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第23章オチャルフ要塞決戦編(前)
第10話 第21軍を襲う緊急事態
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3の月19の日
午前11時25分
オチャルフ要塞から東約55キーラ付近
オチャルフ要塞外縁部からさらに東に向かった先、平原が広がり今は簡易的ながら塹壕なども構築されている辺りに統合軍第二一軍約九〇〇〇〇――法国軍四個師団、連合王国軍三個師団、協商連合軍二個師団で構成されている――は展開していた。
彼等の任務は帝国軍南部方面軍集団の敵情視察と侵攻遅延のハラスメント。行動を開始してからおよそ一週間が経過しているが、今の所作戦遂行において目立った損害は見受けられなかった。
この日、帝国軍はオチャルフ要塞から東約六〇キーラ程度まで前進しており、対して統合軍は東約五五キーラ付近を最前線としていた。なお、第二一軍の司令部は東約三〇キーラに位置しており、これは外縁部からもさほど離れておらず、街道に位置していることもあって相互の連絡がしやすい場所でもあった。
その司令部の長たるロッテム法国軍大将は現状の進捗にまずまずだろうと思いつつ、今も前線から入ってくる情報をもとに帝国軍の動きを参謀達と共に予測していた。
「情報参謀長。帝国軍の全般的な動向はどうだ?」
「はっ。現在帝国軍は北部南部共に先週より動きは遅くなっておりますが、着実に前進を続けております。特にこの南部方面では遠征軍総司令部の予想に近い形で戦力を集中させており、オチャルフ要塞の攻略には相当数を投入してくるものと思われます」
「洗脳化光龍、ソズダーニアについては?」
「敵航空戦力たる洗脳光龍については強行航空偵察により、南部方面空域に推定で一〇〇から二〇〇程度が展開されると思われます。ソズダーニアについては、全容は掴めておりません。現状把握だけであれば、約五〇〇から六〇〇程度でしょうか」
「やはりソズダーニアは事前に全てを察知は出来ないか……。アレらはその場で変異することも可能だ。これまでも突然現れて戦場を掻き乱されることがあった。警戒するしかないな」
「はっ。はい。偵察等を強化し情報は引き続き収集致します」
アカツキの前世の世界で例えるのであれば装甲戦力と似た扱いであるソズダーニアは、ロッテム大将が言うように突如その場に発現する――発動術式で察知は出来るが――点から装甲戦力よりも厄介な兵器と言える。戦車は偵察で見つけられるが、ソズダーニアはギリギリまで真の姿を隠す事が出来る。わざわざ既に姿を見せているのは示威的行動だろう。伏兵があるのならば、その時に見せるのだから。唯一の幸いは同じ場所に一度に数百も現れないくらいか。
「あと懸念すべきは南部方面に進軍する大軍勢か。いくらすぐ後ろに外縁部の三個軍が控えているとはいえ、帝国軍は約六五〇〇〇〇。長居は無用だな。作戦参謀長、念の為に備えている即時行動可能な外縁部の友軍はどれくらいだ?」
「はっ。約一〇〇〇〇〇から一三〇〇〇〇程度です。ただ、既に総司令部からはいつでも後退しても構わないと許可は出ております。我々第二一軍も魔石地雷の敷設などは終わっておりますし、最前線展開の部隊も着々と後退させております。余程後ろに頼むような事は無いかと」
「であろうな。いくら帝国軍とて約六五〇〇〇〇が一斉にこの戦線に雪崩込んでくるわけではない。後背は友軍がおり心配はあまり無いと言える。当初の予定通りこの軍司令部も外縁部に移した方が良さそうだな」
「はい。長居は無用かと思われます。いつまでも帝国軍が緩慢に進軍するとは限りませんし、明日にでも総司令部は外縁部の所定の位置への移転がよろしいかと」
「ああ、それがいい。ここには機動運用の可能な精鋭も多い。要塞戦、そして反攻作戦を見据えて温存はしておきたいからな」
ロッテム大将の発言に、参謀の面々が頷く。
もとよりこの一個軍は敵軍と積極的に戦う作戦目標を立てているのではない。また、幾ら精鋭の多い一個軍とはいっても正面で相対することになる帝国軍二個軍と戦うのはどう考えても分が悪い。
であれば、次にどうするかなどは目に見えて明らかだ。用済みのこの近辺から後退し、外郭部周辺に向かう。これが第二一軍司令部の全員が一致した作戦行動だった。
「ならば話は早い。各師団に仮状態だった後退準備の通達を明日要塞外縁部の後退開始の正式な命令として送れ。仮通達で準備はしてあるはずだ」
「はっ!」
作戦参謀長は敬礼し、早速魔法無線装置を使って各師団司令部へと連絡を送るよう命じていく。
その他にも諸々の命令をロッテム大将は出していくと、正午すぎになってようやく一息つくことが出来た。外では遠くから散発的に砲声がここまで届いてきていた。
「短い期間の任務だったが、ひとまずこれで何とかなりそうだな……」
「ええ、極力兵力を減らさず外縁部には戻れそうですね」
ロッテム大将が煙草に火をつけて一心地ついていると、それまで口を開かずロッテム大将の隣で立っていた彼の副官が安心した様子で言う。
「だが、最後まで油断は出来ん。かつての大戦開始当時の帝国軍ならともかく、今は質的低下が見られ始めたとはいえ三ヶ月前の悪夢をやってみせた連中だ。あの化け物女の第八軍が連合王国のアカツキ中将の作戦もあって壊滅せしめたにしても、やはり気は抜けない」
「仰る通りで」
「とはいえ、兵士達は喜ぶだろう。僅かばかりの休息でも、休息には変わりない。私も移動の準備をせねばな」
ここ数日険しい顔つきの時間が多かったロッテム大将も、一応の目処がついたことで表情が和らぐ。彼は第二次妖魔大戦が開戦された一八三九年からこれまで全ての戦場に身を投じており、いわゆる最古参の指揮官クラスである。その彼でも今回の作戦は簡単ではなく、肝を冷やされる場面があった。
重火力系兵器の無制限使用許可が出ており、魔法回復薬の一日あたりの限界使用量が一〇本から一五本へ広げられたとはいえ、兵力は限られている。
その中でほぼ総司令部の計画通りに作戦を遂行しているのだから十分と言えるだろう。
翌朝には後退速度を上げて要塞外縁部へ行く。総司令部の命令から自身の判断で決めれば、今のロッテム大将の様子も当然であった。
しかし、戦争に想定外は付き物である。問題は、想定外が余りにも大きい事にあった。
それは、午後一時頃の事だった。
第二一軍の情報を一手に担う、情報司令室に入った情報がきっかけだった。
その情報を受け取った通信要員は、顔の色を変えて作戦参謀、さらに作戦参謀長に伝わっていく。
作戦参謀長が血相を変えて自分の所にやってきた時点でロッテム大将は悟り、覚悟した。
あぁ、何か大問題が起きてしまったか。と。
「ロッテム大将閣下、緊急通報です。オチャルフ要塞方面偵察航空隊が、帝国軍の大移動を発見。北部方面に向かうと見られていた帝国軍が進路転換。南部方面に向かっているとのこと。また、エイジス特務官がこれとは別の帝国軍、最大索敵範囲ギリギリの地点に所在する後方予備の前進も確認しました。これまでに確認されている帝国軍と合わせ、その数…………、約九〇〇〇〇〇」
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