよ」

『はっ!!』
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