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第十話 毒の味見

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「はーー、ここは元々ノコ様のお屋敷ですよ。三十四年前までずっと住んでいました」

すごいため息と共に本当に寂しそうな顔をしている。
ローズにとって大切な思い出の場所なんだろう。

「……」

でも僕は思い出せない。ノコの記憶が沢山あって、三十四年以上前のことは実は結構忘れてしまっている。

「いつの間に売られたのかしら、税金の滞納で競売されたのかしら」

「そうか、ここは僕が住んでいた家だったんだ」

「思い出しましたか」

「いや、全然」

「ぶっ」

ローズが吹き出した。

「外はそのままで中だけ綺麗にしてくれるかい」

「分かりました」

「すごいのじゃ、一瞬で新品になった。これなら恐くないのじゃー」

ユーリさんが喜んでいる。

「あと、地下に数十体ほどゾンビが居るのだけど」

「一緒に見に行きます」

僕とローズが地下に歩き出すと、ユーリさんも嫌そうな顔をしているけど付いてきた。

「あーーこれはすごいですね。歴代の所有者のようです。どこかに転送したいのですが場所がありません」

「んー、西のダンジョンの一階から四階が空いているよ」

「ふふふ、じゃあ内緒で送っちゃいましょうか」

「ふふふ、番犬代わりに五人だけ残して、送くちゃってください」

こうして、家の中は綺麗に片づいた。



「ねえ、ローズ」

「はい」

僕に呼ばれてローズがうれしそうに近寄ってくる。

「薬草を買いたいのだけど」

「そんなものどうするのですか」

「うん、本当に買いたい物は香草なんだけどね。料理に使いたいんだ」

「料理ですか?」

「そう料理。この世界の料理はくそまずいんだ。口に合わない。せめて香りだけでもつければ、少しはましになると思ってね」

「よく分かりませんが、お付き合いします」

「いやいや、いつもの様に転送でいいよ」

「街は直ぐ近くです、たまには歩きましょう」

「待つのじゃー、私も行くのじゃ。ゾンビとお留守番は恐いのじゃー」

ユーリさんは自分もゾンビのくせにゾンビが恐いらしい。



街を歩いていると、すれ違う人が振り返る。
今日はユーリさんの服に原因がある。
ローズは二人で出かけたかったらしくて、邪魔された腹いせにユーリさんの服が恐ろしいことになっている。
もう、ほとんど下着のような格好に、一枚羽織っているだけの姿だ。
胸なんか八割出てしまっている。

だが、その服がユーリさんは気に入った様子。
なぜなら、僕の視界に入ると、僕がいちいち恥ずかしそうにするので、それが楽しいらしいのだ。
わざと僕の前に来ては胸を揺らしたり、お尻を揺らしたりする。
その都度、ローズは舌打ちをしているので、機嫌が悪いのが伝わってくる。



「いらっしゃいませ」

こぢんまりとした薬草店だ。
でも薬の瓶は沢山ある。

「あの、すいません」

「はい」

「この店の薬草を全種類、一さじずつ下さい」

「かしこまりました」

「あー、薬の梱包はいいです。僕の手の上にお願いします」

店員さんが僕の言うとおりにしてくれた。
そして僕はそれを口に放り込んだ。

「ぎゃーー、痛い、痛い、舌が焼けるーー、ぐーー、こ、これは、な、なんですか」

「はい、熊殺しの葉です。熊でもいちころの毒草です」

な、なんで最初のチョイスが毒草なんだよー。
毒では死なないけど、味はわかるんだよ。
舌が焼ける味、料理には使えないよー。

「あ、あの、毒はやめてください。味見しますので」
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